針鼠じいさん
多産系なのだよ
フクロウが一匹のネズミをくわえて、森の木の洞穴にもどってきた。
「やっと、今日のおまんまにありつけたわい」
フクロウは、ネズミを洞穴の中にはなすと、丸い目をネズミに向けた。
ネズミは、くじいてしまった片足をかばいながら言った。
「ねーフクロウのだんな、あんたは森一番の物知りだ」
フクロウはネズミをにらみつけた。
「おれは自分のおまんまがしゃべるのはがまんできないんだ」
だけどネズミはつづけたね。
「ねーフクロウのだんな、ネズミ算ていうのをごぞんじで」
フクロウの目が金色に光った。
「二匹から十二匹、またそれぞれ十二匹生まれて、えーといくつだ」
「まったくうるさいおまんまだ」
フクロウがくちばしをすっとのばした。
その時、ネズミはあわてず言ったさ。
「ねえフクロウのだんな、いい嫁さんをせわしてくださいな、そうすりゃ、おまんまがいっぺんに十二匹にふえますぜ、なにせネズミは子だくさんなんで」
それを聞いたフクロウは、くちばしを引っこめた。
「ネズミも多産系かい」
そう言い残すとフクロウは、洞穴から飛んでいった。
まもなくもどってくると、一匹の雌のネズミを、ぽいと洞穴の中に落とした。
「なんとものわかりのいいフクロウのだんなだ」
二匹のネズミは、フクロウの毛を集め、洞穴の奥に巣を作った。
いく日かたち、子どもが五匹生まれた。
子どもたちはみんな雄だった。
父親になったネズミは、やがて大きくなった子どもたちに言った。
「いいかい、フクロウが来たら、嫁さんがほしいと言うのだよ、そうすれば、すぐにたくさんになりますよ、と言うのだよ」
フクロウが洞穴にやってきた。
子どもたちは声をそろえて言った。
「嫁さんがほしい」
フクロウは、
「ふん、そうすりゃ、たくさんになるっていうんだろう、だけど、たったの五匹かい、 十二匹になるのじゃなかったのかい」
そう言い終えて、飛びたった。
そして、ちょっと時間がかかったが、五匹の雌ネズミをつかまえてきた。
「さすがはフクロウのだんなだ」
ネズミたちは巣を作った。
またいく日か過ぎた。
子どもたちにそれぞれ五匹の子どもができた。
みんな雌だった。
こうして最初に連れてこられたネズミはじいさんになった。
おまけに、じいさんにも子どもが五匹生れた。それもみんな雌だった。
さて、孫たちが大きくなると、じいさんネズミは言った。
「孫たちや、フクロウがやってきたら、婿さんがほしいというのだよ、婿さんを連れてきてくれたら、たくさんの子どもを産んであげます、と言うんだよ」
フクロウがやって来た。
孫ネズミたちはフクロウに言った。
「婿さんがほしい」
するとフクロウは、
「なんだ、またか、まだこれだけか」
そう言いながらも、つぎつぎとネズミをくわえてきた。
「さすがだわ、フクロウのだんなさん」
孫ネズミたちは巣づくりをした。
またまたいく日かたった。
孫ネズミに子どもが生まれた。
子どものネズミにも子どもが生まれた。
じいさんネズミにも子どもが生まれた。
じいさんネズミは大いによろこんだ。
みんなそろって大きくなると、じいさんネズミは家族を集めて言った。
「いいかい、子どもたち、孫たち、ひ孫たち、フクロウはたったの一羽、われわれは数えきれないほどいるのじゃよ、そろそろ食べられてもよかろう」
フクロウへの挑戦だった。
子どもや、孫や、ひ孫たちも、いせいよく尾っぽを立てた。
「そうしよう、そうしよう、フクロウに食べられてやろうじゃないか」
それを見てじいさんネズミは一人でうなずいた。
「これなら大丈夫じゃ」
森が朝焼けにそまるころ、フクロウがやってきた。
じいさんネズミは言った。
「フクロウのだんな、約束したとおり、こんなにたくさんになりましたよ、食べて下さいよ、お待たせしましたね」
それを聞くと、フクロウは金色の目を輝かせた。
「おや、そうかい」
洞穴の中におりてきたフクロウは周りを見回した。
じいさんネズミがフクロウの前に進むと、子どもがじいさんネズミをとりかこんだ。次に、孫たちがとりまき、ひ孫たちがとりかこんだ。
ばあさんネズミは奥にかくれていた。
フクロウは、集まったネズミたちを見て目を丸くした。
「これだけかね、百匹はいるのかね」
じいさんネズミはうなずいた。
「もちろん、いますぜ、フクロウのだんな、どうです、おめしあがりのほどを」
子どものネズミたちもフクロウを見あげて気勢をあげた。
「食べて下さいよ」
孫ネズミたちもふんぞり返った。
「食べろよ」
ひ孫ネズミたちは笑った。
「喰ってみろ」
みんな一緒に大声をあげた。
「どうぞ」
その声は森の中に響きわたった。
すると、隣の木の大きな洞穴から、フクロウのかみさんが顔を出した。
「あんた、今行くからね」
かみさんは何十羽もの子どもをひき連れて飛んできた。
「ほら、父ちゃんがふやしたネズミだよ、お腹いっぱいお食べ」
そう言い終わらないうちに、フクロウの子どもたちは大きな目をくりくりさせて、びっくりしているネズミたちをみんなついばんでしまった。
フクロウのだんなは、ばあさんネズミがいるのに気がついた。
だけど、かみさんが走っていって食っちまった。
「なんてこった」
一匹も食べることのできなかったフクロウのだんなは、ため息をついた。
「うちも多産系なんだ」
ほどほどに食べなさいよ
朝早く、一匹の青いヘビが池のふちでぐったりとしていた。
池の中からフナが顔をだした。
「どうしたんだい」
ヘビは、鎌首をもたげることもなく、うつむいたまま答えた。
「腹がへって、腹がへって」
フナは不思議そうな顔をした。
「このあたりにゃ、虫やカエルがいっぱいいるのになあ」
「いたにはいたが、ごらんのとおり、もぬけのからさ」
「どじだね、気づかれちまったのか」
ヘビのお腹がきゅーっとなった。
ヘビがフナを見つめて言った。
「うまそうだな」
フナはぎょっとして、水にもぐった。
しばらくすると、フナがふたたび顔をだした。
「水草は食わないかい」
「食ったことはないが、食えるならなんでもいい」
ヘビは首(こうべ)をたれたまま答えた。
フナが池底から水草をくわえてきた。
「ほら、キンギョ藻さ」
ヘビの前に水草をほうり投げた。
ヘビは首を伸ばして、ぱくりとそいつを飲みこんだ。
そのとたん、「げえーっ」と、顔をしかめて吐き出した。
「せっかくだが、こいつぁだめだよ」
ヘビはめまいにおそわれ、とうとう草叢に転がってしまった。
フナはそれを見ると、小声で言った。
「そんなに、腹がへっているのならしょうがない、うまいものをおしえてやろうか」
魚とは好みがこんなにも違うんだ、しかし、背に腹はかえられない、そう思ったヘビは首をもたげて、
「教えろよ」と、力なくたのんだ。
フナはしかたがないかという顔をした。
「ほれ、あんたの脇にある、だがな、食べたらどうなることやら」
ヘビはあわてて脇を見た。緑色の肉がふらふらと動いている。
「匂わないね」
ヘビが鼻の穴をふくらました。
フナが即座に答えた。
「慣れちまったのさ」
ヘビは草の匂いに包まれていることだと思い、少しばかりそいつに食いついた。
「うまい」、思わずヘビはさけんだ。
フナは横目で見ながら言った。
「そうだろう、でもほどほどに食べなさいよ」
そういい終えると、池の中にもぐっていった。
その肉のうまいこと、今まで食べたものの中で一番おいしいものであった。
ヘビはよほど空腹だったのだ、あっという間に肉のかたまりはなくなった。
「うまかった」
コロンと転がったヘビの頭はため息をついた。
池からカエルが飛び出した。そいつはヘビの頭をつっついた。
ヘビの頭はころりと転がり、ぽちゃんと池の中に落ちた。
ヘビの頭がゆらゆらとしずんでいく。
池の底からフナの声がした。
「ほら、言ったこっちゃない」
フナの子どもたちがヘビの頭に寄ってきた。
またフナの声が聞こえた。
「ほどほどに食べなさいよ」
ヘビの頭はあっという間に骨になっちまった。
まけおしみじゃないよ
夏の日の夕方、牧場の片隅で、ニワトリたちがさわいでいた。
「あたしが、また一等賞だからね」
そう言って、一羽のメンドリが片足をあげた。
「なーに、わしにきまっとる」
大きなオンドリがトサカをとがらせた。
夕日が山の中腹にかかった。
じいさん鳥が声をはりあげた。
「虫の追い出し競走をはじめるぞ、よく聞けよ、虫っころを追い出すのは、足で地面をトントンとたたくだけじゃ、くちばしでほじくったり、爪で地面をひっかくのもいかんよ、地面はどこをたたいてもかまわん」
じいさんの説明がおわると、ニワトリたちはまたざわついた。
「ここのところ、雨がないから、虫んこたちは、土の深くにいっちまってるな」
「ああ、いい場所さがさにゃ、あまりとれんね」
「それがうでってものさ」
じいさん鳥がまた大きな声を上げた。
「そろそろ始めようじゃないか、ヤギの親方がメイメイメイと五回鳴くまでに、一番多くの虫を追い出した者が優勝じゃ」
じいさん鳥がヤギの声をまねた。
「はじメエー」
ニワトリたちは草原に散っていった。
思い思いの場所を陣取ったニワトリたちは、ひょっこひょっこと、地面の上を跳ねはじめた。
去年優勝したメンドリは、地面を三回たたくたびに一匹のミミズを追い出した。
二等賞だったオンドリは、四回半たたくたびに一匹のミミズを追い出した。
でもオンドリのほうがたくさん跳ねている。
やがて、ヤギがメエーと鳴いた。
じいさん鳥がどなった。
「あと四回メエーじゃ」
「あたしゃ、もうこんなに追い出したよ」
メンドリは、ぴこぴこ跳ねながらオンドリに言った。
メンドリの足元にミミズが山になってうようよしている。
オンドリは、メンドリを横目で見ながら、何も言わずに跳ねている。
ヤギがメエーと鳴き、すぐにメエーと三回目を鳴いてしまった。
「あと二回メエーじゃよ」
じいさん鳥がみんなに知らせた。
しばらくすると、ヤギが四回目を鳴いた。
それからだいぶ時間がたった。
ニワトリたちは疲れてきた。
夕日が山の谷合いにほんのちょっと顔をだしているだけだ。
去年優勝したメンドリが言った。
「このあたりの虫たちはみんな出ちまったよ」
「ヤギのおやじはなかなか鳴かないね」
ほとんどのニワトリたちは、ミミズに囲まれてへたばっている。
元気なオンドリだけが、ぴょこぴょこと跳ねている。
飛び跳ねるのを止めたメンドリが、じいさん鳥に声をかけた。
「じいさん、ヤギのやつ寝ちまったのではないかね」
見るとヤギはあくびをしている。
「ルールにゃ無いが、しかたがないじゃろー」
じいさん鳥は、ヤギにちかよると、ヒゲを思いきり引っぱった。
するとヤギは、「メエエエエメエ」と、たて続けに鳴いてしまった。
「まあいいじゃろう、やめだやめだ」
じいさん鳥は、声高らかに虫追い出し競争の終わりをつげた。
ニワトリたちは大欠伸。
じいさん鳥が虫を数えた。
去年優勝したメンドリは六十三匹、大きなオンドリは六十匹だった。
またメンドリが優勝した。
木でできたエサ箱はメンドリのものとなった。
夕日が谷合いに隠れようとしている。
そこへ見なれない茶色の鳥がやってきた。
じいさん鳥が気がついて、「おまえさんはなんだい」と、声をかけた。
見なれない鳥は返事をした。
「キウイだ」と答えた。
「なんだって?」
「キウイだ」
「あたしゃキュウリと聞こえたよ、おもしろい鳥だね、お前さん飛べるかい」
メンドリが聞くと、キウイは首を横にふった。
「それじゃあたしたちと同じだね、虫を追い出したことがあるかい」
「ああ、あるよ、さっきから見ていた」
そして、
「おいらだったら、もっとうまくやるね」と、付け加えた。
メンドリは、
「おや自信だね、意外とむずかしいんだよ」
と、笑って、
「どうだい、やってごらんよ」
そう言っちまった。
「そうだな」
キウイはかたい地面の上にたった。
「そのあたりは、もうたたいちまってミミズはいないよ」
じいさん鳥が言ったが、キウイは何も言わずに跳ねはじめた。
ニワトリたちはキウイをとりまいた。
キウイはリズミカルに、ゆっくりトントンと跳ねた。
すると、ミミズよりもっと深くにいたオケラが、ぴょこぴょことび出した。
キウイの周りはオケラだらけになった。
見たこともないような太った虫までがでてきた。
「うまそう」
見ていたニワトリたちのお腹がなった。
「みなさんどうぞ」
キウイが跳ねながら声をかけた。
ニワトリたちは、こぞってキウイのたたきだした虫たちをついばんだ。
「おいしい虫だこと」
メンドリもオンドリも虫をつついた。
キウイはもう一度、大きく飛びあがって、ドスンと地面に落ちた。
そのひょうしに、ぼっこり土がもりあがり、モグラが顔をだした。
「ほらでた」
キウイがモグラを突っつこうとした。
モグラは大あわて、穴の中に引っ込んだ。
メンドリはつぶやいた。「足が大きいからだろ」
オンドリは虫をたくさんたたきだしたメンドリの足を見た。
自分の足より大きいじゃないか。
でも、こう言った。
「まけおしみは言わないこった」
メンドリはいきまいた。
「まけおしみじゃないよ」
キウイはそれを聞くと、自分の足をメンドリの前に出した。
メンドリの足より、ずっとちいさかった。
ただのくせなんだ
アライグマが畑でサツマイモを掘っていた。
通りかかったタヌキが声をかけた。
「うまそうだな」
アライグマはふり向きもしないで答えた。
「食べごろさ」
「おいらも一つ」
タヌキも畑でサツマイモを掘った。
やがて、サツマイモをかかえた二匹は、森のすみかにもどっていった。
せせらぎのところに来ると、アライグマはサツマイモを流れに浸して、ごしごし洗いだした。
「どうして洗うんだい」タヌキが聞いた。
「洗いたいんだ」
それを聞くと、タヌキは、
「そんなことしちゃ、味がおちちまうだろう」
そう言って、サツマイモを葉っぱでささっとふいた。
「こうやって食うのがうまいんだ」
ぼりぼりかじった。
それから三日たって、タヌキの腹の中で、土についていた回虫の卵がかえっちまった。回虫の子どもは大暴れをして、どんどん大きくなった。
おかげで、タヌキはにがい虫下しを、いやというほど飲まなければならなかった。
「ほらごらん」
アライグマはそれを聞いて一人でうなずいた。
ある日、アライグマが森の中を散歩していると、真っ赤なキノコが一面にはえているところにでた。
そこでは、ウサギがせっせと赤いキノコを採っていた。
「たんとはえたね」
アライグマも赤いキノコを採った。
やがて、赤いキノコをどっさりかかえた二匹はせせらぎにやって来た。
二匹は岩に腰かけてキノコを食べることにした。
アライグマが言った。
「洗って食べよう」
アライグマは、キノコをもってせせらぎに降りていった。
ウサギはアライグマがキノコを洗っているのをみながら、そのままキノコをかじり始めた。
「おいしいよ、早くお食べよ」
採りたてのキノコはなかなかいい味だった。
ところが、ほんの半時もすると、ウサギは、赤い目をもっと赤くして苦しみだした。
アライグマが医者のフクロウを呼んだ。
ところがフクロウが来た時には、ウサギの目は白くなって息たえていた。
「毒キノコにあたりおった」
坊さんもかねるフクロウは、ウサギをねんごろにとむらった。
毒キノコを食べたのにもかかわらず、アライグマはぴんぴんしていた。
「キノコの毒が川の水にとけて助かったんじゃ」
フクロウが言った。
アライグマはやっぱりとうなずいた。
またある日、都会のネズミがアライグマに会いにきた。
「久しぶりだね。きれい好きのアライグマ君」
ネズミはそう言って、都会のみやげをわたした。
「これはね、森にはないとてもおいしいものさ」
アライグマは大喜びでうけとると、いっしょにせせらぎにやってきた。
ネズミはざぶんとひと泳ぎ。
「きれいな水だね、都会のプールとは大ちがい、自然の水のにおいはいいな、プールの水は薬のにおいがぷんぷんする」
「でも毒を消すのだろう、たいせつなことじゃないか」
アライグマが答えた。
ネズミは岩に上がってぶるっと水をきると言った。
「ばい菌を消す薬が毒になるのさ」
アライグマには、ネズミの言っていることがわからなかった。
アライグマはネズミのみやげを水にひたした。
「おっとっと、何をするんだい」
ネズミはそれを見て、あわてて止めようとした。
でも間に合わなかった。アライグマの手の平にのっていたネズミのみやげはあっという間にくずれて流れちまった。
「角砂糖は水にとけるんだぜ」
ネズミはがっかりした。
アライグマはなにごともなかったように言った。
「水にとけちまうのは毒さ」
ネズミは目を丸くして都会に帰っちまった。
またまたある日の朝早く、アライグマは、いつものようにサツマイモを畑から掘ってきた。
そして、せせらぎで洗って食べた。
ところが、お腹をこわし、熱をだしてねこんでしまった。
医者のフクロウは、熱さましと、ばい菌を消す薬をアライグマにわたして言ったんだ。
「きたない水もあるんだよ」
その日は、せせらぎの上流で、お腹をこわした三匹のイノシシがお尻を洗っていたそうな。
ところが、熱が下がってお腹のなおったアライグマは、また、サツマイモをせせらぎで洗っていた。
フクロウがそれを見てにが笑いをした。
「ただのくせじゃな」
親をこけにして育つのさ
春になった。
池の水もぬるまったくなって、水の中の虫たちも、すちょこすちょこ動きはじめた。
いつのまにか、ぶよぶよの寒天からぬけだし、いっぱしに泳げるようになったオタマジャクシが、藻のまわりに集まって、口をもぐもぐさせていた。
「この水草はうまくない」
やせたオタマジャクシが、からみあった藻の一つをつつきながらつぶやいた。
太ったオタマジャクシは、口いっぱいに藻をほおばって言った。
「そんなことありゃせんよ、うまいぜこれは」
大きな音をたててむしゃむしゃ食べた。
その音を聞きつけて、大きなゲンゴロウがやってきた。
「よく太ったね、おまえさん」
そう言うと、太ったオタマジャクシをかかえていってしまった。
オタマジャクシの一匹が、不思議そうな顔で、仲間に聞いた。
「あいつはどこに連れていかれちまったんだ」
やせたオタマジャクシは知っていたんだ。
「食われちまうんだ」
「そうか、食われちまうんか」
みんなはなんとなくうなずいた。
その時、大きなカエルが水の中に飛びこんできた。
オタマジャクシたちは、いっせいに水底にかくれると、ひとかたまりになって、食事中に飛びこんできた無作法なやつを見た。
「なんだあいつは」
オタマジャクシたちは、カエルが何ものか知らなかった。
カエルは、後ろ足を上手にけり上げ、池のまん中にある島に向かってすいすいと泳いでいってしまった。
安心したオタマジャクシたちは、また藻を食べはじめた。
「みにくい格好をしたやつだね、腹はふくらんでいるし、口がこんなに裂けていたじゃないか」
オタマジャクシは、自分の口をきゅうーと横にのばして、そいつのまねをした。
「だが、ゲンゴロウみたいにおれたちを食いにきたんじゃなさそうだ」
「あんなのに食われたかないね」
「手にゃ水かきがあって、足はひんまがってなんと不格好なやつだ」
「乱暴に泳ぎやがって、水がにごっちまうよ」
言いたいほうだいのことを言うと、オタマジャクシたちは、また黙々と藻を食べだした。
しかしすぐにだべりはじめた。
「あいつにゃ尾っぽがなかったよ」
「あいつの目玉にゃ膜があって、開いたり、閉じたりしていたぞ」
オタマジャクシは、立派な尾っぽが自慢で、目にじゃまなまぶたなど無いんだ。
おいしいものを食べながら、他人の陰口をたたくのは、楽しいかぎりさ。
「あいつのからだはいぼだらけだ」
「俺たちはこんなにすべすべ」
「ところでよう、あいつはどこに行ったんだ」
「島のほうに行ったぞ」
「島にゃなにがあるんだい」
「あいつは島に何しにいったんだ」
「いいところなのもしれないぞ」
「おれたちもいってみるか」
「ずいぶん遠いけどなあ」
そういいながらも、ものずきなオタマジャクシたちは尾を振って、泳ぎはじめた。
だけどやっぱり、島に行くには時間がかかった。
まだ子供だからしかたないさ。
ぞろぞろとむれをなして、泳いでいくうちに、雨がしとしとと降りはじめた。梅雨になっちまったのさ。
「島に行ったあいつはどこか、おれたちににていたな」
そう言った一匹が、腹を上に向けて泳ぎだした。
しばらくすると、他のオタマジャクシも逆さになってしまった。
島に行きつくころには、オタマジャクシたちに足がはえていた。
尾っぽもなんだか縮んだようだ。
一匹のオタマジャクシが、
「なんだこれ」と、自分の足をひょっとのばした。
からだがぐいっと前にすすんだ。
尾っぽをふろうとしたが、ちっちゃすぎて前にすすまなかった。
それだけじゃなかった。
オタマジャクシたちは、藻を食べたくなかった。
「うまいものを食いたい」
オタマジャクシの一匹が、なまずみたいな口をあけた。
そこに、カエルが島の上からぼちゃんと飛びこんできた。
オタマジャクシたちは、大あわてで石にかじりついた。
もう手も生えていた。
オタマジャクシたちは手を動かしてみた。
石の上にからだをもち上げることができた。
カエル子になったのだ。
ぞろぞろぞろとカエル子たちが、水の中から顔をだした。
「いい天気だな」
カエル子は小さな手足を動かして、ぴょこぴょこと島にはいあがった。
尾っぽもなくなっている。
息を吸った。
「空気がうまいなあ」
目をぱちぱちさせて空をあおいだ。まぶたがついていた。
またぽちゃんと音がした。
カエル子は、カエルが泳いでいくのを、島の上から見た。
そしたらね、
水面に小さなカエルの顔がいっぱい映っていた。
一匹が口をあけた。
裂けて広がった口が水に映っていた。
「いい顔になったなあ」
オタマジャクシだったカエル子たちは、そう思ったということだ。
そして、虫が食べたくなったんだ。
役割ってものがあるんだよ
夏になった。
三匹のクマがのったりのったり野原を歩いて行く。
黒くて長い毛の先から、汗がぽたぽたと落ちている。
「暑いったらありゃしない」
「全くだ」
クマの鼻の頭から、雨水のように汗が流れ落ちた。
「今年はまだ冬毛がぬけない」
一匹のクマが自分の毛を引っぱった。
汗で固まった毛は、べったりからだにへばりついている。
後ろから若いヒツジがやってきた。
「あつい、あつい」
ヒツジもびっしょりと汗をかいていた。
「そんなにもこもこと毛をかぶってちゃ暑いだろう」
クマがヒツジに声をかけた。
「そりゃ暑いさ、だからこれから毛を刈ってもらうのさ」
「どこにいくんだい」
「牧場だよ」と、ヒツジは早足で行ってしまった。
「毛を刈ってもらうんだと、なんと幸福なやつだ」
クマたちの汗は滝のようになってきた。
そこへ、別のヒツジが一匹、走ってきた。
「おくれた、おくれた」
ぶつぶつ言いながら、クマたちの前をさっさと通りすぎた。
「俺たちも毛を刈ってもらえるかーい」
クマがヒツジに向かってさけんだ。
ヒツジはふり向いて、
「たぶんなー」
そう言うと、牧場に入っていった。
「どうだいあのヒツジの後をおって、我々も恩恵に浴することとしようじゃないか」
「そりゃあ、名案」
クマたちは牧場に向かった。
牧場に入ると、あふれんばかりのヒツジたちが列をなしていた。
クマたちもドンケツにならんだ。
「おっそろしくたくさんいること」
「いずれ順番がくるさ」
クマたちは、べっちゃと座ると、足を前になげだした。
よろよろとやってきた年寄りのヒツジがやってきた。
そしてクマたちの後にならんだ。
ヒツジは目をしょぼしょぼさせて言った。
「お前さんたち、そんなみっともない座り方をするんじゃないよ、それにしても汚れたね、真っ黒じゃないか、不摂生をしてるね、そんなにでぶっちまって」
「どうやって座ればいいんだい」
クマがたずねると、
「ヒツジはな、このように前と後ろの足をきちんと折りたたんで座るんじゃ」
そう答えて、年寄りヒツジは座って見せた。
「お前さんたちみたいに、後ろ足を前になげだして、ケツで座るなんぞはサルまねじゃい。腹を下にせにゃいかん」
それを見たクマが言った。
「それじゃ前足が使えないじゃないか」
「座ったときにゃ、前足も休めにゃいかん」
「そういうものか」
三匹のクマはヒツジのように座ってみた。
だけど、からだが重くて手足がしびれてきた。
「俺たちにはできないよ」
年寄りのヒツジは居眠りをしていた。
クマたちはもとのように座り直した。
列の前のほうを見て、一匹のクマがため息をついた。
「まだまだだ」
そこに五匹のブタが、通りかかった。
「おそろいでどこにいくのだい」
クマがきいた。
「あっちにならびに行くのさ」
先頭のブタが小屋を指差した。
一匹のクマがたずねた。
「たくさんならんでいるのかい」
「いや俺が先頭になるのさ」
そのクマは喜んだ。
「お前さんたちについてっていいかい」
「どうだろうな」
ブタはちょっと首をかしげた。
しかし、そのクマは立ち上がると、ブタの後を歩きだした。
「俺はブタさんたちといくよ。そうすりゃ六番目だ」
残ったクマは、
「ブタは毛がないけどな」
と、思ったけれど、何も言わなかった。
残ったもう一匹のクマも、
「なにしにいくのかきかなかったな」
と、思ったけれど言わなかった。
二匹のクマは、夕方になって、やっと毛を刈ってもらった。
「すっきりしたなあ」
クマは足取りも軽く、牧場をあとにした。
だけど、二匹のクマは真っ黒な毛をたくさんかかえていた。
「こりゃ使えない」と言われて、返されたのだ。
毛を捨てる場所をさがして二匹のクマは野原を歩いていった。
すると、ブタについて行ったクマが、よろよろと彷徨っているのにでくわした。
二匹のクマは、そいつを見てびっくりした。
「皮まではいでもらっちまったのか」
「このほうがすずしいからな」
肉だけになったクマは答えた。
「毛を返してもらわなかったのかい」
「毛皮は役にたつんだと」
そう言い終わると、肉だけになったクマは、どさりとたおれて、息たえてしまった。
「クマの肉はうまそうじゃないね」
二匹のクマは、そう思いながら、抱えていた毛を、肉になったクマにかけてやった。
誕生日のごちそう
牧場の小屋の屋根裏でネズミたちが集まっている。
今日は僕の満1ヶ月の誕生日、おじいさん、おばあさん、それにたくさんのともだち、おっと、もちろん十二匹のお兄さんやお姉さんもみんなで僕を祝いに来てくれた。
屋根裏のたくさん積み重ねてあるリンゴ箱の陰でこれからお祝いの会だ。
お父さんが言った。
「ちかごろ、おまえはとっても怖い目にあったそうじゃないか。どうだい、お母さんのとっておきの料理ができるまで、その話をみんなに聞かせてくれないかい」
皆は尾っぽを床に打ち鳴らした。
「それでは、ネコの首に鈴をつけたおじいさんにまけないほど勇かんで、知恵をもった末っ子ネズミに話をしてもらおう」
ということで、僕はみんなの前であの日の出来事を話すことになった。
僕は始めた。
「それは、二日ほど前のことだった。僕はとっても早く目を覚ました。まだ、夕日が山に落ちない頃だ」
ネズミは夜起きて、朝寝床に入るんだ。
「僕はお腹がすいてたんだ。そこでいつものジャガイモ倉庫に食事をしに行ったんだ。ところが、たいへんなことに、その倉庫の中には一かけらのジャガイモもなくなってしまっていたんだ。後で聞いたところによると、人間がジャガイモを全部トラックにつんで、運んでいってしまったんだそうだ」
「しかたがないので、僕はまだ一度も行ったことのない、森のはずれのお百姓さんの家まで、ジャガイモをさがしに行ったんだ。
森のはずれまで、なんと三時間も歩かなければならなかったよ。僕は朝ごはんを食べていなかったので、そこにたどりついた時は、もうくたくたさ。それでも、お百姓さんの家の中にはいった時には元気がでてきた。なにしろ、この近くでは見られない大きくて甘そうなジャガイモが山と積んであったんだ。
僕はもう食べたくて食べたくて、まわりのことなんて忘れてしまって、ジャガイモの山の中に首をつっこんだ。その時だった、後からとてもこわい声が鳴り響いた。
「ニャーゴ」
その声の主はとても大きな年よりネコだったよ、首に鈴をつけていた、もしかすると、おじいさんがつけた鈴かもしれない。
でもさびてしまっていて、チリンチリンとならなかったんだよ。
ネコはね、僕をみつけると、舌なめずりをしてにらんだよ。
僕はこわくて、がたがたからだがふるえたけど、じっとこらえて逃げ道を探したんだ。
見回してもどこにも出口はみつからないし、もうだめかと思った。
ネコの目はらんらんと光っていて、とがった歯のついた大きな口はすぐそばまで来ていたんだ。ネコをあんなに近くで見たのは初めてだったよ。
ネコの息がふっと顔にかかって、もう食べられちゃう、と思った時、僕の頭の中でひらめいたんだ。
そしてね、僕は、一番おいしそうなジャガイモを足でけっとばしてね、ネコをじっくりと見た。そうして、こう言ってやったんだ。
「ネズミだってネコを食べたいことだってあるんだ」ってね、おまけにもう一度そのジャガイモをけっとばしたんだ、そのジャガイモが運よく、ネコの尾っぽにぶつかったんだ。そうしたら、ネコのやつ身震いして、とんで逃げちまったよ」
僕が話し終えると、皆はわれんばかりの拍手をしてくれた。
そこへ、お母さんの特製の料理がでてきた。
料理の上には布がかぶさっている。僕もまだ食べたことのないものだという話だ。
「さー、布をおとりなさい」
とお母さんが言った。皆が拍手をした。
僕は料理にかぶさっていたおおいをとった。それを見て僕は思わず、
「わー」
と大きな声を上げてしまった。
大きな皿の上には、こんがりと焼けた、おいしそうなネコがのっていた。
まず僕がトラネコの耳にかじりついた。僕には最初にかじる権利があるんだよ、なにせ、僕の誕生日だもの。
ほろりとさせる話じゃないか
ある日の夕方、街の真ん中にある公園で、マンホールの中から、大ボスの黒猫が小さなネズミをくわえてきた。
「うまそうだなあ」
それを見た猫の子分はみな唾を飲んだ。
ボスは子ネズミを下におくと言ったんだ。
「マンホールにゃまだネズミがいたぜ、ネズミが食えるのは何ヶ月ぶりだろう」
それを聞いた子分猫は、マンホールにむかって一目散に駆け込んで行った。
子ネズミは足がすくんじまって、おしっこをもらしている。
大ボスの黒猫は、
「そうはなかなかつかまらないもんだ、せいぜいがんばりな」
笑いながら子分たちを見送った。
「いつ食うんですボス」
残った取り巻きたちは、うまそうな子ネズミをうらやましげにみていた。
そんな時、一匹の雄の三毛猫が、植え込みの陰にいる小さな黒いものに気がついた。
三毛猫は雌しかいないんだ。雄の三毛猫が生まれてもみんな死んでしまうので、雄の三毛猫はとっても珍しいんだ。
小さな黒いものは子ネズミをじっと見ている。三毛猫は少しばかり近づいた。
そいつは三毛猫に気がつき、ぶるっと震えた。でも、じっと動こうとしなかった。
三毛猫は黒いやつの目が子ネズミの目にそっくりなことに気がついた。
母ネズミなんだ。三毛猫にはわかった。
三毛猫の胸の中がかっかと熱くなってきた。
三毛猫はボスの前に出るといった。
「ボスはたいしたもんだ、その子ネズミはいつ食うんで」
いつもおとなしく、近づいてきたことなどなかった雄の三毛猫が、そばに寄ってきたのでボスは面食らった。
「あったり前よ、夕食時までおあずけさ」
ボスは子ネズミを前足でちょっと引っ掛けた。
茂みの中の黒い生き物があわてて伸び上がった。
三毛雄猫は言った。
「ねー大ボス、そんなちっぽけなネズミを食ったって、腹の足しにはなりませんよ」
「おやお前さん、変なことを言ったね、獲物にけちをつけようっていうのかい」
ボスは三毛猫をにらみつけた。
「とんでもないことで、そんな子ネズミは大ボスの食べ物としては似つかわしくないと思いましてね、いっそ放して大きくしてからお食べになったほうが大ボスらしい」
三毛猫はボスの顔をうかがった。
ボスはくしゃと顔をしかめて
「ばかいうな、こんなご馳走めったに食べられるものじゃない」
子ネズミにひょいと手を伸ばした。
子ネズミは平べったくなって動けなくなった。
三毛猫は茂みを見た。
母ネズミは胸をかきむっしって子ネズミを見ている。
ボス猫は毛づくろいをはじめた。
三毛猫はまた茂みをちらっと見ると、耳を後ろに倒し、長い尾っぽをパタンと振り、頭を低くし、背を丸めた。
時間が刻々と過ぎていく。
ボス猫は大きなあくびをした。その瞬間だった、
三毛猫は長い尾っぽをなびかせて、子ネズミめがけて突進をした。あっという間に子ネズミをくわえ、さっと茂みに駆け込み、母ネズミの前に子ネズミを置いて反対側へ逃げた。
そこで、何が起こったかさとったボス猫はどなった。
「どろぼうしやがった、みんなあの三毛雄を捕まえろ」
その声を聞き、取り巻き連中は三毛猫のあとを追いかけた。三毛の雄猫は植え込みの中を右へ左へ逃げ回る。だけど数でかなわない。とうとう取り押さえられ、ボスの前に引き出された。
「おい三毛なにをしでかしたかわかっているのだろうな」
ボスはどすの利いた声を響かせた。
三毛はボスを見上げたままだまっていた。
ボスは三毛猫を引っ張って、道路わきに連れて行った。
「おきてだ」
三毛猫は素直にうなずき、長い尾っぽを通りの真中に伸ばして目をつぶった。
そこへ、ぐあぐあぐあとトラックがやってきて、三毛猫の尾っぽの上を通り過ぎた。
尾っぽはちぎれて飛んでいった。
短くなった尾っぽから血をたらし、雄の三毛猫は森に向かって旅にでた。
マンホールから、母ネズミと子ネズミが顔をのぞかせ、いつまでも三毛猫を見送っていたという話だ。
その後は三毛猫がどうなったか猫たちは知らなかった。
この話をしている森のハリネズミじいさんの脇に、尾っぽの短い三毛猫がすわっていた。
ハリネズミじいさんはまごたちに言った。
「わしの友達の、森に住む雄三毛じゃよ、お前たちも遊んでもらいなさい」
カラスは白いんだ
お天道さまがちょっと顔を出した。そんな朝早くに森の奥から一羽の太りぎみのカラスが飛び出した。
カラスは空高く舞い上がると、森に向かって一声鳴いた
「あほー」
その鳴き声を聞いた森のカラスたちがみんな飛び出してきた。そしてそのカラスに向かって、声をそろえて大きな声で叫んだんだ。
「森に戻ってくるなー」
その声は空の太陽にまで届きそうに大きなものだった。
あまりにも大きかったので、一羽のカラスはびっくりして空から落っこちそうになった。あわてて空中で羽をばたつかせ、
「あほんだらー」
と叫ぶと、森から野原に向かって飛んでいった。
そいつはハミダシガラスになったんだ。あんまりいたずらがひどくてね、それだけではなくて、意地汚くてみんなの食べ物を横取りするし、えばりちらすので、森中のカラスから仲間はずれにされたのさ。
ハミダシガラスは野原を越えて、となりの森を越えて、また大きな山も越え、夕方になって、やっと海にそそぐ川べりの一本の木に舞いおりた。
疲れたハミダシガラスは枝に止まってあたりを見回した。
腹減ったと、下を見ると白い鳥が目に入り、素っ頓狂な声を上げた。
「おや、お前さん、白いカラスじゃないか」
ハミダシガラスの止まっているちょっと下の枝に、白いカラスが止まっている。
うつらうつらしていた白い鳥は、変な声に驚いてとろんと上を見た。
そいつの眠そうなまぬけ顔に、ハミダシガラスは笑ってしまった。
「白いカラスかい。珍しいね、森の中にはいなかったね」
すると、そこに白い鳥がもう一羽、よたよたと飛んできた。
ハミダシガラスはちょっと驚いて言った。
「お前さんの兄弟かい。するとなんだね、お前さんの家族っていうのはみんな白いかい、白いカラスかい」
そこへ二羽やってきて木の下に降りると、ヨチヨチ歩いて石にけつまずいた。
「おやおや、お前さんたちにはたくさんの兄弟がいるんだね。それにしても不器用なことだね。ぶきっちょ白ガラスなんて格好の悪いことさ」
ハミダシガラスは木の下に降り、けつまずいたやつのとなりでぴょんぴょん跳ねた。
そこへ白い鳥がたくさん飛んできて、ハミダシガラスの周りを取り巻いた。ハミダシガラスはさっと見渡し、
「全部で十三羽か。カラスは七つの子っていうんだぜ、ずいぶん兄弟が多いね」
そこへまた五羽降りてきて、ハミダシガラスの周りをよたよたと歩いた。
ハミダシガラスは首をかしげた。
「森ではカラスは黒いものと思ってたが、水辺にきたら白いのばかり、カラスは白いのが本当なのかもしれないぞ」
ハミダシガラスは白いカラスがどこから飛んでくるのか見てやろうと、空高く舞い上がった。
木の天辺の張り出した枝の先に止まり、目を凝らしてみると、海の方からまた白い鳥が飛んでくる。それを見て、ハミダシガラスは海に向かって飛んでいった。
海の上では、白いカラスが一列になって波に揺られ、のんびりと海の上に浮かんでいたんだ。
そこでハミダシガラスは思ったのだよ、
「カラスは本当は白いのだ。ああやって、波に揺られていると黒い色がおちるんだな、よし、おいらも真っ白になって、森のやつらを驚かせてやろう」
ハミダシガラスは海の上のほうに舞い上がると、空中停止して、白い鳥たちが浮いているところにむかって、
「あほう」
と、一声鳴いた。
白い鳥がそろってハミダシガラスを見上げた。
ハミダシガラスは目をつむって、海の水面めがけて急降下した。
ぼちゃん!
水しぶきが上がった。ハミダシガラスは水面から姿を消した。ところがいつまでたっても浮かび上がってこなかった。
白い鳥たちは、それを見て首をかしげた。
「おぼれちまったよ。黒いカモメなんて珍しかったのに」
みんなすきなこと言ってるよ
とっても朝早く、森の奥の洞穴で、タヌキの赤ん坊が一匹生まれた。
早起きの森ネズミのじいさんが、まず一番にそれを知って、タヌキの穴にやってきた。
「よかったの、おめでとうさん、赤ん坊は元気かね」
タヌキの亭主は上機嫌で答えた。
「そりゃもう、あっしに似て、ころころして元気で、かわいいもんでさ」
「どうれ、赤ん坊にあわせておくれ」
そりゃもう、亭主は喜んで案内した。
森ネズミのじいさんは穴の中によちよち入っていくと、枯葉の寝床ですやすや寝ている赤ん坊を見た。
「おんや、赤ん坊といっても、わしよりも大きいじゃないか。わしゃ、もっとかわいいものかと思っていたんじゃが」
それを聞いたタヌキのかみさんは、赤ん坊を抱きかかえると、
「ふん、森ネズミのじじい、今にこの子がお前さんを追いまわすからさ、食べられないように気をつけるんだよ」
そう小声でつぶやいた。
森ネズミのじいさんが帰ると、入れかわりに、野ウサギの娘がやってきた。
「あかちゃんがお生まれになったそうですね、母と父は畑にいかなければならないので、わたしがきました」
タヌキの亭主は、ホクホク顔で、
「そりゃ、わざわざありがとうございます、もう、かわいくて」
と、頭をかいた。
「見せてくださるかしら」
野ウサギの娘は、長い耳をぴくぴくさせて言った。
タヌキの亭主は、
「もちろんで、どうぞ、どうぞ」
穴の中に案内した。
おかみさんは赤ん坊をだっこして、ウサギのそばに連れていった。
「どーお、かわいいでしょう」
ウサギの娘は赤ん坊を見ると、
「おーや、かわいい、でもお耳も短いし、お目目も赤くないわね」
と言った
それを聞いたタヌキのおかみさんは、ウサギ娘のみじかい尾っぽをけっとばした。ウサギはびっくりして穴から外に飛び出しぴょんぴょん飛び跳ねていってしまった。
今度はキツネのかみさんがやってきた。
「こんにちは、赤ちゃんが生まれたそうね」
タヌキの亭主はもうにこにこ顔だ。
「え、ええ、鼻があっしそっくりで、そりゃもう、かわいいんで」
「会わせていただきたいわ」
キツネのおかみさんは、太い尾っぽを右に左にゆらしながら、穴の中に入っていった。
「ほーら」
タヌキのおかみさんはキツネのかみさんに赤ん坊を見せた。キツネのおかみさんは目を吊り上げて言った。
「まあ、よくころこりと太っていらっしゃること、お母さんとそっくりじゃない」
タヌキのおかみさんはそれを聞くと、
「ええ、かわいいでしょう、目はくりくりしていて、誰かみたいに吊りあがってなんかいないでしょう」
と言った。
キツネのおかみさんは、もっと目を吊り上げた。
「もう、こん」
帰ってしまった。
そこへ、大きなワシが舞降りてきた。
「子どもが生まれたって」
ワシは大きな翼をたたみなおすと言った。
タヌキの亭主は、それはそれは甘ったるい声で
「ええ、ええ、かわいくてね」
とワシを見た。
ワシは
「見たいねえ」
そう言って鋭い目を洞穴に向けた。
だけど、穴は小さくて、ワシは入ることはできなかった。
「見たいねえ」
ワシはもう一度言った。
タヌキの亭主は穴の奥に声をかけた。
「おいお前、子どもを連れて出ておいで、ワシのだんながきているよ」
ちょっと時間がかかったが、タヌキのおかみさんが赤ん坊をつれて入り口のところまで出てきた。
タヌキのおかみさんは、ワシを見ると、ぶるっと身震いをして、子どもをいっそうしっかりと抱きしめた。
ワシはじろりと赤子を見た。
「おや、つるんとしてるね、ボツボツしていないね」
「鳥肌のことですかい」
タヌキの亭主は聞いた。
「え、そう、おれたちの間では鳥肌なんていわないけどね」
「じゃあ、何ていうですかい」
「特にないね、お前さんたちが、タヌキ肌なんていうかい」
「いや言いませんね、鳥じゃないですからねえ、タヌキですからね」
そう言うとタヌキの亭主はなんとなく笑った。
ワシのだんなは、
「ああ、そうだろ」
タヌキの赤子をしげしげと見つめ、思い出したように、思わず、
「うまそうだなー」
と言ってしまった。
タヌキのおかみさんは全身鳥肌だらけになったが、タヌキの亭主は、
「ええ、もう、食べたちゃいくらいなんで」
顔にまんべんの笑みを浮かべた。
それを聞いたワシは
「子どもは世の中を平和にするよな」
ワシらしくないことをつぶやいて、目をとろんとさせて、飛んで行ってしまったそうだよ。
死んだまねしてもね
「腹がへったなあ」
山に住んでいる一匹の大きなクマが、おなかの皮をたるませて、森の中にやってきた。
一本の木の下にやってくると、クマは目を輝かせた。
「おっ」
木の根元にハチの巣があったんだ。クマは勇んで蜂の巣を掘り起こした。だけど、出てきた巣にハチはいなかった。ということは蜂蜜もないということだ。
クマはうなだれて、森の中をとぼとぼと歩き始めた。森から出ると、池にやってきた。
池の水はとってもきれいで、底の小石がきらきらしていた。
クマは池のほとりに足を投げ出して座ると、もうろうとした目で水の中をのぞきこんだ。
「水でも飲むか」
クマはからだを起こして水に顔を突っ込んだ。冷たい水がおなかの中にしみわたった。飲みながらふと水底をみると、シジミが一つころがっている。
「シジミじゃ腹の足しにならんなー、でも食いたいな」
そうつぶやいて、手を伸ばしたがとどかない。とどいたにしても、あまりにも小さなシジミをクマの手ではうまくつかむことができないかもしれない。
クマははたと考えた。いい考えが浮かんだ。
そばに生えていた葦の葉っぱを引っ張りとった。先っちょをシジミの開いた口へ差し込んで釣り上げるんだ。
クマは葦を水面に突っ込んで、下を覗いた。
水底のシジミは見上げて、
「わあ、クマだぞ」
と気付くと、あわてて死んだまねをした。
そのとたんシジミは口をパクンと大きく開けた。
貝は死ぬとみんな口を開けてしまうものなのだ。死にまねだ。
それでクマはシジミを釣ることができなかった。
「クマにあったら、死んだまねをすれば助かるというのは本当だったんだ、クマはだまされやすいんだな」
シジミはそう思いながら殻をとじた。
シジミが殻を閉じたので、クマは今度こそ釣り上げてやるぞと、水面に向かって身を乗り出した。
そのとたん、ずるっとすべって、ぼちゃんと水の中におちてしまったんだ。
頭から落ちたクマは手足をばたつかせ池の底を見た。
「イヒヒヒヒ、ヒック、ヒヒヒ」
大きな真っ黒な貝が口をあけて笑っていた。
「カラス貝じゃないか、だましやがって」
クマは水の中でからだを起こすと、カラス貝を蹴っ飛ばして、岸に這い上がろうとした。池はクマがやっと足がつくほども深かった。
そのとき、蹴っ飛ばされ、水の中に舞ったカラス貝が、クマのころっとした尾っぽにかみついた。
ぼちゃん、おかげでクマはまた水の中におっこちて、そこでたらふく水を飲まされてしまった。
カラス貝が笑いながら言った。
「クマはやっぱりだまされやすいんだ」
クマはやっとの思いで岸にはい上がった。
池の脇に腰掛けて濡れた毛を乾かしていると、春の日はぽかぽかと暖かく、眠てしまった。
しばらくすると、目をあけ、そうか、蹴っ飛ばせばいいんだ、と思いついた。寝起きは頭にいいアイデアが浮かぶことがある。
クマは池の中にそうっとはいった。カラス貝も水底で眠っていた。春はだれでも眠くなるものだ。
クマはしめたと思ったね。カラス貝を蹴っ飛ばすと、跳ね上がったカラス貝を手でぱちんと岸に跳ね飛ばしたんだ。
カラス貝は池のほとりの草むらに落っこちた。
驚いたのはカラス貝だ。クマの顔が見えた。
「死んだまねしなきゃ」
寝起きであわてたカラス貝は口をあけちまったんだよ。
そりゃあ、クマはよろこんださ。口をあけたカラス貝の身をぱくりと食っちまった。
クマは満足して、山に帰っていったんだよ。
なんでも食べなきゃ食通になれないよ
甘い物が好きなミミズと、塩からい物が好きなヘビは、顔をあわせるといつも言い合いをしていた。
今日もそうだった。
ミミズは言った。
「甘いものを食べるものは頭がいいんだ、甘いものが嫌いなのは足し算もできない」
ヘビはそれを聞くと鼻にしわをよせた。
ミミズは言った。
「甘いものを食べないと動きが鈍いんだ、ナメクジに追いつかれてなめられちまう」
ヘビは少し怒ってきた。
ミミズは続けた。
「甘いものが怖くて食えないのだろう」
ヘビはだいぶ怒った。
しかし、顔には出さずに言った。
「そんなことはないよ、甘いものも食えるさ、森にとっても甘いきのこが生えているが、それだって食えるさ」
それを聞いたミミズは、甘いきのこのありかを知ることができると、内心ほくそえんだ。
ミミズは言った。
「甘いきのこなんて聞いたことがない」
ヘビは言った。
「森の中には、そりゃいろいろなきのこがあるのさ、すっぱいのもあるし、にがいのもある」
ミミズはよだれを隠して言った。
「どのくらい甘いんだい」
甘いものが嫌いなヘビは答えに困ったが、
「あんたが今まで食べたことのあるものよりもっと甘いんだ」
と、言ってみた。
ミミズはそれを聞くと、木の洞から染み出していた蜂蜜を思い出した。
ミミズは聞いた。
「蜂蜜より甘いのかい」
「そりゃそうだ、そのなん倍も甘いんだ」
ヘビはにこにこして言ったんだ。
「ほんとに食えるか、みせてもらおうか」とミミズが言うと、ヘビは「みせてやるよ」と応じ、ミミズを連れて森に向かった。
北の道から森に入ると、入口からいろいろなきのこが生えている。奥のほうへ行くと、それはそれは、赤、黄、茶、色とりどりのきのこたちがいたるところに顔を出していた。
朽ちた木の根元にくると、ヘビは言ったのさ。
「そこにある赤いきのこは森の中で最も甘くて、あちらの黄色いきのこは最も塩からいんだ」
ヘビは赤いきのこをかじった。
「ほら、甘いものだって食えるぞ」
ミミズも、赤くてふっくらとしたきのこの根元にもぐりこみ、かぶりついた。
そのきのこはものすごく塩からかった。ヘビのやつだましたな、と思いながらも何食わぬ顔で言った。
「本当だね、たしかに甘いきのこだ」
それを聞いたヘビは、そんなはずはないのにと思い、赤いきのこの傘にかみついた。
ずいぶんからいじゃないか、とヘビは首をかしげた。
ミミズはそんなことおかまいなしに、今度は黄色いきのこをかじりながら言った。
「ヘビ君、確かに黄色いきのこはからいけれども、たいしたことないよ。実を言うと、僕は昔からたいそう塩からいものが好きで、塩からいものを探していろいろなところを旅したのさ、そして、そいつを見つけたんだ。でも塩からすぎて食べることができなくて、それから甘党になっちまったんだ」
「そいつはなんだい」
ヘビは聞いた。
ミミズはもったいぶって、なかなか言わなかったが、ヘビがあまりにも見つめるので言った。
「教えようかね、そいつは僕なんだよ」
ヘビは目を丸くした。
「ある日ね、僕をごぼうと間違えたナメクジがね、僕をジョロンとなめて、塩からさのあまり、縮んでしまったんだ。そこで僕は自分をなめてみた。そりゃ驚いたね、からいこと、からいこと、こんなに塩からいものはないね、なにせ、塩より塩からいんだ、それだけじゃないよ。味がとってもよかったんだ」
ヘビは舌をちろちろとだして、よだれをたらさんばかりだった。
ミミズはこのときとばかり言ったね。
「どうだね、僕を君に進呈しよう、飲み込んでくれたまえ」
「いいのかね、そりゃちょっと悪いような気がするがね」
ヘビはかたちばかりの遠慮をした。
「かまわないさ、こんなに甘いきのこを食べたんだから」
ミミズがそういうので、ヘビはしゅっとミミズをのみこんでしまった。あまり、勢いよく飲み込んだので、はたして、塩からかったのかどうかよくわからなかったが、至極満足したのだよ。
木の下でうたた寝をしていたヘビはおなかが減ってきた。
ミミズ一匹じゃおなかがすくのもあたりまえ。そこで食べ残した塩からいきのこを食べることにした。
ほいときのこを丸呑みにした。ところが、きのこはぴょんとのどの中から勢いよく戻ってきてしまった。塩辛いきのこを食べても、みんな口の中からとびだしてしまった。しかたない、ヘビはあまり塩辛くないきのこも食べた。それでも食べるたびに食べたきのこが丸のまま勢いよくもどってきてしまった。
ヘビの腹の中のミミズが、塩からいきのこが入ってくるたびに、外に放り投げていたのだ。
ミミズの声が、ヘビののどの奥のほうから聞こえた。
「甘いものを食べない限り、全部放り出してやる」
ヘビは、ミミズが消化されなかったのを不思議に思ったが、ミミズの叫ぶ声がさらに聞こえて納得した。
「俺はな、ぬるぬるに護られているので消化されないんだ」
ヘビはそれを聞いて病になり、おなかがすきすぎて、畑にくると目くらめっぽう甘いサツマイモにかぶりついた。
サツマイモを食べたヘビは思った。
「甘いものもいけるものだ」
ヘビは甘いものが好きになって、甘いものばかり食べるようになった。腹の中のミミズは大喜びでおこぼれを頂戴した。しかし、ミミズの胃がだらーんとして、甘いものがいやになってきた。
ミミズはたまらなくなって、ヘビの口から飛び出した。そして、森の中へ行くと、赤い塩辛いきのこにかぶりついた。
「からいものもうまいうまい」
こうして、ヘビとミミズは両刀づかいとなり、食通といわれるまでになったのだそうだよ。
見る目がないね
若くて、なかなかの男前のネズミが、森の入り口の木の洞に住んでいた。
ある日、野原で出会った友達に、男前ネズミが言った。
「となりの森のアナグマのお嬢さんはなかなかのきりょうよしだ」
「ああ」友人は興味なさそうに返事をした。
「俺の嫁さんにどうだろう」
男前のネズミはつぶやいた。
「よしな、よしな、あんたはネズミさね」
友人はずばっといったつもりだった。でも、男前ネズミの気持ちは変わらないようだ。
あくる日になった。
男前ネズミは早起きをして、隣の森のアナグマの洞穴の前で、アナグマお嬢さんが出てくるのを待った。
やがて、アナグマのお嬢さんが洞穴から顔をだした。
のっそりとはいだしてきて、ちょっと身づくろいをした。
男前ネズミはアナグマを見ると思った。
「つぶらな瞳はなんとかわいらしい」
アナグマお嬢さんは、ネズミがいるのにも気がつかないで、きのこの朝食をとりによたよたと森の奥へと歩いていった。
男前ネズミはこのときとばかり、アナグマの前に踊り出ると、少し上ずった声で言った。
「アナグマのお嬢さん、あなたはなんと魅惑的、僕のお嫁さんになってくれまいか」
アナグマのお嬢さんは小さな目をもそっとネズミのほうに向けると、また、のたのたと歩き始めた。
男前ネズミはあわてて追いかけ、アナグマの目の前で尾っぽをぴんと上げ、胸を張った。そして言った。
「アナグマのお嬢さん、ぼくはいつぞや、泉のほとりであなたを一目見て、あなたのとりこになっちまったのです」
だけれども、アナグマのお嬢さんは知らん顔、ネズミの脇をすり抜けると歩いていってしまった。
男前ネズミは、ぶつぶつ言ったが、すぐ気を取り直して追いかけた。
「娘っ子っていうのは、内心うれしくても、興味がなさそうな顔をするもんだ」
そう自分をはげまし、男前ネズミは、追いかけていって、アナグマの尾っぽをつかむと言ったんだ。
「なんとふさふさした素敵な尾っぽだろう、お願いだから、たのみを聞いてくれないか」
アナグマのお嬢さんは、尾っぽをふって、ネズミの手を振り払いのけた。
ネズミなどお構いなしに、森の中の茸畑にやってきた。アナグマは色とりどりのきのこの中から真っ赤なきのこを選んで、カタカタとかじり始めた。
追いかけてきた男前ネズミは、おいしそうな赤いきのこをたくさん集めて、アナグマのお嬢さんの前に持ってきた。
でも、アナグマのお嬢さんはネズミのとってきたきのこに見向きもしない。ただひたすら自分で選んだ真っ赤なきのこをカタカタ食べた。
男前ネズミはちょっと腹が立ってきて、自分のとってきた赤いきのこをかじろうとした。すると、アナグマのお嬢さんは、そのきのこを太い尾っぽでネズミの前から払いのけ、自分のほうに寄せてしまった。
男前ネズミは驚いて、
「なにするのかね」
と、いいかけたのだが、
そうか、あとで、ゆっくり食べるつもりかと、思って、おとなしく引き下がった。
アナグマのお嬢さんは、自分が選んだきのこを食べ終えると、ネズミのとってきた赤いきのこをあっという間に踏みつぶした。
男前ネズミはきょとんとして、ひげをぶるぶる震わせたが、ぐっと何も言わなかった。
娘っこってのはきまぐれなんだ。
アナグマのお嬢さんはそそくさと泉へ水を飲みに歩いていってしまった。
男前ネズミもついていった。
「アナグマのお嬢さん、なんで僕の嫁さんになってくれないんで」
泉につくと、アナグマは前足で水面をぴしゃんとたたいた。水がはねてネズミにひっかかった。
ネズミはだいぶ腹が立った。
「なんだい、アナグマのお嬢さん、あんたにとってもこんなにいい機会はないんだよ、俺みたいな男前が嫁さんにしてやるって言ってるんじゃないか」
アナグマはそれを聞くと、また水面をばしゃんとたたくと、水がネズミの顔一面にかかった。
そして、振り向くと言ったんだ
「お前さん、おふざけかい、その水で顔でも洗いな、私をいくつだとお思いだい、八十歳のばばあだよ、それでもいいのかい、ひまごのまごが三十匹もいるんだからね」
ネズミは目玉をまんまるにして、後足で立ち上がった。
「お前さんは娘っ子を見る目がないね」
アナグマは笑った。
「それにお前さん、きのこを見る目がないね、お前さんのとってきた赤いきのこはみんな毒さね」
ネズミは顔を赤くすると、いきなり森の奥へ逃げ出した。
「おーはずかしい、死んじまいたい」
真っ赤な大きなきのこに食らいついてむしゃむしゃと食べた。
だけど、そのきのこはただお腹を下すだけの毒しかなかった。
ネズミは一晩中おなかがおかしくなって、トイレに何度も何度もいかなければならなかったのだよ。
眠れなくて、あくる朝、げそっとやせちまった。
これが評判というものだ
森のじいさんカエルの生きがいは森の天気予報をすることだ。
秋になったある日の朝、雲の流れがちょっとはやかった。カエルは言った。
「こりゃ嵐になるかな」
夏の暑い日を避けて、羊歯の下にいたトカゲは、それを聞くと、さてどこに行くかと思案した。
トカゲはからだの熱をお天道様からもらっているので、朝起きると日にあたらなければその日は動けない。
嵐がくる前に、明日の分も日にあたっておかなけりゃ。
トカゲはどんぐりの木にのぼって十分にお日様にあたった。
木の枝に考えごとをしているニュウナイスズメがいた。
トカゲは言った。
「嵐がくるってさ」
スズメは翼がいたんだので、どうやって繕うか考えていたところだ。
しかしそれを聞くと、トカゲに礼を言って、無理にも翼をひろげ、ばたばたと杉の木の巣に飛んでいった。
巣にもどると、枝を歩いているリスに言った。
「嵐がそこまできてるってさ」
「そりゃ大変だ、はやくしなきゃ」
食料のたくわえがあまりなかったリスは、どんぐり集めに行こうとしていたところだ。
途中でウサギに会った。
「嵐だから食べるものを用意しなきゃ」
リスがそう言ったので、ウサギは長い耳をおったて、
「食料を用意しろ」
大声でさけびながら、巣にもどって行った。
それを聞いた山の芋をほじくっていたイノシシは、大きな山芋を掘って、手に抱え、声をあげた。
「重いぞ、たくさんとったぞ」
きのこを食べ過ぎ、どでんと切り株によりかかり、日に当たって熱くなっていたタヌキがその声を聞いた。
タヌキは泉に手を洗いに行くアライグマに言った。
「暑いね、涼しい風がほしいね、重いのがたくさん来てるんだってさ」
いいかげんなもんだ。
アライグマは泉のほとりに行くと、花の中に鼻を突っ込んでいたアナグマに言った。
「熱い風が吹いてくるんだってさ」
それを聞いたアナグマは、巣にもどる途中、蜂蜜をなめていたクマに、
「火事だ、熱い風が吹いてきているんだってさ」
と言った。
クマは自分の穴に戻ると、奥さんに大声で知らせた。
「山火事だ」
子どもにお乳を与えていたクマの奥さんは、子どもをつれてあわてて外に飛び出した。
そこに獲物を探しにきたキツネに、
「まったく、この忙しいときに、大変じゃないか、逃げなきゃね」
と言った。
キツネはあわてて駆け出し、ひげを念入りに洗っていたヤマネコに言った。
「何かがおいかけてきているから逃げなさいってさ」
それを聞いた、とても神経質なヤマネコは、どんどこどんどこ森の中を走り回った、そして、野イチゴにかじりついていたネズミに言った。
「あーあ、走り回ったんで熱くなった」
そそっかしいネズミは尾っぽを振って、巣の中で退屈していたカラスに叫んだ。
「暖かくなるそうだ」
おしゃべりガラスは森の上に舞い上がると、森中に響きわたる声で、
「明日は暖かいいい天気になるとよ」
森の動物たちは、それがカエルの天気予報だと思った。
水面に顔を出していたじいさんカエルは、それを聞くとぎょっとして、水の中にもぐった。自分が言ったこととは全く違う。
次の日になると、嵐なんかこないで、とても暖かないい天気になった。
森のみんなはカエルの天気予報が当たったと思った。
じいさんカエルは苦笑いをして、
「明日は雪が降るよ」と言ってみた。
森の動物たちはカエルを信じて自分のすみかで暖かくしていた。
次の日、それは本当になった。
秋になったばかりなのにかなりの雪が降った。
池には氷が張ってしまった。水の中にいたカエルは氷の中にとじこめられてしまった。
次の日、秋晴れになった。とてもあたたかい。
森の動物たちはみな無事に朝をむかえた。
ところが、カエルの天気予報の声がしない。
どうしたのかと、みんなが池にやってきた。
じいさんカエルは水の中で息絶えていた。
森のだれもが、カエルの天気予報を感謝し、カエルのじいさんの記念碑を作ることになった。
力持ちのクマが緑色の大きな石を運んできて、池の脇に立てた。
森の動物たちは、森に訪れるだれにも、カエルの天気予報のことをはなしたのだ。それで、じいさんカエルの評判はその村どころか、遠くまで知られることになったということである。
恐ろしい話
一匹のサルが、サクランボの木の下で、虫当てクイズをしていた。
「さー、これからサクランボを二つ、木から落とすよ、サクランボの中には虫がいるかもしれないよ、虫がどっちのサクランボに入っているか、二つとも入っているかもしれないし、いないかもしれない、あたった者にはサル酒をいっぱいごちそうしよう」
サルはひょうたんをゆすって、酒をぽちゃぽちゃいわせた。プーンと甘い香りが漂ってきて、集まっていたウサギやキツネたちは鼻をぴくぴくさせてうっとりした。
「たまらんねえ」
ウサギがきいた。
「だがね、サルの兄さん、あたったらサル酒をご馳走してくれるのはいいが、もし当たらなかったらどうするのだい」
サルは頭をかきながら言った。
「そうさなー、ただじゃおいらが損をする。どうだい、当たらなかったら、ひげを十本いただこう」
「おんや、サルの兄さん、ひげをどうするね」
キツネが聞くと、サルは、
「おいらの趣味はかごを編むことなのさ、アケビのつるや、藤ツルや、竹やいろいろ使って作ったがね、ひげで編んだかごってのはまだないからね、そんなわけさ」
「ふーん」
ジャコウネコはひげを洗った。
「さて、誰が最初にやってみるかい」
サルはサル酒をちょっとばかし口に含んだ。なんともたまらないかおりが漂った。
「よっしゃ、わしがやってみよう」
タヌキのじいさんが、前にでてきた。サルは木の上に向かって、
「たのむよ」
と声をかけた。その声を合図に、木の上にいたカミキリムシが、サクランボを二つ切り落とした。
落ちてきたサクランボをサルは上手に受け取ると、目の前に並べて言った。
「さあ、どうだい、タヌキのじい様よ、どれに虫が入っているかね」
タヌキのじいさんは、赤くうれた一つを指差した。
「これにゃ虫がいるね、もう一つにゃおらんわい」
サルはうなずくと、二つのサクランボを割った。赤くうれたサクランボから虫が這い出してきた。でも、もう一つからも虫が出てきた。
タヌキのじいさんはあごひげを一握り引っこ抜かれてしまった。
それを見ていたウサギが前に出た。
「ぼくがやるよ」
「たのむよ」
サルの声で、またサクランボが二つ落ちてきた。
「さーどうだい、ウサギの兄さん」
サルに向かって、ウサギは自信をもって言ったね、
「両方とも入っているね」
サルがサクランボを割ったが、どちらにも虫は入っていなかった。
ウサギはひげをおもいっきり引っこ抜かれた。
みんな試したが、誰一人として当たらなかった。キツネにいたっては二度もやって、二十本もひげを引っこ抜かれた。ジャコウネコ、ハナグマ、ネズミ、みんなひげをもっていかれてしまった。
「誰も当たらないね、それじゃそろそろ終わりにするか」
サルはサル酒の入ったひょうたんにふたをした。
そこに赤い蛾が一匹飛んできた。
「私にもやらせてくれないかしら」
サルは笑った。
「蛾の娘さんやい、まちがえたら何をくれるのかね、あんたのひげをもらってもしょうがないよ。
「いいえ、この赤く透き通った羽はきれいでしょ、これでどう」
「だがな娘さんよ、その羽をちぎったら、あんたは死んでしまうのだよ」
「ええ」
蛾は首をたてにふった。
サルはちょっとおどろいた。
「それでもやるのかね」
「ええ」
蛾は目をくりくりさせて、発酵しているサル酒の匂いに酔いしれていた。
「まあ、いいさね、やってみるだけやってごらんな」
カミキリムシが赤と黄のサクランボを落とした。
サルの前に並んだ二つのサクランボをチラッと見ると、
「赤いのには子どもがいて、黄色いのはいない」
と蛾が言った。
「なあ、蛾のお嬢さん、なかなか当たるもんじゃないんだよ、まあいいや、割ってみるか」
サルがサクランボを割ると、赤いのには虫がいて、黄色いのにはいなかった。
「ほー当たった」
サルは目を丸くした。
「それじゃ、サル酒をおくれ」
「ああ」
サルがサル酒をわたすと、蛾は言った。
「私は香りだけでいいから、タヌキのじいさんにやっとくれ」
タヌキのじいさんはうまそうにサル酒を飲んだ。
蛾のお嬢さんは言った。
「もう一度やらせてくれないかしら」
「今は偶然に当たったがな、そう何回もうまくいくものじゃないぜ」
サルは信じられないという顔で言った。
「だいじょうぶよ」
蛾のお嬢さんはサル酒の香りに酔っぱらって言った。
そこで、サルはカミキリムシにサクランボを二つ落とすように合図をした。
蛾は一つを指し示すと、「これには虫ははいっていないわね」、と言った。
その通りに、その一つには虫は入っていなかった。
「サル酒はうさぎさんにやっとくれ、まだ続けようね」
香りに酔った蛾はサルにかん高い声で言った。
「しょうがねえ」
サルは続ける羽目になってしまった。
蛾は次から次へサクランボの虫を当てるので、回りで見ていたひげを抜かれた動物たちは、みんなサル酒のもてなしを受けることになった。
蛾の目の前には、サクランボからだされてしまった白い虫たちが、うようようようようごめいている。
「たいしたもんだな」
みんなは蛾をほめた。
たいしたもんだと思って、サルも聞いた。
「しゃっぽをぬぐよ、どうして虫がはいっているのかわかるんだい」
蛾はふらふらしながら答えた。
「虫が入っているサクランボには、小さな針よりもっと細い穴があいているのよ」
「そんな小さな穴が見えるのかい」
「ええ、私があけた穴だからね」
「どうして穴をあけたんだい」
「卵を産むためよ」
蛾はほほえみながら言った。
サルはだいぶ驚いた。
「それじゃ、この虫たちゃあ、あんたが産んだやつなのか」
「そうよ」
それを聞いて驚いた木の上のカミキリムシが、思わずサクランボを切り落としてしまった。
「それにも虫が入っているわよ」
落ちてきたサクランボをサルが割ると虫が出てきた。
「こりゃあ、あんたの子どもかい」
「そうよ」
蛾の回りには白い虫がごろごろしている。
「なあ」
サルはつるんとした顔で言った。
「サクランボから出た虫は生きていけないんじゃないかね」
「ええ、そうよ」
「おまえさんの、子どもだろ」
蛾は、サル酒の香りにとろとろになって、また、
「そうよ」
と答えた
それを聞いた動物たちは、いっぺんに酔いがさめちまった。
気のもちようさ
春のきざしが見えはじめたある日。朝早くキツネの娘が野原を歩いていた。
朝ごはんをとりに、かやの茂みに向かおうとしていたハタネズミのおやじが、キツネの娘をみかけて声をかけた。
「朝早く、どこに行くんじゃい」
キツネの娘は「畑の梅の木のところに行くの」というと、見られてしまったわという顔をして、恥ずかしそうにかけだした。
ハタネズミのおやじは畑のおけらでも食べに行くのじゃろうと思って、かやの茂みに入っていった。
キツネの娘は畑にくると、梅の木の下に腰をおろして、木の天辺を見上げた。
春の空は青くかすんで、うすい雲がゆっくりとながれている。
しばらくたつと、緑色の鳥が飛んできて、梅の木の枝に止まった。
ウグイスは「ほーほけきょ」と、よく通る声でさえずり始めた。
キツネの娘は、そろりと動くと、枝の下にやってきて、ウグイスを見つめていた。
やがて、
「ほーほけきょ」
一鳴きしたウグイスが、尾っぽをぴんと上に立て、だすべきものをぽとりと落とした。キツネの娘は手を差し出すと、その排出物をうまく受け止め、いそいそと、森に戻っていった。
キツネの娘は、森の洞穴にもどると、入り口の切り株に腰掛け、ウグイスのフンを顔にまんべんなく塗りつけた。そして顔のマッサージをはじめた。
おなかがいっぱいになったハタネズミのおやじと、畑からくすねたサツマイモをかかえたタヌキのこどもが、キツネの洞穴の前を通りかかった。
ハタネズミのおやじは、
「もうもどったのかい、ケラはつかまったかい」
と聞いた。
キツネの娘は、きょとんとした顔で、「いいえ」と答えた。
「そりゃ、腹がへったじゃろう」
ハタネズミのおやじは見当違いのことを言った。
タヌキのこどもは、
「キツネの姉ちゃんなにしてるの」
と聞いた。
「お肌の手入れをしているのよ」
キツネの娘は、顔を手でこすり続けた。
「なにぬってるの」
タヌキのこどもが興味深げに聞くと、
キツネの娘は目の上をマッサージしながら、
「ウグイスのフンよ」
と答えた。
ハタネズミのおやじは、ヒャッと鼻にしわを寄せた。それを見たキツネの娘は
「あーら、ウグイスのフンはおはだをすべすべにしてくれるのよ」
と笑った。
タヌキのこどもは何の話だときょとんとしていた。タヌキの子にはウグイスのフンがなにをするものかわからなかったのだよ。
あくる朝早く、ウグイスのフンをみるために、タヌキのこどもは、キツネの娘のあとをつけた。
キツネの娘は、きのうのように、畑の梅の木の下でウグイスを待った。
ウグイスもきのうと同じ枝に止まり、さえずりながら、ほんの一つぽとんとフンをした。キツネの娘は、それをだいじそうに拾うと、にこにこして森にもどっていった。
タヌキのこどもは
「鳥のフンがそんなにだいじなんだ、しかも、あんな小さな鳥で、あんな少ししかなくてもうれしいんだな」
不思議に思いながら、野原を横切り森にもどっていった。
すみかにもどる途中にあるクローバー畑にきたときだった。タヌキのこどもははたと思いついたのだ。そして、そこにすわりこむと、クローバーの葉っぱをたくさん食べた
また明くる朝、キツネの娘は畑の梅の木の下にやってきた。
ウグイスも来て、いつものように、ほーほけきょ、と鳴いたのだが、フンはなかなかおちてこなかった。
「今日はだめなのね」
キツネの娘が帰ろうとしたときに、枝の上から、ぽたぽたぽたと落ちてきて、目の前に積み重なった。
「あら、たくさんね」
キツネの娘は両手にいっぱいにフンをかかえて、うれしそうに森の穴にもどっていった。
穴の入り口で、木の葉っぱでフンをつつみ、指に少しとって、顔になすりつけた。
「今日のはいつもよりすべすべしていて気持ちがいいわ」
キツネの娘は一人ほほえんだ。
その頃、畑の梅の木の枝から、タヌキのこどもが降りてきた。
「あーすーっとした」
タヌキのこどもは昨日、クローバーの葉っぱをたくさん食べたから、だしてしまって気持ちが良くなったのだ。
キツネの娘はフンを塗り終えた。
「こんなにたくさんあるんじゃ、しばらくフンをとりにいかなくてもすみそうね」
葉っぱにくるんだフンを穴の脇の木の根元にしまった。そして、森の泉に遊びに出かけていった。
その途中、ハタネズミのおやじとタヌキのこどもにであった。
ハタネズミのおやじは
「キツネの娘さん、今日はまた、とても色が白いね、ウグイスのフンはよく効くんじゃね」
と言って、思わず鼻にしわを寄せた。なんとなくタヌキの匂いがしたからだ。
キツネの娘は、
「ありがとう」
と、うちまたで、しゃなりしゃなりと歩いていった。
それを見ていたタヌキのこどもが、
「気のもちようさ」
と、おとなびたことを言ったので、ネズミのおやじは目を丸くして、タヌキのこどもを見たのだよ。
ぼくはノラネコ
たくさんの家に囲まれた空き地で、十三匹のノラネコがたむろしていた。そいつらはねそべりながら、好き勝手なことを言っていた。
「まったくよ、近頃はうまいものがとれなくなっちまったな」
ノラ生活四年目の茶トラのネコが言うと、
「昔はサンマの骨なんか、うんざりするほど捨てられていたもんだ。今はごみ箱のふたがきつくて開けることができやしねえ」
薄汚れた白ネコがつぶやいた。
ノラになって六年目の白黒ぶちのネコは、
「ほんとだよ、ネズミもいなくなっちまった、ネズミ捕りの名人の俺なんざ、腕をもてあましてら、このあいだ、ゴキブリをおいまわしちまったよ。どぶにゃふたがある、家にゃ隙間がなくなって、畑にゃ農薬をまくやら、ネズミだって生きていけないさね」
大あくびだ。
「あにき、今日の飯はどうするんで」
自動車にぶつかって足を悪くした茶のトラネコが言った。
「どうするってなあ、いい狩場はないものかなあ」
真っ黒のデブネコはひげをひくひくさせてふてくれている。そいつがノラ生活八年目の大将なのだ。
しばらくたって、大将は思いついたように、つと立ち上がり、
「裏山にいってネズミ狩りでもしようかい、二匹や三匹のヤブネズミぐらいいるかもしれんな」
みんなに声をかけた。
「それもいいか」
ノラネコたちはのったり立ち上がった。
空き地から、ちょっと歩くと、裏山のふもとにでた。
「さあてはじめるぞ」
ノラネコたちは一列になって、木のまばらに生えた斜面のやぶの中を登り始めた。
しばらくすると声がした。
「一匹捕まえたぞ」
また、他のところで声がした。
「こっちも捕まえたぞ」
今日はなかなかいい調子だ
「二匹もいたぞ」
そうやって、頂上までくると、みんなかなりのネズミをくわえていた。
一匹のノラネコが少なくても二匹は捕まえていたんだ。彼らは意気揚揚と、空き地に戻ってきた。
弱った獲物のネズミたちは真中に集められた。
真っ黒デブネコは、
「こりゃごちそうだ」
満足そうにうなずいた。
ネコたちは、ネズミのまわりに腰をおろした。
ちょうどそこへ、薄紫色の大きなネコがやってきた。そのネコは、少しはなれたところで、顔を洗い始めた。
ノラネコの大将は声をかけた。
「よー、みなれないが、どこからきたんだ」
紫色のネコはちらっと大将を見たが、すぐからだをなめ始めた。
「そんなにきれいにしてどうすんだ、だが、いい日にきたもんだ、どうだい、ネズミを一匹やろうじゃないか」
大将は気が大きくなって言った。しかし紫色のネコは、ネズミをチラッと見ただけで、尾っぽをなめ続けた。
ネコの大将はちょっと気を悪くした。
「おい、新顔、あんたはノラネコじゃないな。飼いネコだろう。飼いネコならさっさとおうちに帰りな」
新顔は大将を見て言った。
「僕、ノラネコ」
それを聞いたノラネコたちは大笑いをした。
「おい、僕ちゃん、ノラネコならノラネコらしくネズミを捕まえてみろよ」
ノラネコの大将は、元気のいいネズミを一匹、新顔の前に放り出した。
新顔は飛び上がると、あとずさりをして、そうっとネズミのほうへ手を伸ばした。ネズミがキーッと歯をむき出すと、あわてて手を引っ込め、背中を丸めて、フーとうなった。
「うわはははははは、うわはははははは」
ノラネコたちは腹を抱えて笑った。
「ノラネコが聞いてあきれるぜ、なんだいそのへっぴり腰は、こうするんだ」
大将は、背を低くして、ネズミの尾っぽをすばやくくわえた。
新顔も飛び上がって、ネズミの尾っぽをくわえようとしたが、鼻の頭を土にこすりつけただけであった。
みんなはさらに大笑いさ。
「なんてこった、あんたはやっぱり飼いネコだ、それとも捨てられたばっかりかい」
「いや、僕はノラネコだよ」
薄紫色の新顔は繰り返した。ノラネコたちは笑い過ぎて涙を流した。
「そんなにお上品じゃ、ネズミも獲れないし、餌も見つけることができないぜ、それに、かわいい嫁さんも見つからないってことだよ」
「僕はノラネコだよ」
新顔はそれしか言わない。
「なんだい、まだ言っているのかい、どう見たって、お前さんは、飼いネコにしかみえないんだよ」
ノラネコの大将が念を押すと、それを聞いた新顔は、急に耳をおったてた。大将に向き合うとこう言ったんだ。
「おや、そう見えるかい、練習をしたかいがあったよ」
姿勢を低くすると、音もなく、ネズミをひょいと捕まえて、てきぱきと頭から食べてしまった。
そして、
「やー、ごちそうさん、これから、町の中に行って、誰かに飼ってもらうんさ、十年ちかくもノラネコをやってりゃ、いやになるさ、ヒトにうんと甘えてうまいもんをうんと食うんだ」
そう言うと、尾っぽをぴんとたてて、のどをごろごろいわせて、くにゃりくにゃりときどって歩いて行ってしまった。
あっけにとられていたノラネコたちは、
「本当のノラネコだ」
と、ため息をついたのだった。
子どもの世界
タヌキとキツネの母親が、森の道で立ち話をしていた。
タヌキの母親が言った。
「近頃うちのこどもがこんなことを言うんですよ、僕はキツネのほうがよかった、キツネはスマートだ、タヌキはころころしていてみっともない」
それを聞いたキツネの母親は、
「うちの子も言ってるんですよ、タヌキに生まれていりゃよかった、丸くてかわいらしくていい、キツネはつんとしていていやだ、なんてねえ」
タヌキの母親は丸っこい尾っぽを地面にたたきつけながら、
「どうしたらよろしいんでしょうね」
と、キツネにたずねた。キツネの母親は、
「なんでも反対してみたいときなんでしょう、大きくなってきた証拠ですわよ」
と、目を細めた。
タヌキの母親うなずいて、続けた。
「このあいだ、キツネに化ける方法を教えろ何て言うんですから」
「うちの子もタヌキに化けたいって言っていましたわ」
キツネの母親は尾っぽのダニをとりながら答えた。タヌキの母親も尾っぽのダニをつまんだ。
「頭の上に葉っぱをのせて、化けようとするんだけど、いったいだれにタヌキは化けることができるなんて教わったのかしら」
「それはねえ、ネズミのじいさんよ、あのじいさんは都会で見たことや聞いたことを、すぐ子どもたちに話しちゃうから」
「あら、そうだったの、こまったことねえ」
タヌキとキツネの母親は日が暮れてきたのに気がついた。
「こどもたちも、そろそろ獲物の捕まえ方くらい覚えなければいけないのにね、あのネズミのじいさんなんて、格好の餌なのに一緒に遊んでいるんだから、しょうがないわ」
と、キツネの母親が言うと、タヌキも相槌を打った。
「ほんとにねえ、ところで、今日の食事はなにになさるの」
タヌキがきくと、キツネは、
「カエルよ」と、答えた。
「うちはまだ決めてないの、あのネズミのじいさん食べちゃおうかしら」
タヌキの母親は笑顔で言った。
キツネは
「でも、骨っぽくて、おいしくないでしょう」
と、答えた。
「それもそうね、どこかで、卵でもとっていきましょう。たしか、ヤマバトが卵を産んでいたわ」
タヌキが言うと、キツネは、
「ええ、でも昨日、私たちが食べちゃった」
おいしかったといわんばかりに微笑んだ。
「しかたがないわね、カタツムリでもつかまえましょうか」
「そろそろ、子どもたちをむかえに行きましょう」
タヌキとキツネの母親は野原の脇を流れる小川へむかった。
タヌキとキツネの子どもは川べりで泥んこになっていた。
母親たちは子どもたちに声をかけた。
「帰る時間ですよ」
母親に気づくと、タヌキの子どもはドロのこびりついた黒い尾っぽを振りながら、
「まだ遊んでるよ」
と、キツネのように口をとんがらせた。
キツネの子どもも泥のついた茶色の尾っぽを振って、タヌキのように目を真ん丸くして、
「タヌキ君と遊びたいよ」
と、ひげをひくひくさせた。
タヌキの母親は子どもの黒い尾っぽをつかまえると、森の穴ぐらに引きずっていった。
キツネの母親も、子どもの茶色の尾っぽをつかむと、森の穴ぐらにつれて帰った。
もう寝る時間になった。
タヌキの母親が子どもに寝なさいと声をかけた。
タヌキの子どもは素直に葉っぱの寝床で横になった。
母親は今日はやけに素直ね、と思って、自分も寝床に入った。
キツネの母親も子どもに寝なさいと言っていた。
やっぱり、キツネの子どもも素直に、葉っぱの寝床に横になった。
キツネの母親はよく遊んだからかしら、と不思議に思いながら、自分も寝床にはいった。
夜もふけ、フクロウの鳴き声が遠くに聞こえるようになった。
タヌキの子どもが顔をあげた。みなが寝静まったことを確認すると、黒い尾っぽをあげて穴から出てきた。
キツネの子どもも音を立てないように起き上がった。茶色の尾っぽをあげて、そろりそろりと穴から出てきた。
満月の光に照らされて、道をてくてくと歩いて、小川にやってきた。
タヌキの子と、キツネの子は顔を会わせると、やあ、と尾を振り、小川のせせらぎに尻尾をたらした。
タヌキの黒い尾っぽは水に洗われ茶色くなった。
キツネの茶色の尾っぽは水に洗われると黒くなった。
タヌキの子どもは膨らめていた顔をしゅっとすぼめた。
キツネの子どもは細くしていた顔を思い切り膨らめた。
タヌキの子どもはキツネの子どもにもどり、キツネの子どもはタヌキの子どもにもどったのだ。
もとにもどったタヌキの子どもはキツネの子どもに聞いた。
「今日の夕ご飯は何だった」
もとに戻ったキツネの子どもは答えた。
「サツマイモさあ、そっちは何だった」
もとにもどったタヌキの子どもは言った。
「やっぱりサツマイモだったよ」
「そうかあ、なかなか虫やカエルはとれないよな、それじゃあな」
「じゃあな、お休み、明日また遊ぼう」
二匹は本当のすみかに戻っていった。
子どもはばけることができるんだ。でも、大人になるとできなくなるのさ。
しかも大人になると子どものころを忘れちまうんだ。
体質だけじゃないね
朝と昼と夕と山のふもとを走っているウマがいた。ウマは雨がふろうが、風が吹こうが、走っていた。そうやって自分を鍛えていたので、ウマの足の筋肉はもりあがり、みんながほれぼれするほどだった。
一匹のブタがそんなウマをうらやましげに見ていた。
ある日、ブタ小屋でブタがため息をつきながら、半分ネズミがかじってしまったジャガイモを食べていると、クモが天井からぶら下がって降りてきた。
「どうしたんだい」
クモはブタに声をかけた。
ブタは上目遣いに答えた。
「俺もあんなに引き締まってみたい、たくましくなりたい」
「それじゃあ、あのウマと一緒に、毎日走るかい」
クモはからだをちょっと動かすにもふうふう言っているブタに、そんなことはできるはずはないと思いながらも、言ってみたんだ。
ところが、あくる日になると、ブタはウマの後をどっこらどっこらと走り始めた。
最初は、ウマが山のすそを一周してきても、ブタはほんの少ししか進んでいなかった。
一月たった。
ウマが一周してくると、ブタはだいぶ先のほうに進んでいた。
「だいぶ走れるようになったね」
ウマに言われて、ブタは筋肉がついてきたなと思った。
クモもブタに言った。
「立派になったね」
「そうかい」
「ずいぶん大きくなったね」
「そうかい」
ブタはますますからだを鍛えた。水泳もしたし、棒高跳びまで挑戦したんだ。
そんなある日、ウマが風邪をひいて、走ることを休んだ。
ブタは寝込んでしまったウマを横目にせっせと走った。
ウマは高い熱を出し、三日たっても熱が下がらなかった。
一走りしてきたブタはウマに言った。
「はやくよくなるといいですね」
ウマはか細い声で言った。
「どうもありがとう、こんなにやせちまいましたよ、ブタ君も風邪をひかないようにね、とっても悪い風邪のようですよ」
ブタは、
「やせる分には一向にかまいませんよ、うらやましいくらいだ」
と、また、走りにでていった。ブタは本気でぎろぎろにやせてみたいと思っていたんだ。
その日の夕方、走り終えて小屋に帰ったブタはなんとなく熱っぽく、からだがだるいと思った。風邪をひいたのだ。
ブタはくしゃみをすると横になった。
次の日になると、ブタは熱がひどくて起き上がれなかった。うなされながら、これで、いっぺんにやせることができるんだ、と自分のやせたからだを思い描いた。
ブタは熱がひどくなるにつれ、お腹がすいてきた。ブタは横になったまま、サツマイモをもぐもぐかじった。
ブタの風邪も三日以上続いた。
ブタが外を見ると、ウマが勢いよく走っていた。ウマは筋肉が引き締まり、もとのように格好よくなっていた。
ブタも熱が下がり、走る気が出てきた。よっこらしょと立ち上がって、ずいぶんやせたことだろうと自分のからだを眺めた。
「む!」
ブタは目を吊り上げた、自分のおしりが小屋いっぱいに広がって、ぶよんぶよんとしていたのだ。おまけに、くるっと丸まった尾っぽなぞはまるでゴムホースみたいだった。
ブタはため息をつくと、小屋の地べたにぺたんとはいつくばってしまった。
そこへクモが天井から糸につり下がって降りてきて言った。
「生まれながらの体質さ。風邪をひいても食欲があるなんてね」
ブタはクモをにらみつけた。
そして、よだれをたらしながらまた眠ってしまった。
みんな夢だったのだ。
これが運命なんだよ
お花畑のイモムシは、チューリップの葉っぱの陰からはいだしてきて、いつものように真っ赤な花の中にもぐりこんだ。奥のほうに入ると、くるりと向き返り、小さく縮こまって、外の様子をうかがった。
ハナムグリが蜜を吸いに赤い花にやってきた。
ハナムグリは花粉だらけになりながら、花の奥に転がり込んだ。
乱暴者のイモムシはそりゃっとばかり、ハナムグリの下にもぐりこみ、背中の毛でちくちくさした。
「いたたたた」
ハナムグリはあわてて花の外にでると、羽を広げて飛んでいった。
「弱虫め」
イモムシはケタケタ笑って、次の獲物がくるのを待った。
そこにミツバチが飛んできた。イモムシはどんなやつともけんかをする。
イモムシは花の入口にでてきて、ミツバチの前に立ちはだかった。
「入るんじゃない」
ミツバチも負けてはいない。
「花はお前だけのものじゃない。だれだって蜜を吸うことができるんだ」
ミツバチはイモムシにお尻を振り上げた。そこには恐ろしい針があるんだ。
イモムシは針をよけて、ミツバチの胴体に巻きつくと、ぎゅうとしめつけた。
「くるしいい」
さすがのミツバチももがいた。それでもなんとかイモムシを振りほどくと、飛んで逃げていった。
「弱虫」
イモムシは笑いながら、花の奥に入っていった。
しばらくすると、白いチョウチョが花に止まった。チョウチョは口の長い管を花の奥に差し込んだ。それっとばかり花の奥にいたイモムシはチョウチョの口をかみきってしまった。口のなくなったチョウチョはもう蜜を吸うことができなくなった。だから、死んでしまったのさ。
こんどは黄色のチョウチョがやってきた。イモムシは花の外にでると、チョウチョに自分のからだをこすりつけた。チョウチョの羽から鱗粉がはがれて飛び散ってしまった。鱗粉がないと飛べなくなる。黄色いチョウチョは花から落ちて死んでしまった。
イモムシは鱗粉をからだにまぶし、黄色くなって遊んだ。
こうやって、イモムシは花にくる虫たちをいじめていた。
ある日、一匹のシジミチョウがやってきた。イモムシはシジミチョウの口をちょん切り、鱗粉をはがしてしまい、しまいにむしゃむしゃと食べてしまった。
お腹いっぱいのイモムシは花からでると、葉の陰で昼寝をはじめた。
日が暮れて朝になるとイモムシはサナギになっていた。でもそんなこと気がつかないで寝ていた。
また日が暮れて朝になった。いく日も寝ていたイモムシはやっと目を覚ました。
「よくねたなあ、おや」
あくびをしながら、自分が何かの中に入っているのに気がついた。さなぎになっていたんだ。
イモムシは思い切ってからだを膨らませた。サナギの背中が破れて、からだがそとにでてきた。
「お日様の光だ、いいなあ」
自分のからだを見ると、口には長い管がはえ、背中には黒い鱗粉のついた羽がついていた。イモムシは驚いた。
「おれがチョウチョになってしまった」
イモムシはか弱いチョウチョになっちまったことをなげいた。
羽をうごかした。するとよたよたと空の上にまいあがった。
空も気持ちがいいな、とおもいながら、チョウチョになったイモムシはお花畑の上を飛び回った。
しばらく空を飛んでいるとお腹がすいてきた。
いい香りがしてきた。
下を見ると赤い花が大きく開いていた。その中に蜜がたっぷりあるんだ。
チョウチョになったイモムシは花の上に降りた。
蜜を吸おうと長い口を花の奥に差し込もうとした。そのとき、はっと、からだをふるわせた。
俺みたいなイモムシが中にいるかもしれない。いたら口をちょんぎられちまう。
チョウチョになったイモムシは赤い花をやめて黄色い花に移った。でも震えて口の先がうまく花に差し込めなかった。中にイモムシがいないか覗いたが、背中の羽がじゃましてできなかった。
チョウチョになったばかりのイモムシはお腹がすきすぎて、めまいを起こし、土の上に落ちてしまった。
たくさんのアリがチョウチョによってきた。アリはみんなして、チョウチョを引っ張っていった。
一匹のアリが言った。
「イモムシはチョウチョになる運命なんだよ」
まわりのアリたちもうなずいた。
イモムシはせっかくきれいなチョウチョになったのに、アリに食べられてしまった。
自分のからだを知りなさい
森の動物たちはスカンクを半分怖がって、半分尊敬していた。
それというのも、とてもくさい、想像もつかないガスを放出する。だけど、その匂いで悪いやつをおいはらってくれる。
ガスをかけられたやつは、一週間ものあいだ、苦しまねばならない。
スカンクは森のはずれの野イチゴ畑の近くに住んでいた。
野イチゴを一人占めにしているわけじゃないよ。甘酸っぱくって、とても香りのいいおいしい野イチゴを、森の動物たちに公平に配るように見張っているのだよ。スカンクがいないと、ちょっと強いイタチやキツネは、それこそ一人でみんな食べてしまうんだ。リスやネズミやウサギが食べることができなくなってしまう。
面白くないのはイタチだった。イタチはスカンクの仲間で、くさいガスをだすと思われていたのだが、実はそんなにすごい特技はもちあわせていないんだ。
スカンクがみんなにちやほやされているのを見ると、いつもしゃくにさわってしかたなかった。いつかスカンクをやっつけて、思う存分野イチゴを食ってやろうとねらっていた。
イタチは考えた。
スカンクのやつはガスが怖いだけだ。それをとめてしまえば怖くない。ガスをださせなくさせればいいんだ。
イタチは自分の穴ぐらに寝ころんで計画をねった。
スカンクのおしりに栓をすることはむずかしい。もっと臭いガスをふっかけてやりたいが、スカンクのガスより臭いものは森の中にはありゃしない。
イタチは、ふと、小川のほとりで草をはんでいたヤギじいさんの言っていたことを思いだした。
「近ごろ、べんぴぎみでな、屁も出ないのさ」
イタチはそうかと思った。
スカンクをべんぴにさせてしまえばいい。
思い立ったイタチは起き上がると、ヤギに会いに出かけた。
ヤギはあいかわらず小川のほとりで草を食べていた。
ヤギじいさんはイタチに気がつくと言った。
「おや、イタチの悪坊主、なんだい」
イタチはたずねた。
「べんぴはなおったかね」
「もうだいじょうぶさ、このように草がうまい」
とヤギじいさんは草を口いっぱいにほおばった。もぐもぐかみながら、イタチがいつもと違って、やけになれなれしいので、気味悪く思った。
「どうして、べんぴになったんだい」
イタチがたずねると、ヤギじいさんは、
「よくわからんがね、クローバの食いすぎか、運動不足か、そうだ、サツマイモをタヌキのおっさんからもらって、たくさん食べたからかもしれん」
と言った。
しめたこれだ、と思ったイタチは、
「そうなのかい、またならないように気をつけてな」
とサツマイモ畑に走っていった。
ヤギじいさんは、イタチがなにかたくらんどるなと思って見送った。
イタチは畑でサツマイモをせっせと掘り起こし、すみかに運んだ。
夕方になった。イタチはきれいに洗ったサツマイモをもって、スカンクのいる野イチゴ畑にやってきた。
スカンクは夕ご飯に行くしたくをしているところだった。
スカンクはイタチに気づくと言った。
「おや、どうしたのかね、そんなにたくさんのサツマイモをもって」
イタチは、
「やまもりもらったんでね、おすそわけにもってきたんだよ」
「そうかい、ちょうど、夕飯を探しにいこうと思っていたんだ」
スカンクはそうはいったが、野菜をあまり食べない。虫やカエルを食べている。
だけど、人の好意を無にするのはよくない。
スカンクは、すなおにありがとうと受け取った。
イタチは「いいんだ、いいんだ、たべてくれ」とすみかにもどった。
スカンクは懸命にサツマイモを食べた。食べ切れなくて、次の日の朝も昼も食べて、やっとなくなった。
そのせいで、スカンクは便秘になってしまった。
こりゃちょっと食いすぎたかい、と野イチゴ畑の切り株によりかかり、おなかをさすっていた。
スカンクが便秘になったことは、すぐ森中に知れわたった。
イタチはそれを聞くと、一人ほくそえんだわけだ。
夜もふけた。
イタチは穴ぐらを抜け出し、足音をしのばせて、野イチゴ畑に急いだ。
野イチゴ畑についたイタチは、野イチゴに食らいついた。うまいうまいと、腹いっぱい食った。おまけに他のやつには食わさないぞと、イチゴを踏み始めた。
そのとき、便秘で寝つきの悪かったスカンクが、物音に気づいて木の洞から出てきた。
なんと、イタチがイチゴを踏もうとしている。
スカンクはあわてて、なにをする、と大声を上げて、イタチのところに駆け寄った。
イタチは便秘のスカンクなんて怖くはない、とそしらぬ顔でイチゴを踏みつぶした。
すると、スカンクはいつものように、ふさふさ尾っぽをおったてて、
ぽーん
と、森中に響くような大きな音とともに、はげしいやつを放った。
イタチは、目を丸くして、あまりに臭い匂いに、のたうちまわり、腰を抜かしてしまった。
「こんなはずじゃなかったのに」
涙声でイタチがつぶやいた。
スカンクは
「俺のガスは屁じゃないんだぞ、屁は肛門から、ガスは肛門腺からだすもんだ」
そういって高らかに笑った。しかも、ガスを放ったおかげで、トイレに行きたくなり、川の流れにたんと出してさっぱりしたという。
一方、スカンクのガスにあたってあまりにも緊張したイタチは、ストレス性の便秘が一週間も続いたんだ。
やっと便秘が直りそうだと思ったとき、イタチは自分の穴ぐらで屁をひった。
その屁たるや臭いこと臭いこと、あまりにも臭くて、イタチは穴からはいだした。
その臭さたるやスカンクのガスどころではなかったということだよ。
通りかかったタヌキのじいさんが、
「自分のからだを知らなきゃだめだよ」
と、巣の入口で涙ぐんでいるイタチに声をかけたそうだ。
ハチの巣は気をつけなさい
サルの子が山から野原にやってきた。
山から出るのははじめてなんだ。
広い野原にはそれは色とりどりの花が咲いていてきれいだ。
サルの子は目をきょろきょろさせてはしゃぎまわった。
草むらから、大きな茶色のかたまりがもこっとはえていた。
キノコのようにも見える。でも山の上ではこんなキノコ見たこともなかった。
これがハチの巣かな。
サルの子は考えた。なぜかって、野原に行くってかあさんに言ったら、
「ハチの巣には気をつけなさい」って、しっかり注意されたからだ。
でもこの茶色のかたまりにはハチは一匹もいなかった。
サルの子はけっとばしてみた。
キノコから茶色い煙がぱーっとたった。しかも、とてもいい匂いがした。
「やっぱりキノコだ、おいしそう」
サルの子はキノコをむしると少しかじった。
とってもおいしかった。
サルの子は茶色のキノコを食べたのでのどがかわいた。
野原を歩いていくと、小川があった。
きれいな水だ。
川辺に下り流れに口をつけた。おいしいな、
そこへクマの子がやってきた。
「やー、水をのみにきたのかい」
サルの子は顔を上げ、クマの子に言った。
クマの子はサルの子をちらっとみただけで、川の中にざぶざぶ入っていった。
クマの子は水の中に手をつっこむと、ばしゃっと、魚を跳ね上げ、川辺に放りなげた。
おもしろそうだ、サルの子も、水の中に入ると、クマのまねをした。
水の中をのぞき込み、手を伸ばして魚に手を伸ばした。でも魚はすいっと逃げてしまう。
クマの子は川辺に上がると、つかまえた魚を食べ始めた。
サルの子がみていると、クマの子は魚を一匹ほうってくれた。
サルの子はうまく受け取って、ありがとうと魚を食べようとしたら、魚がぎょろりとにらみ、ぴょんとからだをひねった。
魚はするりと手からはなれ、川の中に落ちてしまった。
プーンと手が魚くさかった。
クマの子は、魚を食べてしまうと、川辺から野原に向かって歩き始めた。
サルの子も後をついていった。
野原の真中に大きな木が生えていた。とても古い木で、太い根っこが伸びている。
クマの子は根っこの間を掘り始めた。
「なにしてるの」
サルの子が聞くと、クマの子がとってもうれしそうに答えた。
「ハチの巣ができていたんだ、このあいだ来たときはなかったんだよ」
「ハチの巣はあぶないよ」
サルの子はお母さんに言われたことを思い出して、後にさがった。
クマの子はけんめいに前足で掘った。
ぱっぱと土をかき出していくと、とうとうハチの巣があらわれた。
そのとたん、ハチがたくさん飛び出して、クマの周りをぶんぶん舞った。
「あぶないよ、刺されるよ」
サルの子は大声で叫んだ。
クマの子はどっかと座ると、おかまいなしにハチの巣をこわし、巣のかけらをとりだした。
それを手にもつと、ぎゅっとしぼった。
金色のハチミツがじゅうっとでてきて、クマの手からしたたりおちた。
クマの子はそれを口に受けた。
ハチミツをなめてしまうと、食べ終わった巣のかけらを後ろに放り投げた。
サルの子は拾ってちょっとなめてみた。
それはそれは甘くておいしい。
クマの子は舌なめずりをして、また巣のかけらを取り出した。
ぎゅっと絞ると、とろりと金色のハチミツがたれ、口に受けた。
クマの子が振り向いて、にこにこすると、サルの子にいった。
「食べないのかい」
離れてみていたサルの子はクマの子に近づいた。
「ハチが怖くないのかい」
クマの子は何も言わなかったが、手をハチミツだらけにして、少しだけうなずいた。
サルの子たまらなくなってきた。
「僕も食べていいかい」
クマの子ははっきりとうなずいた。
クマの子はまた巣の中に手を突っ込んで、巣をもぎ取った。
甘い匂いがただよった。
サルの子はとうとう、クマの子の脇から腕を伸ばすと、ハチの巣に手を突っ込んだ。
残っていたハチがわっと飛び立った。
ハチたちは、サルの子めがけておそってきた。
サルの子の尻が刺されて真っ赤に膨れてくる。
サルの子はあまりの痛さにキュウーンと気を失ってしまったんだ。
どのくらいたったんだろう。
「だいじょうぶかい」
クマの声でサルの子は目をあけた。
目の前には大きな黒いかたまりがあった。
それはクマの子のおしりだった。
クマの子が振り返ってサルの子を見ていた。
「起き上がれるかい」
サルの子はなるほどと思いながら立ち上がった。
クマのおしりには、黒いごわごわの毛がわんさかとはえていたのだ。
サルの子は、自分のお尻をなでた。つるんとしていて、しかも真っ赤だった。
ハチに刺されて大きく膨らんでいる。鼻の頭も刺され膨らんでしまった。痛いったらありゃしない。
「君はごわごわの毛があるから、ハチに刺されないんだね」
クマの子はだまってうなずくと、
「おみやげにもっていきなよ」
とハチミツのたっぷり入ったハチの巣のかけらをサルの子にさしだした。
サルの子は喜んで、
「ありがとう、またくるね」
そう言って家に戻った。
かあさんにおみやげをさしだして、クマの子とハチミツをとったらハチに刺されたことを言った。
「ハチの巣はさわったらいけないと言ったでしょ、でもいいお友達ができてよかったね」
母さんは微笑んでそう言った。
「ごわごわの毛がなくてもハチミツはとれますよ、おおきくなったら工夫してハチミツをたっぷり食べなさい」
とも言ったんだ。
お墓の中は真っ暗け
モグラのおやじは明るいところが大きらいだ。
ちょっと光に当たると、目にものもらいをつくってしまった。
それだけじゃないよ、明るいと眠れなくて、ぼーっとしてくるんだ。
春になり、陽の光がつよくなってくると、土の中も明るくなる。
なんだかこのごろ睡眠不足だ。
モグラはサツマイモ畑の土の中で、サツマイモの根っこにかこまれて考えていた。
真っ暗なところでぐっすり眠りたいもんだ。
そこにオケラが顔を出した。モグラを見るとぶるっと身震いをした。食われるといけない。
「やあ、モグラのだんな、何かお考えで」
モグラは、こりゃ、いいものが顔を出した、うまそうだ、と口を突き出した。
オケラはひょいと顔を縮めると、胸をなでおろして言った。
「ちょいと、おまちくださいよ、モグラのだんな、あっしを食べてもうまくもなんでもないんで、ミミズでも探してくださいよ」
オケラが逃げようとすると、モグラは、
「どこからきたんだ」
と、聞いた。
オケラは、
「この下でさ、ミミズもいるし、暗いし、だんなむきですぜ」
というと、オケラかきをして、土の中を上に向かってにげていった。
モグラはもそもそと、下のほうに土を掘っていった。しかし、いっこうに暗くならないし、ミミズにも出会わなかった。しょうがないので、横に穴を掘り始めた。
しばらく掘っていくとミミズにであった。ミミズは太っていてうまそうだ。
モグラは大きく口を開けた。
ミミズはギョッとして身をよじってにげだした。
モグラは「暗いところを知らないか」と、言いながら追いかけた。
ミミズは、
「森を越えた、丘の中腹のお墓の中は真っ暗け」
といいながら、地上に向かって逃げた。
モグラはそれを聞くとたちどまった。
おかげでミミズは助かった。
森を越えていかなきゃならんのか、モグラは意を決して、穴を掘り始めた。
途中で夜になった。
モグラは土の中からちょいと顔出した。森の脇だ。
見上げると、月が煌々と輝き、星がちかちかしている。
「夜もまぶしいもんだ」そう言って顔をひっこめた。
森のフクロウがモグラの鼻が土から出ているのを見つけた。
そばに降りて来ると言った。
「モグラのだんな、こんなところに鼻出してどうしたんだい」
「暗いところを探しているんだ」
モグラは答えた。
「私も暗いのが大好きでね、昼間は木の洞穴で寝ているんだが、どこか暗いところがないかね」
そういい終わると、フクロウはニコニコしながら一歩だけモグラに近づいた。
「近ごろ、年をとって、目が悪くなってね」
と、また一歩近づいた。
「くしゅん、おかしい、風邪でもひいたかな」
と、また近づいた。
「モグラのだんな、穴から出てこないかい、意外と森も暗いよ」
フクロウが言った時、モグラは背筋がぞくっとした。鼻をひょいと引っ込め、見上げると、そこにはフクロウのくちばしが突き出されていた。
フクロウのよだれが、ぽたんとモグラの鼻の上に落ちてきた。
フクロウは大きな片目を穴にくっつけて言った。
「モグラのだんなのすみかを覗いてみたかったんだよ、ずいぶん暗くて、すみごこちがよさそうだな」
モグラは
「なに、まけおしみいってるんだ」
小声でつぶやくと、土の塊を、フクロウの目玉に吹っかけた。おかげで、フクロウの片目にものもらいができた。
モグラのだんなはお墓を目指して、せっせと穴を掘りつづけた。
地上では太陽が昇りはじめた。
その頃、やっと墓場についた。
お墓にもぐりこんだモグラは思った。
お墓の中はたしかに暗いな、でも落ち着かないのはどうしてだろう。
お墓の中のかびの匂いはモグラにとっても気持ちのよいものではなかった。石がたくさん埋まっているのもモグラにとって歩きにくいものであった。おまけに、ヒトの骸骨まである。
モグラはのびをしながら、お墓の中に響きわたる声でどなった。
「もっと暗くなあれ、暗くなーれ」
お墓の中の地虫が言った。
「うるさい、だれだ、静かにしろ」
モグラは口答えした地虫を食べてしまおうと、辺りを見回した。
うじ虫がモグラの鼻先に顔を出してしまった。モグラと目を合わせた。
「ひゃあ、ついていない」
うじ虫はとても小さな目をぱちぱちさせ、
「タベナイデチョウダイ」
と冷や汗を流した。
モグラは、自分の鼻くらいの大きさのうじ虫が、芥子粒くらいの目から涙を流しているのを見て、
「そうか」
と叫んだ。そうしてうじ虫は食べられずにすんだのだ。
モグラのだんなは自分にもちっちゃいけど目があるんだということを思い出したんだ。生まれてこのかたモグラは目をあけっ放しでいたのだ。そこでモグラは自分の目をつむってみたんだ。そうしたら、お墓の中がもっと暗くなったんだ。
おまけに、モグラったら、ウインクすることまでおぼえちゃってさ。
うじ虫はそれを見て、気味が悪い、ともっと身震いをしたんだ。
お墓の中は真っ暗け、さ。
ところが、モグラのだんなは畑にもどっちまった。
お墓の中じゃ鼻がもぞもぞして眠れなかったからだ。
今はサツマイモの根っこに囲まれている。
モグラのおやじは目をつむった。
真っ暗さ、それでゆっくり眠ることができる。
そりゃそうさ、ヒトの骸骨よりゃ、サツマイモのほうがいい匂いだよ。
真っ暗だけじゃだめなんだ。
土地の人の言うことを聞くものだよ
真夏のある日、砂漠にすんでいる大きな鳥が、はるばる遠くの森にやってきた。
新しもの好きの、カラスのかみさんは木から降りると、砂漠の鳥が舞いおりた切り株の脇にやってきた。
「でっかい鳥だね、あんたさんの卵はさぞ大きいことだろうね」
砂漠の鳥は答えた。
「あんたの卵の百倍はあるだろうさ」
カラスのかみさんは言った。
「ほー、でっかいねえ、そんなにでっかい卵だと、子どもはさぞ大きいだろうね」
「そりゃ、そうさね」
砂漠の鳥は答えた。
カラスのかみさんは見てみたくなった。
「どうだい、ここで産めるかい、ほんとかどうかみせてほしいね」
砂漠の鳥は、
「ここで産んでもだいじょうぶかね」
カラスのかみさんにたずねると、カラスのかみさんは、
「卵の温めかたを知ってりゃだいじょうぶさ」
と答えた。
砂漠の大きな鳥はふんばると、森の草むらにごろんとほかほかの卵を産んだ。
大きな切り株ほどもある卵だった。
「こりゃ、たしかに、大きいねえ」
カラスのかみさんは、大きな卵の上に乗ると、暖めようと座り込んだ。
砂漠の鳥はそれを見ると、長い首を回してカラスを追い払った。そして、
「何するんだい、お天道様が暖めてくれるんだよ、じゃましないでおくれ」
とどなった。
カラスのかみさんは木の上に飛び上がり、首をかしげていたが、やがて砂漠の鳥の言っていることに気づいた。
カラスのかみさんは言った。
「でっかい鳥さん、砂漠じゃ、いつもこうやって、卵を産みっぱなしかい」
砂漠の鳥はうなずいた。
「ああ、そうだよ、卵どろぼうをみはってりゃいいんさ」
カラスのかみさんは、
「ふん、気楽なもんだね」
と、それ以上何も言わなかった。
やがて夜になり、あたりが少し涼しくなった。
砂漠の鳥はカラスに言った。
「これじゃ卵が冷えちまうよ、どうしたらいいかね」
「さあね」
意地悪なカラスのかみさんは鼻をならした。そして、
「鳥なのに卵の温め方も知らないのかい」
と、言った。
「どうしようかね」
砂漠の鳥が、おろおろして、カラスのまねをして、卵の上にすわったが、卵はどんどん冷えていった。そしてとうとう、かえることができないほど冷たくなってしまった。
「あーあ、だめになっちまった。森はいやだよ、砂漠がいいね、暖かくてさ」
大きな鳥は涙をこぼした。
「朝になったら帰ろう」
砂漠の鳥が言った。
カラスのかみさんは砂漠の鳥に尋ねた。
「砂漠は遠いのかい」
「遠いが、一週間で行くことができるさ」
砂漠の鳥は答えた。
「行けないことはないね」
新しもの好きのカラスは、ちょっと目を輝かせた。砂漠にいってきたことを森のみんなに自慢したかったからだ。
「私もいっていいかね」
カラスのかみさんが言うと、
「そりゃかまわないけど、ここよりずっと熱いんだよ」
砂漠の鳥は言った。
「砂漠に卵を産ませて、ゆで卵をつくらせたりしないだろうね」
カラスのかみさんが、ずけずけ言うと、
砂漠の鳥は、
「そんなことしないさ、卵を産まなけりゃいいのさ」
と答えた。
カラスのかみさんはそれもそうだと思い、一緒に行くことにした。
日が昇るとともに、二羽はお日様に向かってとんでいった。
砂漠までやってきたカラスのかみさんは、
「なるほど、夜だっていうのに熱いね」
翼をばたばたしてからだをあおいだ。
「これじゃ卵を産めないね、ほんとうにあっという間にうだっちまう」
朝日が昇りはじめた。
あたり一面、砂だけしかない砂漠はまぶしくなってきた。
砂漠の鳥が言った。
「これからもっと熱くなるよ」
「そりゃ大変だね」
カラスもうなずいた。
「あの卵をここで産んでおきゃ、今ごろかわいい子が顔を出していたろうにね」
砂漠の鳥は思い出して涙を流した。
「そうだね、残念さね」
カラスのかみさんは適当に相槌をうった。
太陽が空の上にだんだん昇ってくると、大きな鳥がカラスの前に立ちはだかった。
「私の影にはいって、ついておいで、でないと、熱くなるよ」
「そうかね」
カラスのかみさんはうなずいた。しかし、大きな鳥の陰で歩かなければならないのは少しばかりしゃくにさわった。目立ちたがりやなのだ。
大きな鳥が言った。
「どうだね、砂も焼けるようにあついだろう」
「たいしたことはないね」
カラスのかみさんは砂の上を、ちょんちょんと飛び跳ねた。
「空の上から広い砂漠を見たいね」
それを聞いた、大きな鳥は首を横にふった。
「よしたほうがいいよ、空の上は熱いよ、夕方にしなよ」
にもかかわらず、カラスのかみさんは、
「だいじょうぶさね、ちょっとだけだよ」
そう言って、ばさばさと舞い上がった。
太陽の輝く空の上へ昇っていくと、カラスの目がかすんできた。
「おりといで」
大きな鳥が大きな声をかけたときには間に合わなかった。
カラスはのぼせあがって、翼の動きを止めると、しゅーっと落っこちてきた。
そして、砂にめり込んで死んでしまった。
大きな鳥は言った。
「その土地にすんでいる者の言うことは、よく聞かなきゃね」
砂をかぶったカラスから湯気が立っている。
「黒い鳥は砂漠にはむかないよ、ゆで卵じゃなくて、黒鳥の蒸し焼きができちまったじゃないか」
大きな鳥は、太陽に向かって飛んでいった。
何がどうなっているのやら
森のシイの木の下で、タヌキの子どもが昼寝をはじめた。
その前をネズミが一匹いきおいよく走り抜けていった。
ちょっとばかりびっくりしたタヌキの子どもは薄目をあけた。
そのときイタチが走ってきた。
タヌキの子どもは声をかけた。
「何してるんだい」
イタチはふりむくと、
「決まってら、ネズミを食っちまうんだ」
そう言って、ネズミのあとを追いかけて行った。
タヌキの子どもがもうひと寝入りしようと、丸まって目をつむった。
そこへキツネが走りこんできた。
タヌキの子どもは目を開け言った。
「何しに行くんだい」
キツネはふさふさの尾っぽをなびかせながら言った。
「イタチを追いかけているんだ、食っちまうんだ」
「どうしてイタチを食べるのさ」
タヌキの子どもはきいた。
そんなに走らなくてもニワトリの卵なら簡単に盗めるのにと思ったのだ。
「たまにはイタチを食べたくなるのさ」
キツネは風のようにとんで行っちまった。
その声で、イタチは後ろからキツネがくることに気がついた。
今度はイノシシが牙をむき出して、どしどしと走ってきた。
あまりの勢いにびっくりしたタヌキの子どもは言った。
「どうしたのイノシシおじさん」
イノシシは鼻息荒く答えた。
「あのキツネはわしの鼻の穴をくすぐっていきおったのじゃ、だから、牙で小突いてやるんだ」
キツネの尾っぽが風になびいて、イノシシの鼻の穴にはいったんだ。くしゃみがでたイノシシはかんしゃくを起こして追いかけているんだ。
その声で、キツネはイノシシが後ろからかけてくることに気がついた。
イノシシは土をまきあげて、キツネを追いかけていった。
タヌキの子どもは、昼寝の続きをしようと、また丸くなった。
すると、今度はシマウマが足音をたてて走ってきた。
それでタヌキの子どもは目が開いた。
なぜ森にシマウマがいるのか不思議な気がしてきいた。
「どうしてここにいるの」
「イノシシのやつだ。森の泉に遊びに来ていたおれに、砂埃をぶっかけていきやがった。せっかく手入れした毛がだいなしだ。イノシシをけっ飛ばしてやる」
シマウマはそう言ってパカパカとんでいった。
その音でイノシシは後ろから来るシマウマに気がついた。
まったく、昼寝もろくにできやしない、とタヌキの子どもがぶつぶつ言っていると、ライオンがたてがみをなびかせて走ってきた。
「シマウマ食おう、シマウマを食おう」
鼻歌を歌いながらシマウマを追いかけて行った。
変な歌が聞こえ、シマウマはライオンに追われていることに気がついた。
「わーたいへん、でもこれで終わりだろうな」
タヌキの子どもがつぶやいたとき、ネズミが矢のような速さで走ってきた。
最初に来たネズミだ。
「イタチがくる、イタチがくる」
必死に走っていった。
続いて、イタチが飛んできて、
「キツネがくる、キツネがくる」
ネズミのことなど忘れ、夢中になって逃げていった。
その後を追ってきたキツネは、
「イノシシがくる、イノシシがくる、あの牙は痛いぞ」
イタチのことなど頭になかった。
すぐやってきたイノシシは、キツネのことなどまったく忘れてしまい、
「シマウマがくる、シマウマがくる、けっ飛ばされたらたいへんだ」
どんどん逃げていった。
そのあとにシマウマが、
「ライオンがくる、ライオンがくる、食われちまう」
イノシシのことなど忘れて逃げていった。
そこへライオンが顔色をかえて走ってきた。
「怖いものがくる、怖いものがくる」
シマウマのことなどまったく忘れている。
タヌキの子どもが、ライオンのあとになにがくるのだろうと、目を凝らしていると、ライオンのすぐ後ろから、さっきのネズミが、
「怖い怖いものがくる」
大声で叫びながら走ってきた。
そして、タヌキの見ている目の前で、ライオンに追いつき、無我夢中でライオンの尾っぽにかみついた。
ライオンはぎっくとすると、
「キュイーン」
とうなって、その場にたおれて死んでしまった。
こうしてネズミはそのまま走って行っちまったんだ。
タヌキの子どもは目をまん丸にして、
「ほー、心理感染ってやつか」
と、わかったようなことを言った。
そのとたん、タヌキの子どもは、イタチとキツネとイノシシとシマウマにけとばされ、草むらにころころころころ転がって、穴に落ちてしまった。
だから、イタチと、キツネと、イノシシと、シマウマがそのあとどうなったのかぜんぜんわからないのだよ。
どっちが勝たっていいんだ
「おーい」
後ろから大きな声がした。
振り返って見ると、仲のいい友達がぼくを呼んでいた。
「なんだーい」
ぼくは返事をした。
大きな柿の木の下で手招きをしている。
「こっちへ来いよ」
「なにかあるのかい」
「けんかしているんだよ」
いったい何がけんかをしているというのだろう。カマキリのけんかや決闘は見飽きているんだ。
あまり気乗りがしないぼくに、
「はやくこいよ」
と友達は、いつもと違って、ばかにせかす。
ぼくはひとっ跳びで、一気に柿の木の下にやってきた。
友達が目配せでけんかをしているところを教えてくれた。
それを見て、僕はなあるほどと思った。
そこでは、ナメクジとカタツムリが、柿の木の根元に落ちていた、枯れ枝の上でにらみ合っていた。
友達は僕に言った。
「どっちが勝つと思う」
僕は少しばかり考えた。
「カタツムリはいざとなったら、殻に入れるから、カタツムリが強いんじゃないかな」
と言うと、友達は、
「いや、だから弱いんじゃないかな。ナメクジは殻がないから、いつもからだをきたえている、カタツムリは力が弱い」
カタツムリはナメクジの角にかみつき、ナメクジはカタツムリの目玉を締めつけた。
「どうしてけんかがはじまったんだい」
と聞くと、
友達は、
「はじめから見ていたわけじゃないから、よくわからないけど、柿の木の上で居眠りをしていた山鳩の話じゃ、カタツムリもナメクジも、どっちもよそ見していたので、横に伸ばした目玉と目玉がぶつかったんだそうだ」
「それだけで、けんかになったのかい」
「そうらしい」
そのうち、二匹の周りにはいろいろな動物たちが集まってきた。
そこで、かけが始まっちまった。みんな暇なんだね。
白い蛾は僕と同じことを言ったね、
「カタツムリにかけるね、なんといっても、殻があるから強いだろうね」
そして、五枚の若葉を差し出した。
ナナフシは、
「ナメクジだと思うね、あの弾力のある皮膚は強い」
と言った。
そういっている間に、やっと、ナメクジがカタツムリの殻に頭をのせた。
「はやくやれえ」
気短のカマキリは、カマをふりあげてどなった。
ナメクジはカタツムリの殻の上に這い上がると、カタンカタンと殻をゆすり始めた。
ところが、なかなかその先にすすまなかった。
せっかちなカマキリは、がまんできず、触角をぴくぴくさせて帰ってしまった。
そのうち二匹とも枯れ枝の上から落っこち、カタツムリの殻が小石にぶつかった。割れそうだったがなかなかわれなかった。
友達が言った。
「君はやっぱりカタツムリが勝つと思うかい」
「ああ」
「君の好みだよな、かたつむりは」
そのとき、形勢が逆転して、カタツムリがナメクジの背中に這い上がり、ぎゅうぎゅうと押しつぶしはじめた。
友達が言った。
「君はどうするのがいい」
僕は答えた。
「そのままがいいな、君はどうだい」
「もちろん僕もさ、焼くのも煮るのもいやだね」
そこへ、カマキリがもどってきた。
「まだ、やっているのかい、どっちが勝ちそうかい」
白い蛾が答えた。
「まだ決まってないよ、のろのろべたべたしていてね」
「はやくしろい」
カマキリはナメクジたちにハッパをかけた。そしてまた帰ってしまった。
しばらく、カタツムリとナメクジは上になったり、下になったりして、汗をかいた。
やがて二匹は疲れてきて、ますます動きが鈍くなった。
それに、何でけんかをしているのか忘れてしまっていた。
ナメクジが言った
「やめるか」
カタツムリもうなずいた。
「やめよう」
周りで見ていた者たちは、つまらんつまらんと、帰り始めた。
僕の友達が舌なめずりをして言った。
「さて、終わったし、どうだい、そろそろいいんじゃないかい」
また、カマキリが戻ってきて
「お、終わったな、どっちが勝ったんだ」
と聞いた。
友達が答えた。
「どっちが勝ったっていいんだ」
そして、僕はナメクジを、友達はカタツムリを丸ごと飲み込んだ。
なにせ、カタツムリとナメクジはカエルの大好物なんだ。
針鼠じいさん