ほんの出来心だった。目を閉じて、頭の中で自分の家を歩くってやつ。そんでもしも家の中に誰かいたなら、その場所にはおばけがいるんだ。オカルト動画なんかでたまに見かける…とにかく、名前は知らないけど急にそれが気になっちゃったんだよ。それである晩、やってみた。

 俺は一人暮らしの住まいで布団に寝転がり、想像する。実家の玄関を開けると、すぐ近くにはリビングへ続く引き戸。そこに入って、次にキッチン。また扉を開けて廊下。

トイレ、風呂、物置、仏間。一階が終わって次は二階。家の中はどこも変わりなく、誰もいなかった。あっという間に残るは家族共用のパソコンがある部屋のみ。

 しかしその部屋に入った瞬間、俺はある異変に直面する。見慣れたオレンジ色のカーテンに折りたたみデスク、パソコン、スツール。その傍らに見知らぬ犬がいたのだ。
 犬はずんぐりむっくりした体型で短毛。薄茶色の身体で口周りと耳だけ黒い。顔の特徴からしてたぶんパグだ。ドロボウひげが生えてるみたいに見えるしわくちゃの口元からピンクの舌を垂らしている。動揺する俺をよそにそいつは何食わぬ顔でこちらを見ている。

 そこで思わず目を開けた。一体あの犬はなんだ?何故あの部屋にいるんだ?あまりに気になったので週末、実家へ帰ってみると聞くより先に母が言った。

「そういえばうち、犬飼い始めたんよ」

母が言い終わると同時に、家の奥からチャカチャカいう音が聞こえてくる。音の方向に視線をやると、扉の隙間からしわくちゃ顔の犬がぬっと姿を現した。俺はたいして驚かなかった。やはり、あの日出会ったパグだ。

「どろぼうヒゲがあるように見えるから、名前はドロ」

 ドロは顔見知りみたいな態度で近くに寄ると、そのまま俺の膝の上でくつろぎはじめる。母曰く二階のパソコン部屋にケージを置いていて、そこは今やドロの部屋と言っても過言ではないらしい。

 その後、俺は以前より頻繁に実家に帰るようになった。犬、マジかわいい。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-22

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