愁色の日記帳
ある昼下がり、小野寺 円は部屋の大掃除をしていた。
その時、一冊の日記帳を見つけた。円が学生時代に毎日つけていた物だ。この日記には、沢山の思い出を綴っている。
思い出深い出来事には絵も描いて、季節が変わったら季節ごとの花を押し花にしてくっつける。
円は、久しぶりに日記を読み返してみた。
学校の事、家族や友だち、好きだった人........。
大切な人との、出会い。
そして、別れーーー‥‥‥
『6月20日 晴れ時々くもり。
今日は少しビックリすることがあった。学校の帰りにいつもの広場を通ったら、ヤンキーみたいな男の子達がケンカをしてた。
私は怖くて早く通り過ぎようとして、足を止めた。
そこには私の好きな人もいたから...。同じクラスの本村君。その時、本村君と目があった。
私は駆け足で走った。 本村君大丈夫かな......』
『6月21日 雨時々くもり。
今日もビックリすることがあった!HRが終わったあと本村君が私に話しかけてきた。 心ぞうが爆発しそうだった。その後、本村君に「一緒に帰ろう」って言われて本当にやばかった!
......一緒に帰ってる時ほとんど会話なしで死にそうだったけど
本村君がケータイで電話をしてて誰と話してるんだろうって思ってるうちに昨日本村君達がいた広場についた。
そこには一人、ガラの悪そうな男の子が立ってて本村君は「幼なじみなんだ」って言って紹介してもらったけど、その男の子はものすごく態度が悪くて、「昨日の事は誰にも言うな」って言われた。名前は矢代君って言うらしい。怖かったー!でも本村君と一緒に帰れたからいっか。』
こんな事もあったな......。
円は微笑みながら更に頁をめくっていく。
『7月3日 晴れ。
今日は帰り道に矢代君を発見した。私服でタバコを吸っているのを見て、私は何を思ったのかなんとなく話しかけてみたら、矢代君は覚えていなかったみたいで「誰?」って言われた!ムカついて帰ろうとしたら思い出したらしい矢代君にいきなり腕をつかまれた!ビックリした...
それで公園のベンチに座って色々話した。
あんまり男の子としゃべらないからちょっときんちょうしたよ...
あの時のケンカは矢代君がケンカしている所を本村君が止めていただけで本村君は関係ないって。良かったー!あと、矢代君って本当にデリカシーがない...。
急に「お前、本村が好きなんだろ」って言ってきたり「足太い」って言われて私の反応に笑ってた。 ムカつく~』
他の頁もめくっていくが、本村君の記事よりも、矢代君の事を書いた記事の方が多かった。
矢代君とはなんだかんだで気が合った。
他愛もない話しや時には本村君の恋愛相談等色々話した。
矢代君は自分の事をあまり話したがらないのであえて聞こうとはしなかったのを覚えている。
円は段々と矢代君の存在が大きくなっている事に、まだその時は気付いていなかった。
円はある記事に目を止めた。
『9月8日 くもり時々晴れ。
今日は学校から帰ったあと、矢代君にバイクに乗せてもらった!
バイクってすごく早くて風が気持ちいい!!
バイクを降りて空を見上げると、星がとてもきれいだった。
私も免許取りたいなぁって言ったら「むり~」って。...絶対取ってやる!
でも、なんだかんだ優しい人だ。ジュースおごってくれて、またバイクにも乗せてくれるって。 楽しみ』
円は微笑んで他の頁も開いていき、ふと、頁をめくる手が止まり、
途端、涙が溢れだす。
『9月15日
矢代君が亡くなった。
なんで、なんで、なんで
信じられない。信じたくない。
苦しい... 悲しい... あの時に戻れるならなんでもする。
出会ったあの日からやり直したい。あの時に戻して
言えなかった言葉を言わせて 』
円は大掃除を終え、買い物に行き、日記帳を買ってきた。
また、日記をつけようと思った。
円は明日、結婚する。
名字が本村に変わる。
円は幸せだ。
本当は、別の名字になる事を望んでいたのかもしれない。
だが、これで良い。
円は日記を、過去の記憶を生かす為に日記を書く。
日記を書く限り、過去は消えない。
円の胸の中でずっと生き続けている。
今日も、後悔の無い様に、精一杯、過去を描いていく。
愁色の日記帳
読んでくださりありがとうございました。