霊能探偵・芥川九郎のXファイル(15)【妖怪博士の提案編】

第1章 妖怪博士・草野茂

 霊能探偵・芥川九郎は、中区にある事務所で友人の牧田と話していた。事務所と言っても、古びたビルの一室に過ぎない。
芥川「牧田君は、妖怪博士の草野茂を知っているかい?」
牧田「知ってるも何も、草野博士は下手な芸能人よりも人気があるよ。妖怪を特集するテレビ番組には、必ずと言っていいほど出演されているね。」
芥川「草野先生は日本における妖怪学の権威だからね。妖怪に関する論文や解説本をたくさん執筆している。学術論文だけでなく、一般向けの本も出版しているし、妖怪研究者で草野博士を知らない奴はモグリだよ。」
牧田「最近はYouTubeでも活動していて、子どもたちにも人気があるそうだよ。」
二人がそんな話をしていると、能年(鎧)がコーヒーを運んできた。能年は鎧の妖怪である。芥川の助手として、彼の事務所に住み込みで働いている。
芥川「能年君、ありがとう。」
牧田「いつもありがとう。能年君の淹れるコーヒーは特別においしいよ。」
牧田の誉め言葉に、能年(鎧)は照れているような仕草をした。二人はコーヒーを一口すすってから、話を再開した。
芥川「草野博士の話の続きだけど、草野先生が今日、ここに来所される予定なんだ。」

第2章 鎧の妖怪・能年君

 牧田はコーヒーを一口飲んでから、芥川に言った。
牧田「へえー、すごいじゃないか。芥川君は、そこらへんの芸能人なんかよりも人気がある有名人と知り合いなのか。」
芥川「うん、まぁね。僕は霊能探偵だから、妖怪学者の学会や会合に顔を出すこともある。草野先生とはそんなに親密な付き合いをしているわけじゃないけど、そういう会合で顔を合わせればあいさつくらいするさ。学会の権威だからね。」
牧田「服部夫人が喜ぶだろうね。」
芥川「そうなんだ。叔母さん、今日は朝からケーキを焼いているよ。草野先生に渡すんだって。」
服部夫人は芥川の叔母である。彼の事務所の隣に服部税理士事務所があり、彼女は税理士先生の奥方だ。服部夫人は、甥っ子の芥川のためにいろいろ世話を焼いてくれる優しいご婦人なのだ。
牧田「君はさっき、草野博士とはそんなに親密ではないと言ったけど、彼は今日、何の用事でここに来るんだい?遊びに来るわけじゃなさそうだね。怪奇事件の調査依頼かな。」
芥川「怪奇事件は草野先生の大好物だから、よほどやばい悪霊でもなければ、自分で調査・解明してしまうよ。先生の目当ては能年君だよ。」
能年(鎧)は部屋の隅にあるイスに座っていたが、芥川と牧田の話に自分の名前が出てきたので、二人の方を振り向いて見ている。
牧田「そうか、能年君は鎧の妖怪だからね。妖怪博士・草野茂の興味を引いたわけか。」
芥川はコーヒーを一口飲んで言った。
芥川「そろそろ草野先生がお見えになるだろう。牧田君も同席するといいよ。草野先生のご高説を一緒に拝聴しようじゃないか。」

第3章 妖怪博士の提案

 しばらくすると妖怪博士・草野茂がやって来た。ミーハーな服部夫人は大喜びである。彼女は草野といろいろ話をした後に、自分が焼いたケーキを彼に渡し、用意していた色紙にサインを書いてもらった。そうして服部夫人は、ようやく隣の税理士事務所に帰っていった。芥川が草野にイスを勧めると、草野は礼を言ってイスに座った。芥川が草野に言った。
芥川「草野先生、申し訳ありませんね。叔母は草野先生の大ファンなんです。」
草野「いや、構いませんよ。テレビに出たりYouTubeに出たり、芸能人みたいなことをしていますから。芥川君も察しているだろうけど、学会には芸能人気取りの私を嫌っている連中もいるくらいですからね。」
芥川「いえいえ、そんなことはないですよ。先生は、妖怪学の研究及び普及にご尽力されているんですから。」
草野「そう言ってもらえるとうれしいよ。」
 牧田は草野にコーヒーを出した。芥川は草野に牧田と能年(鎧)を紹介した。
「彼は私の友人の牧田君です。そしてあそこに座っている鎧が能年君です。」
牧田「はじめまして、草野先生。よろしくお願いします。」
草野「こちらこそよろしく。能年君、こんにちは。」
能年(鎧)はイスから立ち上がり、草野に頭を下げた。
芥川「先生は今日、能年君に会いに来たんですよね。」
草野「そうなんです。芥川君に一つ提案したいことがありまして。」
牧田「能年君に関することですか?」
草野は大きく頷いてから、コーヒーを一口すすった。そして芥川に向かって言った。
草野「芥川君。僕も君の性格をそれなりに知っているから、単刀直入に言うよ。能年君を私のところに預けるつもりはないですか?」

第4章 能年君の気持ち

 芥川は腕を組んでつぶやいた。
芥川「・・・なるほど。」
牧田「能年君を預ける・・・能年君を引き取りたいというのが、草野先生のご提案なんですね。」
能年(鎧)は草野の話を聞いて、そのまま硬直している。
草野「私は妖怪研究者です。妖怪を愛しています。能年君を引き取って、何か実験をしたり、テレビやYouTubeで見せたり、そんなことをするつもりはありません。」
芥川は腕を組んだまま、何やら考え込んでいる。
草野「もちろん、ただでとは言いません。相応の金額をお支払いします。能年君は、私の屋敷で自由に暮らしてくれればいいんです。」
牧田「芥川君。草野先生のご提案、悪い話じゃないと思うよ。誰も損をしない。それどころかみんな得をする提案だからね。能年君がいなくなるのは寂しいけど・・・」
 しばらく沈黙していた芥川は、ようやく口を開いた。
芥川「牧田君の言うとおり、提案自体はよいお話だと思います。しかし、草野先生。釈迦に説法ですが、妖怪にも命があり、心があり、その人格を尊重する必要があります。」
草野「もちろんです。なるほど。能年君の意思を尊重するべきですね。」
芥川は能年(鎧)に聞いた。
芥川「能年君。草野先生のところへ行くかい?」
能年(鎧)は相変わらず硬直したままだ。芥川はもう一度、能年(鎧)に聞いた。
芥川「能年君。今まで通り、ここで暮らすかい?」
能年(鎧)はコクッコクッと大きく頷いた。芥川は肩をすくめて言った。
芥川「だそうです。先生。」
草野は笑顔で言った。
「ハハハッ。芥川君にまた一本取られたね。無理に連れて行くことはできない。今回はあきらめます。でも、能年君。気が変わったらいつでも家にいらっしゃい。」
能年(鎧)は草野に向かい、コクッと小さく頷くのだった。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(15)【妖怪博士の提案編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(15)【妖怪博士の提案編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-09

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  1. 第1章 妖怪博士・草野茂
  2. 第2章 鎧の妖怪・能年君
  3. 第3章 妖怪博士の提案
  4. 第4章 能年君の気持ち