ゆーえんみー 2話 この小さな久遠町で

 さすがに真夏でも元気溌剌な小学生時代はとうにすぎてしまったので、あたしとユウのやり取りはクーラーの効いた自室で行うメッセージアプリでのやり取りがメインであった。
 
 こんなに暑いのに昼間から外で体を動かさなくてはいけないのだから、まったく、運動部はすごいなと思う。そういえば、友人のひとりがテニス部だ。熱中症で倒れていないといいけれど。……と思い彼女に「練習がんばれ! 暑さには気をつけて!」と送ったら可愛いスタンプが返ってきた。またスタンプに課金しているのか、この子は。
 さて、この世界は着々とおかしくなっていき、あたしはおかしいことを見つける度にユウにメッセージで泣きついている。
 今朝なんて時間が一瞬止まった。落ちる瞬間空中に静止する朝食用の卵をキャッチしたあたしは、同じく静止していたお母さんが再び動き始めた時にとっても驚かれた。ナイス反射神経! なんて言われたっけ。そんなものではない、あたしが変なのではなくて、変なのは世界の方だ。
 そうそう。今朝起きたおかしなことを報告したら、ユウはユウで家の中で大地震らしきものに遭ったらしい。激しい横揺れに立っていられないほどだったそうだが、コップに入れた牛乳は静かなままだった。ユウはもう慣れてしまったようで、特に動揺もせずに両親に何も言わず朝食の席についたみたい。
 ユウと話していると、おかしいのは世界の方ってわかって、自分はおかしくないのだと安心する。いや、こういう時はいっそおかしくなってしまった方が楽なのかもしれないが、ユウを独りにしてしまうと思うとそうはなりたくないと考えてしまう。
 あたしはすっかり、ユウが心の拠り所になっていた。
 ユウも、そうだろうか。あたしがいることで安心してくれているかな。でも、もう慣れたって言ってたし、あたしは別に必要ないのかも。
 と、思っていると、ユウからメッセージ。すぐに既読通知を付かせると何だかがっついているみたいだから、一分ほど待ってから開く……って、何でこんな駆け引きみたいなことしてるんだ。駆け引きも何もない、一人相撲だけど。恐る恐るユウからのメッセージを開くと、そこには──
 
『ミーがいてくれてよかった。ありがとう。こんなこと誰にも話せないから』
 
 ……。
 思わずベッドの上で足をジタバタとさせてしまった。これは何? 萌え? あたしってユウ萌え? 自分の気持ちが上手くわからない。会ったばかりの男の子に、こんな。本当に前世で良いことをしたのかもしれない。……逆に怖くなってきた、何をしたんだろう、あたし。
「こ、……っちこそ、ありがと。……絵文字もスタンプもいらないか」
 あくまでもすっかり落ち着いた様子で、返信をする。送信した後に、枕元にスマホを置き、あたしは息を吐いた。
 息を吐いて、まぶたを閉じる。クーラーの風が少し冷たくて、かといって止めれば一瞬で部屋は蒸し風呂になる。首もとの汗が気になって指を当てると、朝カーテンを開けた時に浴びた日差しがまだ肌に染みついているような気がした。

 ユウの言葉が、ずっと胸に残っていた。
 
 『ミーがいてくれてよかった』
 
 その一言に、どれだけ救われたか。なのに──あたしは、どうしてこんなにも不安になるんだろう。

 会ったのは、ほんの数日前だ。出会って、名前を呼ばれて、手をつながれて。優しくしてくれて、心配してくれて、話を聞いてくれて。……それだけで、こんなにも好きになっていいの?

 いや、違う。“好き”って、そもそも何だろう。

 あたしはユウの外見が好きだ。きれいな銀色の髪に、澄んだ青い瞳。まるで月の光を閉じ込めたような透明な肌。あんな人、現実に存在するんだって、最初は驚いた。まるで絵本の中から抜け出してきた王子様みたいだって思った。

 でも、外見だけじゃない。
 ユウと話していると、あたしは自分がまともでいられる。世界がおかしくなっていく中で、ひとりだけ、自分と同じように“おかしい”と感じてくれる存在がいてくれることが、こんなにも心強いなんて思わなかった。
 どんなに怖くても、ユウと話しているときは、ちょっとだけ呼吸が楽になる。
 
 ……これって、恋? ただの依存? それとも……。
 もしこれが恋だとして、それをユウに伝えたら、迷惑がられるだろうか。
 「重い」って思われる? こんな早くにそんな気持ちを持つなんて、ひかれる?
 ──何より、ユウはあたしのことを、どう思ってるの?

 そっとスマホを取り上げて、ユウの名前を見つめる。画面の端に表示されている、星空を撮ったという黒いアイコン。何も映っていないみたいで、実はそこには光が詰まっているんだって、ユウは言った。

 あたしにとってのユウも、たぶんそれに似てる。一見何を考えてるか分からなくて、どこか浮世離れしているのに。そばにいると、胸の奥にぽっと明かりが灯るような気がする。静かで、でもあたたかい、そんな明かり。

 そうだ。あたしはきっと、恋に落ちたんだ。でも、それはユウを困らせるような恋であってはいけない。
 あたしはまだ、自分の気持ちを言葉にするには早すぎる気がして、ただ、そっと胸にしまいこんだ。
「会いたい……な」
 ぽつりとそう口にする。……そうだ、会えば良い。告白はまだ早いし、あたしの心もきっとまだ迷っているから、しないけど。せっかくの夏休みで、ユウは一緒にいようと言ってくれたのだから、あたしから誘っても……多分、良いはずだ。
 だとしても、どこに誘おう? あまり外には出たくないし、夏祭りにはまだ早いし。
 ふと、顔を横に向けると、学校鞄が机の上に置いてあった。中にはまだ、手つかずの宿題が入っている。
 あ、そうだ、宿題!
 あたしはばっと起き上がり、スマホを手に持つ。メッセージアプリを開き、目指すはユウとのチャット欄。送るメッセージは──
 
 『宿題進んでる? こっちは全然。よかったら明日図書館で一緒にやらない?』

 送信。……した後に、明日はせっかちすぎたかなと後悔。五分もしないうちにユウから返信が来た。嫌ならいっそ断って……と、あたしはこの壊れつつある世界とは別案件の事態に怯えながら画面を見る。

『一緒にやろう。午前からでもいい? お昼も一緒に食べたい』

「やっ……た!」
 ガッツポーズをして、ベッドに倒れ込む。この返信……つまりほぼ一日中一緒!? なんて嬉しいことなんだろう。あたしはもう駆け引きなんて気にせず、すぐに午前オッケー! と返信をした。

 スマホを顔の上に持ち上げたまま、にへら、と笑ってしまう。どうしよう。明日が楽しみすぎる。
 午前から会って、お昼も一緒──つまり、お弁当を持って行ってもいいってことだよね。
 いや、お弁当なんて、手作りなんて、重いかな。でもコンビニで選んでってのも、それはそれで地味だし……え、待って、これ、デートじゃない? 宿題、って名目はあるけど、でも、ほぼ丸一日一緒にいるって、それって。

 ……あたし、もしかして、すっごく嬉しいのかもしれない。

 胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。こんなふうに誰かと一緒にいたいって思うの、いつぶりだったろう。そして、たった数日しか知らないはずの彼に、こんなにも「会いたい」って思ってしまう自分を、今ならほんの少しだけ肯定できる気がした。ううん、恋かどうかなんて、もうどうだっていいかもしれない。ただ、会いたい。明日も、彼の声が聞きたい。あの、安心する目を、見たい。

 あたしは立ち上がって、クローゼットを開ける。
 図書館に行くだけ。でも、服を選ぶ。どうせエアコンの効いた館内で過ごすし、涼しげなトップスでいいかな。
 いや、でも長時間一緒にいるなら、ラフすぎないほうがいいかも。ユウのあの、淡い色の髪や瞳によく合うように……白? でも甘すぎる? いっそ紺のワンピース?

「……って、何やってるんだろ、あたし」

 自分に呆れながらも、鏡の前でスカートを合わせてみる。どう見ても図書館コーデとは思えないくらい時間をかけて、でも結局は清潔感重視のいつもの服に落ち着く。けれどそれすら、今日はなんだか特別に見えた。

 ふわりと、頬がゆるむ。

 明日、ユウに会える。
 このひび割れたような世界で、確かに誰かに会いたいって思えることがあるなんて、あたしはまだ大丈夫なのかもしれない。
 いや、むしろ、ユウに出会えたから、ちゃんと自分でいられるのかもしれない。

 ベッドに戻って、明日の服を部屋の椅子にそっとかける。
 まるで明日を迎えるための儀式みたいだ。今夜は夜更かしはしない。明日は寝坊なんて、絶対にしたくないから。

「……楽しみだよ、ユウ」

 画面越しではなく、小さな声でつぶやいてから、あたしは部屋を飛び出した。お母さんに明日の朝、お弁当を作る手伝いを頼むために。
 この小さな久遠町(くおんちょう)で、あたしは今、たしかに誰かを想っている。
 
 ほんの少しだけ、明日が楽しみになる──そんな日だった。

 昼食は持ってこなくていいよ! と釘を刺したのは、少し明け透けだったかもしれない。と、あたしは二人分のBLTサンドを保冷バッグに詰めて鞄に入れながら思った。
 宿題にノートに筆記具、飲み物用に財布も忘れずに。服は飾らない(あざとくないとも言う!)感じで。髪型はいつも通りに。

 ……うん、完璧。

 誰に見せるでもないくせに、鏡の前でバッグを肩にかけるシミュレーションを何度もしてしまう。こんなこと、普段なら絶対にしないのに。
 でも、今日の相手はユウだ。銀の髪に碧い目の、ちょっと不思議な──でも、世界でいちばん安心できる、あの男の子だ。

 早く行きたいような、まだ行きたくないような。
 階段を駆け下りながらも、どこか胸の奥がふわふわとしていた。急いでるはずなのに、足取りが踊ってる。気づかれたら恥ずかしいくらい、あたしは今、とっても浮かれてる。
「……これって、やっぱり、恋……?」
 呟いた言葉が、自分の耳に刺さって慌てて首を振った。
 ちがうちがう! たぶんちがう。まだ知り合って間もないし。夏が始まったばかりだし。たまたま話が合って、気が合って、少し一緒にいた時間が特別だっただけ。
 ……でも、それにしては、心臓の音がうるさすぎる。

 玄関のドアを開けると、陽射しの中にセミの声が一斉に降りかかってきた。うだるような暑さ。けれど今日は、それすらどこかやわらかく感じた。
 ユウと、図書館で会えるから。そう思うだけで、あたしの中に小さな風が吹く。
 この気持ちは、まだ名前をつけるには早すぎるのかもしれない。
 でも、好きかもしれない。
 それだけは、もう隠せなかった。
 
 久遠町の古い街並みは、昼間になると蝉の声で埋め尽くされる。陽射しの粒が、アスファルトを照り返して眩しい。
 
 だけど、今日はなぜか──音が変だった。

 ミンミンミン、と鳴いていたはずの蝉が、突然プツリと音を失った。耳に残るのは、遠くで流れる水の音。いや、水じゃない。金属のような、乾いたこすれる音。
 足が止まる。
 目の前の景色が、わずかに歪んでいる気がした。
 古びた電柱が、溶けたアイスみたいに揺らめく。道端の地蔵が、ひとりでにこちらを向いたような……そんな気がして。

 カラン。

 風もないのに、どこかで風鈴が鳴った。空っぽの、見えない音だった。ぞくりと背筋が冷えた。
 息を飲む。
 逃げなきゃ、と頭のどこかが言っていた。
 
 走り出した。鞄がバウンドして、保冷バッグの中のBLTサンドが揺れる。
 
(やだ、怖い。やだ、やだ)

 そんなもの、見たくなかった。今日くらい、ただの夏休みの一日でいてほしかったのに。
 図書館のレンガの壁が見えたとき、あたしは半分泣きそうだった。
 でも──

「ミー」

 木陰から、ユウの声がした。
 涼しい日陰に佇む彼は、いつも通りだった。真っ白なシャツ。銀の髪。そして、不思議なくらい、揺れていない。

「……あ」
 声にならない息が漏れた瞬間、膝がぐらりと揺らいで、あたしはその場に座り込んでしまった。何が怖かったのか、うまく言葉にできない。でも、手のひらが汗でじっとりしている。

 ユウは近づいてきて、しゃがんで、ただ一言だけ言った。
「……怖かったね」
 それだけだった。大丈夫、なんて軽くは言わない。ただ、肯定してくれた。
 その言葉だけで、少しだけ呼吸が戻ってきた。
「……なんか、よくわかんないけど……道が、変だった……」
「うん。そういうこともある」
 ユウは、あたしの言葉に驚きもしない。まるで、前にもそんなことがあったと知っているかのように。
「中、涼しいよ。……図書館、入ろっか」
 言って、彼は自然に、あたしの手を取った。その手は、少しだけ冷たくて、でもやさしい体温があった。
 ふわりと心がほどける。怖かったはずの世界が、少しだけ遠くなった。
「……うん」
 こくりと頷くと、ユウはそれ以上何も言わず、あたしの歩幅に合わせて歩き出す。
 差し込む木漏れ日。風が一瞬だけ、通り抜けていった。

 ……あ、そうだ。

 保冷バッグが揺れる感触に、あたしはふと思い出してしまった。

(……お昼、BLTサンド……作ってきちゃった……)

 あたしの分と、ユウの分。
 さりげなく食べるつもりだったけど、冷静になってみるとちょっと恥ずかしい。一方的すぎる? 重いって思われないかな?

 言おうか、黙っておこうか、迷ったけれど、ちらりとユウを見ると、彼は変わらず前を見ていた。

(……ま、いっか)

 なんとなく、彼なら大丈夫な気がした。
 受け取ってくれるかどうかじゃない。ただ、今は一緒にいられることが、うれしかった。

 図書館の閲覧スペースは、午後の静けさに満ちていた。クーラーの微かな唸り声と、ページをめくる音だけが響く空間。
 天井近くの古い丸時計が、ゆっくりと針を進めている。
 二人で向かい合って座るテーブルには、宿題のノートとプリントが広がっていた。
 今日の国語の課題は、「愛情を描いた短編を読み、感じたことを書きましょう」というもの。

 夏の定番で配られる、文庫本スタイルの読書課題。
 あたしはその中のひとつ、『八月の影送り』を選んで、読後感をまとめていた。内容は、一方的な愛情を好きな相手にぶつける男の話。……これ、中学生にやらせる内容なのかな。
「なんか、切ないよね。勝手に好きで、勝手に待って、でも相手はそれを知らないままーって」
 シャープペンシルの先をくるくる回しながら、あたしはぽつりと呟いた。
「こういうのってさ、もしかしたら……すごく人を傷つけちゃうかもしれないよね。相手にとっては、愛じゃなくて、呪いみたいなものかも、っていうか……」

 ふと顔を上げると、ユウが手を止めているのが見えた。
 ノートの上でペンが中空に浮いたまま、彼は静かにうつむいていた。
 何か言いたげだけど、言葉にはしない。けれど、何かが確実に止まっている──そんな感じ。
「……あ、ごめん、変なこと言っちゃった?」
 思わず声をかけたけど、ユウは首を横に振るだけだった。
「ううん。……ただ、ちょっと考えてた」
 それだけを言って、またペン先を動かしはじめる。けれど、その手は少しだけ重たく見えた。
 どうしたんだろう? と首を傾げつつ、でもそれ以上は聞かなかった。ユウには、そういう『触れちゃいけない時間』みたいなものがある気がして。
 そのあと、いつも通りのユウに戻ったように見えたけど、あたしにはわかった。
 
 さっきのあの一瞬、彼の中で何かがぐらついた。

(……ユウって、時々、すごく遠いところにいるみたい)

 まるで、あたしが知らないどこかの景色をずっと見ていた人みたいに。寂しいような、でも綺麗なような、そんな眼差しをして。
 ねえ、ユウ。
 もしかして、あたしの知らない時間を、すごくたくさん持ってる?
 

 時計の針が十二を指した頃、閲覧スペースの窓から差し込む光が少しだけ色を変えた。
「……そろそろ、お昼にしよっか」
 あたしは筆箱を片づけながら、カバンの中から保冷バッグを取り出した。
 中には今朝、こっそり準備したBLTサンドが二人分。
 やっぱりいらないって思われたらどうしよう……なんて、内心ぐるぐるしながら、手早く紙ナプキンに包んで机の上に置いた。
「ユウ、これ……食べる?」
「うん。ありがとう」
 ユウはいつもの調子で、それを受け取った。まるで、あたしが昼食を用意してくるのが最初から決まってたみたいに、自然に。
 あたしの方はというと、なんだか急に緊張して、サンドイッチを持つ手に少し力が入る。
 一口かじると、トマトの酸味とベーコンの塩気、レタスのシャキシャキが、口いっぱいに広がった。
 暑い夏にはぴったりの、冷たいサンド。
「……美味しい」
 向かいのユウがぽつりと呟いた。
「こんなの、初めてかも。優しい味」
「え、なにそれ、大袈裟すぎない?」
 思わず笑って返しながらも、あたしの心臓は今朝サンドのためにトーストしたパンよりずっと熱かった。

 (そんな言い方、ずるいよ)

 くすぐったい。うれしい。でも、ちょっと困る。これはただのBLTサンド。愛情とか、そういうのは、込めたつもりは……いや、ほんの少しだけはあったかも。
「ミーのごはん、また食べたいな」
 ユウはそう言って、にこっと笑った。その笑顔は、夏の木漏れ日のようだった。

 ──一方的すぎるかな? 重すぎるかな?
 今さらそんな不安を思い出しても、遅かった。
 でも、それでも。
 この昼下がりのやわらかな時間ごと、胸の奥にそっとしまっておこうと思った。

 日が傾き始めた頃、図書館の自動ドアが静かに開いた。熱気がほんのりと戻ってくる。けれど、それも朝とは違う。
 蝉の声が遠くから聞こえる。空の色も、少しだけやさしくなっていた。
「あたし、こっち」
 歩道の分かれ道。あたしは指先で帰り道を指し示す。
「じゃあ……また、会おうね」
 自分で言ったその言葉が、思ったよりずっと響いてしまって、胸の奥がくすぐったいような、少し切ないような気持ちになる。
 ユウは相変わらず不思議なほど落ち着いていて、でも口元だけ少しやわらかくなって、
「うん。また」
 そう言って、あたしに背を向けた。
 歩き出した背中は、どこか夢みたいで。なのに、確かにそこにいた。
 あたしは、立ち止まることなく自分の道を歩き出す。
 
 朝とは違う。
 空の色も、風のにおいも、そして、あたしの気持ちも。
 さっきまでの不安や怖さなんて、まるで嘘みたいに消えていた。
 空を見上げると、ちょうど雲の切れ間からひとすじの光が差し込んでいた。

 嬉しい。今日のあたしは、ちゃんと笑えてる。
 そして、あたしはまだ知らない。
 ユウが、なぜあの図書館の前で怖がるあたしを待っていたのかも。
 あの「また」が、彼にとってどんな意味を持っていたのかも──

 でも今はそれでいい。今日は、そう思える。
 小さなこの町の、ちいさな一日。でもきっと、あたしにとっては特別な一日。

ゆーえんみー 2話 この小さな久遠町で

ゆーえんみー 2話 この小さな久遠町で

ミーとユウ、ふたりの夏休みが始まる。世界が壊れていく。けれどふたりならばきっと怖くはない。

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更新日
登録日
2026-05-31

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