霊能探偵・芥川九郎のXファイル(61)【夏目半兵衛編】
第1章 夏目半兵衛
霊能探偵・芥川九郎は、事務所で友人の牧田と話していた。彼の事務所は中区にあって立地はよいが、古びたビルの一室に過ぎない。
牧田「今日は、君の古い友人が来るんだろう?」
芥川「そうなんだよ。名前は夏目半兵衛。彼は一流の法術使いだ。今は滋賀に住んでいるそうだ。」
牧田「滋賀の術師・夏目先生か。芥川君はその夏目氏と、どこで知り合ったんだい?」
芥川「松山時代だよ。当時、僕はまだ未熟な霊能探偵だった。夏目君も若かったけど、すでに一流の法術使いとして頭角を現していた。」
牧田「芥川君よりも強力な法術を使うのかい?」
芥川「うん。僕は霊能力者の間では、三流・・・せいぜい二流扱いされている。僕は、霊能学会、魔法学会、妖怪学会・・・いろいろな学会に入って、多種多様な能力を独自に研究してきた。しかし、彼らに言わせれば、それこそ僕が一流になれない理由なんだとさ。」
牧田「なるほど。日本人はなぜか一意専心、一つのことを究めることを美徳として尊ぶからね。」
芥川「職人気質とか匠の精神とか、そういう心がいろいろな分野で、日本人の美徳として語られがちだよね。」
牧田「法術を究められた夏目先生が、わざわざ滋賀から名古屋まで、何の用事で来るんだい?」
芥川「さぁ?久しぶりに会いたい、ついでに名古屋観光もしたい、とのことだよ。」
第2章 松山での修行時代
しばらくすると、夏目半兵衛が事務所にやって来た。
夏目「こんにちは。芥川君、久しぶりだね!君は変わらないねぇ。」
芥川「こんにちは。本当に久しぶりだね。こちらは友人の牧田君。」
牧田「はじめまして。牧田と申します。夏目先生、よろしくお願いします。」
夏目「はじめまして。芥川君から牧田さんのこと、かねがね伺っております。こちらこそよろしくお願いします。」
芥川「とりあえず座って、ゆっくり話そう。」
牧田「今、コーヒーを入れるよ。」
こうして三人は、コーヒーを飲みながら会話を始めた。
夏目「ここへ来る途中、鎧の妖怪と化けアライグマに会ったよ。本当に、君が使役しているのかい?」
芥川「あぁ、能年君と御手洗君か。使役しているつもりはないんだけど・・・まぁ、過去にいろいろあったんだよ。」
鎧の妖怪・能年は芥川の助手で、彼の事務所に住み込みで働いている。化けアライグマ・御手洗は、猪高緑地で芥川と牧田によって捕獲・保護されたという経緯がある。
牧田は話題を変えた。
牧田「夏目先生は松山時代に、未熟だった芥川君を強力な法術でサポートしていたとお聞きしました。」
夏目「いえいえ。私の方が逆に、彼によく助けてもらいました。彼は万能の霊能探偵ですからね。」
芥川「夏目君も相変わらずだね。心にもないお世辞はやめてくれよ。」
牧田「夏目先生は今、滋賀にいるんですよね。もともと滋賀のご出身なんですか?」
夏目「いえ。出身は京都です。駆け出しの法術師として、松山で修行中に芥川君と出会ったんです。」
第3章 スネークヘッド(蛇道)
芥川はコーヒーを一口飲んでから、話題を変えて質問した。
芥川「それで滋賀の法術師・夏目先生は今回、何の用事ではるばる名古屋までお見えになったんだい?」
夏目もコーヒーを一口飲んでから、不敵な笑みを浮かべながら回答した。
夏目「芥川君も探偵稼業が随分、板についているね。でも、特別な理由なんてないですよ。本当に、旧交を温めに来ただけです。ついでに名古屋観光もしたかったしね。」
芥川「最近、僕はスネークヘッドに加入したんだ。一応、聞くけど、君も加入しないかい?」
夏目「ハハハッ。君がスネークヘッドに入会したという噂は、本当だったんだね。僕は遠慮しておくよ。スネークヘッドには入会しません。」
スネークヘッド(蛇道)は、東京の霊能力者・バーニング大谷が立ち上げた異種能力者団体である。その目的は、既得権益やしがらみで不自由な既存団体の改革だ。
芥川「一応、聞いてみただけだよ。僕には声をかけてくれなかったと、すねられても困るからね。」
夏目「僕は君と違って、法術一本槍の男です。逆に大谷さんは、霊能学会や魔法学会など、いろいろな分野における能力者の知見を総合しようという野心をお持ちなのでしょう。」
第4章 小室博士の亡霊
芥川は夏目の真似をして、不敵な笑みを浮かべながら言った。
芥川「夏目君は、名古屋で僕に会った後に、東京へ行くつもりなんだろう?大谷代表に会いに行くのかな・・・それとも小室博士かい?」
夏目「・・・正直に言うよ。関西の長老たちが心配しているんですよ。大谷さんはともかく、小室博士に感化された無鉄砲な無法者が、また何かやらかしはしないかと・・・」
芥川「無鉄砲な無法者というのは僕のことかい?人を夏目漱石の『坊っちゃん』扱いするのはやめてほしいなぁ。あれから時が経ち、お互いもう30代なんだから。」
夏目「いくら年を取っても、性格はそうそう変わらないからね。」
芥川「老害どもは、普通に接すれば不遜で生意気だと憤慨し、丁寧に接すれば慇懃無礼だと憤慨する。本当に始末が悪い。」
夏目「まぁまぁ。僕は君に他意はないことを理解しているよ。形ばかりの情報収集さ。」
夏目はそんな話をした後に、お土産の滋賀銘菓・埋れ木を置いて事務所を去っていった。
牧田「上品な雰囲気の人だと思ったら、京都出身なんだね。」
芥川「彼は法術だけでなく、書道や茶道にも通じている数寄者なんだよ。」
牧田「僕は後半、口をはさめなかったけど・・・君は小室博士という人に感化されて、松山時代に何かやらかしたのかい?」
芥川「やらかしたって・・・そんな大した話ではないよ。」
芥川は銘菓・埋れ木の包装を解きながら、そうつぶやいた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(61)【夏目半兵衛編】