zoku勇者 マザー2編・28
4人揃って大冒険開始編・3
「わあ、此処が(この世界での)ダウドの故郷なの?」
「うーん、チャイナの様な……、仙人が住んでそうな場所だな……」
ジャミルとアイシャは珍しがってキョロキョロ。
「まあ、一応ね……、そういう設定だよお、取りあえず又
戻って来た事をイースーチーに報告しないと、宮殿へ行こう」
「けど、やっぱお前が王子設定とか、役柄に無理があるだろ」
「何だよお!うるさいよ、アホジャミルっ!!」
「よしなよ、皆が見てるよ……、ほら……」
アルベルトが注意すると騒いでいた二人は漸く我に返った。
「おお、普段お静かな王子様があんなに大声を出されるとか……」
「意外な一面ね、王子……、やっぱり同じ年頃のお友達が
いると燥ぐのかしらね……」
ダウドは顔を赤くし、のそのそ歩きだす……。ジャミル達は
ダウドの後を付いていき、ランマ宮殿へ……。
「おお、王子、お帰りなさいませ、今度はピンククラウドへ
向かうのですな……?皆さまも、ご検討をお祈りしております……」
イースーチーがダウドを王子王子と呼ぶ度にジャミルが
吹きそうになる為……、アルベルトが慌ててジャミルを
突いて注意する。ダウドは相変わらず顔が赤い。
「……お、おお?アンタ、頭が受話器になってんの?ちょっと
電話掛けていい?」
「よしなよっ!ジャミルっ!」
「そうよっ!失礼でしょっ!」
宮殿にいた受話器頭の男に悪戯しようと燥ぐジャミルを
止めようとするアルベルトとアイシャ……。
「……彼が世界を救う少年・少女達のリーダー……、
なんですな、王子……」
「そうだよ、オイラはジャミルの下部だよお……」
ダウドが情けない様な声を絞る様に出した……。
「何だよっ!一回ぐらい電話させろっ!」
「……駄目だって言ってるだろっ!馬鹿っ!」
「もういいよお~、早くピンククラウド行こう……」
アルベルトとダウドは暴れるジャミルを引っ張って
宮殿を後にする……。その後を小走りでアイシャが
ちょこちょこついて行った。
「さあ、ここがピンククラウドだよお、ニンジンを……と」
マグネットヒルで見つけたうさぎごのみニンジンを
入口の前で通せんぼしているウサギの像に使う。
……するとウサギの像が瞬く間に一瞬で消えてしまった。
「よし、これで中に入れるんだな!」
4人はピンククラウドの中へ……。入ってすぐに上へと
登るロープがあり、其処を蔦っていくが。……約一名、
早速滑って落ちた転落者が出た。
「……いった~……」
「ダウド、大丈夫!?」
ロープを登りながら下に落ちたダウドをアイシャが心配する。
「こんなん登れねえ様じゃ、おま、此処のダンジョン無理だぞ……」
「分ってるよお、……よいしょと……」
先に上で待っているアルベルトに手を引いて貰い、どうにか
ダウドも上へと登り切った。ダウドはほっとして安堵の息を
洩らした。
(まったく、オイラは野獣の体育会系とは違うんだからね……)
♪ぴろりーろろ、ぴろりろぴい~……
「?」
突如、チャルメラの笛の様な音色が聞こえ……、音の方を
振り向くと、異様な姿の怪物が現れた……。通称、てんぐどの
……というらしい。
「???」
辮髪のおっさんの顔に蛇の身体である。何だかよく分からない
怪物であった。
「♪ぴろろーーー!!」
「うわっ!ウゼー!人の耳元で笛吹くなっ!」
「気持ち悪いわっ!PK……」
「♪ぴーらりらーー!!」
「……ふう~」
嫌がるアイシャがPKフリーズを使おうとするが……、アイシャは
ぱたっと倒れてしまった……。変な笛で眠らされてしまったので
あった。急に眠ってしまったアイシャに男共はオロオロ。
「アイシャっ、おーいっ!大丈夫かっ!?」
「……ん、いちごのショートケーキ、100個……、まだまだ
食べるのよう……、掛って来なさいよ、私は負けないんだから……」
「ど、どういう夢みてんだ……?」
「何だか凄く幸せそうなんだけど……、起こすの可哀想だなあ~……」
余りにもアイシャが幸せそうな顔をして眠っている為、アルベルトは
困り果てる……。
「夢でおやついっぱい食べてるみたいだねえ~、いいなあ~……、
こんな幸せな夢、オイラも見てみたいよ」
「デ、デブまっしぐら……、プ……」
「何っ!ジャミルっ!!」
……突然アイシャがかっと目を開き……、起き上がるとジャミルに
跳び蹴りを噛ました……。毒舌ジャミルのお蔭でアイシャはどうにか
目を覚ました様子。
「はあー、食べても食べても目の前にケーキが出てくるの、
私どうしようかと思ったわ、夢で良かった……、もう、
太っちゃうかと思ったじゃない……、美味しかったけど」
「アイシャにとっては悪夢だったのかな……、とにかく目を
覚ましてくれて良かったよ……」
「幸せそうな顔してたけどねえ……」
「おい!おらあ全然良かねえぞっ!!」
そんな4人の後ろで……、更に相手にされていない
てんぐどのが激怒する。てんぐどのは怒り、4人に
蛇をぶつけてきた。
「うわ!毒蛇っ!!」
「何するのようっ!」
「あ、あぶなっ!!」
間一髪でジャミル、アイシャ、アルベルトの3人は蛇を避けたが、
ダウドだけは……。
「……何でオイラだけこれなんだよおーーっ!!」
……あれを思い切りぶつけられたのであった。ダウドは
怒って暴れる。
「もう定着しちまったんだな、ゴキ……、ゴホン、とにかく
蛇じゃなくて良かったな……」
「良くないんだよおおーーー!!」
ダウドが入る前は……、ジャミルがあれの被害に回る事が
多かったのだが、彼が入った事により、お役目がダウドの
方に行ったようであった。
「もう怒ったっ!PKフリーズβっ!!β、β、β!!」
ダウド、怒りのPSI攻撃連呼、しかもしっかりと命中させており、
てんぐどのは予想外の大ダメージを喰らい面食らっている。よほど
ダウドを小馬鹿にしていた様であった。
「すっげ……、お、おい、その辺にしとけよ、後は俺らがやるから、
PPなくなっちまうよ……、加減しろよ」
「ざまみろ馬鹿!んじゃ後はお願いしまーっす!んふふーん!」
「……」
ダウドは鼻歌を歌いながら後ろに下がる。後始末はジャミル達
三人が引き受ける事となった。もっともてんぐどのももうHPが
残り少ないのであったが。危険なお子様達を舐めて掛ったてんぐ
どのの事実上の敗北であった。それでもてんぐどのは最後の闘志を
燃やし、トリオに襲い掛かる。
「行くわよっ!PKファイアーγ!」
「……当たれっ!」
此方も負けておらず、アイシャのPSI、アルベルトの
ビームショット攻撃、そして止めはジャミルのPKキアイで
一気に攻めて行く。
「PKキアイβっ!!」
トリオの攻撃が一体となり、てんぐどのに見事にヒットし、
てんぐどのはその場から消滅した……。
「ほい、これにて終了ーー!!」
「ふふっ!やっぱオイラだってやれば出来るんだー!♪強いんだー!
ふふふふっ!!」
「ホント、びっくりしちゃった!これからも頑張って、ダウド!」
「任せてっ!オイラ張り切っちゃうよおー!」
ダウドが調子に乗り、胸をドンと叩く。……その様子を見ていた
ジャミルは不安になり……。
「おい、あんまり調子に乗らせんなよ……」
「どうしてよ?ダウド、頑張ってるんだからいいじゃない!」
「そうだよ、いい処はどんどん褒めて伸ばしてあげないと!」
「……いや、だからだな……、俺が言いたいのはよう……」
……ああああーーーー!!
「ダウドっ!?」
「ほいきた……」
後ろから悲鳴がし、アイシャが慌てて後ろを振り向き、
ジャミルが頭を抱えた……。
助けてええーーー!!落とし穴に落ちちゃったよおおおーーー!!
「ま、分かってくれた?」
「うん……、そうね……」
「あは、あはははは……」
3つほど……、大きな穴が空いている。どうやらダウドは
この3つの穴のうち、……何処かに転落したらしかった。
「何してんのさあーーっ!早く此処から出してよおーーっ!!」
「……自分で落ちといて糞威張りすんなよ……」
「一番左の穴から喚き声がするわ……」
「でも、穴の中に何かあるかもな、俺らも行ってみるか……」
アルベルトとアイシャも頷き、トリオはダウドが転落した
穴の中に自分達もダイブしてみる。
「よお!」
「えへへ!私達も来ちゃった!」
「無事かい……?ダウド」
「ちょ、何で皆までっ!……全員落ちたら意味ないじゃないかあーーっ!!」
「良く見ろよ、この先もちゃんと道あるぜ、ま、お前が落ちたのも
決して悪くはなかったちゅー事」
「!?」
「行きましょ!」
ダウドは分った様な、分らない様な複雑な表情をする。何だか
モヤモヤしている様子。
「あ、要するに、もしかしたら君のお蔭で何か見つかるかも
しれないって事さ」
「お、オイラのお蔭?……えへへへっ!」
「また……、すぐ調子に乗んなよ!?」
アルベルトの言葉でダウドはすっかり曲げていたへそをもとに
戻し、皆の後を追う。更に奥に進むと又、穴が。此処は先に
進む道も他に見当たらないので四人は更なる穴に飛び込んでみる。
「あいててて……」
「あっ、ジャミル見て、ほら……」
この洞窟にも光のオブジェが佇んでいた。やはり此処も
ジャミルの自分だけの場所だったらしい。
……よく来たな、此処は6番目のお前の場所だ……、しかし今は
私の場所だ、奪い返してみるがいい……、奪い返せる物なら……
オブジェは二つの頭と身体を持ち、雷を司った怪物、いなずま
あらしへと姿を変えた。
「何だか凄く強そうね!」
「ひいいいいーーー!!」
「負けないよ、行こう、ジャミル!皆!」
「ああ、……俺の場所も……、等々6番目なのか……」
ジャミルが身構える。此処まで来たという達成感よりも、
今は何故か……、不安な気持ちの方が大きく膨れ上がっていた。
それはやはり……。
「ジャミル!これ返しておくよ!君が持っていた方が
いいからね!」
アルベルトがフランクリンバッジをジャミルに投げる。
モノトリーデパートでの戦いの時からずっとジャミルに
借りていた物であった。
「よし、これが有れば俺の方はどうにか……、攻撃の方は
俺が率先するからお前らも何とか頑張ってくれよ!」
「了解!」
「……でーす」
アイシャとアルベルトが声を合わせる。どうにもダウドは
気乗りがしないらしい。いつもの事だが。
「おーりゃあああーー!」
フランクリンバッジを付けたジャミルが最初に突っ込んで行く。
いなずまあらしは電撃バチバチ攻撃を放つがフランクリンバッジを
付けているジャミルには雷攻撃は無効になる。ジャミルがボカスカ
いなずまあらしを殴っている間に後ろからアイシャとダウドは
PKフリーズ、アルベルトはペンシルロケットを放ちジャミルを
援護する。
「へへ、どうだっ!」
ジャミルには雷攻撃は無効と理解したのか、別の手でジャミルを
襲ってきた。二つの身体をぐにゃりと絡み合わせ、ジャミルの
身体を拘束したのである。
「……どうしよう、これじゃ攻撃出来ないわ!でも、何とか
ジャミルを助けないと!待ってて!今助け……きゃああああっ!!」
「うわああああっ!!」
いなづまあらしはジャミルを拘束したまま、後ろで援護して
くれている仲間に向かって突進し体当たりしてきた。いなずま
あらしはニタリと笑うと捕まえていたジャミルをほおり投げた。
ジャミルは拘束から解放されたが皆、大ダメージを喰らってしまった。
「ててて、畜生……、ごめんな、皆……」
「大丈夫よ、これぐらい……」
「うん、僕も大丈夫だから……」
「うう、に、人間爆弾……、危険だよおー……」
……4人は呼吸を整え、もう一度体制を整え直す。
「PKフリーズγ!!」
「……ペンシルロケット5、連発!!」
「オイラもっ!PKフリーズβ!!」
「今度こそ、ドジ踏まねえ様にっ!」
ジャミルが再びいなずまあらしへと走る。もう一度、いなずま
あらしへスマッシュを繰り出そうとバットを振り上げた瞬間……。
……もう、この先には……、行くな……行けばお前は
必ず自分を取り戻す事になる……、偽りの記憶ではなく……、
お前自身の本当の……
「……だ、誰だっ!?」
ジャミルの頭の中に……、声が響き渡る。それはとても……
良く聞いた事のある声であった。……何故なら……。
もしも……、オマエガ……、コノサキニススメバ……、オマエノ
ワスレタイ……、キオクヲホジクリカエスコトニナル……、オマエ
ミズカラガフウインシテイタ……、……ノ、セカイデノ…、ホントウノ……、
オマエノバショ……、オトズレルウンメイ……ソシテ、ウシナウモノ……
「……あ、あああ……」
「ジャミルっ!ど、どうしたのよう!!」
「急に頭抱えてしゃがみ込んじゃったよお!」
「俺の……運命だと?」
……オマエミズカラガオカス、ツミトバツ……ダ、……オマエガ
ソレヲノゾミ、フウインシ、ワスレテシマッテイルダケダ……
「嘘だ、俺にはそんなの……」
「ジャミルっ!危ないっ!!」
アルベルトがペンシルロケット5をいなずまあらしに打ち込み
止めを刺す……。もう少しでジャミルはいなずまあらしに襲い
掛かられる寸前であった。
「ふう~、間一髪……」
「……ジャミル、一体どうしたのようっ!!」
「アイシャ……」
アイシャが涙目になりジャミルに駆け寄る……。アイシャに見せた
ジャミルのその表情は……、生気が無かった。
「本当だよお!何で急にそんな真面目な顔してんのさあ!
似合わないなあ!!もっといつも通りアホのジャミルで
いなきゃ駄目じゃん!!」
「……ほお~、そうかい、……どうせ俺は真面目なツラは
似合わねえよっ!!これでいいんだろっ、これでっ!!」
「ぎゃあああーー!暴力反対っ、馬鹿アホジャミルっ!!
あたたたた!!」
ダウドの口調に……、ジャミルが切れ、いつもの調子の
ジャミルを取り戻した……。心配していたアイシャ達は
呆れたものの、ほっとする……。
「大丈夫だよ、アイシャ、いつものジャミルだよ……」
「うん、そうね……」
「さーて、俺だけの場所とやらを……、……見てきますかっ!
ふふーん!」
……そして、洞窟を抜けてジャミルは6番目の自分だけの
場所に近づいた……。ピンク色の雲に浮かぶ不思議な場所で
あった。不思議な記憶がいつもの通り頭に流れ込んでくる……。
今度の記憶は……。
……ごめんよ、ごめんよ……、オイラなんか庇ったから……、
オイラの所為で……
大丈夫だ、大した事ねえよ……、屁でもねえさ……、こんな傷……
呼吸荒く、激痛に耐えながら蹲り、全身血だらけの少年を
目の前にし、泣き喚くもう一人の少年の姿であった。
……お前を失う事に比べたら……、こんな傷……、痛くもない……、
恐くないんだ……
「……」
其処で記憶は途切れ……、ジャミルは我に返る……。気が付くと……、
仲間達が皆、心配そうに自分を見つめている……。
……音の石がピンククラウドでの音の記録をしみ込ませた……。
「……大丈夫だ、さあ戻ろうぜ!!」
ジャミルがぱっといつもの笑顔を皆に見せる。それを見て
仲間達も安心した様に微笑むのであった。……帰りの通路で
ダウド専用防具の王者の腕輪をゲットする。彼用の防具が
少ない中での収穫に、ダウドは嬉しさにむせび泣き、
王者の腕輪にぽとんと鼻水を垂らす……。そして4人は
サマーズへ戻り疲れを落す為に、高級レストランで
ハンバーグステーキを頼み、楽しく美味しい一時を味わう。
その夜、サマーズのホテルにて……。
「すう~……」
「ジャミルううう~、巨大化しておならするのは駄目だよお……、
迷惑だからあ~……」
「……こいつ、また変な夢見やがって……、いい加減にしとけ!」
「……あいたっ!ぐううう~……」
ジャミルがダウドにデコピンする。アルベルトとダウドはもう
すっかり夢の中であった。
「やっぱり俺、忘れてんだ……、元の世界にいた時の……、俺に
とっての一番大事な記憶を……、でも、俺自らがそれを望んで
忘れたってのか……?」
そう呟き、ジャミルは自分の手のひらを眺めた……。
そして……。
「……アイシャ、ちょっといいか?まだ寝てなかったらだけど……、
少し話さねえ?」
ジャミルはアイシャがいる別室のドアをノックする。アイシャは
最初、驚いた様な声を出したが直ぐに部屋から出て来た。……二人は
ホテルの外へ……。
「はあ~、いよいよ明日はスカラビへ向かうのね……、大変な事も
あったけど、この世界での冒険ももうこんなに進んだんだね、
……頑張ろうね、ジャミル!」
「ああ、それなんだけどさ、アイシャ……」
「ん?なあに……」
「あのさ……」
ジャミルはアイシャの顔を見て少し困った様な顔をしたが、
やがて気持ちを落ち着けると口を開く。
「お前は……、俺らの元の世界にいた時の……、記憶っちゅーか、
覚えてるか?」
「ええ、しっかり……、辛い事も悲しい事も楽しい事も……、でも、
別世界に来たからにはこの世界での冒険をしっかりと楽しんで
おこうと思うの!これからもね!うふふ!」
「そうか、……俺はさ……、忘れ……、ん?」
「どうしたの……?」
「忘れてるって言えば……、何か他にも忘れてる様な気が
すんだよなあ~、……何だっけ?」
「えっと……、何だったかしら?」
「……」
その頃の、……恐竜博物館……。
「ああああーーっ!あ、あの子達……、戻って来ないじゃない
かーーーっ!!」
ライスボウルをほったらかしにしたまま、すっかり忘れて
しまっていたのだった。
翌朝……、4人はスカラビへ船を出して貰う為、トトの町を
訪れ港へと向かった。港へ行くとすでに船長が出航の準備を
してくれていた。あまり表面には出さない事にしようと、
自分だけの場所での記憶は……、取りあえず一旦胸にしまう事にし、
ジャミルは又新しい場所への気持ちを新たに引き締めた。勿論、
残り二つの場所の記憶を見るのが不安な訳ではないけれど。
「こんちわ……」
「おお、待ってたよ、あんたらのお蔭でな、女房もすっかり元に
戻ってくれたよ、難しい事も言わなくなったし……、さあ、俺も
張り切るぞ!勇気の有る奴は船に乗んなよ!どうせタダで貰った
この命、拾うも落とすも運しだい、さあ一人20ドルだ、スカラビに
渡るかね?」
「……オイラ、勇気がありませんので……でででででっ!!」
珍しく無言でダウドの耳をぐいぐい引っ張るジャミル。
……何だか少し考え事もしていた様であった。この後、
海上で起こる嵐はもしかしたら、ジャミルの所為かも
知れなかった。
「……ん、ん!?」
「今ならクラーケンも見られるし、船酔いも体験出来るかも?
どうだい?お得だろう!?さあさあ、命知らずは船に乗った乗った!」
「じゃあ船長、頼むよ、んじゃ……」
「ねえ、怪物が出るとかオイラ聞いてないんだけど!?」
「事前にお前に言ったら騒いで逃げ出すだろうがよ、アホ!!」
「鬼ー!悪魔ー!びええええーー!!」
ジャミル達は嫌がるダウドを引っ張り、等々スカラビ行きの船に
乗り込むのであった。
「ヨーソロ!……出航!」
船はトトを離れ、沖へと出て行く……。別に何て事の無い、
穏やかな航海であった。今だけは。
「ううう~……」
「おえええ~……」
「げろげろ……」
「……もう~、やーねえー……」
ジャミル、アルベルト、ダウドの男共は揃って顔を揃え、しこたま
海に向かってオエオエ。
「俺、船酔いなんか滅多にした事ねえんだけどなあ~、
……う、うっ!」
「……ホント、どうしたんだろう……、僕まできてる……、うっぷ!」
「死ぬううう~……」
……男共が船酔いで苦しんでいる最中に、アイシャは甲板で
カモメと戯れていた。
「……逞しいな、あいつ……、ホント強いわ……」
「おう、わりィけどちょっと船を止めるぜ!久しぶりだから
船酔いしちまった!はははは!……おええええ~……、気持ち
わりィぜ……」
「……」
操縦士の親父本人が船酔いしたらしく、……恐らく男共の船酔いの
原因は船長の荒い船の操縦に責任が有るかも知れなかった……、
のである。本当にお得な?船酔い体験であった。
「そっちの困った様な顔のお客さんは……、そうか、ランマから
来たってか、へえ~、若いのに熱心だねえ!はははは!おれも
見習いてえモンだな!でも玉には故郷に帰りたいんじゃねえか?
いいんだよ、時には故郷に帰っても、バチは当たんねえさ!うん」
「……船酔いも怪物もいやだよおお~……」
「はあ、まいったまいった……、ん?アイシャ、どした?」
「ジャミル……」
カモメと戯れていたアイシャがしきりに海を見つめている……。
真剣な表情で……。
「カモメさんがみんな逃げちゃったわ、……それに、空を見て……」
アイシャに言われてジャミルも海を見る。確かに空が暗く、
今にも嵐になりそうな雰囲気であった。
「真っ暗じゃねえか……、やべえかもな……、俺、船長に言って……」
「……来るわ!!」
「ああっ!?」
アイシャが言うが早いか、突如海が割れ……、巨大な海蛇の様な
怪物が姿を現す。クラーケンであった。
「おおおおーーっとお!で、でたあああーーー!!んじゃ、坊や達、
後は任せたぜ!」
船長はジャミル達にクラーケンを任せ、自分は船室へと引っ込んで
いってしまう。
「……おっさん……、船を出したくないのはクラーケンが
怖いんじゃないからだって言ってたけどな、ま、いいか!」
「ぎゃああああーーん!!アーールううう!!」
「ちょ、ダウド、重いってば!覆い被さらないで!」
「ここんとこ、ずっときついバトル続きだけど……、お前ら
大丈夫か?戦えっか?」
「私は大丈夫よっ!任せて!」
「僕も!」
「大丈夫じゃないよお!」
一人反論する奴がいるが、ジャミル達は構わずバトルの体制に入る。
「きゃああっ!?」
「やべえっ!皆、散らばれっ!!」
クラーケンがジャミル達を狙い、甲板に雷を落としてくる。
幸い避けきれたが、うっかり喰らえば黒焦げでひとたまりもない。
「あうっ!甲板焦げちゃったけど……、こ、この船大丈夫なのっ!?
いかにもなオンボロポンポン船だし……」
「ま、沈む前にカタを付けるさ、どうにかしてスカラビの
近くまでは……、船を持たして貰わねえと……」
「んきゃああーーーっ!!これだから船旅は嫌なんだよおおーーっ!!」
「行くわよ!PKフリーズγ!」
ダウドが頭を抱え、慌てる横でアイシャは堂々と冷静に
PKフリーズγをクラーケンの本体にぶつける。……自分だけ
戦わない訳にいかないので、ダウドもPKフリーズβを慌てて
クラーケンへと放った。
「よしっ、俺もっ!」
フランクリンバッジを付けたジャミルがクラーケンに突っ込み、
PKキアイβを連発し、後ろからアルベルトもペンシルロケットで
援護する。5は手に入りくいので今回は通常のペンシルロケットだが、
やはりペンシルロケット様は偉大過ぎた。
「な、なんちゅう危険なお子様達なんだ……、強すぎる……」
こっそりと隠れて様子を覗っていた船長、……実は海の怪物よりも
恐ろしかった危険なお子様達の強さを目のあたりにし、ガクブル
震える……。……クラーケンの攻撃は確かに手強かったが、幸いHPの
低さが致命的であり、それ程苦戦せず、クラーケンを海に沈めて
しまったのである。
「終わったな……、お、空も明るくなってきたな……」
クラーケンも倒れ、嵐も収まり海は漸く平穏を取り戻した
様だった。
「カモメさんも戻って来たわ!」
「ほええ~、ふう~……」
再びカモメと戯れはじめたアイシャの姿を見て、ダウドもほっと
一息……、安心する。
「よしよし、後はこのままスカラビへ向かうだけだな!ホント、
凄いねえ、あんたら!実は俺もこそっと陰からスリッパぶつけて
応戦してたんだよ、本当だよ!俺の船酔いも落ち着いて来たし、
よし、再びヨーソロ!」
「おい、何か忘れてたと思ったけど……」
「うん、だね……」
「お、おえ……」
船長の言葉で思い出したかのように……、男共は再び足並み揃え
海に向かって突進し、しこたまゲロを吐くのであった……。
「……もう~!」
そして、船は漸くスカラビへと到着する……。
「此処でお別れだな、俺は又トトに戻るけど……、クラーケンも
落ち着いた今、この船ものんびり遊覧船状態になると思うが、
又船酔いを体験したかったらいつでもトトに来てくれよ、港で
待ってるぜ!ははは!」
「……それはもういいよ、それより、おっさんも又いじけて奥さんと
ケンカすんなよ?」
「ははは!言う様になったなあ、生意気だな、このジャミ公はよ!
ははは!」
「てっ!お、おっさーん……!」
船長が笑ってジャミルの頭をバシッと叩いた。アイシャ達も
後ろでくすくす笑っている。等々、このモブの親父にまで
ジャミ公言われてしまい……ジャミルはムスッと膨れるのであった……。
何はともあれ、新しい場所での冒険と試練の時が幕を開けた。
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