月のペンキ屋さん

僕は月のペンキ屋さん。夜がくると僕は長ーい長ーいはしごに登ってお月様に色をつける。形は僕の気分次第。調子がいい日はきれいなまんまるに色をつける。たまにさぼっちゃうとその日の夜、お空にお月様は見えない。
どうして僕がこんなことをしてるかって?僕にもよくわからない。お父さんもおじいちゃんもひいおじいちゃんも毎晩毎晩お月様に色をつけてきた。だから僕もお月様に色をつける。何のためにやってるかなんて考えたこともなかった。
でもね。ある日僕は考えちゃった。どうして毎晩毎晩こんなことをしているんだろうって。お月様に色をつけることに意味なんてあるのかな。もし意味なんてなかったらどうしよう。僕はお月様に色をつけることしかできないのに、そのことに意味がなかったら、僕が生きてる意味もなくなっちゃうんじゃないかな…。僕はなんのために色をつけるの?誰かに必要とされてるの?
僕は2日経っても3日経ってもお月様に色をつける気になれなかった。ずーと悩んじゃって何にもやる気がおきなかった。だから夜はずーと真っ暗。お星様がかすかにピカピカしてるだけだった。
そんなある日、僕は女の子がお母さんに話をしているのを聞いちゃったんだ。
「ねぇ、お母さん。私ずっとお月様見てないよ。」
「そうね。どうしてかしら。」
「お母さん。私、悲しいよ。私、お月様大好きなのに。」
それを聞いて僕は涙が一気にあふれた。僕がお月様に色をつけなかったばっかりに悲しくなる人がいるんだ。僕がお月様に色をつけることで喜んでくれる人があるんだ。僕は悲しい気持ちと嬉しい気持ちで涙が止まらなかった。
その日の夜、僕は長ーいはしごに登ってお月様に色をつけた。より大きく、よりまんまるに。あの女の子はもちろん、僕の知らないところでお月様を見て笑顔になってる人たちのことを思いながら。

月のペンキ屋さん

月のペンキ屋さん

毎晩毎晩お月様に色をつけるペンキ屋さん。一体なんのためにやってるのか、なんのために生きているのかを見つけるお話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 児童向け
更新日
登録日
2013-02-07

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