キングの最果て
第1話
王の死の知らせを聞いた僕らは耳を疑う。
長きに渡って王として君臨してきた彼は、国を守るため、国を導くため、様々な戦いを経て、今日まで生きてきた。
彼の話を、少しだけさせてもらう―――。
「国王様が帰ってこられたぞっ!!」
国民のその叫びは、やがて国中へと広がった。
先に繰り広げられた東国(とうこく)との戦いで、西国(せいこく)であるこの国の王は、見事な勝利を治めた。
とは言え、それは単なる響きのいい嘘であり、実際のところ、勝った事実以外は、ほぼ全てギリギリでの勝利だったのだ。戦中の支援物資の無さや、兵たちの裏切りにより、国王は敗北をも目にしたと言う。
しかし、国王―――兄は戻ってきた。
「今夜は宴ですな」
兄であり国王、サーヴェンの使い物、ラルバールは上機嫌にそんなことを言った。戦地から帰還したサーヴェンは、すぐに王室の椅子に腰掛けた。
「……いや、まだだ」
サーヴェンが険しい顔立ちでラルバールに言った。
「まだ……と言いますと?」
ラルバールも先刻までの表情を消す。
「東国の王族親衛隊の生き残りに、少し気になる人間を見つけた。残党として、まだそいつは生きている」
「気になる人間とは……?」
「……」
サーヴェンは、目を伏せた。
術の構成に使うのは、術式と言う陣である。五行を利用した、限りなく倭寇の忍術にも近い術式を利用したものなら、攻撃性に特化させたものや、日常的に利用できる実用的なものまで、幅広く扱うことができる便利な術式だ。剣術や銃術よりも、今この国の王族貴族の必修教育の中には、このような呪術に近いものを組み込まれている。
「シルラ様!!」
王宮の廊下。日の光と共に、庭に植えられた数々の花が、その暖かな香りを漂わせる中、俺の背後からそんな叫び声が聞こえた。使用人、シュバルツだ。
「んだよ?」
振り返りながら訊く。
シュバルツは息を荒立てながら答える。
「国王がお呼びだと言うのに、シルラ様はそれをシカトしましたね?」
「……」
繭を背ける。
「……だから、なんだよ?」
「殺し屋が見つかるかもしれないと言うのに、あなた様はそれを見過ごすのですか?」
「……」
俺は、自然と自分に力を込めてしまった。
刹那―――
「!?」
シュバルツが驚きの表情を見せる。
庭に咲いていた花々が、一瞬にして散ったのだ。花びらはもちろん、葉も全て、消し散った。
風を利用した、瞬間的な五行術。
術式の天才は、その眼に怒りを込めた、紅い光を宿していた。
キングの最果て