仮面ライダー龍騎 〜第六話〜
《第六話:願いを懸ける者達》
【登場人物】
・城戸 真司(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎』となる。
・手塚 海之(二十四)……蓮の友人で、彼の良き理解者。エビルダイバーと契約し、仮面ライダー『ライア』となって龍騎・ナイトと共闘する。
・高見沢 逸郎(三十八)…… 巨大企業『高見沢グループ』の最高責任者。物腰柔らかな紳士という外面の内に、大きな野心を隠している。カメレオンのライダー『ベルデ』に変身する。
・霧島 美穂(二十二)……綺麗な茶髪が印象的な美人で、結婚詐欺師。姉の為、白鳥のライダー『ファム』となって戦う。
・鎌田 醒鮫(四十二)……持ちビルに事務所を構える探偵で、手塚の恩人。鮫のライダー『アビス』に変身する。
【あらすじ】
秋山蓮の過去は、真司の想像を絶するものだった。もっと他のライダーの事を知らなければならない。そう考えた真司は、手塚に協力を依頼する。
【九】
〜二月十三日・午前九時三十分"某ファミリーレストラン・店内"〜
店内二階の一番右奥。そこにある二人掛けのテーブル席に、真司と手塚が向かい合わせに座っている。
「本当にやる気か。あまりお勧めはしないが。」
手塚はそう言いながらジャケットの内ポケットからメモを取り出すと、テーブルの上に置いて真司へと差し向けた。そこには、とある人物達の名前と連絡先が記されている。
「あぁ……前にも言ったけど、俺はライダーバトルを止めたいと思ってる。でも、蓮の過去を聞いたら……それが正しい行いなのか分からなくなった。だから他のライダー達と話をして、見極めたい。その為に、元探偵志望のアンタに調査を依頼したんだ。」
「……全く、骨が折れたよ。だが気をつけろ。下手をすれば、殺される事になる。」
そんな手塚の言葉を聞いて、ごくりと唾を呑み込む真司。手塚から渡されたメモに記された全ての人々が、人殺しという非道な手段を受け入れているというのだから、何ともやり切れない話である。
「……あれ、流石に全員は分からなかったか。」
メモに書いてあったのは、『高見沢逸郎』、『霧島美穂』、『鎌田醒鮫』計三名の名前だった。すでに二名の脱落者が出ているとの事だが、それを含めてもあと五名足りない。
「あぁ。そこに書いてあるのが、現状の限界だ。他は一切足取りが掴めなかった……まぁ掴めたところで、話せる奴かは分からんがな。」
「そうだよな……ごめん。ありがとう、手伝ってくれて。」
真司はメモをジャケットのポケットに仕舞い込むと、ぐいとクリームソーダを飲み干して席を立った。これから会いにいくのは、果たしてどのような人物達なのか。
〜午前十一時"高見沢グループ本社・応接室"〜
多角的な事業分野を経営する巨大企業、『高見沢グループ』。その最高責任者に、真司と手塚は会いに来ている。
「なぁ手塚……本当に、こんなとこの偉い人がライダーなのかよ。」
「……あぁ、間違いない。」
広い部屋の中心に置かれたソファー席で二人が話していると、応接室の大きな入り口扉が仰々しく音を立てて開いた。そして入ってきたのは、いかにも上等らしいスーツを着た紳士的な男性だった。顔に少し浮かんだ皺が、男が今まで積んできた"経験"を滲ませている。
「やぁ、待たせてすまない。私は高見沢逸郎……ここの最高責任者だ。宜しく。」
二人の対面の椅子に腰掛けながら、男はそう名乗った。差し出された名刺を受け取り、真司は身震いした。
「あ、あの……俺は城戸真司です。で、こっちは手塚海之。」
真司の紹介に合わせて、礼儀正しく頭を下げる手塚。その様子を見て、高見沢は少し面倒そうにため息をついた。
「……で、お二人はどういった御用件でこちらへ? 秘書の話では、お二人ともライダー……だとか。」
「は、はい。実は俺達、高見沢さんにお願いがあって……。」
真司は、高見沢に自分の考えを全て話した。人々を守る為モンスターと戦うのに、力を貸して欲しい事。そしてライダーバトルを、殺し合いをやめて欲しい事。
「ど、どうですかね。やっぱり……あなたにも譲れない願いが?」
真司の問いかけに対し、高見沢は少し考え込む様子を見せてから口を開いた。
「……隣のあなた。手塚さん、でしたっけ。この青年の考え、どう思われますか。」
「……俺は、支持したいと思っている。」
しっかりと高見沢の目を見据え、手塚はそう答えた。そこに偽りは微塵もなく、真司はそれを嬉しいと思った。高見沢もその手塚の言葉に感化されたのか、ここにきて初めての笑みをたたえて見せた。
「……なるほど。では私も、そうしましょう。」
高見沢はスーツの内ポケットからデッキを取り出すと、それを机上に置いた。カメレオンのレリーフが彫られた、薄緑色のカードデッキだ。
「私はベルデ。今日から私も、あなた達二人に協力しましょう。」
「ほ……本当ですか。ありがとうございます! やったな、手塚!!」
「……あぁ。」
素直に喜んでみせる真司の傍で、手塚は内心に疑念を浮かべていた。その心の機微を、高見沢は確かに見抜いていた。
〜午後一時四分"財団X地下施設・遺体保管室"〜
都内某所に位置する、とある巨大財団の地下施設。だだっ広く冷え切ったコンクリート打ちのその空間で、現在真司と手塚は二人目——白鳥のライダー、ファムと対峙している。立ちっぱなしで痺れ始めた脚をもじつかせながら、真司が口を開いた。
「霧島美穂さん……名前を見た時点で引っかかってましたけど、やっぱり女の人だったんですね。」
「そう。悪い?」
霧島美穂。手塚の調べでは、結婚詐欺師。ベージュのジャケットとデニムパンツを着こなす、スタイルの良い茶髪の女性だった。
「いえ、悪いってわけじゃ……ただ、女の人が戦うのは危ないんじゃって。」
「……なんだ、ただの甘ちゃんか。」
「えっ。」
戸惑う真司に呆れたような視線を向けながら、美穂は壁に設置されたボタンを押した。するとその壁が開き、中から一つのガラス張りの箱がせり出してきた。そこには大量の"氷"が敷き詰められており——
「……女性?」
「……なるほどな。」
箱の中に視線を落とす真司と手塚。そこに横たわっていたのは、一人の女性だった。まるで眠るように目を瞑ったその女性は、もうすっかり凍りついているようだ。
「こ、この人は……?」
「霧島美香、私の姉よ。去年のクリスマスに起きた事件に巻き込まれて……通り魔に腹を刺されて、こうなった。だから私は新しい命を手に入れる。それを……姉さんに。」
「……。」
真司は、何も言えなかった。霧島美穂も、秋山蓮と同じだった。大切な人の為に、己を犠牲にしようとしている。その覚悟を持って戦いに臨んでいるのだ。
「……話は終わりね。じゃあ、私はこれで。ここで戦う気は無いわ。姉さんのいるところで、もう血は流したくないから。」
美穂は吐き捨てるように、少し弱った声色でそう言うと、二人に背を向けてスタスタと歩き出した。殺し合いを止めて欲しい。協力してモンスターと戦って欲しい。そんな言葉が真司の喉元まで出かかり、そして消えていった。
「……霧島。」
「……あら、あなたはまだ何か言いたいようね。」
美穂を呼び止めたのは、手塚だった。
「過度な自己犠牲は身を滅ぼす……もう、手を引いた方がいい。」
「……あなたもね、手塚さん。」
そうして、美穂は去った。今の会話が意味するものが何なのか、真司には分からなかった。
〜午後四時二十分"醒鮫探偵事務所・オフィス"〜
そこは、年季の入った革製の椅子や杉の机が置かれた趣深いオフィスだった。そのオフィスの中心に鎮するソファーに腰掛け、目の前の男と面を合わせる真司。
「……鎌田さん、ですよね。初めまして、城戸真司です。」
「おう……君がみっちゃんの言ってた城戸くんか。鎌田醒鮫——アビスだ、宜しくな。」
鎌田はそう言うと、物腰柔らかく右手を差し出した。真司もそれに応え、握手を交わす。茶色のストライプスーツと青いネクタイで身を包んだその姿からは、先に会った高見沢とはまた別の余裕を感じさせた。
「鎌田さん……手塚と知り合いなんですか? みっちゃんって……。」
「ああ。アイツ、昔は泣き虫でなぁ。よく世話してやってたんだよ。探偵になりたいって言ってた時は師匠ヅラして色々教えたりもして……ほんと、懐かしいよ。」
そう言いながら、鎌田はスーツの内ポケットから取り出した煙草を一度机に置くと、そこから一本だけ取り出して口に咥えた。片腕だけで行われた一連の動作は、どうにもやりづらそうであった。
「あの、鎌田さん。……左手、ケガでもしてるんですか。さっきからずっと、右手だけで色々と。」
「あぁ……去年のクリスマスに、通り魔事件があっただろ。それに巻き込まれてな。少しでも動かそうもんなら、すぐに震え出しちまう。医者の話では、もう二度と治る事は無い……らしい。」
失われた利き腕の復活。それが、鎌田の願いだった。
「……鎌田さん。俺、ライダーバトルを止めたいって思ってます。それで全員で協力して、モンスターから皆を守って……。手塚とのよしみで、協力してもらえないですか。」
「……真司くん、それは無理だろう。」
「……。」
その場を、重苦しい沈黙が流れた。その空気に耐えかね、真司は口を開いた。
「あの、鎌田さん。手塚には……本当に助かってます。他のライダーの情報仕入れて来てくれたり、俺の話も"支持する"って言ってくれて。」
「……アイツが?」
手塚は現在、外の建物前で真司の事を待っている。どうにも、旧知の恩師と顔を合わせるのが恥ずかしいようだ。
「鎌田さん、俺……絶対諦めません。また来ます。だから……さっきの話、考えておいてもらえませんか。」
「……分かった。」
「……ありがとうございます!」
たとえその言葉が偽りであったとしても、真司は嬉しいと思った。一歩でも、前に進めた気がした。
〜同時刻・鎌田ビル前〜
手塚は、コイントスをしながら真司と鎌田の話が終わるのを待っていた。
(しかし城戸のやつ……蓮の話を聞いて落ち込むだけかと思ったが。意外と芯は強いらしい。)
寧ろ、自分の方が心に落とした影は大きいかもしれない。そんな風に考えていると、突如として例の耳鳴りが頭に響いた。
「……モンスター!」
身構え、ガラス張りの壁面から距離を取る。
「野良か……契約モンスターか。どちらにしても、黙ってやられるつもりはない。」
手塚はデッキを構え、ライアへと変身した。
〜鎌田ビル前・ミラーワールド〜
ライアが対峙したのは、巨大なカメレオンのようなモンスター『バイオグリーザ』だった。
「……思ったより早かったな。」
<SWING VENT>
ライアがエビルウィップを装備すると、バイオグリーザはその姿を消した。
「透明化……カメレオンらしい能力だ。」
奇襲を警戒し、身構え直す。そんなライアにムチようにしなった舌の一撃が振り下ろされた。
「……はぁっ!」
ライアは振り返りざまに、手に持ったエビルウィップを振るった。力強くしなったそれはバイオグリーザの舌をはじきかえすと、その主の首を強く締め上げたのだった。
「たとえ姿は消せても、気配は消せない……あまり俺を甘く見るなよ、ベルデ。」
「へぇ、そうかい。」
ドカッ。
「……。」
ライアの腹に、鋭い手刀が突き立てられていた。薄緑の甲に守られたその手刀の主を、ライアは知っている。
「……高見沢。」
消えいりかけたその呼び掛けに応えるかのように、透明化していたベルデが姿を表した。契約モンスターと同じ、やはりカメレオンのような能力だ。
「手塚……お前、俺の事疑ってたろ。俺にはな、そういう腹に一物抱えた奴の気配が分かるんだよ。経営者としての"勘"ってやつだな。」
「……くっ。」
がっくりと膝を落とし、そのまま崩れ落ちるライア。それとほぼ同時、その場に駆けつけた者がいた。
「……手塚ぁ!」
城戸真司——龍騎だ。龍騎は動揺した心を必死に鎮めようと、バイザーにカードをセットした。
<SWORD VENT>
握りしめたドラグセイバーの刃を、ベルデへと振り下ろす龍騎。ベルデはそんな一撃を同じくドラグセイバーで受け止めると、マスクの下で得意げに笑みを浮かべた。
<COPY VENT>
「なぁ、お前……城戸だったか。他人に刃を向けるのは、"いけない"んじゃなかったか。」
「……はっ。」
「馬鹿がっ。」
戸惑い、腕に込めた力が弱まったその一瞬。ベルデは素早く身を翻すと、そのまま龍騎の丹田に強烈な回し蹴りを叩き込んだ。たまらず後方に吹き飛ばされ、龍騎はレンガ打ちの壁面に叩きつけられたのだった。
「ぐぁっ……。」
「なぁ、龍騎。馬鹿なお前に言っておくけどな。戦いは終わらねぇぜ。生きるって事は他人を蹴落とすって事だからな。いいか、よーく覚えとけ。人間はみんなライダーなんだよ。」
「お、お前……!」
全身の痛みに耐えながら、立ちあがろうと片脚で踏み締める龍騎。それを制するように、龍騎の肩に右手が置かれた。それは——
「あんた……鎌田さんか?」
「あぁ。真司くん……みっちゃんが君に告げた"支持する"という言葉に、俺も乗る事にするよ。」
鎌田が変身したライダー——アビスは、鮫の意匠が施されたマスクと水色の荒々しい鎧に身を包んだ、まさしく暴鮫のような出立ちであった。
「鎌田さん……あんたか。」
「高見沢……相変わらず非道な男だな、君は。」
アビスはそう言いながら、"左手"に備え付けられた鮫の全身像を模したガントレット型の召喚機——『アビスバイザー』にカードをセットした。
<SWORD VENT>
アビスの右手に、サメ歯状の太刀『アビスセイバー』が装備された。握りしめたその刀身をベルデへと向けながら、ゆっくりと間合いを詰めていく。
「……まぁいい、受けてたってやるよ。経営者としての"サービス精神"だ。」
ベルデもコピーベントで同じくアビスセイバーを装備すると、アビスと同じ歩幅でゆっくりと歩み出した。両者の距離がじりじりと縮んでいき、そして——
「もらった!」
ベルデが、一足先に刃を振り上げた。
「今だ、手塚!」
「何っ!?」
アビスのその一言に合わせて、姿を隠していたライアがエビルウィップをベルデ目掛けて振るった。それは瞬く間に標的の身体に巻き付くと、その自由を奪ったのだった。
*
*
*
「……そうか。あの時俺が殺ったのは、コピーベントで作られた虚像だったか。」
「気付くのが遅かったな、高見沢。どうやら自慢の"勘"とやらも、あまりアテにはならないらしい。」
「……チッ。」
エビルウィップでベルデを縛り上げたライアが冷静に、しかし得意げな様子でそう告げた。ベルデが漏らした小さな舌打ちを、龍騎は聞き逃さなかった。
「なぁ、鎌田さん……アンタ、いつから気付いてたんだ。」
ようやく立ち上がった龍騎のその問いに対して、アビスは少し安堵した様子で答えた。
「最初からな。鮫の聴覚は鋭敏だ……聴こえていたよ。機を伺って身を隠した戦士の息遣いが、ずっとね。」
「す、すげぇ……。」
「……さてと。」
アビスが、その刃をベルデの首元に当てた。
「とどめだ。」
「ま、待て……!」
ベルデ目掛けて、振り下ろされる刃。だがそれは、その首筋を断ち切る直前で止められた。アビスのセイバーを、龍騎のドラグセイバーが受け止めていたのだ。
「……どういうつもりだ、真司くん。」
「……やっぱ俺。誰かが誰かを殺すのを、見過ごせないです。」
手塚が、やれやれと言わんばかりに溜息をついた。
〜午後五時三十分・龍之湯〜
戦いを終え、手塚と真司は銭湯の湯船に並んで浸かっていた。もう営業終了時刻は過ぎていたが、手塚の"よしみ"で通してもらえたのだった。
「しかしベルデ……高見沢、さんか。結局逃げやがって。すっかり騙されるところだったぜ。」
「まぁ、あいつも一大企業の社長だ。こっちに本性が知れた以上、迂闊に仕掛けてはこないだろう。"イメージダウン"は避けたいだろうからな。」
頭に乗せたタオルのズレを直しながら、真司は今日一日の事を振り返った。
「……なぁ手塚。今日はありがとう、俺のわがままに付き合ってくれて。」
「いいさ。俺だって、こんな戦いは早く終わって欲しいと思っている。利害の一致さ。」
手塚の協力が、真司にはとても心強かった。ライダーバトルの成り立ちを考えれば、本来は仲間など出来るはずは無かったのだ。
「……なぁ手塚。今日一日他の奴らと話をして、思ったんだ。ライダーには色んなヤツがいて、皆んな自分の願いを背負って戦ってる。願いが無い俺に……その戦いを止める資格が、あるのかな。」
音が反響しやすいその場所で、真司の吐露はとても大きく感じられた。その迷いの大きさを感じ取った手塚が、口を開く。
「なぁ、城戸。ちゃんと話してなかったけどな。俺にも……叶えたい願いがあるんだ。」
「願い?」
「ああ。アイツの……蓮の隣で、ずっと友であり続けたい。それが俺の願いだ。だからアイツを救う為に、俺はこのライダーバトルを終わらせたい。お前と出会って、その覚悟が決まったんだ。だから……」
手塚が、こちらへと身体を向けて真剣な面持ちで告げた。
「俺と一緒に戦ってくれ、城戸。」
「……あぁ!」
それは真司にとって、とても大切な時間となった。
——次回、『第七話:浅倉威』——
〜続〜
仮面ライダー龍騎 〜第六話〜