霊能探偵・芥川九郎のXファイル(19)【半田のサキュバス編】

第1章 守屋愛との和解

 霊能探偵・芥川九郎は、中区の事務所で友人の牧田と話していた。事務所と言っても、古びたビルの一室に過ぎない。部屋の隅では、芥川の助手・能年(鎧)がギターの練習をしている。能年(鎧)は、芥川の事務所に住み込みで働いている鎧の妖怪である。最近、芥川の指示で、ギターナイト(騎士)になるためにギターを始めたのだ。『愛のテーマ(ゴッドファーザー)』をマスターした彼(鎧)は今、『愛のロマンス(禁じられた遊び)』を無心に練習している。
牧田「守屋愛と和解したという話は本当かい?」
芥川「そうなんだよ。案外、いい条件で契約できたよ。」
守屋愛は、魔法学会から追放されるほど危険な魔術師である。最近、人気占い師としてYouTubeで大人気となり、『愛の奇石』という怪しい石を1個10万円で販売している。
牧田「どんな条件なんだい?」
芥川「『愛の奇石』の販売代理店契約だよ。販売手数料は、最初は10%からなんだけど、実績を積めば20%まで上げてくれるそうだよ。」
牧田「君は守屋愛の商売を手助けするつもりかい?安形クリステルがこの話を聞いたら、さぞかしあきれるだろうね。」
安形クリステルは名古屋の女子高生探偵である。芥川は彼女からの依頼により、守屋愛のセミナーに潜り込んだという経緯がある。
芥川「うん。まぁ、仕方ないよ。安形さんは聡明な能力者だけど、まだ高校生だからね。彼女はそもそも、名古屋で代々続く老舗企業のお嬢様なんだ。」
牧田「そうなんだ。」
芥川「危険な魔術師・守屋愛の動向を把握するためにも、こういう形で緩くつながっておく方がいいと思うしね。」

第2章 守屋愛からの依頼

 芥川は思い出したかのように、冷めたコーヒーを一口飲んでから言った。
芥川「明日、半田市に行くことになった。守屋先生からの依頼でね。」
牧田「守屋愛からの依頼って・・・大丈夫なのかい?危険な案件かもしれない・・・もしかすると罠かもしれないじゃないか。」
芥川「ハハハッ。そんなに心配することはないよ。僕と彼女はビジネスパートナーなんだからね。」
牧田「どんな内容の依頼なんだい?」
芥川「半田市でちょっとした事業を営む人物がいる。三倉という名前でね。彼は守屋先生に心酔しているパトロンの一人だ。最近、彼の言動がおかしいので、様子を見てきてほしいとのことだよ。」
牧田「言動がおかしいって・・・どういうことだろう?」
芥川「召喚魔法をマスターしたと吹聴しているらしい。守屋先生が言うには、彼は能力者じゃないからあり得ない話だと。」
牧田「なんだか気味が悪い話だね。守屋愛の罠かもしれないよ。」
芥川「牧田君は疑り深いね。守屋先生は忙しいから、支援者の一人がおかしなことを言っていても、一々真に受けて半田まで行く暇はないんだよ。」
牧田「それで君が行くのか。」
芥川「そう。牧田君の運転する車でね。明日はよろしく。」
牧田「やれやれ。」
芥川「本当に、三倉氏の様子を見てくるだけでいいんだよ。その後、事実をありのまま守屋先生に報告する。後処理は守屋先生が自分でやるってさ。」
二人の会話の間中、能年(鎧)は『愛のロマンス(禁じられた遊び)』を弾き続けていた。

第3章 半田市のパトロン

 芥川は、友人の牧田と共に半田市へ向かっていた。
芥川「牧田君の運転で出かけるのは久しぶりだね。」
牧田「ハハハッ。そう言えばそうだね。半田市までのドライブを楽しもう。」
芥川「半田市に行くのも久しぶりだなぁ。半田と言えば、赤レンガ建物・・・あと何かあったっけ?」
牧田「半田運河の美しい景観。お酢のミツカンは半田発祥だよ。あと『ごんぎつね』で有名な新美南吉も半田出身だよ。」
芥川「まぁ、それぞれの土地には、それぞれの名所・名物があるもんだよ。今回は観光で行くわけじゃないけど、三倉氏の容体が大したことなければ、ちょっと半田観光していこうか。」
 やがて牧田の運転する車は三倉氏の邸宅に到着した。
芥川「なかなか立派な邸宅だね。さすが守屋先生のパトロンだ。」
牧田「さぁ、行こうか。」
牧田がインターホンを押すと、三倉氏がドアを開けて出迎えてくれた。
三倉「ようこそいらっしゃいました。守屋先生のお弟子さんの芥川さんですよね。お話は先生から伺っております。」
芥川「どうも、芥川です。彼は私の助手の牧田です。」
牧田「こんちちは。今日はよろしくお願いします。」
三倉「どうぞ、お入りください。」
芥川と牧田は広いリビングに案内された。二人は、三倉に勧められるままテーブルのイスに座った。三倉が芥川に言った。
三倉「守屋先生はお元気ですか?」
芥川「えぇ、相変わらずですよ。最近、YouTubeを始めて、大変忙しいようです。それで私が三倉さんのお話を伺いに来ました。申し訳ありません。」
三倉「いいんですよ。私は時々、名古屋に行くんです。守屋先生に会う機会はいくらでもありますから。」
牧田「その守屋先生から、三倉さんが召喚魔法をマスターされたとお聞きしたんですが。」
三倉「マスターだなんてとんでもない。ただ一度だけまぐれで成功したんです。それが・・・」

第4章 妖艶な魔物の正体

 その時、美しい女性が三人分の紅茶を持ってきてくれた。
芥川「ありがとうございます。」
牧田「いただきます。おいしい紅茶ですね。彼女、三倉さんの奥様ですか?」
三倉「ここだけの話ですよ。彼女こそ、私が魔界から召喚した魔物なんです。」
牧田「えっ?・・・」
牧田は三倉の言葉に驚き、呆気にとられてしまった。確かに、彼の言動はおかしい。芥川は驚いた様子も見せずに、平然と言った。
芥川「私は守屋先生ほど有名ではありませんが、名古屋で霊能探偵をやっております。彼女は確かに、魔物ですね。」
三倉「おぉ。さすが守屋先生のお弟子さんだ。この話、誰も信じてくれないんです。」
三倉は芥川の言葉に喜び、彼女と出会った経緯を説明した。
三倉「私は毎日のように召喚魔法に挑戦し、失敗し続けた。ある日、深夜までそんなことをしていたら、疲れ果てて眠ってしまった。翌朝、目を覚ますと彼女がいたんです!」
三倉の説明を聞いた芥川は微笑んで言った。
芥川「牧田君、そろそろお暇しよう。三倉さんのお話、さっそく守屋先生に報告します。」
三倉「ありがとう、芥川君。守屋先生によろしくお伝えください。」
 牧田の運転する車は、まっすぐ名古屋へ向かっていた。牧田が芥川に聞いた。
牧田「半田観光はいいのかい?」
芥川「いや。早く帰って、守屋先生に報告した方がいいだろう。アレはサキュバスだよ。びっくりした。」
牧田「えっ!本当かい?僕は芥川君がまた適当に、三倉氏の話に合わせているのかと思っていたよ。」
芥川「三倉氏の召喚魔法が成功したとは思えない。どういうことだろう?あのままでは、三倉氏はサキュバスに生気を吸われ続け・・・」
牧田「サキュバスを退治しなくてもよかったのかい?」
芥川「牧田君、忘れたのかい?今回の守屋先生からの依頼は、調査・報告のみだよ。」
牧田「そうだけど・・・」
しばらくすると天気が急変し、俄かに空が暗くなった。やがて雷が鳴り、激しい雨が降ってきた。夕立のようである。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(19)【半田のサキュバス編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(19)【半田のサキュバス編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-15

CC BY
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  1. 第1章 守屋愛との和解
  2. 第2章 守屋愛からの依頼
  3. 第3章 半田市のパトロン
  4. 第4章 妖艶な魔物の正体