反乱ーその4日目
あれ以降も突風や鳥の大群など得体の知れない奇怪な自然現象は続いていた、
ケンジは、キョウコが岸本氏が適任の人を見つけた事と、一連の事で会いたがっている事をユウイチと共に聞き、
今日の朝に訪問を受ける事となった。
「おはようございます」キョウコに部屋に案内された岸本は軽く会釈した
「あ、岸本さん。すいませんね。またご足労いただいて・・」室長が対応した
「さっそく紹介するよ、日本古代の言語や宗教行事に詳しい研究家の皆本さんだ」
「はじめまして」ケンジはユウイチが名刺を出して挨拶するのを見ていた
「あれから、なにか動きはあったかね?」岸本はさっそく本題に入った
「えぇ昨日、実は、こういう事がありましてね」ケンジが切り出した
ケンジは昨日、対策本部の要請であの倉庫に行った事を話し出した。
細かな経過よりも、本部から黙って持ってきた何枚かのデジカメの出力紙を見せた。
A4にプリントされた倉庫内部の写真は、二人の注目を引いた。
異様なフォルムのコンピュータ群の画像は皆本という人の手に取られて、
しばらくは岸本と皆本の手を何回も往復し、二人共にその画像に言葉がなかった。
ケンジの横にいた岸本は、しばらく天井を見て考え事をしていた風だった、
意を決したように、軽く机を指で叩くと、言った
「じゃ、皆本さん、時間がないので、ズバリ結論から言って下さい」と話を急かした。
「そうですね、この一連の言葉ですが、古代神道の祝詞とか祭祀で使用されていた言葉使
いに似ています」皆本は説明を続けた。
「おそらく、古代神道に明るい人か、関係する人がメッセージした文章だと思います。
それはですね、この最初のキカレヨ、と言うところですが、これは聞くではなく、
気が枯れる、つまり命が枯れるということですね。」
「なるほど、気が枯れるで、キカレヨですか。でも二回続けているのは」
「更に強めているんです、二回続ける事で呪言を強めているんです」
「じゃ、これは誰かを呪っている言葉ですか?」
「呪いと言うよりも、呪詛ですね、霊力の強い魂が命令しているんです」皆本氏は続けた
「さて、問題は次の文です。イツノカシリタマイ、これは厳呪詛と漢字で書きますが、殆
ど当て字で、本来はそれぞれに字を怡・途・能・伽・辞・離(イツノカシリタマイ)と
当てます、ここでいうカシリというのは古代の黒魔術に相当する呪詛の呪文です」
「通して解説すると、我々を呪った言葉ですか」
「そうですね、気が枯れると言う事は、命がなくなる事、それを早めるために呪詛文を下
しています。しかしこの文は、たぶん決定文ではなく威嚇文だと思います」
「え、威嚇、でもこの科学万能の時代に呪詛なんて、しかもコンピュータ使ってですか・・」
ユウイチは皆本氏をたしなめるように言った、隣で岸本がせわしく、足を動かしていた。
「誰なんですか?誰が我々を・・日本全体がストップする、こんな事態に追い込むために、
酷い事をしているんですか?」ケンジは怒気を含んだ言葉で迫った。
「誰と言うよりも、これは受けた言葉なんですよ。受け言葉。
つまり、先に発せられた言葉があったんですよ」
「先に発せられたって、誰がそんな事をしたんですか?」
「誰って、不特定多数ですね、これらの人々です」
そういって、皆本は先般、岸本が来訪したときに持って帰ったプリントの束をカバンから出した、
そしてアスキーアートの部分を指さした。ケンジは様子を見入った
「これって、この間、岸本さんに見せたやつですよね」ユウイチが言った
「そうなんだ、この間持って帰って、キミの言うサイトを閲覧した。日常的にありとあら
ゆる掲示板型サイトやブログ、動画サイトで見たよ。そして、改めてびっくりした。
ネット上で、毎日何万という絵文字が交わされ、それが部分的にある意味を含んでいる」
岸本は自分の予想を遙かに超えたあの絵文字に驚くと同時に、日常的な交換メッセージが、
今回の事件の誰かを挑発した原因に結びつけようとしていた。
「でも、待ってください。古代の言葉でもいいですが、アスキーアートは岸本さんはシュ
メール人の楔文字の発展って言ってましたよね、メッセージの文字はカタカナですよね、
二つに関連はありませんね」ケンジは矛盾点を指摘した
「そうなんだよ・・」そう言いながら、叔父は皆本氏を見て、軽く微笑した。
「実はですね、このアスキーの一部に認められるシュメール楔文字と
カタカナを結びつける関連が一番の問題でしてね、私達も可能性を探るのに
とても時間がかかりました」皆本氏は何らかの結論を導き出したようだ
「それは何ですか?」ケンジは待ちきれなかった
「この一見関係ない二つを結びつけるのが、カタカナの源流と言われている
ヘブライではないかと、私は思うのです。」
「へ、ヘブライってヘブライ語ですか?」
「いや、純粋にヘブライ語文章ではないが、カタカナ表記とヘブライ語は凄く似ていると
一時、研究された事がある。それくらい似ているんだよ」皆本氏は続けた
「たとえば、困るはヘブライ語でも?コマル?と言い、意味は同じだ。
<取る>もヘブライ語でも<トル>と言い意味は同じ。
<憎む>も<ニクム>と言い、意味は復讐するという意味まで同じだ。
<黙る>も<ダマル>で、これもそう。<許す>という言葉も?向こうでは<ユルス>とい
うんだよ。他にもまだまだ語彙が同じ物が沢山ある。まぁこれくらいなら、語感が似て
いるだけと言われるんだが、ヘブライ語と類似した単語が、研究では日本のカタカナに
3000以上も確認されると、ちょっと何か関連を感じてしまうね」
「へぇ、初めて聞きました、でもヘブライと世界四大文明のメソポタミアのシュメールは
時代も地域も違うんじゃないですか。
「いや、そうとも言えない。このヘブライ語の原型は、メソポタミア文明を築いた
シュメール人が考案した絵文字がルーツなんだよ。」
「じゃあ、シュメールの絵文字は、日本のカタカナの遠い親戚でもあるんですね。」
「そう、日本の古代の祝詞や神道儀式の中にも、シュメール、ヘブライの文化的関連が
いくつか認められる。この三つは、似通った言葉や祭祀儀礼の関連としてシュメール→
ヘブライ→カタカナというルーツを持っていると思うんだ」
「まぁ、キョウコが指摘した関連はあながち、間違いではなかったんだよ」
岸本は皆本氏の説明に得意そうに重ねた。ユウイチもケンジはまだ納得できなかった
「皆本さんが言うには、次のメッセージがあるそうだ」岸本が言った
「そうですね、この文章は決定文ではないですから、
これを受け取った相手の出方を見るという事でしょうか」
「どれくらいの時間ですか?」ユウイチは皆本氏に聞いた
「一週間七日を発明したシュメール人の感覚や古来の日本人の慣習で言えば、
一つの区切りは一週間、七日間以内ですね」
「え、今日は確か、あのメッセージが出てから四日目だから、あと三日か」
「おそらく第二弾のメッセージが、近々来ると思いますよ」
その時に話を割っているように別の作業員が、駆け込んできた。
「すいません、お話途中で、・・おい、メッセージが変わったぞ」
「え!メッセージが変わった?ちょっと待って下さい」
急いで戻った机のパソコン画面には?タマキハル?と表示されていた
「皆本さん、なんですか?これは」
隣に皆本氏が来た、彼は老眼鏡をかけて、画面に見入った。
「私が言ったとおり、次のメッセージだね」皆本氏は眼鏡を外した
「どういう意味なんですか?」
「タマキハル・・・霊剋、タマは霊、キハル、これはすり減ると言う意味だね。つまり世
の中の命あるモノが減衰していく事が決定した宣言だな」
皆本氏は苦渋の表情だった、誰かがこういう宣言をしたという事は、今後我々にトンでもない何かが起こるという事だろうか。
ともあれ第二弾を予測した皆本氏の助言が当たった以上、これらの推論の検討の余地は大いにあるという事だ。
「皆本さん、あの、さっき仰ってたヘブライ語の見本みたいな物、お持ちですか?」
「あぁ、今持っているよ、見る?」皆本氏はカバンを探った
取り出された見本の文型を見て傍らのケンジは驚愕した。それは、あの倉庫の上からオペラグラスで見た、モニターの文字だった。
ケンジは閃く物があったのか、パソコンのキーボードを手元に寄せた。
さっそく、ソースコードをコピー&ペーストして、テキストコードを変更した。
表示された文字は、殆どが読めないような記号の羅列、文字化け状態だったが、ケンジはまた、何かの操作を変えた。
そして我が意を得たりと、微笑んだ。
ーーーやっぱりだ、あのピラミッドはサーバーの役目をしているんだ
ケンジのコンピュータ画面を見たユウイチと作業員はそこに瞬間的に突破口を見いだした
「おい、これは・・相手のサーバーにアクセスできるかも知れないぞ」ユウイチは叫んだ
三人は手順を決めて作業を進めた、恐らく夜を徹した作業になるだろう。二人は作業に没頭した。
皆本氏がシュメール→ヘブライ→カタカナという言語ルーツの話をヒントに、こちらで必要な解除用プログラムを作成する、
いままでわからなかったのは、この実行アプリケーションが不正アクセスにより相手のサーバに置かれて実行され、
こちらからアクセスできないようにパニックを引き起こしたからだった。
しかも普通では見えない仕組みの不可視構造のアプリという念の入れようだった。
敵の命令コードを、解除して消去してしまえば、トラブル解除できる。フリーズしているコンピュータの復旧の見込みが立てられる。
作業は長時間に及んだ。皆本氏も岸本氏も作業室に残ったままメッセージが発せられて四日目の夜は静かに過ぎていった。
反乱ーその4日目