霊能探偵・芥川九郎のXファイル(71)【猫田君の休日編】
第1章 狸原さんのアルバイト
松山の霊能探偵・芥川九郎は、事務所で友人の夏目半兵衛と話していた。彼の事務所は千舟町にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。
夏目「狸原さんのアルバイトは見つかったのかい?」
芥川「うん。結局、猫田君がアルバイトをしている旅館で、彼と一緒に働くことになった。」
猫田虎吉は芥川が更生させた化け猫で、今は松山市内でアルバイトに勤しんでいる。狸原砥和子は最近、芥川が更生させた化け狸だ。
夏目「猫田君は意外と、アルバイトが続いているね。狸原さんは大丈夫かな?」
芥川「それが彼の話によると、狸原さんの方が要領がいいらしいよ。あっという間に仕事を覚えて、猫田君よりも偉そうにしているそうだ。」
夏目「へえー。猫と狸が旅館で一緒にアルバイトか・・・」
芥川は飲みかけの麦茶を飲み干してから、話題を変えて言った。
芥川「猫田君は今日、アルバイトがない日だから、ここに来るかもしれないね。」
夏目「猫田君の休日か。君は最近、彼と一緒にここで晩酌しているんだろう?」
芥川「まぁ、時々ね。」
夏目は部屋の隅にあるビールや焼酎の空き瓶を一瞥して、ため息をついた。
夏目「芥川君はもう少し、健全で健康的な趣味を持った方がいいと思うよ。」
芥川「僕は時々、温泉に行くんだよ。晩酌と温泉。他に何かあるかな?」
第2章 猫田君の休日
夏目も飲みかけの麦茶を飲み干してから、おもむろに口を開いた。
夏目「茶道とか書道とか、趣味なんて探せばいくらでもあるだろう。」
芥川「夏目君の我田引水だね。両方とも君の趣味じゃないか。」
夏目「猫田君と狸原さんは、アルバイトで稼いだお金を何に使っているんだろう?猫田君は君と同じで、晩酌と温泉かな?」
芥川「そんなこと聞いたことないから知らないけど、多分そうなんじゃないかな?猫田君に直接、聞いてみたら?彼、そろそろここに来るだろう。」
夏目「僕はそろそろお暇するよ。今日はこれから、書道教室の師匠と一緒に、小学生に書道を教えに行くんだ。」
芥川「夏目先生による書道の指導か。子どもには特に、優しく教えないといけないよ。」
夏目「君に言われるまでもないさ。」
そう言うと、夏目は事務所から出ていった。
しばらくすると、猫田が事務所にやって来た。
猫田「こんにちは。芥川さん、おじゃまします。」
芥川「こんにちは、猫田君。いらっしゃい。」
猫田「夏目さんを事務所の近くでお見かけしましたが、何かあったんですか?」
芥川「いや、何も。彼は用事がなくても時々、暇つぶしでここに来るんだよ。猫田君こそ今日も、暇つぶしでここに来たのかい?」
猫田「いえ。今日は狸原さんもアルバイトがお休みで、一緒に銀天街から大街道を抜けて、松山城へ遊びに行くことになりまして。」
第3章 メンクイの狸原さん
芥川は少し驚いて言った。
芥川「猫田君と狸原さんは付き合っているのかい?」
猫田「そんなわけないじゃないですか。せっかく松山にいるんだから、松山城くらい行っておいた方がいい、という話になりまして。それに彼女、ものすごいメンクイなんですよ。」
芥川「メンクイって・・・彼女はどういう種類のラーメンを食べるんだい?あぁ、四国だからうどんかぁ!」
猫田「・・・芥川さん。また私をからかっているんですか?メンクイってのは、女性の場合ですと、イケメン好き、イケメンに目がない女のことですよ。」
芥川「・・・あぁ、そうだったね。メンクイでイケメン好き。あの狸がかい?」
猫田「・・・私の前ではかまいませんけど、本人の前で、彼女を狸呼ばわりしたらダメですよ。彼女は今、BSTの推し活にハマっているんです。」
芥川「なんだい、そのBS4Tってのは?」
猫田「BS4Tではなくて、BSTです。漢字だと防弾少年隊。世界的なアイドルグループですよ。芥川さん、本当に知らないんですか?」
芥川「いや・・・名前は聞いたことあるよ、さすがに。でも、大丈夫かな?推し活って、お金がかかるんだろう?」
猫田「人によると思いますけど。」
芥川「狸原さんがお金に困ってまた、葉っぱをお金に変えて人間を騙すようなことにならないか、心配だ。狸女が金に困って風俗に落ちるだけなら害はないけど、通貨偽造は大罪だよ。」
猫田「・・・多分、大丈夫だと思いますけど。」
第4章 松山城
二人がそんな話をしていると、噂の狸原がやって来た。
狸原「芥川先生、こんにちは。その節は大変お世話になりました。」
芥川「狸原さん、こんにちは。今日は松山城に行くんだってね。」
狸原「はい。猫田さんも、行ったことがないと言うもんですから。」
芥川「そうだね。確かに松山にいるなら、一度は行っておくべきだと僕も思うよ。行ってらっしゃい。気を付けてね。」
猫田「はい。行ってきます。」
こうして二人は銀天街から大街道までブラブラ歩きながら、松山城へ向かった。
狸原「芥川さんは相変わらずですね。」
猫田「うん。まぁね。」
狸原「今日は夏目先生、いませんでしたね。」
猫田「僕が来るちょっと前までいたそうだけど、用事があると言って出かけたそうだ。」
狸原「猫田さんは芥川さんと、どんな話をしていたんですか?」
猫田「どんなって・・・芥川さんに君がメンクイだと教えたら、とても驚いていたよ。」
狸原「なんでそんな話、芥川さんにしたんですか?」
猫田「なんでって・・・確か、君がBSTの推し活をしているという話になって・・・」
狸原「芥川さんはイケメンと言うほどではないですけど、まぁ、それなりですね。夏目先生は文句なしの美男子ですね。夏目先生なら、考えてあげてもいいですけど・・・」
猫田「・・・私の前ではかまわないけど、本人の前で、そんなこと言ったらダメだよ。芥川さんは切れたら、何をするか分からない御仁だからね。」
狸原「フフフッ。そんなこと百も承知しておりますわ。」
二人は大街道を抜け、ロープウェイ商店街の入口まで来た。そこからしばらく東雲通りを歩けば、松山城のロープウェイ・リフト東雲口駅である。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(71)【猫田君の休日編】