日常と異常の境界 プロローグ
村人は、村を守る「大切さ」のために近代化を決意するも、代償は一人の少年の人生だった。
一人の少年もまた、何にも変えられない大切なことを守るため、村人に抗いながら神頼みをする。
そして、少年は神頼みの代償として、少しずつ記憶を改変・消去していく。
記憶を消す少年は、最後の「大切」を守るため、果たして何を感じることになるのか。
村人にとっての「大切」なこと
少年にとっての「大切」なこと
二つの「大切」がぶつかるとき、村は最後の選択を迫られる。
はたして少年が最後に見るものとはいったい……
あるコンクール一次選考通過作品です。自分で編集しながらアップしていきます。
改悪にならなければいいのですが…w
プロローグ
「『彼女』は大樹(だいじゅ)、『彼』は大地。そこには混沌とした秩序が実る。
だから時よ止まれ。そなたは茫洋であるがゆえに醜くも美しいが、時間には全てを奪う力がある」
プロローグ
友情や愛情という魂の交感は、無条件で成り立つと僕は漠然と思っていた。しかし違った。その〝直後〟にまで立って、結局解ったことは、しょせん条件のない幸せなど、ありはしないのだということだけだった。
あのときの『彼女』との交感で、僕は僕自身が世界に対して繋がることはできないと、はっきりと分かってしまっていたはずなのに。
――吸呪姫(Kyu‐zyu‐ki)。
『彼女』は、呪いがなければ、生きることがかなわない。誰とも、交わることができない。
だから……、僕は――
「それがあなたの選択なのね?」と、白を基調とした薄青い浴衣めいた単衣(ひとえ)の着物を、紺色の帯で身に纏っている『彼女』は確認する。
僕は答える前に、視線を『彼女』から外し、澄んだ空に広がる満天の星々を見上げた。
視界余すことなく覆う夜空。冴えた月の色を中心に、これほど無数の星屑が、つぶつぶと散りばめられて広がる薄明かりの海は、とてもすてきだ。何百光年も遠くにありながら、その星屑達が自分にまつわる御伽話(おとぎばなし)を語り、真珠色に輝くのが良く見える。
東京では、無粋なネオンや濁った空気などが邪魔してこうはいかないから、とても心地良く、僕の内面に染み込んできた。
「うん。もう、いいんだ。未練はない」
右手を伸ばし、いずれか一つの星を掴むようにしたその瞬間、僕自身がキュウっと吸い取られていくような、めまいがやってきた。
僕はもう一度『彼女』の瞳を見つめ、ある決心を告げた。愛する人をせめて一人だけでも、僕が身代わりに消えてしまうことで、助かるというのなら、不満はないからだ。
「そう。そうなんだ。ヒトとも繋がらないから、世界とも自らを切り離そうとする――それがあなたの答えなの。今度は、私のために私を裏切るのね。まるで自分の定めに反逆されている気分だわ」
言いながら『彼女』は、眩(まばゆ)い海を見上げる。
分かってる。僕が、どれだけ自己満足で歪められた愛を、注ごうとしているかということに。
『彼女』は虚ろな微笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいてくる。
わずかな隙間から見える真っ白な牙が通気口の柵のようで、昔嗅いだことのある懐かしい麝香揚羽(じゃこうあげは)の香りが、風に乗った下草の臭いと一緒に漂ってきた。
僕も『彼女』の方へ、足を一歩踏み出す。
どこか遠くで、一匹の犬が吠え、雨が降り始めた。
日常と異常の境界 プロローグ
初作品ですが、いかがでしょうか。
別作品を書きながら続編を作成しています。
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