私生活

私生活

「無言」

時がすべり台に乗って
ひゅうと通り過ぎていく
僕はただ黙っていて
そして夢を見る
マクドナルドでバーガーを食って
コーヒーを片手に
世田谷線沿いの公園のベンチに寝そべって
ああ人生ってどこにあったっけ
なんて考えているような


「Dotor 明大前店」

例えばここで
安いホットティーにミルクを入れ
まろやかな香りを嗅いでいた時
僕は詩人だったのである

例えばここで
雑音の間を縫って聞こえてくる
アコースティック・ギターのソロに耳を傾けていた時
僕は詩人だったのである


「にょろにょろ」

――言葉でなら何だって言える
  そんなことを言葉で言うんだろ?
そう言って閉じた瞼の裏には
例えばイスラムの夢があって
やはり言葉の意味も否定しきれないでいる
それをただ黙って見つめることしか出来ない僕は
ただ頭の中で探り続ける
再び合間見ることのできない
スイスチーズの思い出
にょろにょろは言う
―――それじゃあ僕らは言葉で何を問えばいいんだ?


「詩人ノート」

・僕は詩人だが、詩人は僕のような人間を言わない。
・神様はいますか? と言ったとき、答えられるのは神様だけ。
・詩人が神様はいないと言ったなら、それは神様がいないとは思えないからだ。
・何かをはっきりさせようとするほど、言葉は曖昧になる。だから詩人はいる。
・詩人が曖昧なんじゃない、世界があまりにも曖昧に過ぎるんだ。
・何もない、と言葉で定義できるなら、そこには何かある。
・時間なんか存在しない。神様がいないから。
・世界がここにある、と誰が言えますか?
・透明なものは透明だと思われている時点で透明とは言えない。
・神様はいるけど、神様はいない。神様はそういう曖昧なものとしてある。
・本当は嘘なんてものはない。人間が口に出来ることは本当にあることだけ。というのが僕の嘘。
・ニビイロは夢の色。素敵な色。唯一の色。完全なる色。ニビイロはもはや色ではない。色を超越したひとつの定義である。ニビイロを知らない僕が言うんだから間違いない。
・僕は世界に問いかける。すると世界はそれに答える。聞こえない声と言葉で。
・いつか科学は神様を証明してしまうんじゃないか、などと時々考えてしまう。
・何も言葉を発しないところから詩は始まる。
・僕が本当だと言うときそれは全て間違いです。
・これは詩ではない。神様がいないなら。


「私的散文」

 ある日突然、信号機が一頭のキリンになっていた。そしたら僕らは、走るのも止まるのも、曖昧なルールの上で判断しなきゃならなくなった。意外にも、はっきりと決められない方がくたびれるんだな。
 だから僕は必死で探し回った。すると、赤と青は歩道橋の上で、寂しそうに下を見つめて佇んでいた。僕はこれから、社会における人の役割について、そいつらに語らなければならない。心の中では『じゃあ俺の役割って何なんだ』と自分が叫んでいた。


「The コンビニ」

声の出し方をここで学ぶ
お金では買えないものがあることも
人間が息をしなくても
ここだけは息をしている
マイケル・ジャクソンのDVDを小脇に抱え
誰よりも人間を知っているのは彼なのだ
たとえ子供たちが
セブンイレブンの意味を知らなくても


「キャンディー」

とっておきたいけど
とっておかないわ
大事に大事に
ガラスケースに入れて
とっておきたいけど
(これは私だけのものだもの)
銀紙をほどいて
すぐ食べてしまうの
(誰にもあげない)
とっておかないの
何ひとつ
あなたに貰ったもの
(これは私だけのものだもの)
すぐに食べてしまうの
残してなんかおかない
銀紙をほどいて
すぐ食べてしまう
残っているくらいなら
私の血肉になればいい
(誰にもあげない)
銀紙も一緒に
ばりばりと
食べてしまいたいくらい
何ひとつ
とっておきたくないの
(私のものよ)
あなたに貰ったもの
あなたのもの
(あなたは私だけのもの)
とっておきたいの
本当はずっとずっと
宝箱の中で
とっておきたいけど
(誰かものになんてさせない)
とっておきたいの
でもとっておかないわ
ひとつ残らず
(あなたは)
私の血肉になるの
だから
とっておかない


「ハムレットへ(現代版)」

悪意なんて無かったんだ
ほんとうは
例えば君のお父さんが
僕の大事にとっておいたお菓子を食べたとか
そんな話だったんだよ最初は
でも君に言ったとしても
分かってはくれなかっただろう
君には兄弟がいないから


「私的散文」

 分度器に目盛りがなくなっていた。本当は長さを計りたかったんだと彼は言った。無理だよと僕は言った。だって、君は何年も前から半円の形をしているのだから。平らな部分に目盛りを付ければいいと彼は言った。そうして旅立った。無茶だと僕は思った。でも、そんな彼が羨ましくて、最後まで言えなかった。定規だけでは角度が計れないよとも。


「靴下の穴を見るということ」

1.

私の周りに人はいるけど
詩を書くときは私ひとり
ここには私しかいないから
穴も広がりますし

2.

穴にそっと
指先で触れてみる
当たるのは私の足の
親指の爪であって
穴は確かにそこにあっても
穴に触ることはできない
そこに靴下がないということで
穴は存在しているんだ
これは驚くべきことだ
穴が空いているということは
そこにあるべきものが
ぽっかり空いてしまっているということ
そしてその周りに
穴でないものがぎっしり詰まっていること
例えばここに靴下があって
この世に靴下がぎっしり詰まっていないのだったら
この靴下はひとつの穴だ
もしくはこの世の靴下でない部分が全て穴
世界の鍵はこの靴下が握っている
のかもしれない

3.

穴なんて見てると
あの人のことを思い出す
あの人にもこんな風に
穴が空いていたらいいのに
と思う
そうしたら
私も中に入っていけるのに
でも空いていないので
靴下の穴をいじくっている
仕方なしに

4.

グレーゴル・ザムザの夢を見たけど
それより問題は穴
穴は私にも空いている
靴下の穴は私
の穴
穴は私
世界に私がぎっしりと詰まっていないから
私は穴
他のどこにも私がいないから
私はただひとりここにいる
私は矛盾
そして穴は世界
だからこんなにも開けている!
この靴下みたいに!
(ズボッ!)
もうこんなもの使えません


「ノイズ」

電車の音は無機質
明かりの付いていない
電気スタンドも無機質
壁はまっ白
まっ白
まっ白
fulllllllllllllllllllllll….

ベッドに寝転がる
夢が見たい
楽しい夢
でも、
そんな時に限って、夢は
明るくも暗くもない


「絶叫」

言葉が
詩が
僕から出て行ってくれない
心が体から出て行けないみたいに
誰かこの口から
心臓を引っ張り出してくれたらいいのだけど……

そのくせ
出て行っちゃいけないものが
気付けば一人で
勝手に出ていっている
ああ
もう
誰も見るな
聞くな
(他人の言葉で俺を定義するな!)
俺の言っていることなんて
忘れてくれー!


「木工作の夢」

そんな詩を書いて何になるんだね!
とモーガン大佐
いいえ ごめんなさい
私はゴムゴムの実も食べておりませんので
ええい 頭が高い!
俺を誰だと思ってる
いいえ いいえ
ごめんなさい
貴方に斬られた腕の血で詩を書いているのです
この島の夏は暑うございます
舌の傷口からも血が
心がはみ出ております
ああ
何を言っている!
やりますか?
やっちゃいますか?
ああもう何が何だか
いいえ
なんでもないのです
ただ
暑くて
暑くて
熱くて
……


「私的惨文」

 ここにある、これ、この、これ、僕が今sharp pencilの芯で紙の上に書いているこれ、これは言葉。言葉だ。言葉か? うん、言葉さ。言葉である。言葉だー! 半ば自由に僕は言葉を扱える訳であ る。が、しかし、僕はこれが何であるのか、訊かれても答えることは出来ない。これは何だ、言葉とは何だ? 一体どこから来た? 誰のものだ? 僕のか? (いや、違う) 誰かから貰ったのか? 何のためにある? 伝達手段?(何だって?)伝達手段、心の?(嘘だ、だってこれっぽっちも僕の心を表しちゃいな いじゃないか!)ここにあるものは何だ? 日々僕の口から発せられているものは、本当に僕の肺を通って、脳を通って、血管と気管支を通って出てきたものなのか? 言葉が僕の中を通ってきたものならば、少しでも僕の肉片を外に連れ出してくれたなら良かったのに! ああ! 声を出しても、息を吐いても、まして やこんなものを紙に押し付けているだけじゃ何も伝わりやしないんだ! 何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も何も! こんなに近くにいるのに!(ああ!)何も届かない、届かない!(それがぼくの正義か? 違う!)僕の心臓をえぐり出して見てみても、赤くて黒いものしか見えない! ここにあるものは一 体何だ!


「怒り」

怒れ
 そして怒れ
 そして怒れ
 そして怒れ
 そして怒れ
破壊するのだ
それがおまえの仕事だ
ぼくは世界
おまえは神で聖母で
同時多発的テロリスト
世界を破壊しろ
全ての言語を
意味を破壊しろ
今や人間の存在が反逆だ
ラテン系言語を壊滅させろ!
おまえが世界を破壊するとき
おまえだけが正義だ
そして ぼくという悪
――世界に悪はぼくひとりだ
ぼくを破壊してくれ!
おまえはぼくを解体して
そして再構築する
ぼくは意味を失い意味になる
ああ ああ
ぼくは相も変わらずこんな詩を書いている
ぼくはちゃんと声が出せているかい
言葉が喋れているかい
少しでもきみの耳に
届いていたら良いのだけど
この声帯の中の
微動が


「依存症」

あなたの細長い腕が好き
骨ばったお腹が好き
なめらかな肩が好き
宇宙のような瞳が好き

あなたがあまりにも綺麗だから
私 狂っちゃいそう

愛されるだけでは足りないの
その身体と繋がっていたい
交わるだけでは足りないの
その魂とひとつになりたい

あなたが私に入ってくるのでは嫌
私が身体ごと入っていって
あなたの中に溶けていきたい
そしてあなたの血肉となって生き続ける
心なんか
消えてなくなっても構わないわ


「迷う」

迷う
ぼくは迷う
分裂する
ぼくは分裂する
脳が割れて二つになる
その傷口が膿む
ぼくは膿む
膿がぼくの中に入ってくる
ぼくは悪になる
迷う
ぼくは迷う
ぼくは膿む
体中が膿む
虫が巣食う
腐臭を発する
ぼくは悪になる
悪?
ならば正義があるというのか?
迷う!
乱立したクエスチョンマーク
分裂したぼくは次第にそれぞれの意思をもち
また分裂しようとする
どちらも悪だ!
相対化する世界
ぼくたちは分裂する
迷わずにはいられない!
すでにぼくは膿だ
世界は悪になる
迷う
そして疑う
分裂するぼくら
今や星を埋め尽くすほどに
ああ
もとは一人だったのに
迷う……
問う人はいないのか?


「臓物フィナーレ」

世界は美しいけれど世界は闇
そしてぼくは体に刃を入れる
ぼくは膿で泥で臓器
で実験用のカエル
ぼくは体に刃を入れる
そんでもって
中に花でも咲いていたら良いのだけど
赤黒いドロッとしたものしかないんだなぁ
悲しいけどぼくは体に刃を入れる
最後まで伝えきれなかった言葉
とかを思い出しながら
ぼくは胸にそっと線を入れる
そして開く
誰かこの心臓を引っこ抜いてくれ!
泣きながらぼくは体に刃を入れる
中身が出る
ドロドロと出る
ぼくは食べ物の残りカス
そして肥料(こやし)にでもなろうか
どうせこの血はワインにもならないだろう
ぼくはぼくの臓物を畑にまく
蔓が巻きついてぼくの生き血をすする
さぁ全ての命よ
美しいものよ
ぼくを肥料にしろ!
そしてあたり一面に臓物が咲く
これが臓物フィナーレだ!
ぼくの死体に巻きついた蔓は
次第に白い美しい花々を咲かせる
おお
これが世界だ!
ぼくは世界になる
そして世界と
血塗られたナイフを
誰か受け取ってくれるか!


「私的散文」

 郵便ポストは言った。
――僕はもう人間に我慢がならないんだよ。犬みたいに地面に縛り付けられて、それで当然のように働いて暮らしている。それに付き合わされる僕はたまったもんじゃないよ。
 それならどうするんだい、と僕は訊いた。彼は答えた。
――旅にでも出てやるさ、一つの場所でじっとしているなんて、僕はごめんだね。
 僕はそのまま彼と別れた。心の中では、きっとできやしないさと言い捨てた。しかし、翌日同じ所に来てみたら、そこに郵便ポストはなかった。僕が呆然としていると、後ろから白髪の郵便局員がやってきて言った。
――ここにいたやつを知っているのかい?
 僕は何も言わなかったが、郵便局員はそのまま言葉を続けた。
――最近多いんだよ。若いってのもいいんだけどねえ。


「狂う」

きみは狂いたくて狂えずにいるようだけど
僕は狂いたくなくて狂っている
ああ どうして その意味が分かるかい きみに
否定して否定するんだ
すべての言葉を 詩を 映像を ……世界を
覗き込んでごらんよ
僕のソレを
きみは直視できるかい
Meltしてぶちまけられた血と毒と目玉を
否定して 否定して 否定して そして 否定
穢すんだよ一番大事なものをさあ!
こんなこと書くから僕は頭オカシイって言われるんだろうね
でも書いちゃった
安心しなよ
僕に 僕の言葉に 意味なんかないよ
(でも意味はあるんだよ!)
ハハッ!
イカレたいか
イカレたいかい きみは
やってみろよ
お前なんかに出来るもんか!
この臆病者め


「愛ロニー」

罰して欲しいの
今日の私を
明日はもっと美しく生きたいから

貰って欲しいの
ほんとうは
どんなに小さなものでも
言葉はいつも奪おうとするけど
入ってきて欲しいの
ほんとうは
だからこうして喋り続けているの
言葉はいつもあなたを拒むけど

嘘を暴いて欲しいの
あなたに
見抜くのではなくもっと乱暴に
全ての隠喩を否定して欲しいの
そしていつかは愛に殺されたい
そんな皮肉が
私の体には必要なの

罰して欲しいの
今日の私を
明日はもっと美しく生きたいから
壊して欲しいの
声も出せないくらいに
言葉はいつも伝わらないから

赦して欲しいの
嘘つきの私を
耳を澄まして欲しいの
枯れ果てた私の声に
それでもあなたは
私の嘘を暴いてくれるかしら
そして全ての目を潰して
愛に殺されるなら
私は幸せ


「私的散文」

 だるまさんがころんだ! といって振り返ったら、誰もいなかった。なあんだ、と僕は呟いて、再び樹に寄り臥して泣いた。この世の中には嘘ばっかりだ。僕は一体何なんだ、と空に問いかけた。夕焼けの向こうから、誰かを呼ぶ声が聞こえた。


「私生活‐ワタクシセイカツ‐」

かつて信じていたヒーローが
株式会社の社員だったことを知って十数年
自分も着実にヒーローへの道を歩む
同じインチキで世界を救うか?
残念ながらそれも出来ない
僕は精神的自立に失敗した

夢はまだ諦めていないが
それ以外は色々と諦めた
初恋も インターハイも 一時の画家の夢も
心はいつになれば大きくなるだろう

僕はウルトラマンにはなれない
バイクにも乗れない
けれど手には命が握られている
僕に声が出せるか?
まだ問いかける言葉も知らないけれど

私生活

私生活

22歳の頃に書いた詩集です。当時の色々なものがこんがらがって詰まっています。

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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