霊能探偵・芥川九郎のXファイル(48)【道後の便天様編】
第1章 特急しおかぜ
霊能探偵・芥川九郎は、特急しおかぜに乗っていた。彼は車両の中で、隣の座席に座る友人の牧田と話していた。
牧田「芥川君とまた、こうして鉄道旅行をすることになるとは思わなかったよ。」
芥川「僕もだよ。道後温泉を旅行している父から、急に連絡が来てね。『交通費や宿泊費は私が負担するから、今からお前も来い』と言うんだよ。」
牧田「さすが龍山先生だ。豪快な人だね。」
芥川の父・二階堂龍山は、名古屋の経済界における重鎮だ。名古屋で飲食チェーンを率いる剛腕社長だったが、数年前に引退した。今は、各地で講演をしたり、テレビやラジオにコメンテーターとして出演したり、地元新聞に経済人として寄稿したりしている。
芥川「道後温泉で奇妙な体験をしたから、霊能探偵として来てほしいと言うんだよ。」
牧田「道後温泉で一体、何があったんだろうね?」
芥川「大した事件ではないらしいけどね。霊感がある人間には見えるけど、ない人間には見えないモノを見たらしい。」
牧田「道後をさまよう、恐ろしい悪霊でも見たのかな?」
芥川「さぁ。悪霊みたいな恐ろしいモノではないと言っていたよ。何にせよ、父は多分、道後の一人旅に飽きて、誰か友人・知人を呼びたかったんだろう。」
牧田「僕も『君も一緒に来なさい』と言われて、びっくりしたよ。」
芥川「牧田君は父に気に入られているからね。」
第2章 松山銀天街
名古屋駅から岡山駅までは山陽新幹線、岡山駅から松山駅までは特急しおかぜに乗り、芥川と牧田は半日がかりで松山駅に到着した。二人は松山駅から伊予鉄道の路面電車に乗り、松山市駅で下車した。
牧田「芥川君、道後温泉に直行しなくていいのかい?」
芥川「そんな急ぐことはないよ。久しぶりに松山に来たから、銀天街をブラブラ歩きたかったんだ。」
松山銀天街は、松山市の中心部にある屋根付きのアーケード商店街である。西端のいよてつ髙島屋から、大街道商店街に向かってL字型に伸びている。
牧田「なかなかいい雰囲気の商店街だね。」
芥川「うん。なつかしいなぁ。ここを歩いていると、昔を思い出すよ。」
牧田「芥川君は、松山で暮らしていた時期があるんだったね。」
芥川「まぁね。さぁ、いつまでも感傷に浸っていてもしょうがない。そろそろ道後温泉に向かおう。」
牧田「路面電車の大街道停留場で、道後温泉行きに乗ればいいんだね。」
芥川「時間が合えば、坊っちゃん列車に乗れるかもしれないね。」
牧田「坊っちゃん列車・・・」
牧田はスマホで坊っちゃん列車を調べた。
牧田「へぇー。レトロな感じの列車だね。」
芥川「せっかく観光で来たんだから、乗れるといいんだけど・・・」
二人は銀天街から大街道を抜け、路面電車の停留場にたどり着いた。坊っちゃん列車ではないが、ちょうど道後温泉行きの路面電車が到着する時間だった。
芥川「ちょうど電車が来たよ。あれに乗っていこう。」
牧田「運がいいね。坊っちゃん列車じゃなくて残念だけど。」
芥川「ハハハッ。どうしても乗りたければ、後で乗ればいいさ。」
第3章 道後温泉
二人は道後温泉行きの路面電車に乗り込んだ。しばらくすると電車は道後温泉駅に着いた。
牧田「龍山先生はどこにいるんだろう?」
芥川「あそこにいるよ。大体の到着時間を伝えておいたからね。」
龍山はペットボトルのコーラを飲みながら歩いてきた。
龍山「九郎。ようやく着いたか。」
芥川「うん。ちょっと銀天街を散策してきたんだ。」
牧田「龍山先生、こんにちは。お呼びいただき、ありがとうございます。」
龍山「牧田君もよく来てくれた。ゆっくり楽しんでいきなさい。」
芥川「道後温泉の奇妙な霊はまだいるのかな?」
龍山「これから三人で道後温泉に行くぞ。自分の目で確かめなさい。」
こうして三人は、道後温泉に入ることとなった。三人は服を脱ぎ、裸にタオルだけ持って浴場に入った。それぞれ体を洗ってから、湯船に浸かった。
牧田「ふぅー。気持ちいいねぇ。」
芥川「旅の疲れが取れるよ。」
龍山「・・・・・・」
浴槽の奥にある湯口から源泉かけ流しの湯が豪快に、滝のようにドバドバと浴槽へ落下している。
牧田「アレは・・・」
なんと、浴槽の真ん中には、中腰で立ち、浴槽へドバドバ落ちる滝にお尻を向け、その湯を直接肛門に当てている老人がいた。
龍山「牧田君にも見えるか。」
牧田「アレが例の悪霊ですか?」
芥川「悪霊ではないけど、何かの霊だね。見える人には見えるけど、見えない人には見えない。なるほど。お父さんはアレを僕に見せたかったのか。」
第4章 便天様
浴槽の真ん中で、ドバドバ落ちる湯で直接肛門を洗う老人・・・ほとんどの人は見えないようで、平気な顔をして湯船に浸かっている。見えている人は、不愉快そうな顔をしている。
龍山「九郎。アレは何の霊なんだ。」
芥川「よく分からないけど、風呂から出た後にアレを尾行してみようか。」
牧田「そうだね。まずアレの正体を確認しよう。」
三人は風呂から上がり、冷たい飲み物を飲みながら老人の霊を待った。芥川はコーヒー牛乳、牧田はみかんジュース、龍山はソーダを飲んだ。やがて、老人の霊も風呂から上がり、道後の道をフラフラと歩き出した。
芥川「さぁ、行こうか。」
牧田「うん。」
龍山「うむ!」
三人は謎の老人を尾行した。老人は道路をズンズンと歩いていき、やがて煙のように姿を消してしまった。
龍山「しまった・・・気付かれてまかれたか。」
芥川「いや。ここが老人の住処のようだ。」
道の脇には小さな祠があった。
牧田「便財天・・・の祠かな?」
龍山「なんと!あの老人の正体は便天様だったのか!」
芥川「便天様のありがたい湯に浸かり、みんな運気が向上したんじゃないかな。」
三人は祠に向かって手を合わせ、お参りした。
龍山「九郎と牧田君のおかげで奇妙な謎が解けた。今日は私がおごるから、三人で飲もうじゃないか。」
牧田「ありがとうございます!ごちそうになります。」
芥川「うん。ありがとう・・・・・・」
芥川は小さなみすぼらしい祠を見つめながら、不思議な感傷に浸っていた。
霊能探偵・芥川九郎のXファイル(48)【道後の便天様編】