夏の短歌
水草の緑流るる六月の水路のわきにチャリを漕ぎつつ
帰り来て同じ目線の犬と会い老婆は叫ぶあじさいの道
共通の関心事はカネとメシ明日食えないわけじゃないけど
花びらをプロペラにしてあじさいは今日のみ空に散って晴れ色
しののめのうぐひすの鳴く声聞けばつゆの空こそ晴れ渡りけれ
空色のベンチのわれは鳴き龍のお堂と過ぎし刻を眺める
夕焼けや泣き腫らしたる頬の色 散文詩など誰も読まない
俯けば夏の西日に蟻の影 この身ひとつで生きてゆけたら
この手にはいつ咲いたのか毒の花 蟻一匹も殺せない毒
***
ひとさじのゼリーがやっと運ばれる開いたままの口が動いて
無呼吸を伝える機械の音だって八十九年が鳴らす生命だ
無呼吸を伝える機械の音でさえ止んだ病室主人なくして
***
生ごみのたい肥から出た芽を登りダンゴムシ征け冒険の旅へ
猛暑日を過ごした町は夜を待つ少女の眉のような夕焼け
灼熱のアスファルトの上愛し合うみみずの番まだ濡れている
蟻も巣に帰る夕暮れ夏終わる今年も海に行かなかったな
夏の短歌