幽霊
~幽霊の正体見たり枯れ尾花~
『幽霊とかが見えている人の脳は、実際にそこに幽霊が居るって認識しているんですよ。』
『つまり、幽霊が見えている人にとって、幽霊がその場に存在しているというのは真実なんですよね。』
いつかのテレビ番組で言っていた。
そんなわけあるか。
それがその番組をみたときの最初の感想だった。
だってそうだろう。
もしその言い分が通用するなら、その人個人個人の"認識"によってこの世界が複数存在する可能性があるということだ。
それは流石に感覚に反する。
世界とは、ある景色をみて綺麗と思うかどうかとか、あるものを食べて美味しいと思うかどうかのようなあやふやなものではなく、確固としたものであるはずだ。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』
という言葉があるが、幽霊の存在などそんなものだ。
空目、或いは勘違い。
所詮はその程度だ。
そう、思っていた。
しかし。
今自分がおかれているこの状況を考えるとそうも言っていられない。
目の前には白い着物を着た、女が立っている。
見た目はほぼ普通の人間だ。
ただ一点、首があらぬ方向に折れていることを除けば。
その女は、首が折れているせいだろうか、声にならない呻きのようなものを発しながら私の首を執拗に締めてきている。
いや。
へし折ろうとしている、といった方が正解かもしれない。
まるで自分と同じようになれというかのように。
そういえば、人間は思い込みで薬が効いたり、体に痛みを感じたり、ひどい場合には死んでしまうことがあると聞いたことがある。
それを考えれば私や、私を取り巻く世界もまた、私の認識が作り上げた私固有の物だとも言えるのだろう。
そうして、私が作り上げた世界は、私に干渉し、私を殺すことも出来るのだろう。
こんな状況になってはじめて、テレビで言っていたことが本当なのかもなと思った。
今私がおかれている状況は、私にとっての真実なのだ。
私にはもはや驚く気力も、抵抗するだけの力も残ってはいない。
終わりが目の前に迫ったとき、案外人間は冷静でいられるのだなと、パニックに陥るのはまだ生きられると思っている時なのだなと頭の片隅で冷静に考えている自分がいた。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』と思える世界が自分の世界である方が幸せだったのだ。
そう思った瞬間、私は首の折れる音を聞いた。
<了>
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