zoku勇者 マザー2編・19
フォーサイド編・5
ジャミルとアルベルトはアイシャを助ける為、再び4階へ……。
停電の為、エスカレーターは止まっているので、走って直に
エスカレーターを駆け上る。2階へ辿り着いた処で、急に
ジャミルが立ち止まり……。
「……」
「ジャミル、どうしたの?」
「何かさ、恐ェんだよ……、すっげー変な感じなんだ……」
「本当にどうしたのさ、アイシャがいた時から思ってたけど……、
何か今日の君はおかしいよ!」
「おかしいんだよ、あいつが捕まる前から……、今日……、
ずっと嫌な予感がしてたんだ、又どっかふらっと
行っちまうようなさ……、んでもって、もうこれきり
会えなくなっちまう様な……、くそっ、やっぱりこんな処
来るんじゃなかった……」
アイシャを守り切れなかった事をよほど悔やんでいるのか……、
本当にジャミルの様子はいつもと違い、悲観に暮れていた……。
「ジャミル、僕らは常にいつも狙われているんだよ、
ギーグに刃向かう限り……、今日、此処に来なくたって
いずれは何処かでアイシャは……」
其処まで言って、アルベルトの言葉が止まった。
「ご、ごめん……」
「いや、俺もどうかしてたよ、何だよ、俺らしくねえな!
うじうじ悩んだりして、……ほんっとアホだな!」
「うん、そうだね……、アホだね」
「あのな……、其処は否定する処だろうがよっ!そんな事ないよ、
とかさ!」
「いや、否定出来ないよ、アホだもの……」
真顔できっぱりはっきり言うアルベルトに……、ピキっと
ジャミルの顔が引き攣る……。
「とにかくっ!俺はどんなピンチな状況だっていい方向に
変える男だっ……!絶対変えてみせらあ!何がなんでも
アイシャは助けるっ!!」
(……はあ、やっぱ単純思考……、でも、生気を取り戻してくれて
本当に良かった……)
「よしっ、折角武器も新調したんだ、どうせならバンバン
暴れてやらあ!」
「ああ!」
気を持ち直し、更に上の階に進もうとするジャミル達に……。
「何だ?えーと、沢山プレゼントボックスが置いてあるぞ?」
懐中電灯でうっすらと灯りを照らしてみると、確かに周りには
沢山のプレゼントボックスが。
「……ジャミルっ、これは只の箱じゃないっ!敵だよっ!」
「ええ!?ああっ!!」
アルベルトの言った通り、ボックスが動きだし、中から敵が
飛び出して来た。一体目はエレキギターの怪物、ムジカ、そして
もう一体目はコーヒーカップの怪物、キラーカップ、そして更に
もう一体目はレコードの怪物、あやかしのレコード。
「ちっ、んな厄介なモンいらんわ!……アル、いけるか!?」
「大丈夫だよ!」
薄暗く、状況が不利な中で背中合わせに互いに返事を返す
ジャミルとアルベルト。
「コーヒーカップとレコードは俺がやる、アルはエレキギターの方を!」
「了解!」
ジャミルはPKキアイβ連発、アルベルトはペンシルロケットで
一気に勝負を付けようとする。
「うわっ!?」
ジャミルの腕に熱い液体が掛る、キラーカップが熱湯コーヒーを
ぶっ掛けて来たのであった。更に火傷で戸惑うジャミルにあやかしの
レコードが体当たりで大ダメージを与える……。瞬く間にHPは
一瞬で一桁近くに……。
「ジャミルっ!!……うっ、ああああっ!!」
アルベルトもムジカの電気ショック攻撃により、忽ち二人は
危機に陥る……。
「なろお、ざけてんじゃねえよ……、マジでふざけやがってからに……」
「強い……、これまでの敵とは……、ケタが違う……、くそっ……」
アイシャもいない状況の為、二人だけではとても辛い試練の
時かもしれなかった。
「アル、これ持ってろ、それがあるだけでも、お前の方はかなり
バトルが有利になる筈だ!」
「え?……これは……」
ジャミルがアルベルトにフランクリンバッジをほおり投げた。
「フランクリンバッジだ、持ってるだけで電撃攻撃対策になる!」
「有難う!でも、君の方は大丈夫かい!?」
「平気だっ、早くケリ付けちまうぞっ!」
ジャミルはライフアップβでHPを回復させると、再び
キラーカップとあやかしのレコードに突っ込んでいった。
……アルベルトの方も、フランクリンバッジが効力を増し、
電気ショック攻撃を跳ね返し、逆にムジカに大ダメージを。
「……割れろっ、この野郎!」
ジャミルがヨーヨー攻撃で、キラーカップのカップに
ヒビを入れる。……割れたカップから大量のコーヒーが
溢れ出し……、中身の無くなったキラーカップは
その場に倒れ消滅した……。
「よしっ、後はテメエだけだっ!」
一体になったあやかしのレコードは慌てて逃走しようとするが、
隙を逃さずジャミルは再びヨーヨー攻撃を素早くあやかしの
レコードにブチ当てた。こちらにも見事にヒビが入り、
あやかしのレコード、その場に砕け散る……。
「な、何とか終わったぞ……、っか~、キツかった~……」
「僕の方もだよ、このバッジのお蔭で助かったよ、凄い
バッジなんだね……」
「……アイシャ……」
ジャミルはフランクリンバッジをじっと見つめた。元々
このバッジは護身用にアイシャから受け取った物である……。
「さあ、急ぐか、立ち止まってる暇はねえ!4階まで
もう少しだっ!」
「よし、行こう!」
二人は再び4階まで駆けだす……。そして等々、アイシャが
監禁されているであろう、事務所の扉の前まで辿り着いた。
「……ジャミル様、ジャミル様…、お急ぎください……、グゲグゲ……」
再びわざとらしく館内アナウンスが聞こえて来た。
「うるせーなっ!すぐテメエの目の前まで来てんだよっ!
……すぐに行ってやるっつーの!オラ、来たぜっ!!」
ジャミルは事務所のドアを乱暴に蹴飛ばし急いで中に入った。
「!!」
「……ア、アイシャっ!!」
其処には、椅子に縛り付けられたまま、俯いてぐったりとして
動かないアイシャの姿が……。
「グゲッグ、ゲッグ、ゲッゲッゲ……、よく此処まで辿り着いたな、
しかしこのデパートが貴様らの墓場となるのだ!!ゲゲゲゲゲ!!」
アイシャを拉致し、監視しているのはカエルの様なギョロ目に
足が何本もにゅっと生えている異様な姿の異星人であった……。
「アイシャ!……今助けるからっ!」
「待てっ、アル、あれはアイシャじゃねえ!……人形だっ……!!」
「え……?あ、ああっ!?」
「良く分ったな、感だけは鋭い様だな、……成程、やはり只の
馬鹿ではなかったか、ゲゲゲゲ!お前らが慌ててうっかり人形に
近づけば爆発する仕様だったのだがな、ゲゲゲゲゲ!」
「舐めてんじゃねえぞ、クソッタレ!本物のアイシャは
何処にいるんだっ!?」
「教える必要はないだろう、さっきも言った通り、此処が
貴様らの墓場となるのだからな!グゲゲーゲ、ゲゲゲゲゲ!!
死んで地獄へ……、いや、天国に行けっ!!」
「……テメエは俺を怒らせた、もう許さねえっ!!逆に俺が
お前を地獄に送ってやるーーっ!!」
「ジャミルっ、落ち着いてっ!!」
アルベルトが叫ぶが、完全に頭に血が上ったジャミルは異星人……、
デパートの怪人に突っかかって行くが……。
「頭を冷やさせてやろう、グゲゲーゲ、ゲゲゲゲ!!」
「あ、あああ……」
「ジャミルっ!!」
ジャミルはデパートの怪人のPKフリーズ攻撃により、氷の
塊の中に閉じ込められ……動きを封じられてしまうのであった……。
「其処で大人しくしていろ、先にこっちの雑魚を始末してやる、
最もこのままほおっておけば、氷の中で凍死だ、ゲゲゲゲ!」
デパートの怪人は今度はじりじりとアルベルトに迫るのだった。
(もしも僕が此処で倒れても……、ジャミル、何とか君だけは……、
アイシャを助けに行くんだ!)
「……っ!!」
アルベルトは自分がダメージを喰らうのを覚悟で、ジャミルが
閉じこめられている氷の塊に向かってペンシルロケットを発射した……。
「小癪なっ、させるか……」
デパートの怪人もアルベルトに向けて氷の刃を飛ばす。身体の
彼方此方に氷が刺さり傷だらけになりながら激痛を堪え
アルベルトは更にペンシルロケットを発射し続けた……。
「……駄目だっ、もう限界だっ……!ごめん、ジャミル、
あ、後は……、頼……」
HP力尽き……、遂にアルベルトがその場に倒れる……、
しかし、同時に……。
「だあああああっ!!」
「な、何だと!?」
アルベルトが命がけで割った氷にヒビが入り、意識を取り戻した
ジャミルが氷をぶち破りヨーヨー攻撃を怪人にぶち当てた……。
どうやら急所を突いたようであり、スマッシュヒット、
大ダメージになりデパートの怪人は力尽きた……。
「アル、大丈夫か!?しっかりしろっ、命のうどんだぞっ!!」
「う……、ま、まずい……、このうどん伸びてる……、それに素の
ままのうどんはきついよ……」
「贅沢言うなっての、……とにかく、もう大丈夫だな……」
「うん、有難う、ジャミル……」
「へへっ!俺の方もな、助かったぜ!」
「ふふふ……」
「……グゲゲ、こ、このおれを倒した処で……、今更どうにも
ならないだろう……、……ギーグ様の……、小娘は今頃、
モノトリーの……、ゲゲ、ゲゲッ!」
デパートの怪人は呻き声を上げると消滅する……。偽者の
人形アイシャもその場から消えてしまっていた。
「……あ、灯りが付いたな……、あいつを倒したから……、
停電も復旧したのか……」
「ジャミル、あれは……」
「あっ……」
人形のアイシャが消えた後に真っ赤なリボンが残されていた。
ジャミルはリボンを拾い上げた。これだけは紛れもなく、
本物の彼女のリボンであった。元の世界でいつも身に着
けていたカチューシャの代わりに、この世界で彼女が
身に付けていた真っ赤なリボン……。
「アイシャ、絶対助けるから……、待っててくれな……」
ジャミルはそう呟くと、リボンをミサンガの様に自身の右手首に
巻き付けるのであった……。
ジャミル達はデパートを後にする。デパートの怪人の
死に際の言葉からも、一つだけ分かっている事は……。
「アイシャはモノトリービルだ、間違いねえな……」
「うん、でも……」
其処にアイシャが捕まっているのは確実だった。しかし、
二人きりで正面からいきなり飛び込むのは余りにも
無謀だと思った。アイシャが人質になっている以上、
何時、モノトリーが彼女に何をするか分からない
未知の危険もあった。
「ジャミル、以前に僕が街の人から集めた情報の中に……、
モノトリーは確かボルヘスの酒場に出入りしているって
聞いたんだ」
「ああ、トンチキのおっさんも言ってたな、この街で
フン詰まったら、ボルヘスの酒場へ行ってカウンターを
調べろってさ、……何でカウンターなんだか知らねえけど……、
とにかくだ……」
「ボルヘスの酒場で見張って……、どうにかモノトリーだけ
取っちめてしまう事が出来れば……」
「……アイシャも助けやすくなるって事だな!」
ジャミルとアルベルトは顔を見合わせ、頷く。
漸く作戦も決まった様であった。
「おーい!ジャミ公ーー!眼鏡ボウヤーー!」
「……ラッキー、ナイスのおっさん……、皆……」
トンズラ達が心配してジャミル達を探し回り
トラベリングバスで後を追って来たのであった……。
「な、何だい……、おっさん達、まだ出発して
なかったのかい……」
「何を言うか!わしらはお前らが心配じゃ!散々世話に
なりっぱなしで、お前らをこのままほおっておけるか!」
「カッカッカ!困った時はお互い様じゃ!」
「おっさん……」
「お?処で……、アイシャ嬢ちゃんがおらんようじゃが……」
「アイシャは……、くっ……」
ジャミルから話を聞いたラッキーとナイスは……。
「……な、何やとおおーーー!?」
「さらわれたやとおおーーー!!」
仰天し、ラッキーとナイスの帽子がまたふっ飛んだ……。
二人のオーバーリアクションを見ていた他の
メンバーも慌ててバスから飛び出して来た……。
ジャミルはメンバー全員に、モノトリーデパートの
一件をすべて話した……。
「そうじゃったんか、嬢ちゃん、今頃独りぼっちで淋しい、
心細い思いしてるんと違うか……可哀想にのう……、ううう……」
感極まってグルービーがハンカチを取り出し、ちーんと
鼻を噛む……。
「今日は流石に……、おれも歌う気になれないよ……」
「……酷い目に遭っていないといいんだけどね……」
アイシャの身を心配してくれ、ゴージャスとオーケーも
落ち込みモードに……。
「皆、有難うな、けど、大丈夫さ、ああ見えてもあいつも
根性あるからな、絶対大丈夫さ!……大丈夫……だよ……」
自分で自分を励ます為にも言った言葉だが、最後の方は
ジャミルも言葉に詰まり、上手く言葉が発せなくなって
しまっていた……。
「……ジャミ公……、よしっ、こうなったらわしらも
協力するでえ!!」
「皆でアイシャ嬢ちゃんを助けるんや!!」
「よっしゃああーーっ!!」
アイシャを助けようとトンズラ達も一致団結ムードで
大盛り上がりになった。しかし、その様子を見ていた
ジャミルはアルベルトと……。
「おっさん達、本当に有難うな、本当、俺、どう礼を言って
いいか分かんなくてさ……」
「何を言うとる!ジャミ公達はドロ船に乗ったつもりで
どーんと構えとき!」
「そやそや!カカカカカ!」
「へへ、それで、早速でわりィんだけど、頼みが
あるんだけどさ……」
「お、早速出動やな!?」
「わて、ワクワクしてきたでェ!!」
「ああ、実は……」
………
「な、何やとおーー!!」
「ホテルで待ってろやとおーー!?」
「あ、あんまり騒がないでくれよ、何処でモノトリーの
手下が見てるか分かんねえしさ……」
「そやかて、これは仕事アカンちゃうんかー!?」
「いえ、これも立派な作戦の一つです……」
「ほお~?」
アルベルトの言葉に、他のメンバーも顔を近づけはじめる……。
「モノトリービルに忍び込むには、後もう少し、情報が
必要なんです、僕らは街でもう一回りして、正確な情報を
集め、のちに潜入作戦も含め戻り次第、皆さんに近況を
御報告します……」
「ほうほう~、成程!」
アルベルトの話だと信憑性が高いせいか、皆真剣に話を
聞き入っている。
「分ったわい、待つ事も重要やな、おい、お前ら、んじゃ
早速ホテルの予約に行こうや!」
「がってーん、がってーん!」
納得したのか、漸くメンバーは再びバスに乗り込む。
様子を見ていたジャミル達はほっと一安心。
「じゃあ、わしら先にホテルで待ってるさかいな!
必ず来いや!」
「ああ、俺らもすぐに行くから!」
ジャミルがラッキーに手を振る。バスがホテルの方に
行ってしまった頃、ジャミルとアルベルト、二人は再び
顔を見合わせた。
「これで……、良かったんだよね……」
「ああ、おっさん達をこれ以上俺らの所為で
危険に巻き込む訳にはいかねえからな、けど
皆、単純で助かったよ……、でも、トンズラ
ブラザーズ、……ありがとな!」
「ジャミル、行こう!」
「よしっ!」
二人はボルヘスの酒場目指して歩き出す。自分達の事は
自分達でケリを付ける為に……。
「此処だ……」
「けど、僕ら子供が、こんなとこウロチョロしてて、
お巡りさんに見つからないかな……」
「君達、何してるのかな……?」
「う、うっ!ポリだっ!!」
お約束で、……お仕置き棒を持った警官が目の前に
突っ立っていた……。
「此処はっ、君達の様な子供がウロチョロしていて
いい場所ではないぞっ!!」
「に、逃げろ、アルっ!!」
「ちょっと、ジャミルっ!?あああーーっ!!」
混乱したジャミルはアルベルトを引っ張り慌てて逃げ回る。
「逃げるとは怪しいガキだっ!待てえーっ!!」
「……俺は本当は中身は20歳なんだよーっ!」
「訳の分からん言い訳をするなーーっ!!」
警官も逃げたジャミル達を追い掛け回す。
ジャミル達は警官から逃げ、近場を一回り巡ると、
又酒場付近まで戻ってきた……。警官がいないのを
見計らって慌てて酒場の中に逃走する。
「坊や達、どうしたんだい!?」
「た、助けてくれ!別にわりィ事した訳じゃねえんだよ、
ちょっと酒場の前にいただけで……ポリ公が俺達を
追い掛け回すんだ!」
「よしっ、此処に隠れな!」
酒場のマスターはカウンターの後ろに有る棚を何やらいじり始めた。
すると、棚が動きだし、隠し扉の様な物が……。
「さあ、早く早く!」
マスターに言われ、二人は慌てて扉の中に飛び込む……。
「……あれ?」
ジャミルとアルベルトは首を傾げる……。周りの景色が急に
真っ黒で異様な景色に変わっていたからである。
「おかしいな、俺達、確か変な扉の中に飛び込んだんだよな?
それから後は良く覚えてねえけど……、酒場の中なのは間違いねえよな……」
「本当だ、でも、何か異様な感じなんだけど……、どうしてなんだろう……」
「おっさん、念の為に聞くけど……、此処、フォーサイドだよな?……」
ジャミルは思い切って、酒場で酒を飲んでいたおっさんに訪ねてみるが……。
「君達、何言ってるの、ここはムーンサイドだよ……」
「……あんですと……?」
そして、ジャミル達が謎の異空間に飛ばされてしまった頃……
「放してっ!一体何処に連れて行くのっ!」
「静かにしていろ!これからモノトリー様にお前はお会いするんだ!
光栄に思え!!」
誘拐されたアイシャはやはりモノトリービルに連れて来られていた。
SPに脅され、どうやらこれからモノトリーと対面させられる様子……。
「この部屋だ、くれぐれも無礼の無い様にしろっ!」
(前にこのビルには来た事有るけど……、直にモノトリーと会うのは
始めてだわ……)
「モノトリー様……、例の小娘を連れて来ました……」
「ご苦労だった、入れてやってくれ……」
ドアが開き、アイシャとモノトリーが遂に対面を果たす……。
……ジャミル達が謎の異世界に送られてしまった頃、誘拐された
アイシャは……
「君が……、ギーグ様に刃向かう愚かなお子様達の1人、
アイシャさんだね?」
モノトリーがゆっくりとアイシャの方を振り向く。その姿は
本当に何処にでもいる、小柄な初老の弱弱しい老人であった。
「初めまして、アイシャです、其処まで知って頂いて光栄です……」
「まあ、此処にいる間はどうにも出来ないだろう、数日後に君は
ギーグ様の生贄となるのだ、それまで自由にしているといい、
後僅かの命だ」
「では、そうさせて貰います……、大丈夫よ、絶対にジャミルとアルが
助けに来てくれるわ、恐くなんかないわ!信じて待ってるの……」
「……生意気な小娘め……」
憎々しげにモノトリーがアイシャを睨んだ。しかしその目は
アイシャには酷く脅えて悲しげに映るのであった……。
(この人の心……、本当の心じゃない、……迷ってる……?)
「あの……」
「く、来るな!……そんな目で儂を見るな……!おい、早く小娘を連れて行け!」
「はい、さあ来るんだっ!!」
「……は、放してよっ!私、モノトリーさんとお話がしたいのよっ!」
「いいから来いっ!!」
「……モノトリーさんっ!!」
SPに抱えられてアイシャが強引に社長室から連れ出されていく……。
アイシャがいなくなった後、モノトリーは一人頭を抱えた……。
「おかしい……、あの小娘を見ていると……、自分が又自分で
無くなってしまいそうだ……、くっ……、マニマニの時とは違う……、
一体……、何だというのだ……、この感情は……」
社長室から追い出されたアイシャは、個室を与えられ、其処に
ほおり投げられた……。
「マニマニよ、そうよ、マニマニだわ……、モノトリーさんは
マニマニに取りつかれておかしくなってるんだから……、像さえ
壊してしまえばモノトリーさん、正気に戻ってちゃんと
お話ししてくれるかも知れないわ!よーしっ!」
アイシャは個室を抜けだし、マニマニの像を探そうとビル中を
歩き回ろうとするのだが……。
「……放してよっ!放しなさいよーーっ!」
「モノトリー様は貴様に自由にしていいと言ったが、あまりうるさく
彼方此方嗅ぎ回ってよいとは言っていないぞ!……大人しくしていろっ!!」
あっさりSPに捕まり、部屋に連れ戻されるのであった。
「全く、とんでもないジャジャ馬め……、どうしてモノトリー様は
こんなガキを野放しにしておくんだ、本来なら簀巻きで地下室へ
ぶち込むのが正解だと思うが……」
「何よっ、べええーだ!」
SPはアイシャ徘徊対策の為、個室に鍵を掛けて行ってしまう……。
「ジャミル、アル……、何だか心細くなって来たわ……、……ううん、
だ、駄目っ!私は今此処で出来る事を頑張らなくちゃ!」
少しでも僅かなチャンスがあればそれを狙うしかないのである。
アイシャに限られた時間の中で……。
そしてその夜……、就寝中のアイシャに……。
……苦し……い……、ううう……
「だ、誰っ!?」
アイシャは慌てて飛び起きた。誰かが助けを呼ぶ声が
アイシャの心にテレパシーを通じて聞こえてきたのであった。
……胸が……、胸が……、苦しい……
「この声……、もしかして、モノトリーさん?助けを呼んでるの……?
な、何かあったのかしら、大変っ!!」
アイシャは慌ててドアに駆け寄ると、思い切りドアを叩いて
SPを呼んだ……。
「お願いっ、開けてっ!此処を開けてーーっ!!」
「……何だ、騒々しい……、今度は何だ!?」
うざったらしそうにSPがアイシャの元へとやって来る……。
「モノトリーさんが大変なの!とても苦しんでいるみたい、お願い、
私をモノトリーさんの処まで連れて行って!」
「貴様、嘘をついて脱走し、又ビル中を徘徊する気だろう……、
この期に及んで何を企んでいるんだっ!……言えっ!!」
「……あ、ああっ!?」
SPはアイシャが女の子といえども容赦せず、強く胸倉を掴むと
鋭い眼光でアイシャを睨んだ……。
「……わ、私を信じて……、お願い……、このままじゃ本当に
モノトリーさんが……」
「……嘘だったら貴様、モノトリー様が何を言おうが地下室へ
連行させて貰うからな……」
「きゃあ!」
SPはアイシャから漸く手を放すと乱暴に身体を突き飛ばした。
「……来いっ!」
アイシャはSPに監視されながら急いで社長室へ向かう。
「モノトリーさんっ!……ああっ!!」
「……社長!!」
「う、ううう……、又、持病の発作が……、うう……」
「ど、どうかなさったんですか!?」
騒ぎを聞き付け、メイドの一人が慌てて駆け寄って来た……。
「ぼさっとしてるな!医者だ、医者を呼べっ!!社長の
心臓の発作だ!!」
「ですが、こんな夜中に大丈夫でしょうか……」
「叩き起せっ!早くしろーーっ!!殺すぞ、貴様っ!!」
「……は、はいーっ!!」
SPに脅され、メイドさんは慌てて医者への緊急連絡へと
走って行った……。
「相変わらず乱暴ねっ!……大声を出されるのが心臓の病気の人には
一番負担が掛っちゃうんだから!」
「お前はもういい、部屋に戻れ!」
SPが乱暴にアイシャの腕を掴んだ。しかし、その手を
アイシャは跳ね除ける。
「……貴様……」
「私も此処にいるわ、お医者様が帰った後も私がモノトリーさんの
看病をします!」
「ふざけるな!……お医者さんごっこのつもりか、貴様っ!!」
SPがアイシャの頬を強く叩いた。が、アイシャは俄然として
その場を離れず……。
「お、脅したって何したって私はこの人から離れないわ……」
一体何故……、この少女は敵である筈の……、自分の誘拐を企てた男を
こんなに構うのか……、SPには理解不能になって来ていた。やがて
アイシャの根性に根負けし……。
「好きにしろ……、お前など構っている暇はない、糞ガキが……」
「ありがとうっ!モノトリーさん、私、一生懸命頑張って
お世話します!」
アイシャは眠ったままのモノトリーに声を掛けた。やがて、
深夜にも関わらずホスピタルからヒーラーが到着し、
モノトリーは一命を取り留めたのであった。ヒーラーが
帰った後もアイシャは一時もモノトリーの側を離れず、
一生懸命介護を続けた……。そして、朝を迎える……。
「……わ、儂は……」
「社長、お目覚めになったんですね、良かった……、
もう大丈夫ですね!」
様子を見に社長室に訪れたメイドさんが笑った。モノトリーは
異様な違和感を感じ、自分の横をちらっと見た……。側には、
疲れて椅子で眠るアイシャの姿が……。手はしっかりとモノトリーの
手を握りしめて。
「……すや~……」
「この少女は……、一体何故……儂の処にいるのだ?」
「社長がお倒れになったのを、この子が知らせてくれたんです、
お蔭で早くお医者様を呼ぶ事が出来たんですよ……、お医者様が
お帰りになった後も、ずっと社長のおそばに付いていて付っきりで
看病して下さっていたんです……」
「……信じられん……、一体何故だ?儂はこの娘を殺そうと
しているのだぞ、それなのに……、何故敵である儂を
助けようとする……?何故だ……」
「社長、落ち着いて下さい、今はあまり何もお考えずに……、
又お身体に障ります、でも、……とても心の優しいお嬢さん
なのですね……」
「分らん、全く分からん…」
「社長……」
そして、アイシャは再び個室に戻されるが、モノトリーの容態が
回復した事に安心して心から喜ぶのであった。更に、アイシャの
側にはあのいかつい嫌なSPではなく、モノトリーの容態が
急変した時にホスピタルに連絡をしたメイドさんがお世話係に
側についていてくれる事になった。
「さあ、お嬢様、髪をおとかし致しましょう、さあ此方へ……、
鏡の前へどうぞ」
「お、お嬢様だなんて……、アイシャでいいわよ、何だか恥ずかしいわ……」
「じゃあ、私の事はエツコ、通称、メイドのエッちゃんと呼んで下さいね!」
「エッちゃん……、エツコさんて面白い人ね!」
「ふふ、綺麗な髪ですね、つやつやでさらさらしてます……」
メイドのエツコさんは一旦、アイシャのお団子ヘアを解くと、
髪を丁寧にヘアブラシでブラッシングし始める。
「本当は……、リボンを付けてたんだけど……、何処かに
落としちゃったみたいなの……、多分、此処に連れて
来られた時かなあ……」
「まあ……、おかわいそうに……、でも、アイシャさんは
可愛いんですもの、何をお付けになってもきっと似合いますよ!」
「あ、有難う……、エツコさん……」
恥ずかしいのかアイシャが顔を赤くする。その様子を見ていた
エツコさんはくすっと笑った。
「さあ、出来ましたよ」
「わあ……、こ、これ私……?」
「ええ、いつもと違うヘアアレンジは如何ですか?」
エツコさんはアイシャのヘアスタイルをアレンジし、今日は
ツインテール風にイメチェンしてくれたのであった。
「素敵っ!どうも有難う、エツコさん、とっても嬉しいっ!」
「うふふ、喜んで頂いて嬉しいです!…あら?」
……びーっ、びーっ、びーっ、びーっ!
エツコさんが常に持ち歩いている通信電話からどうやら連絡が
入った様であった。
「はい、……エツコですが……」
『ねえ~、、エッちゃん!ボクだよ、ポーキーだよおおん!
今何処にいんのさ!ちょおお~っとおお、用事があるんだけど
さあああ~!』
「……はい、分りました、すぐ伺います……、はあ……」
「エツコさん……」
「アイシャさん、私、ちょっと用事が出来まして……、これから
すぐポーキー坊ちゃまの処に行かなくてはならなくなりまして……、
申し訳ございません……、でも、すぐに戻りますから!」
「あっ、私なら大丈夫よ、……それより、大変ね……」
「ええ、あのお方にも困った物です……」
エツコさんは肩を落としてアイシャの部屋を出て行く……。
処がその日……、アイシャが幾ら待ってもエツコさんは
戻って来なかった。……結局、アイシャの監視には再び
SPが付いたのである。
そして、その夜、容態が回復したモノトリーも……、ある場所へと
独りでこっそりと向かっていた……。
zoku勇者 マザー2編・19