映画『汝、星のごとく』レビュー

一
 凪良ゆうさんの同名小説を実写化。原作にべた惚れした横浜流星さんの熱烈なアプローチで実現した企画ということもあって、盟友である藤井道人さんが監督を、脚本を安達奈緒子さんを手掛けるという業界屈指の陣容で作り上げた映画となっています。
 原作では、主人公である暁美と櫂の視点が入れ替わる形で2人の15年間が一人称の視点で綴られていきますが、映画の方では専ら櫂の視点が採用され、彼が書き遺した小説=本編になっているような素敵な演出でストーリーを紡いでいきます。
 上映時間との兼ね合いでカットされている部分も少なくなく、特に人間関係の面では櫂と植木さん、あるいは二階堂さんとの関係の拗れが描かれていなかったり、また世間的に間違った選択を北原先生もすることで、暁海との形式的な夫婦関係に加わる捻りが撮られていなかったりと、相関図に関して大幅な整理整頓が行われています。最初は原作に忠実な脚本だったそうですが、凪良さんの方から本質さえ損なわなければ変えてくれても構わないと提案し、安達さんならではの物語性が凝縮された内容になるよう促したそうです。その省略の仕方は小説とまるで異なるので正直、不安を覚えたそうですが、試写会でティッシュ箱を抱えて泣くぐらいの感動を原作者として覚えたとパンフレットで明かされていて、創作者同士のリスペクトに映画ファンとしてとても感動しました。


二
 2人の境遇を思うと、暁海と櫂の関係は純粋な恋愛とは一線を画す部分があり、その境界線に立って見える景色もまるで違います。窮屈な社会にあって、独りでも立てる足腰を欲する暁海と自分ひとりの力で助けたい人、守りたい人を守ろうとする櫂の在り方は、男女に纏わる新旧の価値観を真正面から問い直しますし、抱え切れない辛さで繋がった想いもどこか依存めいたものに見えて、なかなかに共感しにくい所があるのも事実です。
 それでも、海外のシーンとか、部屋でそれぞれに過ごす場面が映る度に訪れるある種の静けさ。自分たち以外の全員が滅んでしまったかのような、この世にはもう私たちしかいないと錯覚するほどの安心感を伝えてくる繋がりは特別です。あれはもう「恋」と呼ぶしかないですよ。柵を引き摺って生きていた暁海が、実の親に自らの死を看取ってもらうこともできないぐらいの孤独に陥った櫂の為に島を出て、東京に向かう。物理的に縮まっていくその距離に、どれだけの感情が詰まっていたことか。想像するだけで泣けてきます。お互いがお互いに生きる理由だったに違いないんですから。
 そんなドラマチックな急所を突いてくるRADWIMPSさんの『夕星-ゆうづつ-』は、だからもうズルいんです。散々泣いた後のエンドロールでさらに泣かせにくる凶悪コンボ。櫂が書いた歌詞だろこれと確信するシンクロ率。ラブレターだらけですよ、本作は。小説も、歌も、何もかもが暁海に行き着き消えていく。彼の想いが結晶化した、そんな物語の美しさを照り返せるのは暁海だけ。ああ、だめだ。泣いちゃう。むり。


三
 尚人についても書かせて下さい。
 彼に関するエピソードも省略の対象となっていて、その性格の優しさ、その弱さが厚く描かれていない分、櫂の悲劇を彩るだけの最後だったとスクリーンで感じる面もあると思いますが、一方で尚人が選んだ最後は同性愛者の未来を狭める社会の暗示になっていると私は考えます。祝賀会の帰り、暁海と喧嘩した櫂が尚人の家に逃げ込んだ時、尚人が言った言葉を覚えている人もきっと多いことでしょう。
「じゃあ、櫂はなんで暁海ちゃんと結婚しないの?僕や圭くんと違ってできるのに」
 最悪な形でアウティングされ、ある意味で社会に殺された尚人と共に櫂も漫画家の職を失いますが、櫂はそのことで一度たりとも尚人を責めないし、別の執筆者とも組もうとはしない。頑なその態度を周りから「人生の誤り」と助言されても、彼はその間違いを選び続けました。櫂も戦っていたんです。尚人と一緒に。同性愛者であることを初めて打ち明けた人が、最後までずっとそばにいてくれた。尚人じゃないと語れない櫂の側面がここにあります。この2人も特別なんです。暁海に負けないぐらい、深い絆で結ばれている。パンフレットにて、櫂を演じられた横浜流星さんは『汝、星のごとく』を人と人とが向き合うことでしか生まれない「聖域」を切り口に高く評されていましたが、櫂と尚人を見ていると本当にその通りだと思います。自分が好きな自分として生きられる、そんな奇跡を生み出せるのは神でも何でもない、私たち人間なんだと強く思い知らされる。劇中にいなければいけない人間だったんです、久住尚人は。松村北斗さんはそれを一番よく分かっていた。誰にも愛される人間として演じなければならない、そのコメントどおりに俳優として演じられているのを目にして、私は感銘を覚えるばかりでした。


四
 病床に臥す櫂として、40キロ代にまで体重を絞ったストイックさ。女性目線で見ると嫌なヤツに見える櫂のポリシーを、最後の最後まで人間臭く演じる役への没頭。暁海役の広瀬すずさんも、キャリアハイと賞賛すべき自然な演技で生々しい暁海の強さと弱さを表現されていました。何度も共演を果たされているのに、いつだって新鮮な人間ドラマをお二人は観せてくれる。いち映画ファンとして感謝するしかないですよ。最高です、横浜流星。広瀬すず。
 個人的には原作ファンにこそお勧めしたい一作です。クッソほど泣けますから。また読み返したくなること必至ですから。迷わずGOです。是非、劇場へ足を運んで下さい。

映画『汝、星のごとく』レビュー

映画『汝、星のごとく』レビュー

①結末に触れる特大のネタバレを含みます。事前情報なしに鑑賞したい方はご注意下さい。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-10-14

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