鬼一口
鬼一口
〜昔、或男女が駆け落ちをした。
その途中、雷雨に遭い女を蔵のなかに入れ男は蔵の入り口で見守ることにした。
翌日、蔵を開けてみると女は消えたいたそうな。〜
「おい、早く進めよ」
後ろからついてくる優がせっついてくる。
「うるさいな、足元が悪いんだよ」
そう悪態をつきながら、足元悪い夜の山道を進む。
彼とは高校時代の友人三人組のうちの一人であり高校を卒業して大学に進んだあともよく遊びに行ったりなどする、俗にいう腐れ縁と言うやつだった。
そんな間柄を優も悪くは思っていないのだろう。
だからこそ今回もこうやって協力してくれている。
「なぁ、もうここらへんでよくねぇか?」
「馬鹿、もっと奥まで進むんだよ」
聞いてきた優に対して怒鳴り気味に返す。
天気予報だと今後接近する台風によって大雨になる予報だ。
意図的に選んだとはいえ、今本降りになると進むのが大変になる。
背中に背負った荷物をもう一度背負い直し、足早に進む。
「にしても、静かな山だな。近くを通る車の音も聞こえやしねぇ」
そう優がぼやく
「当たり前だろ。そういう場所を選んだからな」
「まぁ、それはそうかも知んねぇけどさ…」
「でもここまで静かだと怖くねぇか?ましてやこんな時間、こんな天気だろ?」
優は周りを見渡しながら、不安そうに聞いてきた。
「なんだ?ビビってるのか?」
「いや、そういうわけじゃねぇけどさ…」
「そもそも今回は人に会っちゃいけないんだ。静かすぎるくらいでちょうどいいんだよ。」
そう、今回は絶対に人に見られてはいけない。
それを優も分かっているのかそれ以上何か言ってくることはなかった。
ガチャガチャと背負った荷物の音だけが響く。
暫く優と二人で夜の山を登り続けた。
それからしばらく歩くと、今回の作業に向いていると思われる場所が見つかった。
「よし、ここらへんでいいだろう。さっさと始めよう。」
そう伝えると
「やっとか。」
と言いながら優は「作業」に取り掛かり始めた。
「どんくらいの深さにすんの?」
そう優が聞いてきた。
今回の「作業」は深い穴を掘ることだった。
「あまりにも浅いと動物が掘り返すらしい。できるだけ深く掘りたいが、台風が近づいてるからな。できる範囲で深く掘ろう」
ザクッザクッと言う音だけが森の中に響いていた。
1時間ほど経っただろうか。
雨脚も強さをまし、遠くから雷鳴も聞こえてきた。
そろそろ潮時だろう。
「よし、これくらいにしよう。」
そう言うと穴の中に運んできた荷物ーいつも一緒にいた三人のうちの残りの一人、純子の死体を穴の中に投げ入れた。
最初はいつもつるんでいる仲間の一人、程度の認識だった。
その考えが変わったのは俺たちが高校を卒業したあとだった。
俺たちは別々の大学に進み、それぞれのキャンパスライフを謳歌していた。
「久しぶりに三人で会わない?」
そんな連絡が純子から来たのは夏休みも迫った或日だった。
久しぶりにあった純子は高校の時とは違い女性となっていた。
もともと整った顔立ちをしているとは思っていた。
だが、大学に入り化粧を覚え、タイトな服を着こなす純子はとても垢抜け、一人の女性として俺の目に映った。
このときからだった、俺のなかで純子がいつもつるんでいる仲間の一人ではなくなってしまったのは。
それから俺は彼女にアピールをした。
何度も食事や買い物、一般的に見てデートと見て良かったと思う、を繰り返した。
そういった日々を半年ほど過ごしたある日、ついに俺は彼女へと告白をした。
彼女も俺と同じ気持ちだと確信していたからだ。
だが、それは甘い幻想だった。
友達としか見られないと言われた。
そんなつもりで見ていないと言われ。
他にも好きな人がいると言われた。
だから
俺は
純子を殺した。
「よし、じゃあ埋めるから手伝ってくれ」
そう優に声をかけた。
だが、返事がない。
「…優?」
優のいる後方を振り返ろうとした瞬間だった。
後頭部に激烈な衝撃がきて、さっきまで掘っていた穴の中に、倒れた。
頭が割れるように痛い。
触れると血が手にべっとりとついた。
穴の底から上を見上げると、ハンマーを持った優がこちらを見下ろしていた。
「…優…何で…」
そこで俺の意識は途切れた。
「…なんでじゃねぇよ」
「俺の彼女を獲ろうとして、挙句の果てに殺しやがって」
「だいたい昔からお前のことが気に食わなかったんだ!俺はお前たちとは違うみてぇな顔してこっちを見下してきやがって」
「そんなお前の態度に純子も嫌気が差したんだろうよ」
「お前に迫られてるって相談されたんだ」
「そうやって相談にのっているうちに俺と純子は男女の関係になった」
「これで純子もお前と縁が切れるって安心してたんだ」
「それなのに!お前は!!!」
そこまで叫ぶと荒い息のまま穴のなかでぴくりともしない「元」友人を睨見つけた
「でももういい。今日で全部おしまいだ。」
そう言うと掘った穴に土を入れ始めた。
さっきまで遠くでなっていた雷鳴が近くまで迫ってきている。
或日、一組の男女が消えた。
〈了〉
鬼一口