かつては

かつて、私は美しかった。通りで歩けば、人が振り向くくらい美人だった。


それが私。けれども人がどんなに美しくても歳月は人を変えてしまう。


誰も皆、年を取る。年を取ってみにくくなる。



私は時々、なんでこんなことをしているのか、わからなくなる。



なんでこんな物を食べているのか?どうしてこんな人と話をしているのか?



理想の私というのがあって、いい夫がいて、浮気もせず、家庭を守り、金もあり、子供もすくすく育って·····



それはあくまで、虚像だ。


「〇〇さん、どうしてますか?」
そう青年が言う。


「いいのよ。話しなくても。」そう返す。
「僕はどうしても上手く絵を描けないのですよ。絵に嫌われているのかなあ。」
そう、のんきに話す。


言えないことは嫌われているのではなく、頑固だからとどうしても言えない。


 そのうちに話題は今年の流行った絵についてだった。


「苦しんでいる男」と謂うタイトルのその絵は、若い世代にも少し流行った。


「どう思ったの?」
「それは、僕もあれくらいのものを書けたらなあ、と。」
「そう。」そう冷たく返す。


それじゃあと帰りそうになる。お茶も飲まずに何しに来たのか呆れてしまう。


ふと青空を見る。空の遠くには神様がいて、哀れな人間を見下ろしている。


そう思っていた。


「最後に、僕は絵、辞めませんからね」


そう言うのでやめさせようとするこちらは苦笑してしまう。


それも人生、それも青春か。

かつては

かつては

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-09

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