2026.6.20
「何舐めてるの?美味しいのそれ?」
男は別に、少しでも気が紛れるかなと思ってと淡々とした口調で返した。ねえ口開けてよ、と言ったら何も言わず口を開ける素直さは持ち合わせているのに。男の口に指を突っ込んで飴玉を取る、わざわざ取りやすいように舌の上に乗せるような配慮までしてきて、気持ち悪い。まあ、でも口開けろって言われてるんだから何しようとしてるかぐらいは分かるか。と勝手に納得し、取った飴を自分の口の中へ放り込む。最初僅かに男の甘みを感じただけで何も感じない、私の味覚がおかしくなったのかとコロナに罹った時のことを思い出して急に不安になってくる。「ねえこれ何味?何の味もしないんだけど」そう聞くと味なんてないよ、無味。そう言った男の顔を反射的にぶん殴り、倒れこんだ男の口目掛けて何発か殴った後、口の中に飴玉を捩じ込む。ほら、しっかり舐めてと私に言われるがまま飴を舐めるこの男を見てるとすべての不安が消えるようだった。できた?と聞くと頷き口を開け私の方へ舌で飴を突き出す。透明だった飴は男の唾液と血が混ざった液体が赤くうっすら纏わりついていたけれどでもまだ足りない。飴を指で掴んだ後そのまま口の中に突っ込んでいく、むせたり噛んだら殺すからねと言われても抵抗するわけでもなく黙って私を受け入れていた。男の表情を見ながら切って血の出ているであろう箇所を探していると、一瞬顔を歪めたのでその部分に擦りつける。ちゃんと付いたかなと男の口から指と飴玉を出すと、そこにはさっきまでとは違ってちゃんと赤く染まった指と飴玉があった。流石に辛かったのか咳き込んで血を吐く男を尻目にそのまま私の口へ戻す。あぁ、これだ。私が欲しかったのは。やわらかな甘さと鉄の味が混ざった最高に不愉快な味。嬉しそうに飴を舐める私を見て男が気持ち悪くないの?と聞いてくる。気持ち悪いのはお前だから余計なこと言ってくんじゃねえよと思いながら、「ねえそれちゃんと拭いておいてよね。」とだけ言う。それを聞いて男は黙って立ち上がるとシンクで口を濯ぐような音が聞こえた後、戻ってきて床に飛び散った血を拭く男の姿を眺めつつ再び味のしない飴に戻っていくことへ一抹の淋しさのようなものを感じながらも私は多幸感に包まれていた。
2026.6.20