霊能探偵・芥川九郎のZファイル(1)【浦島九郎の物語編】
第1章 芥川霊能探偵事務所
芥川九郎は霊能探偵である。名古屋市中区にある古びたビルの一室に事務所を構えている。彼が狂気の霊能探偵・夢野長政との死闘の末に、夢野の送還魔法によって魔界へ落ちたのは約30年前のことだ。それが最近、ひょっこり人間界に帰還したものだから大騒ぎとなった。30年の時の経過は重い。芥川の霊能探偵事務所を承継し、牧田霊能探偵事務所として運営してきた友人の牧田は、とうに還暦を過ぎており、事務所を畳むか娘・マリアへ承継するか、真剣に考えていた矢先のことだった。
芥川「能年君は相変わらずだね。鎧の妖怪は年を取らないのかな?」
能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。能年(鎧)は淹れたてのコーヒーを2杯、運んできた。
芥川「ありがとう。いただきます。」
マリア「能年さん。いつもありがとう。」
芥川とマリアは淹れたての熱いコーヒーを一口すすってから、会話を続けた。
マリア「芥川先生が30年ぶりに現れて、みんなビックリ仰天です。まさにパニックですよ。」
芥川「魔界にいたのは5年だと言っても、誰も信じてくれないんだ。」
マリア「父の牧田は信じていますよ。私も信じています。芥川先生はどう見てもアラサーかアラフォーです。とてもアラカンには見えません。」
芥川「帰ってきたら父も叔母も亡くなっている。本当に親不孝なことをした。それだけは後悔しているよ。」
第2章 牧田の結婚と娘・マリア
芥川は熱いコーヒーを一口飲んでから言った。
芥川「30年ぶりに帰ってきたら、やらないといけないことが山ほどあって、本当にうんざりしたよ。」
マリア「裁判所の失踪宣告の取消しとか、住民票を始めとする役所での手続きとか、銀行口座や携帯電話の契約とか・・・しばらく手続きで大変でしたね。あっ!運転免許も失効しています。まだ運転したらダメですよ。」
芥川「牧田君ががんばって霊能探偵事務所を続けていたのには驚いたけど、もっと驚いたのは結婚したことだよ。」
マリア「私の母にはもう会いましたよね。」
芥川「マリアさんのお母さんはペルー系の方なんだね。」
マリア「はい。私の母の母・・・お祖母さんが結婚して来日したんです。だから、母は生まれも育ちも日本なんですけどね。」
芥川「マリアさんはお祖母さんがペルー人の、いわゆるクォーターか。まぁ、母の代から生まれも育ちも日本なんだから、あんまり関係ないのかな。」
第3章 牧田マリアの事情
マリアもコーヒーを一口飲んでから言った。
マリア「父は60歳を過ぎた頃には、芥川先生のことを完全にあきらめたようで、そろそろこの事務所を畳むつもりでいたようです。でも・・・」
芥川「そこへ僕が突然、帰ってきた。魔界からね。ハハハッ。」
マリア「父は本当に、泣いて喜んでいましたよ。『これで霊能探偵事務所を芥川君に返すことができる』って。」
芥川「牧田君はまだ60代なんだから、これからも現役でがんばって・・・ほしいというのは酷かなぁ?」
マリア「父は事務所を維持するために、ずっとがんばってきました。芥川先生の帰還は父にとって、奇跡的な『渡りに船』だったんだと思います。」
芥川「『芥川君が慣れるまで、僕の代わりに娘のマリアがサポートするから』と言われてね。僕は彼が結婚したことも知らなかったから、本当に驚いた。」
芥川は、今思い出したかのようにマリアに聞いた。
芥川「マリアさんも牧田君と同じで、警察を辞めた口なんだってね。」
マリア「はい。父に退職を報告すると、すっごく怒られました。」
芥川「ハハハッ。牧田君にマリアさんをしかる資格はないだろう。娘と言ったって、マリアさんは立派な成人女性だし、牧田君も警察を途中で退職した人間なんだし・・・」
マリア「それで結局、父から『とりあえず霊能探偵事務所で芥川先生のサポートをしなさい』と言われて・・・」
第4章 芥川九郎のZファイル(by マリア)
芥川とマリアはそれぞれコーヒーを一口飲んでから、会話を続けた。
芥川「マリアさんはなんで、愛知県警を退職したんだい?」
マリア「それは・・・」
部屋の隅にある机のイスに座っている能年(鎧)は、居眠りをしているようでコックリコックリと規則的に舟を漕いでいる。
芥川「ごめん。無神経な質問だったね。言いたくなければ言わなくていいよ。言いたくなったら、その時に聞かせてよ。」
マリア「はい。分かりました。ありがとうございます。」
芥川は残りのコーヒーを飲み干してから言った。
芥川「復帰してからとりあえず、牧田君が30年の間に手がけた事件の記録を読んでいるんだけど、なかなか終わらないよ。」
マリア「30年分ですからね。」
芥川「牧田君は僕が手がけた事件を、Xファイルと称する事件簿に記録していたけど・・・牧田君自身の事件簿はさしずめ、Yファイルと呼ぶべきなのかな?」
マリア「じゃあ、これから私が記録するのはZファイルですね!」
芥川「ハハハッ。マリアさんは牧田君に『とりあえず霊能探偵事務所でサポートしろ』って言われたんだろう?Zファイルの記録なんかよりもおもしろいことが見つかったら、アラカンのおじさんのサポートなんか、いつでも辞めていいんだよ。」
マリア「・・・はい。分かりました。」
マリアそう言ってから、残りのコーヒーを飲み干した。
霊能探偵・芥川九郎のZファイル(1)【浦島九郎の物語編】