仮面ライダー龍騎 〜第四話〜
《第四話:三人の戦士》
【登場人物】
・城戸 真司(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎』となる。
・秋山 蓮(二十四)……無愛想で口も態度も悪い男。ダークウイングと契約し、仮面ライダー『ナイト』として戦う。
・手塚 海之(二十四)……蓮の友人で、彼の良き理解者。エビルダイバーと契約し、仮面ライダー『ライア』となってナイトと共闘する。
・大久保 大介(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。黄金のザリガニの記事を捏造だと騒ぎ立てられ、現在炎上対応中。
・神崎 優衣(十九)……蓮と行動を共にする少女。兄が多くの人間を傷つけている事に、思い悩んでいる。
・神崎 士郎(二十五)……優衣の兄で、ライダーバトルを仕掛けた張本人。鏡の中からライダー達を闘いへと誘う、謎多き男。
【あらすじ】
蓮が契約モンスターに人を襲わせているのではと、疑念を抱く真司。そんな彼に、手塚は"ちゃんと話し合え"とその居場所を伝えた。殺し殺されかけた二人は、果たして手を取り合う事が出来るのか。
【七】
〜二月六日・午後四時十五分・都内裏路地"スラム街"〜
都内の一角に位置した、誰の目にも留まらない寂れた場所。秋山蓮はそこで、息苦しさを祓う為に拳を奮っていた。殴られた顔面を抑えて立ち去っていく暴漢達を見送りながら、拳についた血を拭う。
(俺はまた……こんな……。)
もう、何人と殴り合ったか分からない。蓮は昔から、何かに悩んだ時はこのスラム街で喧嘩をしていた。
(恵里……。)
彼女と出会うまでは。
*
*
*
〜午後四時二十分・都内裏路地"スラム街"〜
「うはぁ……蓮のやつ、こんなとこにいんのかよ。危ないなぁ。」
真司がダークウイングの気配を追って辿り着いたのは、薄暗いスラム街だった。道端には喧嘩の後であろう、全身傷だらけの若者から大人までがうずくまったり横たわったりしている。通常であれば、真司が足を踏み入れる事など到底無い場所だろう。
(蓮、本当にこんな所にいるのか……?)
「お前、此処で何をしている。」
「げっ!? すみません。怪しいものじゃ……って、蓮?」
真司に声を掛けたのは、蓮だった。蓮の顔は誰かに殴られたのか、青痣と傷で酷い有様だった。
「ここはお前みたいなバカが来る所じゃない。大人しく帰れ。」
「帰れってお前なぁ……そんな傷だらけのやつ、放っておけるかってんだよ! ほら、お前も一緒に帰るぞ! 手当てしてやっから!!」
無理矢理にでも連れ帰ろうと、真司は蓮の二の腕を掴んだ。しかし、どれだけ押そうとも引こうとも、蓮は微動だにしなかった。
「チキショウ……て、蓮。どうかしたか。」
「……いや、なんでもない。」
その時一瞬だけ、蓮の顔が哀しそうに見えた。真司にはそれが、どうにも気のせいには思えなかった。
「……あぁ、そうだ。お前に聞きたいことがあんだよ。花鶏じゃちょっと聞きづらくてさ……。」
「なんだ? まぁ何にせよ、お前の質問に答えてやる義理は無いがな。」
「ぐぁっ、てめぇ……!!」
真司がどう切り出したものかと悩んでいた、その時。スラム街の奥から、男の悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁぁあ!」
すぐに悲鳴は止んだが、二人はそれがモンスターによって引き起こされたのだと直ぐに察知した。
「蓮、今のって!?」
「あぁ、モンスターだ。だが既に気配は無い……あの時と同じ奴だな。」
「……あの時って、もしかしてサラリーマンの?」
周囲を警戒しながら、蓮はあの夜の事を語った。
「あぁ。奴ら、常に複数で動いているのか気配を散らせるのが上手い。しかも猛スピードで近づいて標的を捕食すると、また一気に移動してこちらの気配探知範囲から抜けていく。……あのサラリーマンも、俺が着いた時には殺られていた。」
真司は理解した。蓮はあの時、男を助けようとしていたのだ。だが届かなかった。その喪失感だけは、自分にも分かる気がした。
「蓮……ごめん。」
「突然どうした? まぁいい、奴らまた来るぞ。デッキを構えろ。」
「……あぁ。」
二人並び、路地に捨て置かれた姿見の前に立つ。そしてそこへ、歩み寄る男がもう一人——。
「その戦い、俺も混ぜてくれ。」
二人の後方から歩いて来たその声の主は、手塚だった。蓮が面倒そうな表情で、しかし柔らかく声を掛ける。
「手塚……お前、どうしてここに?」
「ちょっと様子を見に来てみた。……それより、城戸。」
「ん?」
デッキを取り出しながら、嬉しそうに笑みを浮かべる手塚。
「疑惑は晴れたようだな。」
「はぁ……やっぱアンタは、なんでもお見通しか。」
どんどんとモンスターの気配が近付いてくる。一体、二体……全部で、三体。三人は顔を見合わせると、立ち並んでデッキを構えた。
「「「変身!」」」
三人の戦士達が、鏡の世界に並び立った。
〜午後四時四十分"スラム街・ミラーワールド"〜
龍騎・ナイト・ライアは、人型のレイヨウのようなモンスター『オメガゼール』とその眷属の『ギガゼール』、『メガゼール』に対峙した。ゼール達はそれぞれ咆哮を挙げると、怒りに満ちた眼でこちらを見据えた。
「右の奴は俺にやらせろ。あの時、男を助けられなかった……そのリベンジだ。」
「なら俺は左だ。真ん中はお前に譲るぞ、城戸。」
「おぅ。それと、二人とも……死ぬなよ。」
「「あぁ。」」
三人それぞれが、散り散りとなって戦いに赴いた。
*
*
*
ギガゼールは今一度大きく咆哮を挙げると、ライア目掛けて飛び掛かった。それを横に転がることで避けるライア。そうして直ぐさま体勢を立て直すと、左腕にあるエイを模した小楯型の召喚機『エビルバイザー』のスロットにカードをセットした。
<SWING VENT>
その手に、伸縮自在のムチ『エビルウィップ』が収まる。彼はそれを素早くギガゼールに巻き付けると、ムチから高圧電流を流して攻撃した。たまらず膝をつくギガゼール。尚もライアの猛攻は続き、彼は後頭部に付いた弁髪状のパーツ『ライアエンド』を巻き付けて捕縛し直すと、エビルウィップによる連打を叩き込んだ。
「グアァ……」
「来い! エビルダイバー!!」
<FINAL VENT>
発動されたファイナルベントに呼応し、空から紅いエイ型のモンスター『エビルダイバー』が飛来する。ライアは地面スレスレで滑空を開始したそれに飛び乗ると、そのまま怯んで動けなくなったギガゼールに特攻を仕掛けた。エビルダイバーの電磁力を帯びた"ヒレ"がその腹を切り裂き、たまらず爆散するギガゼール。
「次に向かうべきは……。」
一足先に戦いを終え、ライアは仲間の救援に赴いた。
*
*
*
「この野郎、ちょこまかすんな!」
龍騎は、苦戦を強いられていた。ドラグセイバーで斬りかかろうとする彼の頭上を、まるで挑発するかの如くメガゼールは跳躍し翻弄していたのだ。距離を詰めようとする度に車輪の如く縦に回転しながら、敵が自身を跳び越していく。その繰り返しに業を煮やした龍騎は、なんとも突飛な戦法に転じた。
「この野郎っ!」
なんとメガゼールの次の着地地点を予測し、そこ目掛けてドラグセイバーを投げつけたのだ。
「グアァ!?」
そんな苦し紛れな一撃は運良く相手の意表をつき、偶然にもその脳天に直撃した。
「グオォ……」
たまらずよろけるメガゼール。ようやく訪れた攻撃のチャンスに、龍騎は嬉々としてカードをセットした。
「えっと……これだ!」
<STRIKE VENT>
その右腕に、ドラグレッダーの頭部を模した手甲型の打撃武器『ドラグクロー』が装備される。
「えっと……これは、どうやって使うんだ?」
あまりにも奇天烈な見た目の武器に、戸惑う龍騎。しかしそうしている間にも、メガゼールは体勢を立て直そうとしていた。
「やべっ。えっと……よしっ、こうだ!」
彼はドラグクローで、とりあえずメガゼールの顔面を殴りつけた。どうやらその使い方は正しかったらしく、メガゼールはそのまま殴られた顔面を基点として大きく後方に吹き飛ばされたのだった。
「おおぉ……ど、どうだ! モンスター!!」
勝ち誇って拳を振り上げた龍騎の背中を、謎の一撃が襲った。重々しく振り下ろされたその槍の一撃は、龍騎の背面の鎧を深く削いだ。
「ぐぁっ……くそ、もう一匹いやがったのか。」
それは、群れの危機に駆けつけた四匹目のメガゼールであった。
「クソが……今の、結構キツかったな。動けねぇ……。」
そんな敵の様子を見て、勝利を確信したかの如く立ち並び雄叫びをあげる二匹。しかし、龍騎にはまだここで終われない理由がある。
「俺が……止めるんだ……!!」
歯を食いしばり、痛みを堪えながら立ち上がる。今の龍騎には、それが精一杯だった。
「ハァ……やっぱ蓮って、凄いヤツだったんだな……。」
「城戸、大丈夫か。」
「……!?」
龍騎に駆け寄ったのは、戦いを終えてこちらにやって来たライアだった。
「手塚……もろに食らっちまった。あんまし、動けねぇ。」
「なら、俺の言う通りにしろ。大丈夫だ。少し動いてくれれば、それでいい。」
「あぁ……分かった。」
龍騎の返答を聞いたライアはこくりと頷くと、エビルバイザーに素早くカードをセットした。
<COPY VENT>
その機械音に反応し、龍騎の右腕に装わったドラグクローがまるで鏡像のようにその数を増やした。そしてそのまま、それがライアの右腕に装備される。
「そんなカードもあるのか……。」
「感心してる場合じゃないぞ。さぁ、お前も後に続いて構えろ。俺の真似をするんだ。」
「おぉ……!」
ライアの動きを真似て、ドラグクローを肩の高さで水平に構える。そうして一度頭の後ろまで引くと、それを一気に前方に突き出した。突き出された二対のドラグクローが、まるで生きているかのように咆哮をあげながら大きく口を開く。
「ギャアァ!?」
「グア……ァ……」
そして、そこから灼熱の大火球がモンスター達に向けて発射され、二匹のゼールを業火で跡形もなく滅却した。二人の共闘が引き出した、その技の最大火力を遥かに凌駕した一撃だった。
「おぉ……すげぇ。手塚、ありがとな。」
「礼は早いぞ、城戸。」
「だな。まだ……あいつが。」
「あぁ。」
それぞれの戦士達の戦いが決着し、残るは仮面ライダーナイト——秋山蓮の戦いを残すのみとなっていた。
*
*
*
「……見たところ、お前が親玉のようだな。」
ナイトが対峙していたオメガゼールは、他のゼールより一回り大きい体躯と双角を持ち、巨大な刺股状の槍を装備していた。
「グオォォ!!」
オメガゼールは怒り狂って雄叫びをあげると、ナイト目掛けて槍を振り下ろした。しかし、彼はそれを軽く避けてみせる。
「……。」
ナイトはダークバイザーの刀身を鋭く前に突き出し、オメガゼールの喉元に突き立てた。悶えるモンスターを前にして、バイザーにカードをセットする。
<FINAL VENT>
彼は空高く跳び上がると、巨大なドリルを形作った。高速で回転したそれは勢いよく降下すると、そのままオメガゼールの腹部を貫き、爆散させたのだった。
「悪いがお前に時間を割いてやれるほど、俺に余裕は無い。」
〜同日・午後五時三十分"スラム街"〜
「いや〜。全員が無事で、本当に良かった!!」
戦いを終えた三人の戦士達が、ミラーワールドから帰還した。再会を喜びはしゃぐ真司に、蓮は思わず顔をしかめた。
「……手塚、こいつを黙らせてくれ。鬱陶しい。」
「まぁ、いいじゃないか。」
まんざらでもない様子の手塚が、蓮を宥める。そして調子付いた真司が、声高らかに宣言した。
「そうそう! せっかく出会えた仲間だしさ。仲良くしようぜ!」
「……仲良く?」
そこで、蓮の態度が変わった。ハッとした様子で、しかし直ぐにいつもの険しい表情に戻ると、何も言わぬまま二人に背を向けてしまったのだ。
「おい……どうしたんだよ、蓮。」
「城戸……俺達は、仲間ではない。敵だ。」
辺りに、冷たく重い空気が流れる。そのまま無言で歩き去る蓮を、真司は引き止める事が出来なかった。その背中はどこか寂しく、危うさまで背負っているように見えた。
「なぁ……手塚。」
隣で悲しそうに蓮の背を見つめる手塚に、真司は思わず声を掛けた。
「なんだ。」
「あいつがこの戦いで叶えたい願いって……なんなんだよ。」
「……いいだろう。お前には話しておく。あれは、今から一年前に起きた。」
手塚がジャケットの内ポケットから取り出したのは、蓮が大学のキャンパス前で不満そうな表情を浮かべている写真だった。その隣には、真司の知らない女性が嬉しそうに立っている。
「その悲惨な事件が、俺達の運命を狂わせたんだ。」
——次回、『第五話:再誕の刻』——
〜続〜
仮面ライダー龍騎 〜第四話〜