反乱ーその3日目

本部の中は上から建造物破壊許可が出たらしく、武装した捜査官が次々に現場に向かうべく部屋を慌ただしく出て行った、
ケンジはあっけにとられていた。送り出しに追われていた係長は、ケンジの存在に気がつく気配はなかった。

「お疲れ様でした」

と、言ったものの、人の介在気配のないこの先が、何だか気がかりだった。
ケンジは机にあった若い捜査官が撮ったデジカメの写真を係長が向こうを見ている間に、何枚かを持った。
係長に軽く会釈をして、その部屋を出て、サイバー室に戻る方向に歩き始めた。

湾岸の倉庫地帯は早い朝であったが、何台ものパトカーが停車して緊張していた。
突撃用の装甲車が待機する中を。責任者の捜査官が、配置確認をしていた。
倉庫警備の捜査官が、責任者に報告した

「こちらを張り込み中には、あの倉庫に入った者は一人として、いません」
「よし、準備はできたから、一気に踏み込むぞ。」

装甲車がエンジンを吹かした。シャッター前から一度後ろの方にバックして、距離を計った。
責任者はインカムを口元に引き寄せて、言った。
「突撃っ!」
装甲車は、スピードを上げてシャッターに突入した、とたんにものすごい爆音と共にスパークが四方に散った。
シャッターに仕掛けられていた電流が放電した。
装甲車はそのまま中に突進した、煙が上がる中、装甲車の後ろに武装した捜査官が続いた。
そして、全員があっけにとられた。

目の前に広がったのは、天井にまで届くかのように、うず高く積まれたコンピュータ群だった、
照明の暗い倉庫の中にパソコン駆動ボディのパワーインジケータがチカチカと光っている。
倉庫の幅一杯に拡がっている裾の方から上までまるで、夜景の様に点滅していた。
駆動部の躯体に絡むように接続用のケーブルが蛇のように蠢いている。赤や青そして白い色の色分けされたそれぞれが生き物のように絡んでいた。
沢山の躯体はピラミッドのように積み上げられ、その頂点の一番高いところに映像モニターが置かれていた。
そのモニターの画像には象形文字が映っていた。

「な、なんだこれは・・・、誰がこんな事を・・・・・」
「こりゃ、まるで神殿みたいだな・・・」誰かがつぶやいた。

モニター画面にカタカタと、別の象形文字が映った。
その途端に、倉庫内は真っ白な光に包まれた、人も装甲車も一瞬にして包まれた。
その次の瞬間には、倉庫内に動いている者、立っている者は一つとしていなかった。
倒れた人間のところにシールド線が、まるで生きもの蛇のように近寄ってきた。
金属物や携帯している電話などを絡め取ると、それらをピラミッドの裾野に引き入れて
それらは二度と、そこから出てこなかった。湾岸地帯には、また静寂が戻った。
パトカー内の連絡無線がけたたましく鳴っていたが、それを取る者は近辺にはいなかった。


「ケンジの方はどうなったんだろうね」ユウイチがキョウコに聞いた。
「なんだかみたいで・・でも、いよいよ踏み込むようですよ」
「ふ〜ん、解決の方向に向かっているんだ」ユウイチが言った
「ウチらの仕事に関係して言えば、クラスタリングシステムを導入して
 攻撃しているサイバーテロってらしいわね」キョウコは報告書を見ていた
「なるほど日本のコンピューターシステムを狙ったテロなんだ」

そう話している最中に一瞬、窓左の官庁街方向で稲妻が走ったように思えた。

対策本部の係長は苛立っていた、あの倉庫に向かった突撃班から連絡が途絶えて、もう一時間以上が経過していた。
後追いの応援部隊も派遣してから連絡はなかった。

「おい、まだ連絡はつかないのか」係長は怒鳴った
「はい、呼び出し音は鳴っているのですが、誰も取りません」
「どうなっているんだ」
「係長、倉庫の管理会社が提供した監視ビデオの報告を申し上げます」

科学チーム鑑識の一人が、係長の前に報告ペーパーを差し出した。
係長はゆっくりとその報告書に目をやった。

「ご覧戴いておりますように、都合二週間分のビデオを再生検査しましたが、昼間立ち入
 りしたのは搬入業者のみで、それも十日前を最後に搬入記録はありません。
 しかも、この一週間は昼夜問わずに搬入記録も人の出入りも、全くありません、
 これは伝票上も、管理記録でも確認されています」
「管理会社の人間もか」
「はい、あの倉庫は一般的な侵入防止のセキュリティ管理方式を採用していまして、もし
 関係外の侵入者があればアラームでセンターと警察に通報される仕組みでして、
 これも動作の記録はありません」
「じゃ、誰が倉庫に入って、あのコンピューターに仕掛けしたのか?」
「このビデオには以上の記録のみで、他の侵入方法は、わたしには、推測不能です」
「ああいう事をやってのけたのに、人が入った跡がないとは、・・・」

係長は一旦、解決に向かいかけた事件に、また濃霧が架かるような気がした。

「係長、報告いたします」応援部隊の一人が、帰還していた。
「おお、待っていたぞ、どうなっている?」
「先行の突撃班は、全滅しています。応援隊は一部残して参りましたが、
 突撃班の状況を確認しようにも、中に入る事はできませんでした。」
「なぜだ、なぜ入れない」
「はっ!、どうも倉庫周囲に、電流が張り巡らされてバリヤーのようになっており、
 一定区域以上の侵入は感電するため、不可能です」
「また電流かっ、いったい相手は何者なんだ」
「わかりません、とにかく一帯を立ち入り禁止処置を施して、警戒地域にしています」
「なんなんだ、無人でそんなことができるのか、どこからか監視してるのか・・・?」

係長は目に見えない敵にいらだった、事態は突撃部隊投入で好転することはなかった。
さらにまた別の報告がもたらされ事態は変わっていく、
「係長、国会議事堂に落雷です、ただいま炎上しておりますが、全壊のもようです」
「なに!?」
あいついでまた報告がもたらされた、落雷は一カ所ではなく、
総務省やつくば市の国の重要データ保存のためのサブサーバー基地にも被害をもたらした。
それは意外なほど重要地点の狙い撃ちのような意図を感じるものだった。こうした一連はケンジの部屋にも伝わっていた。

「さっきの窓外の光は、議事堂への落雷だったんだ」ユウイチが言った
「あぁ、でもこう続くと、なんだか不気味だね」ケンジが続けた
「大丈夫なんですかね、次はここに落雷とかって、ありませんよね」

キョウコが意味ありげな風に言ったが、それはあながち予感だけではなかった。
その後も次々と関係省庁に落雷は続いた、のみならず被害のあった上空に暗雲が広がるかのようなカラスの大群が群れをなした。
誰もがこの先に良からぬ不安を抱いた。

反乱ーその3日目

反乱ーその3日目

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-05-30

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