霊能探偵・芥川九郎のXファイル(10)【恵比寿文書編】

第1章 さまよう鎧

 霊能探偵・芥川九郎の事務所を訪れた友人の牧田は驚いた。事務所の中にさまよう鎧がいたからだ。
牧田「芥川君、その鎧・・・先日の鎧だよね?」
芥川「あぁ、牧田君か。いらっしゃい。そうだよ、先日の鎧の妖怪だよ。」
牧田「あの時、君が鎧のカブトを鉄パイプでかっ飛ばして、堀川に沈んでしまったんじゃなかったっけ?」
芥川「うん。それでも翌朝、ダメ元で堀川に探しに行ったんだ。そうしたら、カブトが堀川の岸壁に張りついていてね。どうやらこいつ、自力でそこまで這い上がったみたいだ。」
牧田「それでそのカブトを拾ってきて、鎧に戻してやったのか。」
芥川「鎧の妖怪なんて行くところもないだろうから、ここに置いてやることにしたんだ。その代わりに、僕の助手として働いてもらうことにしたんだよ。」
牧田「鎧の妖怪を助手として使役するつもりなのか。」
芥川「こいつはご飯を食べさせる必要がないから楽なもんだよ。彼は意外と頭がよくてね、ちょっとしたお使いもできる。」
牧田「お使いって・・・鎧の妖怪が街を歩いたら大騒ぎになるだろう?」
芥川「いや、案外そうでもないよ。名古屋人は、名古屋城で武将の姿をした連中がうろうろしていても、気にも留めない人種じゃないか。街で鎧を見かけたって、何とも思わないんだろう。」
牧田「そういうもんかなぁ。」
芥川「昨夜もね、深夜までお酒を飲んでいたんだけど、冷蔵庫にある酎ハイを飲み尽くしてしまってね。彼をコンビニへ行かせて、酎ハイと酒の肴を買ってきてもらったんだ。」
牧田「そうなのかい。」

第2章 鎧の助手・能年君

 そこへ服部夫人がやって来た。彼女は芥川の叔母である。芥川の事務所の隣は税理士事務所なのだが、服部夫人はそこの税理士先生の奥方だ。彼女は甥っ子の芥川のことを気にかけ、いろいろ世話を焼いてくれる。
服部夫人「久しぶりにクッキーを焼いたので持ってきたわよ。牧田さんもいらっしゃったのね。どうぞ食べていってください。能年さんも遠慮なく。」
牧田「どうもありがとうございます。芥川君、能年って?」
芥川「鎧の名前だよ。僕が名付けたんだ。」
牧田「なんで能年なんだい?」
芥川「鎧は英語でアーマーだ。だからアマちゃんにしようかと思ったんだけど、アマちゃんと言えば、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』だろう?」
牧田「それで能年にしたのか。」
芥川「叔母さん、クッキーありがとう。牧田君、今朝は能年君がコーヒーを淹れてくれたんだ。さぁ、コーヒーでも飲みながら食べよう。」
牧田「能年君はコーヒーを淹れることもできるのか。すごいなぁ。」
 芥川と牧田はコーヒーを飲みながら話している。
芥川「能年君。僕たちにそんな気を使う必要はないから、立ってないでイスに座っていなよ。」
芥川にそう言われて、能年(鎧)は近くのイスに腰かけた。
牧田「クッキーいただきます。うん、うまい。能年君の淹れたコーヒーもおいしいよ。」
牧田にそう言われて、能年(鎧)は照れているような仕草をした。

第3章 恵比寿文書

芥川「僕はまだ、牧田君に恵比寿文書の話をしていなかったね。」
牧田「恵比寿文書って・・・あの恵比寿かい?」
芥川「そう、あの有名な富豪・恵比寿泰三のことさ。」
牧田「恵比寿泰三といえば、政財官界の要人たちをセクシー女優たちとの乱交パーティーでハニートラップに陥れ、影で操っていたという人物だろう。確か随分前に何かの犯罪で逮捕され、その後に自殺してしまったんじゃなかったっけ?」
芥川「本当に自殺だったんだろうか?怪しいもんだよ。それで恵比寿氏の握っていた情報は、ほとんど闇に葬られてしまったが・・・」
牧田「恵比寿氏の握っていた情報の一部が、恵比寿文書として残っているということかい?」
芥川「残っていたんだよ。それで僕のところに依頼がきて、一応解決したのが数年前のこと。」
牧田「さすが霊能探偵・芥川君だ。一応というのが気になるけど。」
芥川「恵比寿文書を所有していたのが、魔術師・守屋愛だったんだ。」
牧田「稀代の魔術師・守屋愛か。君の永遠のライバルだね。」
芥川「ライバルだなんてとんでもない。彼女は若く見えるけど、僕らよりも相当年上だよ。人生の大先輩さ。」
牧田「それで君は、守屋愛が所有していた恵比寿文書を盗み出したのかい?」
芥川「いや、その場で燃やした。当時、彼女は油断していてね。自分以上の能力者はこの世にいないと思い込んでいた。僕は式神を使い、彼女が放つ魔力をたどらせ、その居所を突き止めたんだ。」
牧田「そして文書を焼却したと。見事に一件落着だね。」

第4章 魔術師・守屋愛

芥川「いや、そうでもないんだ。依頼者は僕に、守屋愛の暗殺を依頼してきた。」
牧田「なるほど。文書はなくなったけど、まだ彼女の頭の中に情報が残っているからね。」
芥川「僕は断った。連中は僕を、殺し屋か何かと勘違いしていたんじゃないかな。」
牧田「君はあくまでも、霊能探偵だからね。」
芥川「それに、秘密を知っている守屋愛を消せという物騒な連中だよ。彼女が亡くなったら、次に消されるのは僕だろう。」
牧田「なるほど。その可能性は十分あるね。」
芥川「守屋愛が生きている間、連中は僕に手を出すことはないだろう。でも、この一件で彼女の恨みを買ってしまった。」
牧田「稀代の魔術師・守屋愛に仇敵認定されてしまったわけか。恐ろしい話だな。」
芥川「牧田君にもこの話を一度、ちゃんと話しておく必要があると思ってね。それで恵比寿文書の件から話したんだ。」
牧田「芥川君、ありがとう。何も知らないまま、守屋愛に殺されたらたまったもんではないからね。」
芥川「ハハハッ。彼女はいきなり、そんなことはしないよ。案外、淑女なんだ。もともと貴族の出だからね。」
牧田「そうなんだ。」
芥川と牧田はクッキーを食べ終え、コーヒーを飲みながら雑談を続けている。能年(鎧)はいつの間にか居眠りをしているようで、規則正しく舟を漕いでいた。

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(10)【恵比寿文書編】

霊能探偵・芥川九郎のXファイル(10)【恵比寿文書編】

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-02

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  1. 第1章 さまよう鎧
  2. 第2章 鎧の助手・能年君
  3. 第3章 恵比寿文書
  4. 第4章 魔術師・守屋愛