仮面ライダー龍騎 〜第十話〜

《第十話:別離(べつり)

【登場人物】

城戸 真司(きど しんじ)(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎(りゅうき)』となる。

秋山 蓮(あきやま れん)(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。仮面ライダー『ナイト』に変身する。

手塚 海之(てづか みゆき)(二十四)……蓮の古くからの友人で、彼の良き理解者。仮面ライダー『ライア』となって、龍騎・ナイトと共闘する。

神崎 優衣(かんざき ゆい)(十九)……蓮に協力する少女で、ゲームマスターである神崎士郎の妹。兄が多くの人間を傷つけている事に、思い悩んでいる。

大久保 大介(おおくぼ だいすけ)(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。大学時代から、後輩の真司を見守ってきた。

浅倉 威(あさくら たけし)(二十五)……自らの衝動に任せて通行人を次々と殺傷した凶悪犯罪者。神崎士郎の導きにより、収監中の拘置所から脱獄。『王蛇(おうじゃ)』となる。

【あらすじ】

 浅倉威——王蛇の出現によって、秋山蓮は心の乱れを加速させた。悩みながらもライダーバトルを否定しようと踠く真司と、肯定しようと足掻く蓮。二人が激突するのは、もはや必然であった。

【十六】

〜二月二七日・とある川沿いの高架下〜

 焚き火がパチパチと火花を散らし、川水で洗われた衣服類が木枝で作られたラックに掛けられている。全て、浅倉が脱獄してすぐアパレルショップから強奪したものだ。

「お前……随分と慣れてるんだな。」

 蓮は、全裸で川水を浴びる浅倉に声を掛けた。どうやら、今の浅倉に"警戒"の二文字は無いらしい。

「まぁな。これから飯だ……お前も食うか?」

 そう言いながら、浅倉は川からあがると乾かし終えた衣類を着て焚き火の前にどかりと座り込んだ。焚き火には、先程捕まえたばかりの新鮮なヤモリの串焼きがかけられている。

「……食わん。」

「……まぁ、そうだろうな。」

 そうして、浅倉はヤモリの串焼きに齧り付いた。その様は、さながら獣のようであった。

「……城戸。手塚。」

 蓮は、先の戦いにおける浅倉の言動を思い出していた。この男は一切の迷いなく他のライダーを屠り、それを得意げに語ってみせた。今の蓮にとって、それは羨望の的であった。

(俺に……仲間は要らない。全て敵。全てを犠牲にして……俺は今度こそ、恵里を救う。)

 脳裏に浮かぶ二人の戦友の姿を、蓮は必死に振り払おうとしていた。

〜二月二十八日・午後三時三十分"醒鮫探偵事務所・オフィス"〜

 秋山蓮が姿を消してからしばらく経ち、もう二月も終わろうとしていた。城戸真司は、相変わらず優衣と共に必死になって彼の行方を追っている。一方の手塚はというと、ライダーバトルを止める術を求めて醒鮫の事務所を訪れていた。何か手掛かりを得られればと、神崎士郎の身辺調査を依頼していたからだ。

「それで……醒鮫さん、何か分かりましたか。」

「あぁ。みっちゃん、こいつを。」

 鎌田から手渡されたのは、神崎士郎が所属していた研究室の紹介資料だった。手塚と蓮をライダーバトルへと導いた、あの惨劇の舞台となった研究室である。

(これは……何処かで聞いた名だとは思っていたが……。)

 そこに載った教授の名に、手塚は聞き覚えがあった。

「……ありがとうございます、醒鮫さん。」

「まぁ、いいって事よ。俺とみっちゃんの仲だ、協力は惜しまないさ。」

 ふいに、手塚の携帯がメールの着信を知らせた。それは、真司からの一通だった。

『ダークウイングの気配を追い続けて、ようやく蓮の居る場所を見つけ出した! それで、随分と変な所に居るみたいで。俺一人じゃ不安だから、手塚も来てくれ。花鶏で待ってるよ。 真司より』

「……行ってきます、醒鮫さん。」

 恩人に頭を下げ、その場を後にしようと入り口のドアノブに手を掛ける。そんな手塚を、鎌田が呼び止めた。

「なぁ、みっちゃん。……俺達、矛盾してると思わないか。俺達はライダーだ。いつかは殺し合わなきゃならない。でも今は、こうやって協力してる。……なんでだろうな。」

 手塚はドアノブからそっと手を離すと、鎌田へと振り返って言った。

「……人はみんな、自分を一番大切に生きている。でも、それだけじゃ……自分だけじゃ、いつか必ず限界が来る。だから助け合うんです。自分の為に、手を取り合う。たとえそこに、どれだけの矛盾があったとしても。」

「……悪いな、みっちゃん。」

「……行ってきます。」

 手塚は、蓮と真司が待つ戦場へと向かった。

〜同日・午後四時"喫茶・花鶏"〜

 真司は優衣が入れてくれたココアを飲みながら、手塚の到着をそわそわと待っていた。

「真司くん……ちょっとは落ち着いたら。」

 店の雑事を終わらせた優衣が、真司の対面に座った。よほどその姿が心配に見えたのだろう。

「あぁ……ごめん、優衣ちゃん。」

「蓮の事……連れ戻せそう?」

「……正直、分かんない。」

 真司は、初めて蓮と会った日の事を思い出していた。それは決して良好なものではなく、あの殺されかけた時の恐怖を、今でもよく覚えている。

「蓮は……俺の事を、仲間だとは思ってない。自分だけで抱えて、恵里さんの為に……全てを傷つけようとしてる。」

 それでも、真司は確かに覚えていた。ディスパイダーに襲われた時、真司は確かに秋山蓮に命を救われたのだ。

「俺は……あいつのしている事を、否定出来ない。でも、やっぱり……人が人を傷つける事を、認めたいとは思わない。」

「……真司くん。」

 自分がこの戦いに足を踏み入れた事は本当に正しかったのか。晴れる事のない悩みが、真司の心のうちに渦巻いていた。

「真司くん……私ね、真司くんの事すごいって思うよ。」

「え?」

 優衣が、優しく笑顔を浮かべながらそう言った。

「真司くんは、自分じゃなくて誰かの為に戦う道を選んだ。そんな事、誰にでも出来る訳じゃない。だから私は……真司くんの事、凄い人だって思ってる。」

「……優衣ちゃん、ありがとう。」

 秋山蓮とどう向き合うべきか。真司には少しだけ、それが分かった気がした。

【十七】

〜同日・午後五時四十四分"郊外・廃工場前"〜

 乗ってきたズーマーを正門の傍らに停めながら、真司は隣で同じ様にバイクを停めた手塚に声を掛けた。

「なぁ、手塚。なんだって蓮の奴こんな場所に……。」

「さぁな……だが俺には分かる。あいつはきっと、自分の中の迷いを断ち切りたいんだ。今まで目を背けてきた矛盾が、無視出来ない程に大きくなっていたんだろう。お前のおかげでな。」

「……なんだよ、それ。」

 正門を越え、すっかり風化した建屋の鉄扉へと歩を進める二人。錆び付いて半開きとなったソレを潜ると其処には——蓮と、浅倉が立っていた。

「蓮、なんで浅倉なんかと一緒に居るんだよ。」

 蓮は真司の問い掛けに答えようとせず、自らの拳を握りしめて言い放った。

「待っていたぞ城戸……戦え、俺と。」

「何言ってんだお前……早くかえ」

 真司のその言葉を、手塚が制した。

「やめろ城戸……奴は本気だ。浅倉も、その気みたいだしな。」

 傍らで退屈そうにしていた浅倉が、一転して眼光鋭くこちらを見据える。

「フン……俺はただ、ライダーと戦えるっていうコイツの話に乗ってやっただけだ。一応、警官から助けてもらった恩もあるしな。」

 既に、蓮と浅倉はデッキを握っていた。やるしかない。真司はそう思った。

「手塚……俺、アイツとちゃんとぶつかりたい。だから、浅倉の事……頼めるか。」

「……あぁ、任せておけ。」

 互いに向き合い、デッキを構える四人。そして——

「「「「変身!!」」」」

 四人の戦士達による、それぞれの戦いが始まった。

〜午後六時二十分・ミラーワールド"郊外・廃工場前"〜

 龍騎とナイトは、建屋外の広野に立った。初めてライダーになった日の事を、龍騎は思い出していた。

「なぁ、蓮。お前も……迷ってたんだな。」

「あぁ。だが俺は、その迷いを断たなければならない。……お前を倒して、断ち切ってみせる。」

<SWORD VENT>

 ウイングランサーを装備したナイトが、龍騎に斬り掛かった。それを躱し、バイザーにカードを装填する龍騎。

<SWORD VENT>

 龍騎がドラグセイバーを装備し、ウイングランサーの一撃を受け止めた。交わった二人の刃が、激しい火花を散らす。

「……俺はやっぱり、お前に誰かを殺して欲しくない! 恵里さんだって……きっと、そんな事は望んでない!!」

「っ……! お前が、恵里の気持ちを語るな!!」

 ナイトの腕に力がこもり、龍騎のドラグセイバーが弾き飛ばされた。

「これで終わりだ! 龍騎!!」

「……まだ、終わらねぇ!!」

<GUARD VENT>

 首を切り飛ばすべく振るわれたナイトの剣撃を、ドラグシールドで受け止めてみせる龍騎。そのしぶとさに、ナイトはさらに声を荒げた。

「……何故だ。何故そうも食らいつく! 何も背負っていない癖に、何の願いも無いのに……何故そうまで、必死になって戦えるんだ!!」

「それは俺が……まだ迷ってるからだ!!」



〜一年前"或る日の追憶"〜

「お、なんだ真司。そんなしょぼくれた顔して。」

 もうすっかり人の居なくなった新聞部の部室で、大久保は城戸真司に声を掛けた。いつもは馬鹿みたいに明るいはずの後輩が、珍しく落ち込んだ様子だったからだ。

「あぁ、先輩……。なんか俺、分かんなくなっちゃって。」

「おぉ。バカのお前が悩むなんて、明日は嵐かもな。」

「失礼な……俺だって悩む時くらいありますよっ!」

 不貞腐れる真司を見て、笑う大久保。

「はは……悪いな、茶化して。それで、どうしたんだよ。」

 少しは気が抜けたのか、真司は大きなため息をついた。そして、自らの経験について語りだす。

「……この間、講義中にヒソヒソ話してる奴見つけて……その場でそいつらに言ってやったんです。『静かにしろ』って。」

「まぁ、別に間違ってはないわな。」

 大久保は以前から、真司のそういう"正義感"に好感を抱いていた。しかし今、彼はその正義に悩まされている。

「俺もそう思ってました。でもさっき、話してた奴の片割れにバッタリ会って……あの時は、体調悪くしてたもう片方を介抱してたんだって言われて。」

「……。」

 その後、体調が悪化した男の友人は救急車に運ばれていったらしい。真司は、その男の言葉を何度も思い返していた。本当に自分がした事は正しかったのか。何度も何度も、自分に問いかけた。

「なるほどな……それでお前は、ずっと悩んでるわけだ。」

「先輩は……どう思いますか。俺、正しい事しましたかね?」

 大久保は頭をぽりぽりとかきながら少しだけ考え、そして答えた。

「……さぁ、どうだろうな。」

「……なんすか、ソレ。」

「"正しさ"なんて曖昧な概念……分かんないくらいが丁度いいって、俺は思うぞ。」

「……でも、俺は。」

 その曖昧な概念を追おうとしている自分も大概だと、大久保は思った。そして、自分が見つけた結論を真司に語る。

「悩みが消えなくて仕方ないんだろ。でもな、悩んでるって事はつまり、お前が判断することを放棄してないって事なんだよ。……もっと悩め。とことん悩め。そうやって悩み続けてればいつか、答えは出る。だから、悩む為に行動し続けろ。お前が正しいと思える行動を、諦めるな。」

「……先輩。」

 その日、城戸真司はその男についていきたいと思った。憧れを抱き、同じ道を行きたいと思った。——そして真司は未だ、悩み続けていた。



〜午後六時四十五分・ミラーワールド"郊外・廃工場前"〜

 少しずつ龍騎の剣筋が勢いを増していき、先程まで優勢だったナイトを押し返していく。目の前に示された現実が受け入れられず、ナイトは尚も声を張り上げた。

「……クソッ! 何故、俺が負けるんだ……何も背負っていない、何の願いも持たないお前に!!」

「そうだ蓮……確かに俺はまだ何も背負ってない。何の願いも持ってない! ……だから悩むんだ! いつかお前に負けないくらいデッカいものを背負えるように……その時、お前の背負ってる物も一緒に背負う為に……その為に、悩み続けるんだ!!」

 心の中に宿った何かが、またしても龍騎を突き動かしていた。

「……うおおぉぉ!!」

 ウイングランサーを振り上げるナイト。その刹那、龍騎はドラグセイバーを放り投げそして——

「……一緒に帰るぞ、蓮!!」

 秋山蓮の顔面を、殴り飛ばした。

〜午後七時・ミラーワールド"郊外・廃工場前"〜

「……おい、城戸。」

「なんだよ、蓮。」

「あのパンチは、効いたぞ。」

「あぁ……別に、謝んねぇぞ。」

 お互いの全霊をぶつけ合い、真司と蓮は二人並んで仰向けに倒れていた。すっかり暗くなった空を、蓮は何故だか明るいと思えた。

「それで良い……俺達は殺し合う間柄なんだからな。仲間じゃない。」

「へっ、そうかよ。」

「だが今は……」

「え?」

 蓮が、身体を起こして真司に手を差し出した。

「今だけは、お前に感謝しておく。」

「……じゃあ、蓮。」

「なんだ?」

 その手を取り、友と二人で立ち上がる真司。

「行こうぜ、手塚が待ってる。」

「……そうだな。」

 それは血を流し合う筈の場所で芽生えた、僅かばかりの信頼。肩を貸し合って歩きながら、二人はもう一人の友のもとへ向かったのだった。

〜三十分前・ミラーワールド"廃工場内部"〜

 お互いの武器を携え、睨み合うライアと王蛇。そんな膠着状態の中、ライアが口を開いた。

「お前……浅倉とか言ったな。」

「あ? なんだ、突然。」

「お前は……何を背負って戦ってる。お前はこの戦いに、どんな願いを賭けてるんだ?」

 その問いを聞き、腹を抱えて笑い出す王蛇。

「……フハハッ! ハハハハハッ!! お前、やっぱりつまらん奴だな。」

「何?」

 その男はゆっくりと首をもたげ、そしてライアに指を差しながら言った。

「お前からは犠牲の匂いがする……。お前、今まで殺してきた奴の中で一番つまらんぞ。」

「……余計なお世話だ。それじゃあ、さっさとケリをつけよう。」

 お互いその一撃に賭けるべく、自らのバイザーにカードをセットする。

<FINAL VENT>

<FINAL VENT>

「「はあぁぁぁ……!」」

 二人のライダーと二匹の契約モンスターがぶつかり合い、凄まじい衝撃が辺りを震わせた。



「……最後に、さっきの問いに答えてくれ。お前は、何を背負っている。どんな願いを賭けて……戦ってるんだ。」

 その場に立ち尽くしたライアが、自らに背を向けた男に問いかけた。それに対し、振り向く事なく答える王蛇。

「……くだらん。どいつもこいつも、何故そうも背負いたがる? そんな物は要らない。何も背負わず、願いも持たず……俺はただ、今に満足しているんだ。」

「……そうか。」

 そうして、ライアはその場に崩れ落ちた。 

〜午後八時三十分"喫茶花鶏・店前"〜

 戦いを終え、それぞれのバイクを伴って帰還した真司と蓮。そこに、手塚海之の姿は無い。

「手塚の奴、先に花鶏に戻ってるってさ。急に薄情っていうか……なぁ、蓮。」

「あぁ……そうだな。」

 道中、蓮はずっと表情を曇らせているように見えた。花鶏の小さな駐車スペースに愛車を停めながら、真司は尋ねた。

「……どうしたんだよ、浮かない顔してさ。」

「いや……俺の顔は、いつもこんな感じだ。」

「そうかぁ?」

 蓮には、なんとなく分かっている気がしたのだ。どうして手塚が先に戻ったのか。何故、自分達を置いていったのか。

「なぁ、城戸。」

「なんだよ……て、おぉ手塚!」

「なに?」

 真司が声を掛けた先には、しっかりと其処に立つ手塚の姿があった。手塚は妙に穏やかな顔をしながら、ゆっくりと二人の前に立った。

「すまないな、二人とも。ちょっと急用を思い出してな。」

「なんだよ急用って……ていうかさ。蓮の奴、無事に連れ戻せたよ。お前の協力のおかげだ。ありがとな、手塚。」

「そうか……蓮、吹っ切れたのか。」

 そう語る手塚は、どこか安心した様子だった。

「蓮、おかえり。」

「……苦労を掛けたな、手塚。」

「あぁ、苦労した。だから……その借りを返す為に、俺の頼みを聞け。」

「何だ?」

 名残惜しそうに花鶏の窓をを見ながら、手塚は譫言(うわごと)のように呟いた。

「神崎優衣を、頼む。」

「……分かった。」

 それが親友からの最後の頼みだという事を、蓮は悟った。

「そして、城戸。」

「え? なんだよ急に。」

 手塚は真司の肩に手を置くと、その目をしっかりと見て言った。

「榊原耕一には、気を付けろ。」

「は?」

 それだけの言葉を残して、手塚はゆっくりと二人に背を向けて歩き出した。その足取りは、妙にしっかりとしていた。

「おい、手塚。もう行くのかよ……せっかくだから花鶏で休んでこうぜ。」

「いや、遠慮しておこう。今夜は……一人がいい。」

 だんだんと遠ざかっていく、友の背中。真司も蓮も、何故か引き止める事は出来なかった。そしてその後、手塚海之が二人の前に姿を見せる事は、もう二度と無かった。

—— 仮面ライダーライア死亡。残るライダーは、あと九人。——

〜続〜

仮面ライダー龍騎 〜第十話〜

仮面ライダー龍騎 〜第十話〜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-17

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