仮面ライダー龍騎 〜第十二話〜
《第十二話:不穏な協定》
【登場人物】
・城戸 真司(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎』となる。
・秋山 蓮(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。仮面ライダー『ナイト』に変身する。
・手塚 海之(二十四)……蓮の古くからの友人で、彼の良き理解者。仮面ライダー『ライア』となって龍騎・ナイトと共闘していたが、浅倉によって殺害される。
・須藤 雅史(二十八)……警視庁の刑事で、新たな仮面ライダー。ファミレス立てこもり事件をきっかけに、真司に接触する。浅倉に相棒の刑事を殺害された過去を持つ。
・大久保 大介(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。電気代を吊り上げ続ける後輩をなんとかする為、密かに物件を探している。
【あらすじ】
真司の心の内に芽生えた、浅倉威への明確な"殺意"。それは、彼の思い描く正しさとはかけ離れた感情であった。そして現れる新たな変身者『須藤雅史』。須藤もまた真司と同じく、浅倉に大切な者を奪われていた。
【十七】
〜五月二日・午前八時"OREジャーナル"オフィス〜
「おはようございます! 編集長!!」
デスクに座った大久保の前に立ち、真司はいつものように声を張り上げた。あの立て籠もり事件から、色々な事があった。ガイが死に、手塚も倒れ、警察から事情聴取を受けた。蓮とは少しだけ距離を縮められた気がした。ここ最近は、二人でミラーモンスターを倒し続けている。心の内に芽生えた殺意の事を、真司は考えないようにしていた。
「おぉ、真司。随分と張り切ってんなぁ。その調子で、早く新しい住処も見つけてくれよ。お前のおかげで、電気代が嵩みっぱなしなんだからよ。」
「はは……すみません。」
二人が軽いやり取りをしていると、オフィスの扉が開いた。真司の先輩、桃井令子が出勤してきたのだ。
「おぉ、令子。おはよう。」
令子は荷物も置かずに大久保の前までやって来ると、肩掛けバッグから一枚の用紙を取り出して言った。
「編集長、おはようございます。それで早速なんですが……見つけたかもしれません。連続行方不明事件の被害者達の、"共通点"。」
「なんだって?」
「え?」
真司は驚いた。モンスターは、基本的に無作為に捕食対象を選んでいるものだと思っていたからだ。
「令子さん、その共通点って?」
そんな真司の疑問を一瞥しつつ、令子は手に持った用紙を大久保のデスクに置いた。
「二人とも、これを見てください。」
「令子、これは?」
大久保が顎を指でなぞりながら、真剣な面持ちで聞いた。真司も、彼女の言葉にしっかりと耳を傾ける。
「これは、ここ一ヶ月で失踪した人達を纏めたリストです。そして……このマーカーを引いた人物は皆、過去に殺人を犯して服役したか執行猶予がついたか、心神喪失で不起訴処分になっているんです。」
「なるほど。殺しの加害者ばかりを狙った犯行って事か。」
真司は、大久保のデスクに置かれたリストを覗き込んだ。確かに、リストに載った六割程の名前に黄色くマーカーが引かれていた。
「まぁ……被害者がみんなそうって訳じゃないですし、推論の域を出ないんですけど。詰めてみる価値は、あると思います。」
「面白いじゃねぇか。よし、やってみろ。」
「ありがとうございます。」
編集長からのGOサインを得て、令子は足早にオフィスを去っていった。一部の被害者達に浮かび上がった共通点。それが真司に指し示すものとは、一体。
〜翌日・午後二時"花鶏・店内"〜
「モンスターが捕食対象を選んでる? バカな、そんな筈は無いだろう。」
洗い場で手を動かしていた蓮が、眉を顰めながらそう言った。
「まぁ、そうだよなぁ……。」
床のモップ掛けをしながら、真司は鏡の向こうの襲撃者に想いを馳せた。奴らは皆、ただ腹を満たす為だけに人間を襲っている。そこに複雑な意思は存在しない。ずっと、そう思っていた。
「なぁ、蓮。そもそもモンスターは、なんで鏡の向こうから来るんだよ。元々居たのか? だとしたら、なんで行方不明事件は最近になって……」
「俺が知るか。それと、質問を矢継ぎ早にするな。お前の悪い癖だぞ。」
「わ、悪かったよ……。」
洗い物を終えた蓮が、エプロンを片付けてカウンターの席に座った。
「だが、その桃井って記者が見つけた共通点は気になる。もしかしたらそいつは」
蓮の言葉を遮るように、突然玄関の扉が開いた。現れたのは須藤雅史。以前真司を取り調べた、あの刑事だった。
「すみません、準備中でしたかね。」
須藤はそう言いながらも、店内に入って扉を閉めた。出直す気は無いようだ。
「あ、いえいえそんなことは……」
「城戸。」
蓮が、鋭い視線を目の前の男に向けた。それに気付いた須藤が、うっすらと笑みを浮かべる。
「あなたは察しているようですね。そこの鈍い方とは違って。」
「鈍いって、俺のこと?」
真司は二人の様子を伺った。何故か、お互いに殺気だって見える。
「おい、蓮……幾らこの人が刑事さんだからって、そんな邪険にするなよ。今はただのお客さんなんだからさ。」
因みに真司は今、優衣が寝込んでしまった穴を埋めるために花鶏でアルバイトをしている。
「だから鈍いと言われるんだ。……奴も、ライダーだ。」
「え?」
蓮がカードデッキを取り出し、それを見た須藤が手を前に翳してそれを制した。どうやら蓮の言う通り、彼もライダーで間違いないようだ。
「今日は、戦いに来たのではありません。……あなた方二人に、協力をお願いに来ました。」
「きょ、協力って……一緒にモンスターと戦ってくれるって事ですか。」
「はい。」
須藤は、にっこりと笑顔を作って見せた。
「おぉ、おぉ……! やったな蓮、仲間が増えたぜ!!」
「仲間になった覚えはない。……好きにしろ。」
蓮はそう冷たくあしらうと、足早に店を出て行ってしまった。
「なんだよアイツ、愛想ねぇの。あ、須藤さん……よろしくお願いします。改めまして城戸」
「真司さん、ですよね。取り調べの時にお名前は把握しています。そして、恐らくあの立て籠もりの日……あなたが、ミラーワールドに行っていただろうという事も。」
「あぁ、はい……すみません、隠し事しちゃって。」
気まずさを笑って誤魔化しながら、真司は須藤の方を見た。その男の目は、どこか違う所を見ているような気がした。
「では、こちらも。私は須藤雅史……ライダー名はシザースです。どうぞ宜しく。」
須藤が、力強く右手を前に差し出した。かつて手塚が同じように握手を求めた事を、真司は思い出していた。
「須藤さん……宜しくお願いします。」
手を取り合い、固い握手を交わす二人。こうして、新たな協定は結ばれたのだった。
〜五月七日・午後二時十五分"喫茶『汀』・店内"〜
店内二階の一番右奥。そこにある二人掛けのテーブル席に、真司と須藤が向かい合わせに座っている。
「城戸さん……いい店ですね、ここは。」
ラテアートの描かれたエスプレッソを啜り、須藤は小さく息を吐きながらそう言った。
「でしょ。前によくここで会ってた奴がいて……そいつに教えてもらったんです。花鶏でライダー関係の話をするのは、気が引けるからって。」
「神崎優衣……確かに、彼女の前では少し気を遣いますか。」
真司は、初めて手塚とこの店を訪れた日の事を思い出していた。あの時は愚かにも蓮の事を疑っていたが、手塚はそれを冷静に嗜めてくれたのだ。
「そいつも……ライダーバトルをあまり良く思ってなくて、俺の止めたいって気持ちに賛同してくれて……でも。」
「……今はもういない、ですか。」
「……はい。」
真司は、須藤に手塚の事を話した。多く助けられた事。共に戦っていた事。そして、浅倉威に殺された事を。
「俺……浅倉の事、許せないって思ってしまうんです。この手で仇を取りたいって。……これって、やっぱり良くないですよね。」
「……そんな事はないと思いますよ。」
「え?」
須藤は、懐から取り出した手帳を机上に置いてみせた。それは所々くすんでいて、微かに血が滲んでいるように見えた。
「須藤さん、これは?」
「私の相棒……加賀友之が使っていた手帳です。加賀も、浅倉によって殺されてしまった。」
「そんな。」
真司は、取調室で須藤から感じ取った執着心の正体を理解した。それは復讐心であった。
「私は……このライダーバトルで浅倉を斃し、加賀の仇を取る。それが、私の願いです。」
「……それは、本当に願いなんですか。」
「……。」
重い沈黙が流れた。互いに、なんと言葉を紡げばいいのか分からない。そんな時であった。
「「……!!」」
戦いの訪れを告げる不協和音が、真司と須藤の脳裏に響いた。モンスターが襲来したのだ。
「城戸さん……話はまた、後ほど。」
「……。」
小さなわだかまりを残して、二人はデッキを取ったのだった。
—次回、『第十三話:業火』—
〜続〜
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