めぐり逢い ガンダムUCより
このカップリングの需要があるのか知らないのですが、少し考えてみたものを出してみます。原作小説も今読んでいますが、プロフ設定はまったく違うと思います。いつものように独自解釈に基づいていますので、合わない方は読まない方がいいと思います。SF設定など原作にはとても及びません。他にも執筆途中のものが多々ありますので、申し訳ないです。
2026年度作品
リディが幼い頃気が付いた時には、自分の前には幻の少年の存在がいて、自分はその身代わりでここにいると知った。父ローナン・マーセナスには何人か内縁の妻がいて、自分はその中の一人の子供であり、邸宅に出入りが許されるようになったのは、その死んだ少年の代わりであるとわかったのだった。彼はリディよりも明るい金髪をしていて、手には複葉機の模型を持ち父ローナンに抱きかかえられて写真の中では笑っていた。リディは彼が欠員したので、その補充で邸宅に迎えられた。邸宅から追い出されないためには、父の威厳を損なわない仕事をするしかなかった。はじめはそれは学業であり、その次はパイロットになることだった。それはその死んだ少年が飛行機を愛していたからだ。自分も飛行機を愛しているか?それはどうかなと彼は思う。ただパイロットの任務を着実にこなす作業は自分に合っていると思った。リディはもちろんローナンの惣領息子ではなかった。跡取りの青年は別に存在していた。
リディは現在大陸の軍用基地にいて、待機中であった。だからすでにハイスクールを卒業して何年も経っていたので、事務局からその申し出を受けた時には面食らったのである。リディは尋ねた。
「あの、軍所有のランドカーでは移動はできないのですか?」
メガネをかけた事務の女性は機械的に答えた。
「はい。心理試験の関係で、数値に影響が見られないように、務めて平常勤務の状態で受けていただきます。そのため事前に運転はなさらないでください。」
「そんなのおかしいですよ。なんでわざわざ市内バスを使うんです?時間だってかかるのに」
「とにかく選ばれましたので、そのようにお願いいたします。外出許可証を取ってください」
「わかりましたよ」
リディは書類にサインをした。軍から命じられた事は、簡単な心理テストを市外の施設で受けてもらうという事だった。内容は知らされていなかった。期間は二ケ月間という話だった。しかしもっと早く終了するかもしれないという話だ。そう願いたいなと思いながら、彼は郊外の施設に赴いた。こんな事は非番でなければできない事だ。今は戦争状態ではないからな、と彼は思った。
その施設は古い公共施設、つまり水道局みたいなコンクリートの建物だった。こんな場所でとリディは思った。何か別の公共施設が使われずに放置されていて、今自分のテストに使われていると思った。中に入ると見た目の古ぼけた感じと相反する真新しい電子機器が並んでいて、施設内のインテリアも簡素だが新しいものだった。リディは安堵した。自分は今モビルスーツのテストパイロットをしている。それに応じたテストであろうと思っていた。これはその通りなのだと判断した。室内にはもちろんあらかじめ渡されたIDカードで入室した。
テストは無味乾燥なものだった。ひたすら暗室で暗いパソコン画面の応答をマウスで続けるもので、そのポイント指示も丸印の画面をひたすら打ち続けるものだった。その反応の秒数を見ているのだなと思った。テストで座った座席には別に何の仕掛けもあるようには見えなかった。普通の座り心地のいい椅子で、いわゆるエルゴデザインのようなものだ。リディはこんなものを二ケ月間もやらなければならないのかと拍子抜けした。施設内にいる人間は技術士みたいな服装をしていて、まるで医療施設にいるみたいだった。自分は実験動物のマウスみたいだと思った。だが特に注射などされているわけではない。試験は楽なもので、ただ言われた通りマウスを素早く動かすだけだった。そして試験終了と同時に点数が示される。ハイスコアだと何かバカにされているようなパソコン画面が出る。つまりハッピーになりましたというやつだ。テストの試験官よろしく技術士が、試験は終了ですとリディに声をかける。どうぞお帰りくださいと言われる。そして彼はその水道局をあとにするのだった。
試験開始から二週間ほどした。それはあのマウスポインタの丸印の形が何かに似ていると思い始めたころだった。
「そうだ。雨降りの時のワイパーガラスだな。雨粒があんな風に横へひしゃげるんだ。あの楕円形だ」
と、リディは今思いついたことを思わず口にした。それは何の変哲もない郊外のバス停でバスを待っていた時だった。自分が運転している時の車の状態を思い出したのだ。それは彼には忌々しい気持ちであり、バス待ちで手持ち無沙汰だったこともある。彼がそうしたのには理由があった。
その何回かの試験でハイスコアになった時、決まってバス停のベンチにひとりの若い女性が座っている事に気づいたのだ。彼は若い男性の常で、幸運の女神とその女性を心中で名付けた。彼女は見たところわりと美人であるが、しかしロボットのような印象の少女だ。いつもぴったりと膝をつけて固まって座っていて、それはまるでドール人形のようだった。彼の知っているハイスクールでの少女たちは、もっと自由で楽な姿勢で座っていた。そのため彼は気になっていた。
今彼が誰に言うともなくそうつぶやいたのは、彼女の反応を見たかったからだ。もしかして同じテストを受けに来ているのかもしれない。そう思った。ただ軍部からはごく内密にと言われているので、あからさまに尋ねるのはやめにしたかった。それで漠然とした物言いをしたのである。と、彼女が首を巡らせてこちらを見た。あ、やっぱりそうなんだとリディは思った。数秒間彼女はリディの顔をじっと見つめた。すごく大きな瞳だなとリディは思った。しかしその後彼女は無言でベンチから立ち上がった。そして無言で前に歩き出した。その激しい雨の中を。
「あ、君」
なぜその時リディは持ち合わせの携帯傘があるととっさに思いついたのだろう。しかし彼は、彼には冷たいその彼女を保護してやりたかった。まるで何かの線につながれているようだった。彼はカバンの中から折りたたんだ傘をあわてて取り出し、彼女に手渡した。
「これ、使いなよ」
彼女は幽霊でも見るようにリディの顔を見つめた。
「ありがとうございます」
少女の唇がそう震えて動いたようだった。バス停の上に設置されている心ばかりの小さなテントから、二人はすでに出ていた。お互いずぶ濡れになりながら、リディは言った。
「すぐにバスは来るよ。ここで待ってたら?」
リディの言葉を聞くともなく、彼女は回れ右をして歩きだした。リディの傘は受け取ったのに差す気配もなかった。ただ胸元に捧げるように持っていた。どうしてなんだろう、とリディは思った。道は坂になっていて、登っていく少女の姿は雨の中でリディからはすぐに見えなくなった。
数日後の晴れた日だった。しばらくリディはその少女の姿をバス停に見なかった。自分が彼女を追い詰めたような気がして、運がつかなくなった気もした。テストのスコアも下がっているようだった。俺は彼女に親切だったはずだ、とリディは思った。傘の一本ぐらいくれてやってもよかったのだと憎々しい気持ちにもなった。その時だった。
「この傘あなたのですね。あれが失礼なことをしました」
と、ぼんやりベンチに座っていると突然声をかけられた。その少女が微笑んでリディに綺麗に折りたたんだ傘を差しだしていた。
「あ、ああ、その節はどうも……」
とリディは受け取りながら言った。どうも印象が違うなあと彼は思った。しかし見たところ同じだ。同じサーモンピンクの髪、同じ目の大きな美人だった。
「いつもそのコートだね。髪の色に合わせているの?」
リディは軽口のつもりで彼女に言った。彼女は答えた。
「ああこれ……支給されているものを着ている。鮭みたいな色だろう」
「鮭?」
彼女は空を見つめて何事もなくつぶやいた。
「鮭には産卵のための帰巣本能がある。私にはそれがない」
リディはどういう意味だ?と思った。彼女は続けた。
「それだからこの服は気に入っている。そういう風に、美味しそうにそう見えるから。バスが来たようだ」
リディは彼女のあとからバスに乗り込んだが、隣の座席には座らなかった。思っていた人間とは違うというのは、今までに何度も経験したことだ。しかし。
「帰巣本能がないって。たちが悪いな」
と、彼は帰り道ひとりごちた。それは予感のようなものだった。はっきりと悪いとは言えない。しかし彼女には裏があると思った。
「いやあんなのは、ハイスクール時代にも大勢いたんだ。特に気にすることじゃない」
自分はすっかり子供返りしていたようだ、あの単純なテストでな、と彼は自室で考え込んだ。それで彼女のことも理想化してしまったのだろう。単なる通行人のひとりなのに、滑稽だったなと思った。もう彼女のことは風景の一部に思おうと考えた。返された傘は気持ち悪くなり、自室のロッカーの隅に隠した。
それからぱたりと彼女はバス停に姿を見せなくなった。テストの技術官は点数があがりませんね、データ不足です、何かありました?、とリディに言った。
「別に何もありません。疲れてきただけです」
と、彼は早く試験が終わってほしいと願っていた。そんな矢先だった。彼女が再び姿を現したのは。
やはり雨の日だったが、あの日のように土砂降りではなかった。リディがバス停にまで来ると、向いの道路に黒いワゴン車が停まっていて、彼女が黒服の男たちに車で連れ去られようとしていた。とっさにリディは傘を捨て、男らに飛び掛かった。
自分でもどうしてこれほど力が出たのかわからない。力量以上の力で相手を殴りつけたようだ。その時これが騒ぎとして記録されたら、自失点になるという事は念頭にはなかった。
「こっちへ。大丈夫?」
リディは彼女の手を引き、近くのコンビニエンスストアに連れ込んだ。施設に引き返すのはやめておいた。軍に通報されるのは厄介だからだ。
リディは彼女を店の片隅に連れて行った。彼女は自分のハンカチで顔の汚れを拭いていた。ふと見ると彼女はハンカチを握りしめて泣いていた。リディの心にほっとしたものが流れた。やはり女の子なのだ。あれは年頃の娘の強がりだったのだと思った。彼女は言った。
「ありがとうございます……」
「いつもお礼ばかりだね。送って行くよ。君の家まで。あれはどういうやつらかな」
「私、マリーダ・クルスと言います。たぶん試されているのだと思う。あなたも」
「え、俺?」
「そう。あまりかかわらない方がいい。私に。ずぶ濡れになりました。私のせいで」
「ああ、いやこんなのはいいんだ。俺はリディ、リディ・マーセナス」
リディは宇宙空軍に所属している事は話さなかった。そして今の彼女は最初に見た時の彼女だなあと思った。たぶん双子じゃないか?なんだそうか、と彼は思った。
それから彼らは親しく話すようになった。だがマリーダは自分のことをあまりたくさん話さなかった。リディも彼女の双子の姉妹は少し変わり者らしいと思い、話には出さなかった。そしてバス停で待っているのはいつも最初の彼女の方だった。彼女は内気な少女で、リディにはわからない何かに怯えているところがあった。彼は何気ない日常会話でそれをほぐしていった。
そんな折にリディの自室のパソコンに匿名のメールが届いた。
『この女に二度と会うな』
そう書かれたメールとともに、マリーダのどこかで撮られた街角での写真が貼ってあった。リディはすぐにパソコンのごみ箱に捨てたが、よく覚えておこうと思った。出したのは誰かわからないが、とも思った。
その頃テストでは最高点を記録したので、試験は唐突に終了になった。そして軍の一室で彼は聞かされたのだった。そのUC計画というものを。君は飛行操作が丁寧だ。何度かテストパイロットの仕事もしているな。今度は宇宙空間でやってもらいたい。できるな?上官からそう言われた。そのUCという機体は最新式だ。宇宙空間でテスト飛行をする。君にその任務へあたってもらいたい、と。
宇宙へあがる前に二日間の休暇があった。その一日で彼はマリーダを呼び出した。近くの郊外型ショッピングモール上階のファミリー向けレストランに彼らはいた。リディは言った。相変わらず彼は彼女に自分の身分は打ち明けていなかった。
「宇宙にあがる事となった。君とはしばらくお別れだな。残念だよ、君とはもう少し一緒にいたかったんだが」
マリーダは頼んだアイスメロンソーダの泡を見つめながら答えた。
「私はいい。あなたには死なないでほしい。最初に見た時からそう思った」
リディは軽く気押された。彼女には自分の職業は言っていないはずなのだが。
「いや僕も覚悟はしているけど。宇宙は怖いところだからね」
マリーダは激しく首を振った。
「そうじゃない。私はたくさんいるから。あなたをそのうち殺してしまうかもしれない。せっかくあなたとつながったのに」
「ああ君には双子がいるんだろ。気づいていたよ、 君とそっくりな人が最初にいた。僕には区別がつかなかった。でも今ならわかると思う。君は君だ。他の誰でもないよ」
マリーダはリディの言葉を打ち消した。
「いいえ、私たちは同じ、同じなんだ。同じだから 同じようにされているからっ!」
と、もどかしく激しく叫ぶように言った。店内の人々がいぶかしげにマリーダのテーブルを見て顔を見合わせた。リディは声を潜めて言った。
「場所を変えよう」
二人は児童遊戯施設のある屋上庭園に来ていた。 外は夜風が冷たかった。 鉄のフェンスから遠くに飛行場のランプが見えた。マリーダはリディに体を預けるようにして言った。
「私、人間ですか?」
「うん、僕には人間に見えるな。そんな事が気になる?」
とリディは答えながら、ある一点の疑問が大きくなってくるのを感じた。それは軍用人間という事だった。マリーダがそうなのではないか?彼は努めて平静な声で言った。
「君はやさしいいい人間だ。僕はそう思っているよ」
マリーダはしかしぼそりと言った。
「でも、女性じゃないから。きっとやさしくなれない――」
「え、それはどういうことかな」
「私には女性としての機能が」
リディは少しぎょっとしたが少し考えて、ちょっと待ってと言い、遊戯施設のみやげもののワゴンのところに駆けて行った。
彼はワゴンに吊るされていたおみやげ品の中から、一番地味なネックレスふたつを手に取った。今のマリーダの装いに、これなら目立たないだろうと彼は思った。それには『宇宙憲章を守りましょう』という政府公約のような細長い紙のタグがついていた。宇宙憲章モノリスをかたどったような六角形の形をした銀のペンダントだった。
彼は店員に支払って戻って来ると、マリーダにそのうちのひとつを渡しながらこう言った。
「ほら、これ。僕の今のふところにはお金がなくてね。本当は指輪にしたいんだけど、これで。これは君のと同じだね。僕は君と同じだよ。これがその証拠なんだ。ずっと二人でひとつずつ持っていよう。そうしよう」
マリーダの頬に、やっと微笑みが浮かんだ。
「いいの?」
「うん。君がよければだけど……」
マリーダは瞳を閉じた。リディはその顔に唇を重ねた。ありふれたカップルの二人だった。夜空にはいつもと同じ星が瞬いていた。
それから幾星霜たっただろうか。彼らの収集されたデータはNT-Dシステムの中核のひとつを担うものとされた。つまりニュータイプを遠隔から検知するのに高速化されるシステムの基本となった。そのため彼らは一ケ月半近く拘束され訓練を受けていたのだ。それは相手がそれと知らされずに感知する、いわばブラックボックス化した環境での知覚反射を測定していたのであった。それには試験データ上優秀だった二人が選ばれたのだ。どんなに遠くからでもニュータイプを感知して、自動的に抹殺するシステム――それがNT-Dであった。その能力を高めるために、わざと研究者らは彼らを窮地に追い込んだりした。それも研究のためであった。
そしてリディは強化を受けた。彼はすべての彼女に関する記憶を抹消され、UCのテストパイロットの任務を遂行した。その後彼は、残留しているマリーダへの強迫観念をすべてミネバに向けた。彼女にしてやりたかったこと――マーセナス家に迎え入れることを、彼はミネバに抱き着いて話した。ミネバはそれを知っていたのだろうか、彼のするままにさせておき、ただ目を見張っていた。これは彼本来の姿ではないとミネバは知っていたのだろうか。
そうしてリディのバンシーから搭乗していたクシャトリヤを狙撃された最後の時、マリーダは彼に言った。
「その生真面目な心が、他人をも自分も傷つける。落ち着いて周りを見渡せばいい。世界は広い。こんなにたくさんの人々が響き合っている。いつかあなたが私に言ってくれたように。私たちは同じだと」
「待ってくれ……!」
リディはその時、マリーダが『いた』事を思い出した。彼は虚空に手を伸ばした。ほんのわずかなぬくもりを感じた。それはマリーダの残留思念だったが、数秒間ですぐに消失した。
「俺……俺は、何を……したんだ……!?」
彼は無意識に手首にはもうないペンダントをさぐった。いつかの戦闘時にそれは切れて床に落ちていた。なぜそれをつけていたのか、彼には長い間わからなかった。同様にマリーダのペンダントも、彼女が女性の機能を失うきっかけになったクローンのマリーダから宇宙に捨てられていた。その者はかつて歓楽街をさまよったプルツーに他ならなかった。ハマーンの乱の後姿をくらました彼女は、成長後その姿そっくりにその死亡したマリーダを――プルツゥエルブを作る素体となったのだった。リディは吐しゃ物を吐き出して操縦席で苦しんだ。それは雨粒のように空間を漂い、彼の周りを浮遊した。マリーダの死は文字通り死の苦しみをリディに味わわせた。
今リディのバンシーはバナージのUCとコロニーレーザー砲グリプス2の射程圏内にいた。何ほどだったのだろうか、自分の実人生は。彼は震えながらそう考える。カウントダウンの数字が読み上げられているのが、彼の操縦席にも無線の雑多な雑音の中から聞こえてきた。父ローナンが今そのスイッチを押しているのか。ローナンはその時、亡き息子の持っていた複葉機の幻影を見たような気がした。あの子の代わりに、あの子が帰ってくる。そんなはずはなかった。しかしそんな気がした。そして彼はマーサの言う通りに起動スイッチを手でひねった。あとから悔やんでも悔やみきれない行動だった。
光の奔流の中にバンシーはその時呑み込まれた。何割かの光は彼の機体によってさえぎられた。これでよかったんだ。彼の一瞬で途切れた意識の糸は、虚空で彼女の意識とつながったろうか。昔彼はあのバス停で彼女を待っていた。あの世界の片隅で、その約束された時間の中で。
めぐり逢い ガンダムUCより
ロメオとジュリエットということです。すいません、死亡させてしまいました。申し訳ございません。二次創作ということで大目に見ていただければありがたいです。