霊能探偵・芥川九郎のXファイル(18)【愛の奇石編】
第1章 ギターナイト(騎士)
霊能探偵・芥川九郎の助手・能年(鎧)は、芥川の指導の下にギターを練習していた。能年(鎧)は鎧の妖怪で、芥川の事務所に住み込みで働いている。事務所は中区にあるが、古びたビルの一室に過ぎない。
芥川「能年君、いい感じだ。練習量に比例して上達しているよ。」
それを聞いた能年(鎧)はコクッと大きく頷いた。そして、『愛のテーマ(ゴッドファーザー)』を無心に練習している。そこへ、芥川の友人・牧田がやって来た。
牧田「こんにちは、おじゃまします。あれ?ギターの音色が聞こえてきたから、てっきり芥川君が弾いているのかと思ったよ。能年君はギターを弾くこともできるのか。すごいなぁ。」
能年(鎧)は牧田に向かってコクッと大きく頷き、そのままギターの練習を続けている。
芥川「僕が教えているんだよ。彼はなかなか筋が良いよ。」
牧田「能年君がギターをやってみたいと言ったのかい?」
芥川「いや。最近、サックス侍が人気だろう?だから、能年君がギターを弾いてギターナイト(騎士)になれば、きっと人気が出るよ。」
牧田「能年君をギターナイトにして、YouTubeにでも出演させるつもりかい?」
芥川「そうなんだ。僕のYouTubeチャンネルは人気が低迷していてね。チャンネル登録者数も100人前後のまま低空飛行だよ。動画を上げても再生数が全然だ。」
牧田「君はYouTubeの収益で食ってるわけじゃないから、そんなこと気に病むことはないと思うんだけど。」
芥川「ハハハッ。まぁ、そうなんだけどね。軽い気持ちで始めたYouTubeだけど、なかなかおもしろいもんだよ。」
いつもは助手の能年(鎧)がコーヒーを運んでくれるのだが、彼(鎧)はギターの練習で手が離せない。芥川は自分でコーヒーを入れて、牧田に渡した。
牧田「ありがとう。いただきます。」
芥川「今朝、能年君が淹れてくれたコーヒーの残りだけどね。どうぞ。」
第2章 安形クリステル
牧田はコーヒーを一口すすってから芥川に言った。
牧田「今日は、安形クリステルさんが来所されるんだって?」
芥川「そうそう。おもしろい依頼を持ってくるみたいだよ。」
安形クリステルは名古屋の女子高生探偵だ。千里眼の能力で数々の難事件を解明し、名古屋ではちょっとした有名人だ。芥川も一目置く能力者である。
牧田「おもしろい依頼って・・・」
芥川「守屋愛が絡んでいるみたいなんだ。安形さんはもうすぐ来るはずだから、一緒に聞こうよ。」
しばらくすると、安形クリステルは約束の時間通りにやって来た。
クリステル「こんにちは、芥川先生。牧田さんもいらしたんですね。」
能年(鎧)は安形クリステルに向かって一礼した。そして、ギターの練習を続けている。
クリステル「こんにちは・・・あれが噂の、鎧の助手さんですか?」
芥川「安形さんは初対面だっけ?彼は僕の助手の能年君。」
クリステル「能年さんはギターがお好きなんですね。」
牧田「・・・・・・」
芥川「僕が教えているんだ。これからの時代、鎧の妖怪もギターくらい弾けないと人気者にはなれないと思ってね。」
クリステル「・・・・・・」
芥川は安形クリステルにイスを勧めた。彼女はどうもと言ってイスに座った。牧田は彼女にコーヒーを手渡してから聞いた。
牧田「今日は安形さんが興味深い依頼を持ってくると、芥川からお聞きしたんですが・・・」
クリステル「そうなんです。魔術師・守屋愛がおかしな商売を始めたんです。」
芥川「おかしな商売?」
第3章 愛の奇石
安形クリステルはコーヒーを一口飲んでから、話を続けた。
クリステル「芥川先生もご存じかと思いますが、守屋愛はYouTubeを始めたんです。彼女は人気占い師でもあります。チャンネル登録者数はあっと言う間に1万人を超えました。」
牧田「僕は守屋愛のチャンネルをまともに視聴したことないから、よく分からないんだけど・・・」
芥川「動画では毎回、ファンからのお悩み相談コーナーがあるんだ。『あんた!このままだと・・・無間地獄が始まるわよ!!』という決め台詞が大バズリしてるんだよ。」
クリステル「YouTubeで動画をアップするだけならいいんですが、彼女は最近、その人気を生かして石を売り始めたんです。」
牧田「石って・・・宝石みたいなものかな?」
クリステル「よく分かりませんが、河原に落ちているような普通の石を磨いて、1個10万円で売っているんです。」
牧田「1個10万円!?」
クリステル「守屋愛が言うには、人の嘆き、苦しみ、恨みつらみを吸収し、悲しみを癒すヒーリングストーンだそうです。彼女は普通の石を、霊能力で磨き上げた奇跡の石『愛の奇石』として高額で販売しているんです。」
芥川は突然、笑い出した。
芥川「ハハハッ。安形さんは聡明な霊能力者だけど、やはりまだ高校生なんだね。」
安形クリステルは芥川にバカにされ、不機嫌な表情をしている。
牧田「芥川君。安形さんの告発のどこがおかしいんだい?」
芥川「モノの値段は需要と供給で決まる。経済学のイロハのイだよ。そもそも、みんなが欲しがる日本銀行券もただの紙切れだ。紙幣として通用しているのは、国民がみんなその紙切れに価値があると、信用しているからにすぎない。」
牧田「ファンが守屋愛の石に価値があると信じて購入しているなら問題ない・・・というのが芥川君の意見かい?」
第4章 守屋愛のセミナー
芥川は、相変わらず不機嫌な顔をしている安形クリステルに謝った。
芥川「安形さん。僕の言い方は少し失礼でしたね。ごめんなさい。安形さんは、守屋愛の悪徳な商売をやめさせるべきだと考えているんですね。」
クリステル「はい。来週、守屋愛のセミナーがあるんです。参加料は1万円ですが、参加者には漏れなく定価10万円の『愛の奇石』がプレゼントされるんです。」
牧田「そのセミナーに潜り込めば、守屋愛を問い質すことができるかもしれないね。」
芥川「定価10万円が実質1万円か。フリマサイトに出品すれば、5万円で売れるかもしれない。よし、みんなで参加しよう!」
クリステル「・・・・・・」
こうして、安形クリステル、芥川と助手の能年(鎧)、牧田は守屋愛のセミナーに参加することになった。セミナーは大盛況で、会場は守屋愛のファンで一杯だ。
牧田「すごいファンだね。」
芥川「チャンネル登録者数1万人は伊達じゃないね。」
クリステル「守屋愛が出てきましたよ。」
壇上に現れた守屋愛は、会場のファンに呼びかけた。
守屋「みなさん、こんにちは!今日のセミナーでしっかり学んでくださいね。さもないと・・・無間地獄が始まるわよ!!」
セミサーはのっけから大盛り上がりである。
第5章 カメラを止めるな!
芥川は突然、壇上に駆け上がった。
芥川「守屋さん。随分、おいしい商売を始めたそうですね。」
セミナーのスタッフが数人、芥川を取り押さえるために駆け寄ってきた。しかし、守屋愛は手振りでスタッフたちを制止した。余裕の態度である。
守屋「芥川さんもセミナーに参加していたんですね。しっかり学んでいってくださいね。」
芥川「ものは相談ですが、『愛の奇石』を卸値で売ってくれませんか。1個千円なら100個買いますよ。」
芥川の不躾な提案に、さすがの守屋愛も激高した。
守屋「チャンネル登録者数が100人前後の霊能探偵がっ・・・図に乗るなよ!無間地獄に堕としてくれる!!」
守屋愛は召喚魔法を唱えた。
召喚された地獄の魔剣士が芥川に襲いかかる。芥川は能年(鎧)に指示した。
芥川「能年君!カメラを止めるなよ!!」
能年(鎧)はハンディカムで動画を撮っている。芥川は隠し持っていた鉄パイプで地獄の魔剣士に立ち向かった。
カキィーーーンッ!!カキィーーーンッ!!カキィーーーンッ!!
会場はパニックに陥った。芥川は氷結魔法を唱えた。地獄の魔剣士は体が氷結し、動きが鈍くなった。芥川は鉄パイプで地獄の魔剣士を叩きのめし、守屋愛に向かって叫んだ。
芥川「魔法学会から追放された邪悪な魔術師が!YouTubeで人気者になった上に、さらに金儲けかっ!!」
守屋「ほざくなっ!!!痴れ者め!!チッ!」
能年(鎧)がカメラを構えているのを見た守屋愛は、忌々し気に舌打ちし、魔法で姿をくらましてしまった。
牧田「芥川君、大丈夫かい?守屋愛は・・・」
芥川「逃げられてしまったよ。」
クリステル「・・・・・・」
安形クリステルは珍しい生き物でも観察するような目で、芥川を見つめていた。
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