霊能探偵・芥川九郎のXファイル(68)【松山の化け猫裁判編】

第1章 松山の化け猫騒動

 霊能探偵・芥川九郎が、松山で霊能探偵をしていた頃の話である。彼は、千舟町の事務所で友人の夏目半兵衛と話していた。千舟町にあると言っても、古びたビルの一室に過ぎないのだが。
夏目「大街道の居酒屋でまた、化け猫が出たらしいよ。」
芥川「例の化け猫騒動か・・・誰も猫の妖怪を見たわけじゃないんだろう?多分、酔っ払いどもの戯言だよ。」
夏目「しかし、君は松山の千舟町で霊能探偵をやっているんだから、見過ごすわけにはいかないんじゃないかな?」
芥川「・・・夏目君に正論を言われたら、返す言葉もないよ。化け猫騒動を調査するために、松山の夜の繁華街をパトロールしないといけないね。」
夏目「夜風が心地よい季節だよ。夜の散策がてら、妖怪調査をするのも悪くないだろう。」
芥川「そうだね。でも、その化け猫、人間に危害を加えるわけじゃないんだろう?」
夏目「暴行・傷害のような犯罪ではないけど、経済的な損害を与えている。いわゆる食い逃げだよ。」
芥川「なるほど。確かに、無銭飲食はれっきとした犯罪だ。」
夏目「そいつは人間に化け、無銭飲食をして逃げる。追い詰められると、猫の姿に戻って人間が通れないような、抜け道に入って姿をくらます。」
芥川「君がご自慢の法術を使えば、一発で簡単に仕留められるだろう。」
夏目「猫は逃げ足が早いからね。二人で協力してやろう。」

第2章 夜の大街道

 その日、芥川と夏目は夜の散策がてら、松山の繁華街をパトロールしていた。
芥川「夏目君と毎日、夜の街をパトロールすることになると思っていたんだけど・・・1週間に数回でいいのかい?」
夏目「化け猫による無銭飲食は、一定の周期で繰り返されている。確率的に、起こるとすれば今日だろう。」
芥川「なるほど。猫にとって、無銭飲食は命をかけた盗み食いだ。腹が減ってどうしようもない時に、犯行に及ぶんだね。」
夏目「僕は事件が起きた日時と場所を記録し、分析したんだ。」
芥川「夏目君は法術の研究・修行で忙しいと思ったら案外、暇人なんだね。」
夏目「暇だからやっているんじゃないよ。これも重要な仕事だからね。」
芥川「松山の夜の街の平和を守るためか。しかし、化け猫も無銭飲食みたいな乱暴なことをしないで、人を化かしてうまいことやればいいのにね。」
 二人がそんな話をしながら歩いていると突然、夏目が立ち止まった。
夏目「芥川君。感じないか?」
芥川「うん。妖気を感じる。近くにいるね。」
その時である。近くの居酒屋から、すごい勢いで男が飛び出した。店内から店員の大声が響いた。
店員「食い逃げだっ!店長!!例の無銭飲食野郎です!」
夏目「芥川君!」
芥川「うん。追いかけよう!」

第3章 化け猫逮捕劇

 二人は全力疾走で食い逃げ男を追いかけた。男は裏道に入り、暗くて人通りの少ない道を選んで、どんどん走っていく。やがて二人は、男を行き止まりの袋小路に追い詰めた。
夏目「そこまでだ!もう逃げられないぞ!!」
夏目は法術で仕留めるために、法印を結んだ。しかし、男は猫の姿に戻り、猫しか通れないような、小さな抜け道へ向かって走り出した。
夏目「ダメだ!!動きが早すぎて、狙いが定まらない!」
 猫が抜け道に入ろうとしたその瞬間、何かに弾かれたように猫の体が宙に浮き、そのまま地面に倒れてしまった。
夏目「結界!?いつの間に・・・芥川君か。」
芥川「うん。そろそろ抜け道にでも逃げるんじゃないかと思って、密かに結界を張っておいた。」
夏目「さすが芥川君だ。今日は完全に、君に一本取られたよ。」
芥川「反省会は後にしよう。こいつをどうしようか?」
夏目「僕が法術でとどめを刺すよ。」
芥川「いや。化け猫にも人権がある。こいつを連れ帰って、事務所で裁判しよう。」
夏目「えっ?・・・こいつを逮捕できたのは君のおかげだから、君の好きにすればいいけど・・・」
こうして芥川と夏目は、気を失った茶トラ猫を事務所に連れ帰った。

第4章 化け猫裁判

 事務所に帰った芥川と夏目はさっそく、人間の姿に化けた茶トラ猫の裁判を開始した。
芥川「被告人・・・夏目君。こいつの名前はなんていうんだい?」
夏目「僕も知らないよ。被告人に直接、聞くしかないだろう。」
芥川「被告人。あなたの名前を教えてください。」
男「私の名前は・・・名前はまだありません。」
芥川「ずっと野良猫だったのかな?まぁ、いいや。とりあえず名前を付けよう。茶トラ猫だから・・・君の名前は猫田虎吉だ。」
猫田「はぁ・・・ありがとうございます。」
芥川「被告人・猫田虎吉は、松山市の夜の繁華街で無銭飲食を繰り返し、多数の居酒屋に損害を与え・・・」
猫田「裁判長!私、お腹が空いていたんです。そうしなければ餓死していました!!」
芥川「ちょっと待ってね。夏目君。検察官の役をお願いするよ。僕が両方やったら頭が混乱して、冷静に判断できない。」
夏目「了解。えーと。被告人・猫田は、多数の居酒屋で無銭飲食を・・・」
猫田「多数ではありません!数軒です。私、お腹が空いて・・・」
 言い訳ばかりの猫田の態度に、芥川がとうとうブチ切れた。彼は立ち上がると、部屋の隅にあった空のビール瓶を持って裁判に戻ってきた。
芥川「まずは『申し訳ありませんでした』だろっ!!このド畜生が!判決は死刑だ!!このビール瓶で即刻、頭カチ割って執行してやる!!!」
猫田「ヒェエーーー!!誰か助けて!!!」

第5章 処刑人・芥川 vs 弁護人・夏目

 夏目は慌てて芥川を止めに入った。
夏目「芥川君!やめるんだ。もう無茶苦茶だよ。無銭飲食で死刑だなんて、そんな判例・・・いや、法律はないよ!君は裁判官の役なんだろう?なんで急に激高して、怒りの処刑人になるんだよ。」
芥川「夏目君。君こそ検察官の役だろう。なんで急に、弁護人になるんだよ。」
夏目「そもそも君が、猫田の人権を守るために裁判すると言い出したんじゃないか。僕も何だか、彼がかわいそうに思えてきたよ。」
芥川「・・・それもそうだ。取り乱して申し訳ない。えーと。裁判はどこまで進んだっけ?」
夏目「確か、被害店舗数だね。猫田は数軒だと主張している。」
芥川「確かに、数件の無銭飲食で死刑は酷である。後は・・・情状酌量の余地とかを検討しようか。」
夏目「猫田君は空腹に耐えかねて、生きるためにやむなく無銭飲食を・・・なんで僕が化け猫なんかの弁護をしているんだろう?」
芥川「仕方ないよ。役者が足りないんだから。後は・・・更生の意思だね。」
夏目「更生って・・・化け猫に、心を入れ替えて真面目に働けとでも言うのかい?」
猫田「申し訳ありませんでした!心を入れ替えて、真面目に働きます!!」
芥川「よし!猫田君は保護観察処分としよう。明日から彼のアルバイトを探そう。」
夏目「・・・うん。もうどうでもいいよ。君の好きにしたらいい。」
 こうして芥川・夏目による化け猫裁判は終結した。化け猫の猫田はアルバイトに勤しみ、芥川の事務所に出入りするようになるのだが・・・それはまた別の話。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(68)【松山の化け猫裁判編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(68)【松山の化け猫裁判編】

「私の名前は・・・名前はまだありません。」 今回は、霊能探偵・芥川の松山時代のお話。 夜の街で無銭飲食を繰り返す「化け猫」を逮捕した芥川と友人・夏目。 事務所で即席裁判を始める二人だったが、言い訳ばかりの化け猫の態度に、「化け猫にも人権がある」と言った本人がブチ切れて・・・ 相変わらず無茶苦茶でお気楽な、妖怪捕物・法廷コメディ第68弾!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-07-12

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  1. 第1章 松山の化け猫騒動
  2. 第2章 夜の大街道
  3. 第3章 化け猫逮捕劇
  4. 第4章 化け猫裁判
  5. 第5章 処刑人・芥川 vs 弁護人・夏目