仮面ライダー龍騎 〜第七話〜

《第七話:浅倉威(あさくら たけし)

【登場人物】

城戸 真司(きど しんじ)(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎(りゅうき)』となる。

秋山 蓮(あきやま れん)(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。恋人の仇であるダークウイングと契約し、仮面ライダー『ナイト』に変身する。

手塚 海之(てづか みゆき)(二十四)……蓮の古くからの友人で、彼の良き理解者。仮面ライダー『ライア』となって、龍騎・ナイトと共闘する。

大久保 大介(おおくぼ だいすけ)(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。真司について、「そろそろクビにしなきゃいけないんじゃないか」と悩んでいる。

北岡 秀一(きたおか しゅういち)(三十)……黒を白にすると言わしめる、凄腕の弁護士。浅倉の弁護を担当した。

浅倉 威(あさくら たけし)(二十五)……自らの衝動に任せて通行人を次々と殺傷した凶悪犯罪者。神崎士郎の導きにより、収監中の拘置所から脱獄する。

神崎 士郎(かんざき しろう)(二十五)……優衣の兄で、ライダーバトルを仕掛けた張本人。鏡の中からライダー達を闘いへと誘う、謎多き男。

【あらすじ】

 ベルデの奇襲を退け、仲間としての絆を深めた真司と手塚。だが彼らはまだ知らない。神崎士郎によって、最凶のライダーが解き放たれようとしていた事を——。

【十】

〜二月十三日・午前九時三十分"OREジャーナル"オフィス〜

 大久保は、デスクに座って自前のルービックキューブを弄り倒していた。大学時代の後輩に、悪態をつきながら。

「真司のヤロウ……何処行きやがったんだ? 最近サボり癖がついてねぇか、あいつ。」

 その時、机に放っておいた大久保の携帯が着信を知らせるバイブ音を奏でた。おそらく令子からだろう。

「お、来たか。」

 折り畳まれたガラケーを開き、耳にあてる。

『編集長、判決が出ました。有罪です。』

「おお、そうか。まあ……そうじゃなきゃ、おかしいわな。」

 キューブをデスクに置き、携帯を肩で挟んだままPCを開く。今日は、昨年のクリスマスに起きた連続通り魔事件の裁判最終日——異例の速さでの判決だった。

「にしてもこの浅倉ってヤツ……とことんイカれてやがる。」

 浅倉威、二十五歳。通り魔事件の犯人で、その経歴は一切不明。なんの躊躇いもなく十数人をナイフで切り付け、その内現場に駆けつけた刑事を含めた四人が死亡している。その後は逃走する様子も見せず、他の刑事に取り押さえられても終始笑い続けていたらしい。

「中でも一番イカれてるのは……動機か。」

 イライラしたから。それが、浅倉が語った動機だった。当初は心神喪失を狙った妄言だと思われたが、浅倉にとってはそれが紛う事なき凶行の理由だったらしい。

「で……量刑は。」

 浅倉と事件についてを記事に纏めながら、令子に聞く。少なくとも二十五年か、無期懲役もしくは死刑。それが、世間一般で叫ばれる浅倉威に下されるべき審判だった。

『それが……懲役十年です。あの、北岡弁護士が動いたみたいで。』

「……まじかよ。」

 大久保は、頭を抱えた。

〜同日・午前十一時"東京拘置所・独房"〜

 浅倉は自分を無罪に出来なかった弁護士に苛立ちを募らせながら、鉄格子に頭を打ちつけていた。

「北岡秀一……北岡……。」

 額から滴った血が、独房の床に落ちていく。そしてその血が自身の姿を映し出すほどに溜まった時、浅倉の頭の中で不協和音が鳴り響いた。

「苛立っているようだな、浅倉威。」

「……誰だ、お前。」

 声がした後方に振り返ると、そこには痩せこけたトレンチコートの男が立っていた。念の為格子の鍵を確認したが、やはり厳重に閉じられたままだった。

「……どうやって入って来た。」

「俺の事はいい。それよりも、お前の現状について語ろうじゃないか。」

 そう言うと、男は浅倉を挑発するように笑ってみせた。

「浅倉威……これから十年間、お前は晴らせぬ苛立ちを抱えたまま此処に留まる事になる。この世に産み落とされた、哀れな負け犬としてな。」

「……イライラするな、お前。」

 浅倉が、握りしめた拳を男に振るった。しかしそれが、対象を捉える事は無い。

「なっ……。」

 謎の男は、まるで亡霊のように忽然と姿を消した。それでも尚、男の声だけがその場に響き続ける。

"浅倉威……今のままでは、お前はただの敗者。この世に幾多と存在する、負け犬の一人に過ぎない。そんなお前を……俺が救ってやろう。"

 何かが、落ちる音がした。浅倉が音の方を向くと、自らの血溜まりの中心に紫に輝くカードデッキが浮いていた。

「こんなもの……どこから……。」

"そのデッキを拾え、浅倉。それを手にした時、お前は力を手に入れる。そしてその力があれば……もう誰も、お前を阻む事は出来ない。"

「……なんだか分からんが、面白そうだ。」

 血に汚れたデッキを拾い上げる。そしてその日——浅倉は、脱獄した。

【十一】

〜二月十五日・午後一時三十五分"都内・ファミリーレストラン店内"〜

「はぁ……。」

 真司は、目の前のオムライスをつつきながら考えを巡らせていた。手塚には共に戦うと約束したものの、やはり各々が抱えるものの事を思うと思考にモヤがかかる。真司は、今だ心の内に宿った迷いを燻らせたままでいた。

「……ん?」

 店の外で、けたたましいサイレンの音が鳴り響きはじめた。

「ママー、外うるさいよ。」

「はいはい……そうねぇ、外で何かあったのかしらね。」

 レジで精算を待つ母娘が、外を走るパトカーを見ながら会話をしている。真司はその様子を眺めながら、ドラグレッダーと契約した日に見たあの女の子を思い出していた。

(……今度は、間に合うよな。)

 次の瞬間、入り口の扉が荒々しく開いた。そうして入ってきた男は持っていた拳銃を一発天井に放って見せると、真司が見ていたレジ前の女の子を母親から引き剥がしてそのこめかみに銃口を突きつけたのだった。

「お前ら、今すぐ店の奥に集まれ……早くしろ!」

 直ぐに叫び出し、パニックに陥る店内の客達。真司はほんの少したじろいだものの、男の目に入らないうちに近くの植え込みの裏に身を隠した。その物陰から、店内の様子を伺う。

(ちょっと待てよ……なんだよこの状況!?)

 蛇柄のレザージャケットとダメージパンツを身につけたその男が、ギラギラとした鋭い目つきで店内の客達を睨みつけている。

「あまり俺を、イラつかせるな。」

〜午後二時五分"OREジャーナル・オフィス"〜

「ったく……真司のやつ、いい加減顔出せってんだよな。」

 大久保は自分のデスクで知恵の輪を弄りながら、相変わらず欠勤している後輩のデスクを見た。

「いいじゃないですか。城戸くんが居ない分このオフィスの費用も浮きますし。何より落ち着いて仕事が出来ますから。」

 令子は淡々とそう言いながら、取材に行くための身支度を整えていた。彼女には真司の教育係をお願いしていた事があったが、その頃の彼女の眉間にずっと皺が寄っていたことを、大久保はよく覚えている。

「まぁ、そう言うなって。あいつにはあいつなりの信念ってのがあるはずだからよ……にしても令子、やけに慌ただしいな。急な取材か?」

「さっき記者クラブの知り合いから聞いたんですけど、脱獄中の浅倉が都内のファミレス店に立て篭もったそうなんです。どうせすぐに情報も出回るだろうから、早めに現場に行って良い場所を確保しておきたくて。」

 浅倉威。つい先日拘置所から脱獄し、今尚逃げ仰せている凶悪犯。大久保が書いた浅倉の記事は、現在OREジャーナルのトップ記事となっている。

「……そうか、浅倉が。令子、張り切るのはいいが無茶だけはするなよ。」

「ありがとうございます。行ってきます。」

 凛とした姿勢で、令子がオフィスから出て行く。それと入れ替わるようにして、大久保の携帯が鳴り響きメールの受信を知らせた。見てみると、それは問題児の後輩にして新人ジャーナリスト、城戸真司からの一通であった。

「あの野郎……欠勤の謝罪かぁ?」

 ぼやきながらそのメールを開く。するとそこには謝罪などではない、大久保に大事を知らせる一文が綴られていた。

『今、変なやつが拳銃を振り翳しながらファミレスに立て篭りやがりました。俺も店内に居るんですけど、なんか事情知りませんか?』

(おうおうこりゃ一大事だな、真司のやつ……って。ファミレスに、立て篭もり?)

 今聞いたばかりの令子の話が、大久保の頭を駆け巡る。

「それ、浅倉の事じゃねぇか?!」

〜午後二時十分"都内・某ファミリーレストラン店内"〜

 真司は、大久保から事の些細を教えてもらい落胆していた。

(ただでさえライダーのことで悩んでるって時に、なんでこう色々と重なるんだよ。……しゃあない。ここは取り敢えず、状況の整理だな。)

 気持ちを切り替え、店内の様子を伺う真司。見ると、浅倉は少女に突きつけていた拳銃を客達へと向け直していた。そして客から取り上げたであろう携帯の一つを弄り、ダイヤルしたそれを耳に当てる。

「おぉ、須藤か。今から俺の要求を伝える。」

 逃走手段を用意しろ。誰もが浅倉の要求内容をそう予想したが、その男が実際に発した言葉はまるで違っていた。

「……弁護士の北岡秀一をここに連れてこい。そいつとここにいる人質全員を交換だ。猶予はあと一時間。奴の事務所からここまでだったら間に合うはずだ……急げよ。」

 浅倉はそれだけ告げると電話を切り、再び人質の方を力強く睨みつけた。その様は、さながら獲物を威嚇する蛇のようだった。

(北岡秀一……誰だ? なんで浅倉のやつ、そいつと人質を交換なんて……)

 真司が慣れない考え事を続けていると、浅倉に抱えられていた少女が急に苦しみだした。その様子を見た彼女の母親が、慌てて声を荒げる。

「そ……その子は喘息持ちなんです! すぐに薬を飲ませないと、死んでしまいます!!」

「知るか。大人しくしていろ。」

 母親の必死の嘆願を一蹴し、拳銃をその母親へと向ける浅倉。そんな様子を見て、真司は再び大きな怒りに突き動かされた。

「おい、お前!」

 考えるより先に、身体が動いてしまっていた。拳銃の射線を切るように、浅倉の前に立つ真司。

「あぁ?」

 真司と浅倉が、お互いに睨み合った。目の前の男が放つ凄まじい気迫に気圧されながらも、真司はなんとか気勢を保って言葉を絞り出した。

「その子を、離してやれ。苦しんでるだろ。お、お前だって人質が死ぬのは不都合じゃないのか?」

「……駄目だ。ここにいる全員を掌握するのに、こいつは必要なんだよ。人質代表ってやつだ。」

「……だったら。」

 拳を握りしめる。そこに恐怖は無かった。真司の胸の内には、その女の子を助けたいという強い想いだけが宿っていた。

「俺が代わりに人質になる。あ、安心しろ。俺は……か、か弱い!!」

 不自然に威張る真司を見て、何かを嗅ぐように鼻を動かす浅倉。そして——

「……フフッ。フハハハハッ!!」

 浅倉は大きく笑った。満足そうに、とても可笑しそうに笑っていた。

「お前、バカだろ?」

「ば、バカじゃねぇよ!!」

「……よし、お前が今からこいつの代わりだ。両手を挙げてこっちに来い。」

 息を呑み冷や汗をかきながら、ゆっくりと歩を進める。浅倉はそんな真司と少女を素早く入れ替えると、真司のこめかみに銃口をあてた。

「お母さん!」

「あぁ……よかった! さぁ、薬を飲みましょう。」

 母親の補助で薬を飲む少女を見ながら、真司は確かな満足感に包まれていた。今度は助けられたのだ。

「お〜い、浅倉。」

 ふと、入り口の扉が大きな鈴の音を響かせながら開いた。そこに立っていたのは、グレーのスーツでぴっしりとキメた、なんともエリート臭を漂わせた飄々とした男だった。

「おぉ、来たか……北岡。」

(この人が、北岡秀一?)

 真司の視線に気付いたのか、北岡はこちらに向けてウインクをかましてみせた。その北岡という男は、常に余裕を漂わせていた。



浅倉は約束通り、真司以外の人質を全員解放した。そしてその場に残ったのは真司と浅倉、そして北岡の三人。

「あの……浅倉さん。俺、いつになったら解放してもらえますかね?」

「あぁ? ……お前、やっぱバカだろ。後先考えずにノコノコ名乗り出やがって。」

「……うっす。」

「なぁ、浅倉。」

 二人の目の前に立っていた北岡が、面倒そうに浅倉に声を掛けた。どうやら北岡は、まるで真司の事など気にしていない様子だった。

「本当は面倒だから来たくなかったんだけどさ……今の時代、好感度上げるのって大事だからね。とっとと終わらせたいし、簡潔に要件を話してくれる?」

 ため息をつきながらそう吐き捨てる北岡を、真司は『なんだコイツ』と思った。

「……あぁ、そうだな。」

 一方の浅倉は、北岡の言葉を受けて得意げに笑みを浮かべた。真司を明後日の方向へと突き飛ばし、ポケットに手を伸ばす。

「どわぁっ! クソ、痛えなぁ……って、え?」

 尻餅をついた真司の目の前で、浅倉が紫のカードデッキを手にしていた。

「なっ……お前、まさか。」

 驚きが口をついた様子の北岡を前に、浅倉が続ける。

「神崎から聞いたぜ。北岡……お前、ライダーなんだってな。好都合だ。俺を無罪に出来なかった無能な貴様を、この手で葬ってやる。」

「はぁ……そういう事ね。神崎士郎も人が悪いよ。お前みたいなクズをライダーに仕立てるなんてさ。」

 そう言いながら、北岡もスーツの内ポケットから緑のカードデッキを取り出した。あまりに唐突な展開に、真司はまるでついていけていなかった。

(え。二人とも、ライダー? 弁護士と脱獄囚って……立場が違いすぎるだろ。てか、ライダーってこんなポンポン正体明かしていいわけ? えーっとこの場合、俺もライダーだって言ったほうがいいのかな。いやでも……)

 必死で思考を巡らせる真司を他所に、浅倉と北岡は店内の鏡の前へと移動した。そして、デッキを力強く前へと突き出し——

「「変身!!」」

 二人は、仮面ライダーに変身してミラーワールドに立った。

【十二】

〜午後三時十九分・ミラーワールド"ファミリーレストラン・地下駐車場"〜

「さっさと終わらせよう。」

 北岡が変身したのは、緑のアンダースーツと牛を象った機械的な鎧が特徴のライダー『ゾルダ』。そんなゾルダが、手に持った中型銃型召喚機『マグナバイザー』のマガジンスロットルからカードスロットを引き出した。そして、そこに自身のカードをセットする。

<SHOOT VENT>

 ゾルダに、巨大砲『ギガランチャー』が装備された。

「はぁっ!」

 その砲身から、人の顔ほどの大きさの鉛玉を発射するゾルダ。しかし、浅倉が変身した蛇を象った紫の鎧に身を包んだ戦士——王蛇は揺るがない。

「……ハハッ、面白い見せ物だ。」

 その弾道を瞬時に判別し、ヒラリと躱してみせる王蛇。一方のゾルダは、それを見て直ぐさまギガランチャーをその場に置き捨てると、マグナバイザーによる連射撃を浴びせた。

「……早い!」

「ハハハッ! 当ててみせろ、北岡!!」

 王蛇は楽しげに笑いながら、走り込む事で銃弾の猛攻を躱し続けてみせた。

「……楽しいなぁ、北岡。」

「……ホント、面倒くさいよ。」

 息を整えるように、立ち止まってお互い睨み合う二人。そしてその膠着状態を破るが如く、王蛇が何かを悟ったように得意げに笑い始めた。

「……ハハハハハッ!」

「……何が可笑しい?」

 王蛇はひとしきり笑い終えて息を整えると、肩を回してほぐしながらゾルダに言い放った。

「北岡……お前から、未練の匂いがするぜ。くだらん。お前との戦いは、面白いのにな。」

「ふぅん……あながち間違いでもないけど。それじゃ俺の未練を断ち切る為に、死んでくれよ。」

 ゾルダのマグナバイザーが再び火を噴く。しかし王蛇はそんな標的の行動を予期していたのか、ドリルのように湾曲した刀身を持つ突撃剣『ベノサーベル』で素早く銃弾を防いだ。一足先に、カードをバイザーのスロットに装填していたのだ。

<SWORD VENT>

「ハハァ……もっと殺ろうぜ、北岡。」

「ほんとにさ……なんでこんなのがライダーなのかねぇ。」

 この戦いは長引く。そう二人が察して、じりじりと間合いを図り始めたその時。

「やめろ、お前ら!」

 二人の間に、一人の男が割って入った。その男は城戸真司。彼もまた仮面ライダー、龍騎だ。

「……なに、お前?」

「……面倒なのが来たな。」

 その場が白けるのを肌で感じとりながらも、龍騎は構わず声をあげた。

「叶えたい願いがあるのは分かった……でもやっぱり、俺は人間同士が傷つけ合うのを黙って見てられない。ライダーはライダー同士、助け合うべきなんだ!!」

 少しの沈黙。そして龍騎は、二人の剣撃と銃撃によって吹き飛ばされた。

〜同日・同時刻"喫茶花鶏・店内"〜

「あの女の子を助けたいんだったらさ。俺についてきなよ。」

 薄暗い店内で、優衣がいつも身につけていたエプロンを得意げに見せびらかす童顔の青年。そしてそんな彼の前には、蓮と手塚の姿があった。

「お前、優衣を何処へやった?」

 ライダー達が、一箇所に集まろうとしていた。

——次回、『第八話:享楽者』——

〜続〜

仮面ライダー龍騎 〜第七話〜

仮面ライダー龍騎 〜第七話〜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-15

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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