劇
『未完成のスクリプト』
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4【第一幕:日常と、見えない亀裂】
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6(3期生たちの賑やかな発声練習や笑い声が響いている)
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8健:(大きな欠伸の音)……ふぁあ。やべえ、今日大学の課題キツくて寝不足だわ。
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10紬:ちょっと健。マイクに欠伸の音乗せないでよ。意識低いわね。
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12健:わりぃわりぃ。でもさ、部活始まればシャキッとするって。
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14葵:ふふっ、健くんお疲れ様!甘いものでも食べて糖分補給しなきゃね。
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16紬:葵は健に甘すぎ。……ほら、3期生たちもう自主練始めてるわよ。先輩がだらけてどうするの。
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18健:おっ、ホントだ。あいつら毎日元気だなー。
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20海:(演技声)「ここから先は通さない。僕の絶対領域だ!」
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22雫:(演技声)「……愚かね。あなたは既に、私の幻術の中。」
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24陸:(演技声)「うおおお!だったら力ずくでぶっ壊すまでだ!くらえええ!!」
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26雛:(演技声)「待って陸くん!無茶しないで!」
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28紬:……はい、そこまで。
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30陸:うおっ!?紬先輩、聞いてたンスか!?
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32紬:聞いてたわよ。陸、声張るのはいいけどマイクに近すぎ。音割れしてる。
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34陸:す、すみません!
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36健:ははは!相変わらず全力だな、陸!
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38雛:私たち、早く先輩たちみたいに上手になりたくて、早めに集まって練習してたんです!
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40葵:えらいえらい!その熱意、マネージャーとして花丸あげちゃう!
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42海:でも、やっぱり自分たちだけだと難しいですね。客観的な視点が欲しくて。
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44雫:……私のアプローチ、間違っていなかった?
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46紬:雫の幻術士は良かったわよ。ゾクッとした。ただ、海はもう少し余裕を持った方がいいわね。
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48海:なるほど、余裕……。意識してみます。ありがとうございます、紬先輩。
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50健:よし!じゃあ本格的に基礎練からやっていくか!陸、発声のお手本見せてみろ!
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52陸:おっしゃ!任せてください!(全力の腹式呼吸で)あめんぼあかいなアイウエオ!うきもにこえびもおよいでる!……よし!今日の喉のコンディション、最高潮っす!
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54雛:(キラキラした声で)すっごく良かったです、陸くん!「うきもにこえびも」のところが、こう……パパパッて弾けるみたいで!私も負けてられませんっ、聞いててください!隣の客はよく柿食う客だ!
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56陸:おー!雛もめっちゃ声出てる!じゃあさ、昨日配られた新しい台本、ちょっとだけ合わせてみない?俺、熱血勇者のセリフやりたい!
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58雛:やりますやります!私、ヒロインのセリフ読みますね!
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60陸:(急にキリッとした演技声で)『俺たちの絆は、誰にも壊させやしない!行くぞ!』……どうっすか!
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62雛:(感極まったような演技声で)『はいっ、勇者様!私も一緒に戦います!』……えへへ、なんだか本当に冒険に出るみたいですね!
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64海:(クスクス笑いながら)二人とも元気だなぁ。でも、その真っ直ぐな勢い、羨ましいよ。息もぴったりだし。
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66陸:海も一緒にやろうぜ!敵の幹部っぽい役があったじゃん!
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68海:僕?うーん……じゃあ、ちょっとだけ。(少し声のトーンを落として、クールに)『フッ……無駄な足掻きを。その程度の光で、この闇を払えるとでも?』……どうかな。もう少し冷たさが足りないかな?
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70雛:海くんはもっとこう、画面越しでも顎を引いて、見下すような姿勢で言うと悪役っぽさが出るかもです!
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72海:なるほど、マイク前での姿勢から作るのも大事だね。次はそれでやってみるよ。僕も新しい風として、もっと皆を刺激できるような表現を見つけたいな。
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74雫:(突然、地を這うような深い声で)……深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている……。
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76陸:うおっ!?雫、急にホラー!?マイクのノイズかと思った!
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78雫:(淡々と、だがどこか熱を持って)……今の、暗黒魔導士のセリフ。もっと深く潜りたい。このセリフの裏にある、深海の底みたいな孤独を……なぞるように。海、さっきの幹部のセリフ、もう一回合わせて。
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80海:えっ、僕!?う、うん……。(クールに)『フッ……無駄な足掻きを。その程度の光で、この闇を払えるとでも?――』
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82雫:(食い気味に)……甘い。そんな生温い闇じゃ、勇者は倒せない。もっと絶望の底に沈むような重力を乗せて。
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84海:(素に戻って)……あはは、厳しい演技指導が入った。雫ちゃんは本当にストイックだね。
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86雛:ふふっ、雫ちゃん、完全にスイッチ入っちゃいましたね!
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88健:(笑いながら)ははは!3期生は今日も自由でいいな!海が雫にタジタジじゃないか。
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90紬:(台本から目を離さず)もう、陸も雛も声が大きすぎ。音が割れてるからマイクのゲイン下げなさいよ。……でも、元気なのはいいことね。雫のアプローチも、相変わらず独創的で面白いわ。
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92健:ああ。あいつらがこれだけ熱心なら、この部も安泰だ。なあ、紗良?
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94健:……紗良? おーい、聞いてるか?
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96紬:ちょっと、どうしたの? 台本睨みつけて固まってるけど。
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98紗良:(ハッとして)えっ?……あ、うん。すごく良いと思う……。みんな、吸収が早くて……。(モノローグ)すごいな、3期生のみんな。どんどん自分の表現を見つけていく。次期部長としては……もっと、ちゃんとアドバイスして、引っ張っていかなきゃ、だよね……。
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100葵:(優しく割り込む)ふふ、紗良ちゃん、眉間にシワが寄ってるよ?もう少し肩の力抜いて~。お茶でも飲んで一息つこう?ほら、3期生も練習熱心なのは良いことだけど、一回休憩!
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102一同:(口々に)ありがとうございます!/いただきまーす!
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104(賑やかな声が少し遠ざかり、紗良の小さなため息がマイクに乗る)
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106紗良:(モノローグ)次期部長……。その言葉を聞くたびに、あの日、椿先輩に言われた言葉が蘇る。
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108(効果音:水滴が落ちる音など、回想への場面転換)
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110【回想:一ヶ月前、深夜の鍵付きボイスチャンネル】
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112(静かな空間。二人きりのVC)
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114椿:……ふう。……今日もお疲れ様、紗良。
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116紗良:(少し眠そうだが、嬉しそうに)はい、お疲れ様です、椿先輩!こんな時間に二人だけで呼び出しだなんて、明日の台本の打ち合わせですか?
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118椿:(少し間を置いて、意を決したように)違うの。……紗良、あなたに一番に伝えておきたくて。
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120紗良:え……?
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122椿:私、今月末で……このサーバーを、卒業することにしたわ。
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124紗良:(息を呑む音)……えっ?……え、ええ!?そ、卒業って、どういう……?
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126椿:声劇部も引退する。私のわがままだけど……これからは、あなたたちだけでこの部を引っ張っていってほしいの。
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128紗良:待ってください、急すぎます!椿先輩がいなくなったら、この部はどうなっちゃうんですか!?みんな、先輩の演技や背中に憧れて……!
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130椿:(優しく、けれど諭すように遮る)だから、よ。私がいつまでもいたら、皆、私の色に染まってしまう。それは部の成長を止めることと同じなの。
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132紗良:そんな……!
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134椿:だから、次の部長は……紗良。あなたに任せたいの。あなたの誠実さと優しさが、これからのこの部には必要なのよ。
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136紗良:(震える声で)無理です……!私に、先輩の代わりなんて……。私なんかじゃ、みんなをまとめられません。そんなの、絶対に無理です……!
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138椿:(悲しげに微笑みながら)大丈夫よ。あなたなら、私の描けなかった『最高の続き』を演じられるわ。頼んだわよ、紗良。
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140紗良:(モノローグ)先輩はそう言って、優しく笑った。でも……その笑顔が、私にはとても遠く見えた。……先輩は一人で、遠くに行こうとしている。
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142(効果音:場面転換、現実のVCの賑やかな声が戻ってくる)
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144【現実:ボイスチャンネル】
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146葵:(明るい声)紗良ちゃーん?お茶入れたつもりで、エア乾杯しよー!ほらほら!
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148紗良:(ハッとして我に返る)あ……うんっ!ありがとう、葵ちゃん。乾杯!
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150心:(静かに)……紗良。
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152紗良:っ、心先輩……。
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154心:……無理して笑うな。マイク越しでも、息遣いで分かるぞ。
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156紗良:!(慌てて取り繕う)む、無理なんてしてないですよ!ただ、ちょっと台本のことで考えてて……。
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158心:……そうか。ならいい。(モノローグ)椿……お前が良かれと思って渡したバトンは、あいつにはまだ重すぎるみたいだぞ。
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160(3期生たちの笑い声が響く中、紗良は痛む胸を押さえるように、そっとマイクをミュートにした)
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162(少し離れたところで、椿がその様子を愛おしそうに、けれどどこか寂しげに見つめている。隣に心が立つ)
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164心:……楽しそうだな、あいつら。
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166椿:(微笑み)ええ。本当に眩しい。……ねえ、心。あの子たちを見ていると、この場所が私にとってどれだけ大切だったか、改めて思い知らされるわ。
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168心:(椿の横顔を盗み見て)大切だからこそ、怖いか。
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170椿:(一瞬言葉に詰まり)……部長なんて、孤独なものだと思っていたけれど。卒業が近づくにつれて、残していくものへの不安が、自分でも驚くほど膨らんでいくの。紗良は真面目すぎるから……私が去った後、彼女がこの重圧に耐えられるか……。
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172心:(前を見据えたまま)お前が全部背負って去れば、彼女たちは楽になる。だが、それは「共に歩む」ことにはならない。
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174椿:……厳しいわね。でも、その通りよ。
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176(椿、中央へ歩み出る。部室内が静まる)
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178(3期生たちの賑やかな声が響く中、椿が静かに、しかしはっきりとした声で口を開く)
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182椿:みんな、少し練習の手を止めてもらえるかしら。……実は今日、みんなに伝えなきゃいけない大事な話があるの。
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184(いつもと違う椿の真剣なトーンに、部室(VC)が水を打ったように静まり返る)
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186椿:驚かせてしまったらごめんなさい。私……今月末の第3回本公演を最後に、部長を引退して、この部を卒業します。
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188一同(紗良以外):え……っ!?
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190椿:私が抜けた後の声劇部は……2期生の紗良に、次期部長として引っ張っていってもらおうと思ってるわ。これからの新しい部を、みんなで支えていってほしいの。……よろしくお願いします。
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192紬:(弾かれたように)椿先輩、いくらなんでも急すぎませんか!?卒業って……それに、紗良を次期部長にするなんて、私たち同期にも何も……!
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194健:そ、そうっすよ!俺ら、まだまだ先輩の背中追いかけてる途中で……!でも……っ、先輩がずっと一人で部を引っ張ってくれてたのは分かってます。だから、その……紗良!お前、一人で抱え込むなよ?俺らも全力で支えるからさ!
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196紗良:(戸惑いながら)紬……健……。
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198葵:(空気を和らげるように、明るく)ふふっ、二人とも慌てすぎ!椿ちゃんがいーっぱい悩んで、いっぱい考えて出した答えなんだから。ね?それに、紗良ちゃんなら絶対大丈夫だよ。私もマネージャーとして、ビシバシみんなをサポートしていくからね!
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200雛:(涙ぐんで)嘘、ですよね……?椿先輩……!卒業だなんて、私、嫌です……!
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202海:……突然すぎますよ、椿さん。僕たち、やっと先輩と一緒に演技できるようになったばかりなのに……椿さんのいない部活なんて、想像がつかない。
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204陸:(動揺を隠し、必死に明るく)……マジ、っすか。いや、でも……!先輩が決めたことなら、俺たち、先輩に教わったこと全部出し切りますから!卒業公演、絶対最高のステージにして見せます!
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206雫:……椿さんの声が、遠くなる。……悲しい、です。
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208心:(静かに、だが重みのある声で)……お前ら、あまり椿を困らせるな。こいつなりに、お前らの未来を一番に考えて出した結論だ。
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210椿:(少しホッとしたように)心……ありがとう。みんな、勝手を言って本当にごめんなさい。でも、今のあなたたちなら、私がいるよりもずっと高い場所に行ける。……そう信じてるから。ね、紗良?
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212紗良:(皆の期待、不安、寂しさ……全ての想いを一身に浴び、青ざめた表情で、消え入りそうな声)……はい。精一杯……私にできること、精一杯、務めさせていただきます。
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214(椿は優しく微笑むが、紗良の震える声と、マイク越しの小さな息苦しさには気づかないふりをする)
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218【第二幕:すれ違う思いと交わる思い】
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220〇夜・活動終了後(鍵付きのボイスチャンネル)
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224健:……なあ。俺たち、このまま黙って見てるだけでいいのか?
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226紬:黙って見るって、どういうこと?
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228健:紗良のことだよ!あいつ、明らかに無理してる。さっきマイクミュート外す前、過呼吸みたいになってたぞ。
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230紬:あの子、責任感が人一倍強いから……。「自分が部を引っ張らなきゃ」って、勝手に呪いみたいなプレッシャーかけてるのよ。
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232健:だよなぁ。でもさ、部長だからって全部一人で背負う必要ねえじゃん。俺たちがいるんだから。
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234葵:そうね。でも、今の紗良ちゃんには、私たちの言葉もプレッシャーになっちゃうのかも。「期待に応えなきゃ」って。
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236紬:もどかしいわね……。同期として、一番近くにいるのに、手を伸ばしても届かない感じ。
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238健:ああ。俺、昔紗良に演技のこと相談乗ってもらった時、すげー救われたんだよな。だから今度は俺が助けたいのに。
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240葵:健くん……。
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242葵:……心くん。あの子、もう限界よ。さっきも台本を持つ手が、マイク越しに分かるくらい震えてた。
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244紬:(ため息をついて)……私も気づいてました。私が少し強めにダメ出しした時も、ただ「ごめん」って謝るだけで。あんなに萎縮した紗良、見たことないです。
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246健:俺らがいくら「大丈夫か?」「手伝うぞ」って声かけても、「大丈夫、私がやらなきゃ」の堂々巡りだしな……。椿先輩の完璧な影を追うのに必死で、周りも自分も見えなくなってる。どうにかして、あいつに「お前はお前でいいんだ」って自信持たせてやりてえけど……。
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248心:あの二人は、互いを思いやるあまりに、本当の言葉を飲み込んでいる。普通に腹を割って話せと言っても、またお互いを庇い合って上辺だけで終わるだろう。
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250葵:うん……。二人とも、優しすぎるから。
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252心:だから、俺が少し仕掛けを用意した。素直に言葉にできないなら、劇(フィクション)の力を借りて、役に託して本音をぶつけさせればいい。
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254紬:まさか……心先輩が脚本を? いつもの公演用じゃなくて?
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256心:ああ。椿が灯台守として、あいつに引導を渡すための劇だ。……二人のためだけに書き下ろした。
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258健:当て書き……。なるほど、演技の中なら、あいつらも素直に本音が言えるってことか!
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260紬:でも、そんな荒療治、もし失敗したら……。
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262心:失敗した時は、その時だ。だが、劇の中(フィクション)でしか越えられない壁もある。あいつらが自分の足で立つには、一度ちゃんと本心をぶつけ合うしかないからな。……ただ、あの二人のことだ。台本を無視して、泣き崩れるかもしれない。その後のフォローは、お前ら2期生に任せるぞ。
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264健:(拳を握るように力強く)当たり前っすよ!紗良がどんなに泣いても、俺と紬でガッチリ受け止めますって!俺たちで、紗良に「お前は一人じゃない」って、しっかり教えてやりますから!
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266紬:ええ。紗良の背中は、私たちがしっかり押します。次期部長を泣かせるなんて、先輩だろうと容赦しないんだから。
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268葵:ふふっ、二人とも頼もしい!
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270葵:(優しく微笑んで)……劇(フィクション)でしか言えない本音って、あるものね。さぁ、私たちも、紗良ちゃんが『自分自身の声』をちゃんと出せるように、最高の舞台裏を作ろっか!
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272〇同刻・別のボイスチャンネル(3期生だけの部屋)
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274雛:……あの、みなさん。まだ起きてますか?
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276海:うん。なんだか目が冴えちゃってね。
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278雫:……私も。
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280陸:おお!お前らも起きてたか!いやさ、俺も全然寝付けなくて。
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282雛:陸くん、さっきから何度も深いため息ついてましたよ……。
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284陸:聞こえてた!?わりぃ!でもさ……(頭をかくような音を立てて)あーもう!なんか俺たち、何もできないのがすっげーもどかしいっすね!
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286雛:うん……。紗良先輩、さっきお返事する時、声がすごく震えてた……。椿先輩も、いつも通り笑ってたけど、なんだかすごく寂しそうで……。
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288雫:……二人の間に、目に見えない壁があるみたいだった。
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290海:椿先輩は、あえてその壁を作ろうとしているように見えたよ。
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292陸:なんでだよ!椿先輩と紗良先輩、あんなに仲良かったのに!
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294雛:きっと……卒業するから、ですよね。優しくしちゃったら、紗良先輩がもっと辛くなるから……。
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296海:……不器用だなぁ。二人とも。健先輩たちも、僕たちには心配かけまいとして明るく振る舞ってくれていたけど……あの空気、僕たちでも分かるくらい張り詰めていたよ。
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298雫:(静かに、ぽつりと)……海が凪いでいるのに、底の方で激しい渦が巻いているみたい。……紗良さんのプレッシャーと、椿さんの孤独が、見えないところでぶつかってる。
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300陸:それ、すっげーわかる!表面上はいつも通りなのに、腹の底がザワザワする感じ!俺たち、ただの一番下っぱとして守られてるだけでいいのかな。もっとこう、先輩たちをドーン!と安心させられないのか!?
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302海:ドーン!って……陸らしいね。(少し真面目な声色になって)でも、陸の言う通りかもしれない。僕たちが『先輩たちがいないと不安です』って態度のままでいたら、椿さんも安心して卒業できないし、紗良先輩の重圧も増すばかりだ。
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304雛:そうですよね……。私、さっき「卒業なんて嫌だ」って泣いちゃって……。あれ、椿先輩を困らせちゃいましたよね……。
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306陸:雛のせいじゃねえよ!あそこで泣かない方がおかしいって!
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308雫:……私も、悲しいって言った。でも、それは偽りじゃない。
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310海:感情をぶつけるのは悪いことじゃないよ。でも、泣いた後は、しっかり立ち上がって歩く姿を見せないと。
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312雛:……はい。歩きます。私、しっかり自分の足で!
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314雛:(ハッとして)そっか……!私たちがもっとしっかりして、「今の声劇部には私たちがいるから大丈夫だ!」って思ってもらえれば、先輩たちの気持ち、少しは軽くなるのかな……?
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316雫:……私たちが、新しい風になる。停滞している空気を、吹き飛ばすための。
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318海:うん。僕たちの演技で、先輩たちを驚かせよう。言葉で「大丈夫ですよ」って励ますより、マイクの前の芝居で証明するんだ。『これからの声劇部は、僕たちに任せてください』って。
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320陸:おっしゃ!それだ!やっぱり役者は芝居で語らねえとな!
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322雫:……言葉より、強い説得力。
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324雛:私たち、まだまだ未熟だけど……気持ちだけは、絶対に負けません!
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326海:うん。僕たちの熱量で、先輩たちの心を動かそう。
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328陸:(パッと明るい声になって)おっしゃ!なんかすっげー燃えてきたぜ!明日の練習、俺が絶対一番デカい声出してやる!雛、雫、海!俺たち3期生で、先輩たちに最高の景色、見せてやろうぜ!
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330雛:はいっ!私、今から滑舌の練習もう一周してきます!絶対に足を引っ張らないように……ううん、先輩たちを引っ張るくらい、頑張ります!
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332雫:……ふふ。じゃあ、私も台本の深海に……もう一度潜ってくる。誰よりも深い闇を、見つけるために。
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334海:(笑いながら)僕も負けてられないな。よーし、3期生、気合い入れていこう!
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336陸:おおー!夜明けまで台本読み込むぜ!
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338雛:陸くん、ちゃんと寝ないと明日の声に響きますよ!?
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340海:あはは、陸らしいね。でも、程々にね。
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342雫:……おやすみなさい。良い、夢(えんぎ)を。
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344〇居残り練習 (紗良一人が個室に入り、何度も同じセリフを繰り返している)
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346紗良:「私は、あなたを……っ、あなたを導く光になりたい……」。……ダメ。全然違う。椿さんなら、もっとここで声を震わせて、聴き手の心に直接触れるような……。 (葵が入ってくる。)
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348葵:まだやってる。紗良ちゃん、もう日付が変わるわよ。
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350紗良:(ハッとして)あ、葵さん。すみません、あと少しだけ……。
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352葵:「あと少し」がもう二時間続いてるわ。ほら、一旦休憩しましょ。
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354紗良:……ありがとうございます。
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356葵:紗良ちゃん。最近、鏡見た? 眉間にずっとシワが寄ってそうな声してるわよ。
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358紗良:……笑い方を、忘れたかもしれません。椿さんみたいに、包み込むような笑顔ができれば、みんなも安心してついてきてくれるのに。
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360葵:あなたは椿じゃない。……それに、椿だって最初からあんな風に笑えていたわけじゃないのよ。
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362紗良:でも、椿さんは「完成」しています。私は……。三か月も教えてもらっているのに、部長どころか自分に自信が持てないんです…。
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364葵:それは、あなたが「椿の音」を出そうとしているからじゃない?
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366紗良:(顔を上げる)……え?
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368葵:マネージャーとして、ずっとみんなの声を聞いてきたからわかるの。今の紗良ちゃんの声には、紗良ちゃん自身がいない。椿という「完璧な正解」をなぞることに必死で、自分の感情が置き去りになってる。
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370紗良:(絞り出すように)……なぞるしかないんです。そうしないと、この部が終わってしまう! 椿さんが作ったこの温かい場所を、私の実力不足で壊すわけにはいかない……。
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372葵:(紗良の肩にそっと手を置く)壊れないわよ。紬も健も、生意気な3期生たちだって、あなたの「正解」が見たくてここにいるんじゃない。あなたと一緒に、新しい劇を作りたいだけ。
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374紗良:……私と一緒に?
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376葵:そう。……紗良ちゃん。次に部長としてみんなの前に立つ時、一回だけ「椿ならどうするか」を忘れてみて。
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378紗良:……忘れられるでしょうか。
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380葵:大丈夫。椿が信じた紗良ちゃんを信じてみて。
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382〇夜・活動終了後(鍵付きのボイスチャンネル)
383
384(静かなVCルーム。椿と心の二人だけがいる)
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386椿:……葵から連絡があったわ。紗良、相当追い詰められているみたい。さっきの練習でも、マイク越しに分かるくらい手が震えていたって……。
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388心:……ああ。分かっている。お前が「完璧」すぎた代償だな。
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390椿:(寂しげに息を吐いて)私は、ただ……あの子に自由になってほしかっただけなのに。私がいつまでも手を引いていたら、あの子は私の影を追い続けるばかりだから。
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392心:なら、最後までちゃんと見届けてやれ。自分が抜けた後の部がバラバラになるのが怖いからって、あえて突き放すような真似をするな。……それは愛じゃない。
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394椿:……っ。心には、全部お見通しね。
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396心:同期だからな。(少しPCを操作する音)……今、お前にファイルを送った。
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398椿:ファイル? ……『最後の星火』?
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400心:ああ。俺が書いた、お前たち二人のためのスクリプトだ。
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402椿:(驚いたように)心が……私たちのために、台本を?
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404心:明日の最後の合わせで、これを二人でやれ。お前が「現役の灯台守」として、あいつに引導を渡してやるんだ。
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406椿:引導を……。でも、どうして台本なの? 普通に話せば……。
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408心:お前ら二人は不器用すぎるからな。普通に話そうとすれば、またお互いを庇い合って、上辺だけの綺麗な言葉で終わるだろ。
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410椿:……痛いところを突くわね。
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412心:……劇(フィクション)の力を借りて、あいつの本当の「声」を引きずり出してこい。台詞の裏に、お前の本当の想いも乗せてな。後のことは俺と、頼もしい後輩どもに任せておけ。
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414椿:(台本に目を通しているのか、少しの沈黙の後、決意を込めた柔らかな声で)
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416 ……ええ。分かったわ。ありがとう、心。
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418……私、最高のお芝居で、あの子にバトンを渡してみせる。
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420心:(静かに微笑むような声で)ああ。期待してるぞ、部長。
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424【第三幕:劇中劇『最後の星火』】
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426〇翌日・夕方(いつものボイスチャンネル)全体練習
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428(3期生たちのセリフ読みが終わり、2期生たちが指導をしている)
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432紬:……はい、そこまで。陸、また語尾が走ってる。勢いがあるのはいいけど、焦って言葉を飲み込まないで。
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434陸:うっ……!す、すみません!腹筋がまだ甘かったっす!もう一回お願いします!
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436健:陸、お前昨日の夜、遅くまで起きてただろ。声のハリはいいけど、少し息が上がってるぞ。
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438陸:ギクッ!?なんでわかったんスか!?
439
440紬:マイク越しの息遣いで大体わかるのよ。気合い入れるのはいいけど、体調管理も役者の仕事よ。
441
442陸:はい!気をつけます!
443
444健:焦るな焦るな。喉だけで声出そうとするから走るんだよ。雛は今の陸のテンポによく合わせてたぞ。その調子だ。
445
446雛:ありがとうございます、健先輩!もっとピタッと合わせられるように頑張ります!
447
448紬:雛も、少し力が入りすぎてる。セリフを「読もう」とするんじゃなくて、相手の言葉を「受けて」から返しなさい。
449
450雛:あ……なるほど!自分のセリフばっかりに意識がいってました。
451
452健:そうそう、会話のキャッチボールな。
453
454葵:(明るく)うんうん、みんな昨日よりずっと良くなってる!ね、紗良ちゃん?次期部長さんから見て、海くんと雫ちゃんの掛け合いはどうだった?
455
456紗良:(少し緊張した声で)えっ、あ……はい。雫ちゃんの没入感は本当に凄かったし、海くんもそれに引っ張られずに自分の芯を持ってて……すごく、良かったと思います。もっと……その、お互いの息遣いを聞けると、さらに良くなるかなって……。
457
458雫:……息遣い。……分かりました。もっと海の波音(声)に、耳を澄ませます。
459
460海:ありがとうございます、紗良先輩。先輩のアドバイス、すごく分かりやすいです。
461
462陸:紗良先輩!俺の演技もどうっすか!?
463
464雛:あ、陸くんずるい!私もアドバイス欲しいです、紗良先輩!
465
466紬:ちょっと二人とも、紗良を困らせないの。順番でしょ。
467
468健:ははは、紗良、大人気だな!
469
470葵:紗良ちゃんがしっかり見てくれてるから、3期生も安心してるんだね。
471
472(効果音:ピコン、と誰かがVCに入室する音)
473
474椿:……ふふ、みんなお疲れ様。熱心にやってるわね。
475
476一同:あ、椿先輩!/お疲れ様です!
477
478椿:ごめんなさい、少し遅れちゃって。私が練習出来る役、まだ残ってるかしら?今から加わっても——
479
480(効果音:ピコン、ともう一人VCに入室する音)
481
482紗良:あ、心先輩。お疲れ様です。
483
484心:お疲れ。……悪いが、今日の練習メニューはここで一旦ストップだ。少し予定を変更する。
485
486健:おっ、心先輩直々のメニュー変更っすか?
487
488心:(淡々と)テキストチャンネルに、PDFファイルを一つ落とした。……タイトルは『最後の星火(せいか)』だ。
489
490紗良:『最後の星火』……?(マウスをクリックする音)あの、心先輩、これ……次の公演の台本ですか? 私、こんなの受け取ってなくて……。
491
492心:お前には渡していないからな。俺が書いたオリジナルの台本だ。……椿、紗良。今からこの台本を、お前ら二人でやれ。
493
494紗良:えっ……!? わたしと、椿先輩で……!?
495
496心:そうだ。事前の読み合わせなし、完全な初見読みで構わない。役柄は指定してある。
497
498紗良:(パニック気味に)ま、待ってください!初見だなんて……しかも椿先輩と二人きりの劇なんて、急すぎます!私、ちゃんと読み込んでからじゃないと、先輩の足手まといに——
499
500椿:(優しく、しかし有無を言わさぬ声で)紗良。
501
502紗良:っ……椿、先輩……。
503
504椿:大丈夫よ。私も昨日もらったばかりで、ろくに練習なんてしていないもの。それに、心からのせっかくの指名じゃない。……やりましょう?
505
506紗良:でも……!私、心の準備が……っ。
507
508紬:(静かに、背中を押すように)紗良。やりなさい。
509
510紗良:紬……?
511
512葵:そうだよ、紗良ちゃん!初見の力試し!私たちも全員、マイクミュートにして特等席で聴かせてもらうから!
513
514陸:おおー!椿先輩と紗良先輩のサシ演技!すっげー楽しみっす!!
515
516海:(小声で)……なんだか、いつもと少し空気が違うね。
517
518雫:そうね…海が荒れないか心配だけど…航海はこうでなくちゃ…。
519
520陸:(小声で)すげえ緊張感……でも、先輩たちのガチ演技が見れるチャンスっすね!
521
522雛:(小声で)はい……私、一言も聞き逃さないようにします!
523
524紗良:(皆の期待の眼差しを声から感じ取り、逃げ場がないことを悟る)……っ。わかり、ました。……やります。
525
526心:……よし。お前たち二人は、台本に書かれた「現役の灯台守」と「次代の灯台守候補」だ。椿は現役の灯台守役。 穏やかで聡明だが、自らの魔力が尽きつつあることを知っている。 紗良は次代の灯台守候補だ。 数か月前から島で椿のもと修行している。 真面目で努力家だが、自分に星火を継ぐ資格があるのか自信がない。その自信のなさがネックになり、心を共鳴させて灯す星火を、一度も点けたことがないという設定だ。
527
528……準備はいいか?
529
530椿:ええ。いつでもいいわ。
531
532紗良:(震える息を吸い込む)……はい。
533
534心:それでは……『最後の星火』まで、3・2・1・アクト。
535
536(VC内が静まり返り、二人の息遣いだけがマイク越しに響き始める)
537
538
539
540劇中劇:『最後の星火』
541
542
543
544椿 そろそろ夜になる。
545
546紗良 はい。
547
548椿 ……緊張してる?
549
550紗良 してません。
551
552椿 嘘。顔が怖いよ。
553
554紗良 ……少しだけ。
555
556椿 少し?
557
558紗良 ……かなり。
559
560椿 (くすっと笑う) 三か月もここにいて、まだ?
561
562紗良 だからです。
563
564椿 ん?
565
566紗良 三か月いても、まだ何も掴めない。
567
568椿 ……。そんなことないよ。紗良は頑張ってる。
569
570紗良 頑張るだけじゃ務まらない。
571
572椿 ……。
573
574紗良 初めて見た時、ただの火じゃないってすぐ分かりました。
575
576椿 綺麗だった?
577
578紗良 怖かったです。
579
580椿 怖い?
581
582紗良 意思があるみたいで…。
583
584椿 半分正解。
585
586紗良 っ ……!
587
588椿 《航路を示せ、星の残火よ——》
589
590紗良 ……何度見ても。
591
592椿 慣れない?いずれは紗良が灯すのよ
593
594紗良 どうして、こんな色なんでしょう。
595
596椿 灯台守によって違うから。
597
598紗良 違う?
599
600椿 うん。この青白さは、私の魔力の色。
601
602紗良 じゃあ、次代が継げば。
603
604椿 違う色になる。灯の色は同じじゃなくていい。船に届けば、それでいい。
605
606紗良 今日も、駄目でした。
607
608椿 惜しかった。
609
610紗良 慰めはいりません。
611
612椿 慰めじゃない。
613
614紗良 でも、共鳴しなかった。
615
616椿 一瞬した。
617
618紗良 一瞬じゃ意味がない。
619
620椿 あるよ。
621
622紗良 ……。星火は私を拒んでるんです。
623
624椿 違う。星火は心で灯すの。自信を持ちなさい。
625
626紗良 椿さん。
627
628椿 なに?
629
630紗良 どうして、次代をこんなに急いで探したんですか。
631
632椿 ……。星火を灯すには、魔力を削る。長く扱えば扱うほど、削られる。
633
634紗良 ……。
635
636椿 私はもう、長くない。
637
638紗良 ……え。
639
640椿 一年は保たない。
641
642紗良 そんな。
643
644椿 最近は時々、灯が揺れる。
645
646紗良 どうして言わなかったんですか。
647
648椿 焦らせたくなかった。
649
650紗良 私は——
651
652椿 知ってる。
653
654紗良 怖いです。
655
656椿 うん。
657
658紗良 もし灯せなかったら。
659
660椿 うん。
661
662紗良 私の代で終わったら…灯を絶やしたら船を導けません!
663
664椿 ……紗良。
665
666紗良 椿さん、みたいにはなれません。
667
668椿 ……知ってる。
669
670紗良 え。
671
672椿 なれないよ。ならなくていいの。
673
674紗良 ……。
675
676椿 だって私は私で、紗良は紗良だから。
677
678紗良 そういう綺麗事を。
679
680椿 綺麗事じゃない。私はね、紗良。私と同じになるために紗良を選んだんじゃない。
681
682 …私のあとを、“終わらせない”ためにお願いしたの。
683
684(警報音)
685
686紗良 ……っ !
687
688椿 霧警報!
689
690紗良 霧がどんどん深くなっていく……!
691
692椿 沖に船がいる。
693
694紗良 灯を!
695
696椿 《航路を示せ、星の残火よ——》
697
698【しかし、不完全に弾けて消える】※これもバチッというような音入れる
699
700紗良 ……!
701
702椿 くっ ……。もう一度。
703
704椿 《航路を示せ、星の残火よ——》《航路を示せ、星の残火よ——》……
705
706【再び失敗】
707
708紗良 椿さん……
709
710椿 ……ついにこの日が。
711
712紗良 え…?
713
714椿 限界…みたいね…。
715
716【紗良、息を呑む】
717
718椿 私にはもう、灯せない。
719
720紗良 そんな……!
721
722椿 紗良。灯して。
723
724紗良 無理です!
725
726椿 やって。
727
728紗良 できません!
729
730椿 できる。
731
732紗良 どうして言い切れるんですか!
733
734椿 ……言い切れない。だから、信じるしかない。
735
736紗良 私は信じられません!
737
738椿 私もだよ。
739
740紗良 え……
741
742椿 怖い。すごく怖い。私じゃない誰かに託して、もし消えたらどうしようって。でもそれ以上に怖いのは…最後まで手放せない自分が…この大切な役目に依存している事が、怖いのよ……。だから紗良、お願い。私を終わらせないで。
743
744紗良 ……。椿さん、もし失敗したら…。
745
746椿 何度でもやればいい。
747
748紗良 届かなかったら…。
749
750椿 自分を信じて!
751
752紗良 あなたと違う灯でも。
753
754椿 それが見たい。紗良の灯が見たいのよ。
755
756紗良 (大きく息を吸って)……《航路を示せ、星の残火よ。海に迷うすべてへ》
757
758【微かな反応】※音
759
760紗良 《道を示せ!》
761
762【轟、と灯が燃え上がる】※音
763
764【柔らかな金色】
765
766【風の中、安定して輝く】※この辺も何か音
767
768紗良 ……点いた。
769
770椿 ……。
771
772紗良 椿さん?
773
774椿 ……綺麗。 金色なんだ。
775
776紗良 変…ですか?
777
778椿 ううん。あったかい灯。
779
780【遠く、船の霧笛】※音
781
782紗良 届いた…!
783
784椿 うん、届いた。
785
786紗良 朝ですね。
787
788椿 うん。
789
790紗良 ……これで。
791
792椿 うん。
793
794紗良 私は灯台守ですか。
795
796椿 … もう、とっくに。
797
798【二人で笑う】
799
800椿 私が認めるより先に、星火が認めてた。
801
802紗良 ……。
803
804椿 ごめん。あなたを信じるのが遅かった。
805
806紗良 私もです。
807
808椿 …じゃあ、行くね。
809
810紗良 はい。
811
812椿 あとは任せたわよ。
813
814紗良 ……はい。いってらっしゃい、椿さん。
815
816 ……さて。今日も、海を照らそう。
817
818
819
820【エピローグ】
821
822(劇中劇『最後の星火』終了。VC内は深い静寂に包まれている。二人の息遣いだけがわずかに聞こえる)
823
824(効果音:複数のユーザーがミュートを一斉に解除する音)
825
826
827
828葵:(鼻をすする音、涙声で)……ばかぁ。二人とも……最高すぎるよ……っ!
829
830健:(鼻をグズグズさせながら)……っ、マジで……卑怯だろ、あんなの……。
831
832紬:ちょっと健、泣きすぎ。鼻水すする音マイクに入ってるわよ。……って、言いながら私も涙止まらないんだけど……っ。
833
834陸:(大号泣しながら)うわあああん!椿先輩!紗良先輩!!なんすか今の!めちゃくちゃ感動したっす!!俺、鳥肌止まんないっす!!健先輩も紬先輩も泣いてるじゃないっすかー!うわあああん!
835
836雛:(泣きじゃくりながら)もう、涙で画面が見えません……っ。紗良先輩の金色の灯、私にも……ハッキリ見えました……!みんな大号泣ですね……ずびっ。
837
838海:(少し声を震わせて)台本……本当に初見だったんですよね? 途中から、セリフなのかお二人の本当の言葉なのか分からなくなって……圧倒されました。ふふ……でも、本当に素晴らしいお芝居でした。
839
840雫:(静かに、しかし深い熱量で)……深海の底まで、光が届いた。……あったかくて、力強い……紗良さんの、色。……うん。心が、震えた。
841
842葵:もー、みんな顔ぐちゃぐちゃじゃない!でも、最高の涙だねっ。
843
844海:僕は本当に、途中までただの劇だと思っていました。でも、紗良先輩が叫んだ瞬間……本物だって、肌で感じました。
845
846陸:うん!ドーン!って、胸のド真ん中に響きました!
847
848雛:息をするのも忘れちゃうくらい、すごく、綺麗でした!
849
850雫:……はい。真実の、傑作。
851
852紗良:(我に返ったように)みんな……。あ、わたし……。
853
854健:……ったく、心臓に悪い芝居しやがって。でも……(明るく、誇らしげに)よくやったな、紗良!最高の次期部長だ!
855
856紬:ええ。途中、台本にないセリフあったでしょ。椿先輩も、紗良も。……やっと、ちゃんと本音でぶつかれたじゃない。
857
858紗良:えっ……あ! (慌てて)すみません! わたし、途中で頭が真っ白になっちゃって、勝手に言葉が……!
859
860椿:(ふふっと、憑き物が落ちたように笑う)いいのよ、紗良。台本通りにいかないからこそ、声劇は面白いんだから。……ごめんなさいね、みんな。今まで一人で勝手に背負い込んで、勝手に怖がって。
861
862葵:もうっ、本当に不器用なんだから!でも、これでやっと安心できた。……ね、心くん。大成功だったね。心くんの書いた台本と、二人の絆の勝利だね!
863
864紬:私たちじゃ、あそこまで二人の本音を引き出せなかった。心先輩の台本のおかげです。
865
866健:心先輩、相変わらずキザなこと言いますね!でも、マジで感謝っす。
867
868
869
870心:……いや。俺が書いたのは、ただの短い骨組みだ。そこに血を通わせて、魂を乗せたのは……お前たち自身の『声』だ。……俺はきっかけを作っただけだ。
871
872陸:いやー!心先輩マジリスペクトっす!俺にも今度かっこいいセリフ書いてくださいよ!
873
874海:陸、空気を読みなよ。でも……僕も少しお願いしたいかも。
875
876雫:……私も。心先輩の深淵、もっと見たい。
877
878雛:ああっ、私もです!心先輩の台本、すごくエモかったです!
879
880心:……お前らな。
881
882椿:……心。素敵なスクリプトを、ありがとう。
883
884心:(静かに笑って)これで、現役の灯台守の役目は終わりだな。
885
886椿:……ええ。(少し間を置いて、優しい、けれど凛とした声で)みんな、聞いて。私はこれで、本当に安心して卒業できるわ。今の紗良なら……そして、みんながいれば、恋華声劇部はこれからも絶対に大丈夫。
887
888紗良:椿先輩……。
889
890椿:紗良。私の代わりになんて、ならなくていい。あなたはあなただけの『色』で、これからもみんなを導いていって。……お願いね、部長。
891
892紗良:(大きく息を吸い込み、涙を拭って、力強く)……はいっ! 私、先輩みたいにはなれないって、ずっと怖かったです。でも……私だけの色の灯で、この海を……声劇部を、照らしてみせます。
893
894健:おっしゃー!その意気だ!俺たち2期生が、全力でサポートしてやるからな!
895
896紬:一人で抱え込んだら、また私が厳しく指導するから。覚悟しなさいよね。
897
898陸:俺たち3期生も、もっともっと声張って、先輩たちを引っ張るくらい成長してみせます!
899
900雛:はいっ! みんなで、最高の舞台を作ります!
901
902雫:……私たちで、新しい物語を。
903
904海:新しい風を、吹かせましょう。
905
906
907
908葵:(明るく、太陽のように)うんうんっ! ここから先は、決まった台本なんてないんだから。みんなで一緒に作っていこうね!
909
910椿:(心から嬉しそうに)……ええ。私も、客席の特等席から、みんなのこれからの活躍を楽しみにしてるわ。
911
912紗良:……はい! (少し照れくさそうに、けれど堂々と)……それじゃあ、恋華声劇部、第3回本公演の練習を再開します!みんな、マイクの準備はいい!?
913
914一同:(元気よく、弾けるような声で)はいっ!!
915
916(全員の笑い声と、活気ある声が重なり合いながら、ゆっくりとフェードアウトしていく)
917
918(終幕)
919
劇