インタビュア3

間に合いますか

また、私は夕暮れに照らされる道を歩いていた。…一人で。
今日は嫌な日だった。
思い出したくもない。
あの、みんなからの冷たい視線。氷柱を何本も突き刺されているようで、心が酷く怯えた。
あの光景を思い出すと、思わず目を瞑ってしまいたくなるようだった。

私は、どうすればいいんですか?
教えてください、誰でもいいから。

私の居場所は、どこにあるんですか?
ありますよね。絶対、あるはず…ですよね。

そう、信じたいんだ。

みんなに必要とされたい。私が存在している意味って、なんなのか知りたい。
いまだに、わからない。
どうして、この場所にいるんだろう。
いつも、思う。
私だって、みんなと同じ人間で、友達が欲しいんだよ。
ねえ。
誰もいない一人よがりの場所で、呟いてみたけれど、やはり声は届かなくて。

「うっ…」
せきをきったように、涙が溢れ出して、止まらなくなった。
そして後ろにいる女の子たちからひそひそ話が聞こえてくる。
「ねえ、あの人泣いてるの?」
「多分。どうしたんだろ」
「さあ?なんかあったんだよ。それがあたしたちに分かるわけないじゃん」
「まあね。」
後ろにいる子たちとは、けっこうはなれているはずなのに。
私の世界に大音量で声が聞こえてくる。
頭がクラクラして、めまいを起こす。
なんでだろうかな。
別に、悪口を言われているわけじゃないのに。
もうわかんないよ。
みんなの気持ちも、私の気持ちも。
すべて…
すべて、

なくなればいいのに。

もう…いいよ。

これが私の本音。
なのに、なのに心の奥底から鳴いているこの声はなに?

いやだよ、仲良くなりたいよ。楽しく過ごしたいんだよ。みんなと同じようにさぁ。

なんだよ…これは。
こんなの嘘だよ。
こんなのは、虚像なんだよ。
だから、気にしなくていいんだよ。
 でも、そう思えば思うほど、涙が溢れてくるのはなんで?なんでだろう。

わからないよ…。
疲れたよ…。

もう…

おやすみなさい

私の頭の中のごちゃごちゃが、一瞬にして

リセットされた


-それから、十年後。

私は市立の病院に看護師として就任し、立派な社会人になった。
ここまでくるのにすごく大変で何度も泣いたけれど、今こうして社会の一員だ。
人間関係も悪くはなくて、居心地はいいほう。
今日も何事もなく仕事を終え、自宅について、早速休もうと思った。
と、マンションのドアを開けようとしたとき。
郵便受けに、手紙のようなものが挟まっていた。
茶色の封筒だった。
私はそれをとって中に入った。
電気をつけて、かばんを放り投げると早速封を切って中を見てみた。
丁寧に折りたたまれた一枚の紙。
私は中身を見た。
すると、

”同窓会のお知らせ”

一番最初に目に入ってきた文字は、それだった。
読んでいくうちに、内容が分かってきた。
中学3年生の、2-Aの同窓会についてだった。
日にち、時刻、参加者希望の紙があった。
中学3年生か。
なつかしくもあり、もう二度と思い出したくない年。
同窓会は2週間後。
早く出さないと、しめきられてしまう。
”行く”か”行かない”か。
どっちかに○をつければいい話なのに、即座に決められない。
…ほんとうは、行きたいくせに。
どうして見栄をはっちゃうんだろう。
なんで、なにかにつけて行かれないと頭の片隅、思っちゃうんだろう。
久しぶりにみんなに会いたい。
色々あったけど、10年ぶりにみんなと再会したい。
 私は結局、”行く”に○をつけたのだった。


-翌朝。
今日は休みの日だったけど、あんまり遅くまで寝ている気分ではなかったので、珍しく早起きしてみた。
そして、コートをはおると、近くの簡易郵便局に向かった。
参加者希望の紙を出しに行くため。
 
再び家に戻ると、私は何気なく中学のころのアルバムを開けてみた。
同窓会の影響もあるだろうか、勝手に手が伸びる。
最初に、2-A組のみんなの顔写真が載っているページを開けた。
みんな、笑顔だ。
それに、いい笑顔。
私は自分の写真を探してみた。
それはすぐに見つかった。
「あ…」
笑っていた。
私も。
さすがに満面の笑みとまではいかないが、かすかに前歯が見える程度に口を開けて、笑っていた。
なんか、嬉しくなった。自然と笑顔が浮かぶ。
みんなのこういう笑顔を見ていると、こっちまで嬉しくなる。
次に、体育祭、文化祭、スキー授業の時先生が撮っていた写真がかわいく編集されて貼られていた。
さらに次のページ。
ここのページは、一面修学旅行の写真でびっちりだった。
「修学旅行かあ…」
思わず口ずさむ。
修学旅行。
いやでいやで仕方なかった修学旅行。
でも、行って見たら案外そうでもなくて。
まぁ、みんなからは一目置かれてたけど(悪い意味で)。
とにかく色々ありました。
一通り見てパタンとアルバムを閉じた。

私はベッドに寝転び、お気に入りのウォークマンを手に取り、好きな音楽を再生した。
”かけがえのない命だと”
十年前から聞いている、大好きな曲。
でも、これは今だに途中が途切れるまま。
でも私は仕方ないと思ってそのまま放っておいている。
この、せつなくさせるメロディはなんとも言えずいい。
にしてもこのウォークマン、壊れなかったな。



~2週間後~

私は早めに仕事を切り上げると、まだ時間はあったが急いで日本料理店、”風鈴”に車を走らせた。
同窓会は午後4時から。今は3時。まだまだ時間はあった。
だけどみんなを待たせなくなかったし、早くみんなに会いたいという気持ちが私の中であふれ出ていた。
理由は、1つ。
なにかが変わるかもしれないから。
みんなと会って、いろんなことを話して、打ち解けたい。

しばらくして、風鈴に着くと、車を駐車場に止め、中に入った。
清潔感のある檜の壁などが電気に照らされて、全体的に明るい。
するとここのスタッフらしき人が出てきて、私が同窓会なんですけどと言うと、営業スマイルで案内してくれた。
「どうぞ」
そっと襖を開けて、私を中にうながす。
そこには。
「あっ、斉藤じゃん。久しぶりー」
「うっ、うん、久しぶり、青山くん。…あっ、それに高田さんも」
「よっ」
小さく手を上げ笑う。
まだ時間が早かったのか、私含め3人しか来ていなかった。
それでも、私は満足だった。


やがて、ほぼ全員そろった。
そして、
「かんぱーい!」
一斉にグラスを上げてカシャンという音を立てて騒がしくなる。
仲の良かった人どうし、他愛もない話で盛り上がっている。
でも、私はまたー。
「ねえ斉藤さん」
「…え?」
隣にいた女の人が話しかけてくれる。
確か、この人…
修学旅行の班決めのときに催促した人だ…。
「あなたの話、聞かせてくれないかな?」
「え、あ、うん。でも…いいの?」
言ってからしまったと後悔した。こんなことを聞いたら相手は驚くだろう。
ほら、不思議そうな顔をしてる。
「へんなの。私が聞きたいだけだよ」
それ、本当?
本当…なのかな。
聞きたい。
相手からそう言われたのは、何年ぶりだろう。
ずっと、期待していた言葉。
「え、えっと…じゃあ、質問してもいい?」
「うん」
「じゃあ…」
何にしよう。
どうしよう。
…あ…。
そうだ。
「好きな音楽って、何?」
「私はね、ボカロの”インタビュア”って曲。あれ、めっちゃ泣けるの」
「え…」
私は唖然とした。
だって、私と全く同じ。
「あなたは?」
「わ、私も!」
「え!本当?わー嬉しー!」
「うん!」
そして、私はあれを聞いてみようと思った。
「ねえ、インタビュアの、景色の向こう側がにじんで…ってとこあるでしょ?あの続き、教えて?」
「え?…うん」
私は心して、相手の言葉を待った。
「”好きな音楽はなんですか?好きな食べ物はなんですか?君の好きな人は誰ですか?きっとそれは僕じゃないんだとか自分勝手に諦めては独りよがりで傷ついてた年をとってやっと気ずきましたねえ、まだ間にあいますか”」

…え…。

これって…

相手から、質問を受けているってこと?

…今の自分。

それが、この歌と重なっている。

やっと…やっと…

分かりました。

ねえー

まだ、

間に合いますか?

インタビュア3

インタビュア3

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-06

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