仮面ライダー龍騎 〜第五話〜
《第五話:再誕の刻》
【登場人物】
・秋山 蓮(二十四)……無愛想で口も態度も悪いが、内には確かな情を秘めている男。恋人の恵里、友人の手塚とともに、荒れつつも充実した日々を過ごしている。
・手塚 海之(二十四)……蓮の友人で、曰く"腐れ縁"の間柄。占いが得意で、探偵を夢見て私立探偵の師のもとに通い詰めている。
・小川 恵里(二十三)……蓮の恋人で、天真爛漫な女性。強引なナンパから救い出された事をきっかけに、荒んだ生活を送っていた彼に寄り添うようになる。
・神崎 士郎(二十五)……鏡の中からライダー達を闘いへと誘う、謎多き男。
【あらすじ】
頑なに心を閉ざそうとする蓮の姿勢を前にして、真司は何故彼が戦うのか知りたいと思う。そんな真司の頼みを受け、手塚は秋山蓮が初めてライダーになった日の出来事を語り始めるのだった。
【八】
〜一年前"或る日の追憶"〜
蓮はその日も、夕日に染まった国道で愛車の黒いシャドウスラッシャーを走らせていた。すぐ横では、高校からの腐れ縁である手塚が並走している。
「お前まで来る必要は無いぞ、手塚。」
「だろうな。だが蓮……俺は少し胸騒ぎがする。この後、何か大きな災いが降りかかるんじゃないかと……そういう不安がずっと消えないんだ。
「またお得意の占いか。しかし……不安とはな。」
蓮は、恋人である小川恵里との会話を思い出した。
*
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*
〜一ヶ月前・夕暮れのタンデムロード〜
恵里を後ろに乗せ、蓮はいつもの土手道を走っていた。
「……これからしばらく、迎えに来てよ。夜怖いし!」
恵里が、相変わらず子供じみた言動で蓮に迫った。そんな彼女の鬱陶しさが、蓮は何故だか好きだった。
「お前はガキか。大学からお前の家までそう掛からないだろ。一人で帰れ。」
「えぇー。でもなんか最近、実験室の雰囲気ちょっと怖いんだよね……だから、なんとなく不安っていうか……」
珍しく、恵里が弱々しい口調でそう語った。飛ばしていた愛車を路端に停め、後方に乗せた彼女の方に振り返る蓮。
「怖い?」
「うん。教授も神崎先輩もなんか必死っていうか……ずっと、何かに追われてるって感じでさ。」
恵里が所属している研究室は、最近になって怪しげな実験を始めたという噂が立っていた。今月の頭にアメリカから帰国した、神崎士郎という学生が入ってから立ち始めた噂だ。
「はぁ……仕方ない。迎えに行ってやるよ。」
「本当!? 蓮、ありがとう!」
恵里は、嬉しそうに蓮を抱きしめた。
*
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(全く……しょうがない奴だ。)
蓮はため息を漏らしながら、少しバイクのスピードを上げた。手塚も同じくスピードを上げる。運命の時は、もうそこまで迫っていた。
〜同日・午後八時"城南大学・研究棟"〜
「……静かだな。」
その日はいつもの時間から十分、三十分、一時間経っても彼女が出てこなかった。そのため手塚を大学の門前で待たせ、蓮は今構内を歩いている。夜の大学はとても静かで、薄暗い廊下はどこか不気味ささえ感じさせた。
(なんだ……この不安は。)
〜午後八時五分"研究棟・研究室前"〜
蓮が研究室の扉の前に着いたのは、それから僅か数分後のことだった。扉をノックし、中の反応を確認する。
「すみません! ……おかしい。誰も居ないのか?」
いくら夜とはいえ、研究の為に人が複数残っているなら何かしら気配があるものだが、その研究室はまるで誰も居ないかのように静けさを保っていた。蓮の不安は、ますます大きくなった。
「……おい。開けるぞ!」
勢いよく、その扉を開く。そんな彼の眼前に広がっていたのは、まるで"現実離れ"した光景であった。
「うっ……!?」
床に転がる、死体。死体。死体。死体。そうして血塗れで倒れた彼らの遺体の上を、悠々と翼を広げた巨大なコウモリが滞空していた。
「なんだ……この、バケモノは……」
「れ……ん……」
「……!?」
その声がしたのは、蓮の足元から。そこで、耳と口から血を流した彼女——恵里は仰向けに倒れていた。
「恵里……! おい、しっかりしろ!」
「蓮……また顔に青痣作って。帰って……手当てしないとね。」
弱々しく伸ばされた恵里の手を掴む。
「そんな事はいい! 今、救急車を……!」
「……よくないよ。そんな傷だらけの人、放っておける訳ないじゃない。」
恵里の吐息は、とてもか細いものであった。その生命の灯火が消えるまであと僅かだという事を、蓮は悟るしかなかった。
「ごめんね、蓮。ずっと一緒に居られなくて。……あなたは、すぐに自分を傷つけるから。もっと自分を、大切にして……」
「あぁ……あぁ。分かった。」
次の瞬間、強張っていた小川恵里の身体から力が抜け、そして彼女は二度と動かなくなった。声は出なかった。ただひたすら、蓮は涙を流し続けていた。
*
*
*
「……何故だ。何故、こんな事に。」
蓮は、しばらく立ち上がる事が出来なかった。抱き抱えた恵里の身体が今すぐにでも動き出さないかと、無惨な希望を捨て切れなかったのだ。
「お前、その女を生き返らせたくはないか。」
「……誰だ!?」
その場には蓮以外もう誰もおらず、しかしその声は、まるでそこに居るかのように生々しく響き渡った。
「俺は神崎士郎。お前にチャンスをやろう。その女を救う、チャンスをな。」
「救うだと……ふざけるな。こいつは、恵里はもう死んでるんだぞ!!」
「だから生き返らせるチャンスを、お前にくれてやろうと言っている。」
次の瞬間、蓮の傍に謎の男が立っていた。男は少し痩けた不気味な顔をさらに不気味な笑顔で繕いながら、懐からカードデッキを取り出してみせた。差し出されたそれを警戒しながら、男——神崎を睨みつける蓮。
「それは……なんだ。」
「これは……お前が戦い、勝ち残って願いを叶えるただ一つの手段。このカードデッキを受け取った時、お前の戦いは始まるのだ。」
戦いが始まる。その言葉を聞いたとき、蓮は自分の運命が歪に変わり始めている事に気付いた。彼女との、小川恵里との思い出が少しずつ色褪せていく。その男が何を企んでいるのか、蓮には想像もつかなかったが——。しかし蓮は、もうそれに縋るしかなかったのだ。叶えたい願い。それは今、蓮の腕の中で息を引きとった最愛の彼女を、恵里を生き返らせる事。
「このデッキを受け取り、俺は……何をすればいい。」
恵里の遺体をそっと地面に置き、蓮は立ち上がった。その様子を見て、満足そうにする神崎。
「これからお前と同じように、デッキを手にして戦士となった奴らが現れる。そいつらを倒せ。そうして最後の一人になった時、お前は願いを叶える事が出来る。どんな願いでもな。」
男が差し出したカードデッキに手を伸ばす。迷いも、疑念も湧かなかった。ただ、荒んだ心を紛らわそうと喧嘩に明け暮れたあの日々に。恵里が救い出してくれる前のあの日々に、戻るだけだと思った。
「やめておけ、蓮。」
「……手塚。」
遅れて研究室へとやって来た手塚が、その頬を涙で濡らしながら力強くこちらを見据えていた。
「そのデッキを受け取れば、お前に待っているのは破滅だけだ。俺はお前にまで、死んで欲しくはない。」
「……また占いか。」
「あぁ、根拠はない。だが……俺の占いは当たる。」
手塚は、いつも全てを見透かしているような男だった。蓮はそんな彼の"占い"を信じ、考慮してきた。しかし今回ばかりは、そう出来そうになかった。
「すまない、手塚。俺はもう……自分を止められない。」
蓮の様子をじっと見つめ、手塚は観念したように首を横に振った。そして、
「……おい、そこのお前。神崎とか言ったか。」
「なんだ。」
手塚は整えるように長めに息を吐くと、今度はその男の方を見据えて言った。
「俺にもそれを寄越せ。ただし俺の願いは、誰かを傷付ける事じゃない。そいつを、蓮を守る事だ。」
「……いいだろう。」
男は再び不気味な笑みを浮かべると、軽く指を鳴らした。そんな彼の呼び出しに応じたのか、紅鱏がヒビの入った窓越しにその姿を現す。こうしてその日、二人のライダーが誕生した。ナイトとライア。彼らと彼女の運命はその日を境に、大きくうねり出したのだった。
〜一ヶ月後・午後四時四五分"ミラーワールド"〜
戦いを終え、ナイトは炎上するモンスターの遺骸をじっと見つめていた。隣に立ったライアが、その様子を見て口を開く。
「……あれから一ヶ月か。やはり慣れないな、戦いというのは。」
「……そうか。だが手塚……俺はもう、慣れたぞ。」
「……蓮。」
モンスターと対峙した時、刃を向けられた時、蓮は確かに恐怖を抱いていた。命のやり取りをする事に、嫌悪感を抱いていた。それが、どうにも苦しかった。
「俺は、慣れなければならない。命を奪うことに。奪われることに。でなければ……俺は、あいつを救えないだろう。」
手塚には蓮のその言葉が、どこか自分に言い聞かせているように聞こえた。
「無理をするな。……俺もついている。必ず、恵里さんを救えるさ。」
「俺があの時もっと早く異変に気が付いていれば、恵里は助かったかもしれない。俺のせいで、あいつは死んだんだ。」
そんな事はない。月並みのその言葉を、手塚は口にする事が出来なかった。反転した世界の中で、二人は暫く佇み続けていた。
——次回、『第六話:願いを懸ける者達』——
〜続〜
仮面ライダー龍騎 〜第五話〜