アディクション

「スマホに依存するのも否定しないけどどうせならさ」
そう言って幼馴染は俺に微笑みかけた。
「俺に依存したら?」


俺は常にスマホを触っていないと気が済まない。何というか癖になってしまった。もうそろそろやめないといけないなと思いつつもまた画面をスワイプしてしまった。
【ブブブ】スマホが震えた。スクリーンタイムを知らせる通知だった。1日の平均スクリーンタイムは年々増している。もうすぐ20時間に到達しそうだった。学校も休みがちになり寝ている時間ですら画面は光っている。眩しい光をずっと見つめているはずなのに目は濁っていく気がする。

【ブブブ】またスマホが震えた。LIMEの通知だった。昔はよく使用していたが今はもう幼馴染の春樹からしか連絡が来ない。どうせ今するべきことなんか何もないのに何故かすぐにはLIMEを開くことはしなかった。ただ輝く画面を見つめて考える。いつからこうも依存してしまっているのだろう。

【ブブブ】スマホが震えた。
『冬真、今日空いてる?』
知り合いからのLIMEだった。
『おう、遊びに行く?』
『ゲーセン行きたくね』
『すぐ準備するわ』
中学時代の俺は新たにできた友達とよくつるんでいた。その分昔からの知り合いとは疎遠になっていた気がしたが本当に満たされていた。
「冬真!」
そんなふうに笑いかけてくれる友達。温かい視線。俺たちは親友だ。そう思っていた。

【ブブブ】スマホが震えた。友達のSNSの投稿通知だった。
『〇〇〇〇〇〇』
内容はもう思い出したくもない。笑い合っていたあの時俺はネットで悪口を書かれているなんて思ってもいなかった。後から聞いた話によると俺の目に止まった時はたまたま裏アカと間違えて投稿してしまったらしい。俺は人やネットが怖くなった。それなのに何故かネットにのめり込んでしまった。まだネットに希望があるはず、信じたくなってしまったからかそれともただの現実逃避かそれはわからない。

【、、、】震えもしないスマホをただただ見つめていた。スマホは怖い。でも依存したい。矛盾した感情を抱えた目には強い光が反射している。眩しくて涙が溢れた。

【ピンポーン】インターホンがなった。ドアスコープを除くとそこには春樹が立っていた。春樹は友達とうまくいかなかった俺に同情したのかよく俺を訪ねてきていた。普段は居留守を使うこともあるが今は何だかどうしようもない孤独感に満たされている。ドアノブに手をかけた。

「冬真、今日もいないかと思ったよ」
「別に、、、」
俺はまっすぐ春樹を見ることができずスマホに視線を落とした。
「ん?何見てるの?」
「普通にSNSだよ」
「へえ、楽しい?」
俺はスマホから目を外し春樹を見た。春樹の声が少し不安そうだったから。
「もちろん」
そう言って微笑んだ。

【、、、】春樹は何も言わず俺の頬に手を添えた。
「冬真、目が充血してるよ。それに腫れてる」
「気のせいじゃない?」
春樹は本当に察しがいいな、そう思った。それ以上でもそれ以下でもなく。
「楽しいんだよね?本当に?」
春樹の言葉に何も言えなくなった。何か言いたくても言葉がうまく出ず唇が震える。何だか涙が出てきた。

【、、、】また春樹は何も言わず俺を抱きしめた。俺は顔を隠すようにしてただただ泣いた。久しぶりの人の温もりにとても安心した。
「春樹、俺、苦しいんだ。それでも止めることができない。何かに依存していないのはもっと苦しいんだ」
顔は見れなかった。でも何だかぶちまけたくなってしまった。
「依存?冬真もしかしてネット依存なの?」
「、、、1日の平均スクリーンタイム、19時間」
「はあ⁉︎マジ?」
「この前は20時間超えた」
「なんだよそれ」
見上げると春樹は天を仰ぐようにしていた。
「呆れた?」
「いや別にスマホ依存も否定はしないよ」
やっぱり春樹は春樹らしいことを言うな。

【ブブブ】手の中にあるスマホが震えた。無意識に画面を開こうとしたがさっと春樹に手を掴まれた。
「冬真って何かに依存していたいんだよね?」
「そうだな、そうじゃないと苦しい」
「じゃあ俺に依存したら?」
そう言って春樹はいたずらそうに笑った。
「、、、それもいいかも」
「いや冗談だったんだけど」
「わかってるけど、それもいいかもって思ったんだ」
「ふーん。ならいいよ。苦しくても苦しくなくても俺のところに来て。そしたらそのうち俺も冬馬に依存するけど、、、」
春樹は頭をポリポリと掻いていた。不思議と俺は笑いが込み上げてきて大笑いしてしまった。春樹もつられて俺たちは2人で大笑いした。


【ブブブ】スマホが震えた。スクリーンタイムの通知だった。設定の画面をすっと開くと1日平均は3時間になっていた。
「冬真、最近スマホ見る時間が減ったね」
「それよりは健全な幼馴染に依存できてるからな」
「、、、本当に俺も依存しそうだな」

【、、、】静かな室内。隣には親友。大切な依存先。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

俺は冬真とずっと一緒にいたかった。なんならいないと落ち着くことができなかった。幼稚園からずっと家が近くて小学校に上がってからもずっと一緒にいたからだ。
「お前らずっと一緒にいるな。今日こそ俺らと一緒にドッジボールしようぜ」
小学5年になった頃くらいからよくクラスメイトに話しかけられるようになったがそれでもあまり誘いになることはなかった。
「うーん、パスでいいかな」
僕がそう言ったとき
「たまには行くわ」
冬真がそう言った。
「お、ノリいいな!行こうぜ!」
遠ざかっていく冬真の背中を俺はただ見ていた。
「なんか馬鹿みたい」
誰にも聞かれないように俺は呟いた。

俺は新しくたくさん友達を作るようになった。もちろん冬真とも仲良くしていたが他に友達ができると自然と一緒に過ごす時間は減っていき中学では完全に疎遠になった。

ある日噂で冬真が学校に来なくなったと聞いた。小学生のころの俺の冬真への気持ちは今思うと完全に依存でしかなくて、それでも避けないでくれた冬真には強い恩を感じていた。それにただただ心配だ。俺はそう考えてLIMEをした。それなのに既読がつかない。だから家にも行った。だけど出ない。冬真に何があったのか知ったのはまあ少し先の話だ。

俺を助けてくれた冬真に何か返したい。それが依存というお互いにとってよくない形だとしても。


END

アディクション

アディクション

本当はやりたいわけじゃない。そうとわかってもやめられない。矛盾のする感情を抱く自分が1番嫌い。 訳あり2人のブロマンス。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-17

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