仮面ライダー龍騎 〜第三話〜
《第三話:生じた疑念》
【登場人物】
・城戸 真司(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。ドラグレッダーと契約し、『龍騎』となる。
・秋山 蓮(二十四)……無愛想で口も態度も悪い男。ダークウイングと契約し、仮面ライダー『ナイト』として戦う。
・手塚 海之(二十四)……蓮の友人で、彼の良き理解者。エビルダイバーと契約し、仮面ライダー『ライア』となってナイトと共闘する。
・大久保 大介(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。特技はザリガニ釣りで、昔は"ザリガニ釣りのダイちゃん"としてブイブイ言わせていた。
・神崎 優衣(十九)……蓮と行動を共にする少女。
・神崎 士郎(二十五)……優衣の兄。
【あらすじ】
人々をモンスターの魔手から護るため龍騎となった真司に、ナイト——蓮は刃を向ける。戸惑いつつ応戦する真司だったが、そこには大きな経験の差があった。成す術無くついに倒れたその命を奪おうと振り下ろされる、ナイトの刃。それを止めたのは、三人目の仮面ライダーだった。
【五】
〜二月四日・午後六時"喫茶花鶏・店内"〜
「お前、ふざけんなよ! 何考えてんだよ、いきなり襲ってくるなんて!!」
怒り心頭で蓮の胸ぐらを掴む真司だったが、蓮は相変わらず冷静な、しかしどこか面倒そうな表情を崩していなかった。そしてその様子を見ていた三人目の男が、助け舟を出す。
「まぁ、あんたの気持ちは分かるけどな。こいつはその程度で動じる男じゃない。一旦落ち着いて、その手を離せ。」
「……分かった。」
鼻息を荒くしながら、真司は自分を宥めた男の向かい側に座った。ワインレッドのジャケットに身を包んだその男は、艶めいた黒の短髪が目を引くとてもクールな男だった。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます。えっと……」
「すまない、自己紹介が遅れたな。俺は手塚海之。あんたや蓮と同じ仮面ライダー、ライアだ。歳も近いようだし、敬語は要らないよ。宜しく。」
そう言うと手塚は、力強く右手を前に差し出した。
「おぉ……こちらこそ、宜しく。」
真司と手塚が固く握手を交わす横で、蓮は聞こえるようにわざと大きくため息を漏らすと、ぶっきらぼうに店から出て行ってしまった。
「なんだよ、アイツ。人のことあんなに痛めつけといて、ごめんの一言もナシかよ……。ていうか俺、なんでボコられたんだ? なんか気に障るような事したかな……。」
一人でぶつぶつと言いながら考え込む真司を見て、手塚はくすりと笑ってから口を開いた。
「いや、あんたは悪くない。優衣ちゃんから聞いてはいたが、本当に何も知らずにライダーになったんだな。」
「な、何も知らず……そんなことないぞ! ちゃんとモンスターの脅威も知ってるし、ずっと戦う覚悟だってある!」
その言葉を聞いた手塚の眉が、少し動く。
「なら、あんたは何の為に戦うんだ?」
「……なんでって、そんなのモンスターから人々を守る為だろ。当たり前じゃないか。」
それを聞いて、手塚はさっきの蓮と同じように大きなため息をついた。真司は、少し機嫌を損ねた。
「な、なんだよ……。」
「それを"何も知らない"と言ってるんだ。……あんた、よく他人の問題に首を突っ込んで苦労してるんじゃないか?」
まるで全てを見透かしたような手塚のその言葉に、たまらずそっぽを向く真司。
「べ、別に俺の事はいいだろ……。それで? 俺の知らないライダーの戦いってヤツについて、教えてくれよ。」
真司の言葉を受けて、手塚はたたえていた笑みを解いた。ジャケットの内ポケットからトランプを取り出し、テーブルの上にAからKまでの十三枚を並べていく。
「……ライダーは複数いる。その数は俺やあんた、そして蓮を含めて計十三人。」
「そんなにいるのかよ!? じゃあそいつらと全員で協力すれば、モンスターなんか……」
「話は最後まで聞け。ライダーになる者は皆、どうしても叶えたい願いを持っている。そして、その願いを叶える為にライダー達は——」
並べていた内の二枚を裏向きにして、手塚は淡々と続けた。
「殺し合う。」
〜二月六日・午前三時十二分"OREジャーナル近辺"〜
真司は黄金のザリガニを見つけたという老人の取材を終え、気晴らしも兼ねて夜食を買いに外に出ていた。当日のうちに記事を仕上げろという大久保の命に従って徹夜業務を敢行してはみたものの、とても記事を書き上げられる気がしなかったのだ。それは手塚から聞かされたライダー達の話が、ずっと頭から離れなかったからだった。
*
*
*
「こ、殺し合うって。何でライダーが殺し合うんだよ。てか、人殺しって……普通にダメだろ!!」
「落ち着け、城戸。そもそも"モンスターを倒すという行為自体" が、俺達ライダーの戦いの副産物みたいなものなんだ。」
「副産物……?」
手塚は少しだけ悩む様子を見せた後、後方で二人の会話を聞いていた優衣に声をかけた。
「優衣ちゃん、続けても大丈夫か?」
「……うん、お願い。」
そう告げる彼女の表情は、やはりどこか哀しげであった。そして手塚は、ライアのカードデッキをテーブルの中心に置いた。エイを象ったレリーフが、紅いデッキの中心で輝いている。
「俺達は皆、ある人物からカードデッキを渡されてライダーになっている。勝ち残って自分の願いを叶える、ただそれだけの為にな。」
「その、ある人物って……?」
「優衣ちゃんのお兄さん、神崎士郎だ。」
「えっ……!?」
神崎士郎。行方不明事件最初の被害者であり、優衣の兄。真司がこの花鶏にやって来た切っ掛けでもあった。
「優衣ちゃんのお兄さんが、みんなにライダーの力を……でも、俺は会ってないぞ。」
「それは、あんたが本来ライダーになるべき人間ではなかったからだろう。神崎士郎がデッキを渡した相手はおそらく、榊原耕一。まぁ、ライダーになる前にモンスターに喰われてしまったようだがな。」
榊原の部屋の様子が、真司の脳裏に蘇った。彼が映り込むものを新聞紙で覆っていたのは、ミラーワールドを警戒していたからなのだろう。
「そうか……でもなんで。願いの為に戦う事と、ライダーが殺し合う事がどう関係してくるんだよ?」
手塚は小さなため息をつくと、話を続けた。その所作から、真司は手塚がこの戦いに消極的である事を悟った。
「ライダーは皆、最後の一人になるまで殺し合い……その最後の一人だけが、自分の願いを叶える事が出来る。どんなに現実離れした願いでもな。ライダー達は皆、神崎士郎からそう吹き込まれているんだ。」
「そんな、バカな……」
「そういうバカな話にしか賭けられない奴らが、本来ライダーになるべき人間なのさ。でも、あんたはそうじゃない。ただの良い奴だ。それが分かっていたから、蓮も優衣ちゃんもあんたがライダーになるのを止めたんだろう。」
真司は、自分に斬り掛かった蓮の姿を思い出していた。そしてライダーが背負う宿命の本当の意味を知った今、真司の心は——
「……やっぱ俺、理解できない。」
真司は拳を握りしめた。真司の中の"何か"が、再び大きくなっていた。
「自分の願いを叶える為に、他人を傷つけるなんて……どんな理由があっても許される事じゃない。俺は認めない……そんな、戦いは。」
「なら、どうする。戦わずに死ぬのか?」
そう冷たく言い放った手塚の様子は、どこか真司を試しているようにも思えた。ならば、そんな手塚に自らの覚悟を示さなければならない。真司はそう思った。
「俺が止めるよ、戦いなんて。ライダー全員と話し合って、戦いをやめさせる。もちろん神崎とも。」
その言葉を聞いて、手塚は満足そうに笑った。
*
*
*
「とは言ったものの、どうしよう……。俺、まだ蓮と手塚しか他のライダーを知らないぞ。」
真司が暗い夜道で考えを巡らせていると、突如あの"耳鳴り"が響き渡った。しかしそれは、何かいつもと少し様子が違っていた。
「くそ。なんなんだよ、こんな時間に……」
「お前が、城戸真司か。」
「えっ?」
声がした方を見てみると、その声の主はビルの窓ガラスに映り込んだ状態でこちらを見ていた。正確には、窓ガラスの"中に立っていた"。
「うわっ……!?」
「そう驚くな。俺は、お前の敵ではない。寧ろ味方と言っていいだろう。」
ベージュのロングコートに身を包んだ長身のその男は、少し痩けた、どこか薄暗い印象を与える表情をたたえており、真司は彼になんとも言い難い不気味さを感じた。
「味方って、どういうことだよ。いきなり鏡の中から話しかけられてそんな風に言われても、信用出来ないだろ。まず、あんたは誰なんだよ?」
「フッ……そうだな。まず名乗ろう。俺は、神崎士郎。お前達ライダーに、願いを叶える力を与える者だ。」
「お前が、神崎士郎……?」
優衣の兄、神崎士郎。その名を聞いて、真司は身構えた。次に鏡の向こうのその男が何を言うか、少し想像がついたからだ。
「……聞こう。お前の願いはなんだ。戦いに勝ち残り、最後の一人になった時に叶えたい願いは?」
「……やっぱ、そうくるか。」
真司の脳裏に、優衣の哀しそうな表情がよぎった。そして、今までモンスターの犠牲になってきた人々のことも。
「お前……優衣ちゃんのお兄さんなんだろ。ずっと心配させて、一人にして苦しい思いさせて。お前は何がしたいんだよ……兄貴なら、妹のそばにいてやれよ!」
「お前の、願いはなんだ。」
神崎は、真司のその言葉に一切の反応を示さないまま同じことを繰り返した。まるで、死人のように冷たい一言だった。
「無いよ……他人を犠牲にしてまで、叶えたい願いなんて無い。お前はそうやって皆を口車に乗せてライダーにしてきたんだろうけど、俺はそうはならない。俺は、誰かを助けるために戦う。それだけだ。」
「ならばお前は直ぐに死ぬだろう。なんの願いも持たない人間が勝ち残れるほど、この戦いは甘くない。」
神崎はそれだけ言うと、瞬きする間もなく忽然とその場から姿を消した。
「おい待てよ! 俺はまだ、お前に聞きたいことが……」
その時、その場に大きな悲鳴が轟いた。
「な、なんだ!?」
すぐに辺りを見回す。辺りは変わらず静かな暗闇に包まれていたが——そんな静寂を破るように、真司の真横にスーツを着た男の死体がどさりと鈍い音を立てて落ちた。
「なっ……?!」
真司が頭上を見上げると、煌々と輝く満月を覆うように巨大な蝙蝠が飛んでいた。ナイトの契約モンスターである、ダークウイングだった。
「なんでダークウイングが……ま、まさか!!」
急いで周囲を見回す。すると木の影に一人、バイクに跨る見知った男の姿があった。
「おい……蓮! お前、こんなとこで何やってんだよ。」
蓮は面倒そうにため息をつくと、真司を睨みつけて答えた。
「別に……お前の方こそ、こんな夜中にふらついてどうした。まさか、その歳で家を追い出されたんじゃないだろうな?」
「なっ……!? ば、バカ言え。そんなワケないだろ。」
「フン、まぁいい。お前と話していても疲れるだけだからな。俺は退散させてもらおう。お前も、油断して野生のモンスターに殺られないようにな。」
蓮は小馬鹿にするように鼻で笑うと、わざと真司にエンジンの煙を浴びせながらその場を立ち去った。気づけば、空中にいたダークウイングもその姿を消していた。
「ゲホッゲホッ……あのヤロウ、相変わらずムカつくぜ。って、いけね。警察と救急車、呼ばなきゃ。」
数十分後、警察と救急車がやってきた——が、真司の通報は勘違いによるものとして迷惑がられながら一蹴されることとなった。何故なら、ついさっき空から落ちてきた遺体が消えていたからだ。散々説明した挙句に、結局は疲れが溜まった末の幻覚として片付けられ、真司は項垂れながら職場へと戻ったのだった。
【六】
〜午前七時"喫茶花鶏・店内"〜
昨夜の事件の後なんとか徹夜で原稿を仕上げ切った真司は、そのまま寝ずに花鶏にやってきていた。真司の中で、一つの大きな疑念が渦巻いていたからだ。
「真司くん、おはよう。どうしたの、こんな朝早くに。」
モップ掛けを終えた優衣が、カウンターに腰掛けた真司に話しかけた。
「あぁ。優衣ちゃんって……蓮とは、どれくらいの付き合いなの?」
「え?」
深夜に起きたあの出来事。真司は間違いなく男の死体を見た。そして空にはダークウイング。傍には、蓮。真司はどうしても、彼を疑うことをやめられなかった。
「いや、この前もいきなり襲われて殺されかけたし……今日の深夜にさ、男の人の遺体を見たんだ。それで側には蓮と、ダークウイングがいて……あいつが自分のモンスターにやらせたのかも。」
ドラグレッダーと契約して少し経ち、真司は確かに感じ取っていた。モンスターは契約してからも、遍く人を喰らいたがっている。そんな契約相手の衝動を抑え込むのも、ライダーの役目なのだ。
「……だから、優衣ちゃんもあんまり蓮のこと信用しない方がいいんじゃ……ってさ。」
そこまで言って、真司は優衣のこちらに向ける目がとても冷たくなっていることに気付いた。
「……優衣ちゃん?」
「どうして、真司くんにそんなことが言えるの。」
「え?」
優衣は、キッチンの裏手にある棚から古びた救急箱を取り出した。使い込まれた様子のそれを眺めながら、蓮との過去を語る優衣。
「真司くんは……まだ蓮の事、何も知らないじゃない。私は知ってる。蓮がどうして戦ってるのか。彼が何を背負ってるのか。私から見れば、真司くんの方がちょっと信用出来ないよ。まだ弱いし。言ってることも、綺麗事ばっかりだし。」
「お、俺は……」
「一年。私は、蓮と行動を共にしてきた。死にかけるくらい危険な戦いを、私は何度も見てきた。でも、蓮は決して諦めなかった。何度倒れても、その度に立ち上がった。真司くんに、それが出来るの?」
真司は、何も言い返すことが出来なかった。正直分からなかったからだ。変身したのもまだ一度だけ。傷ついて倒れた事は無い。もしそうなった時、それでも逃げ出さずに戦い続けられるのか。真司には、分からなかった。
「……でも」
それでも一つだけ、分かっている事があった。それは、自分がこの戦いにかける想い。それだけはハッキリと、その胸中に刻み込まれていた。
「俺は、自分が出来る事をする。今はこのライダーの力で、モンスターから誰かを護りたい。」
「……真司くん。」
「ごめん、優衣ちゃん。俺がバカだった。今の話は忘れてくれ。」
「……うん。」
真司は、店を出た。自分で確かめたいと思った。秋山蓮という男が、どんな男なのか。そしてこの戦いで、何を背負っているのか。
〜午後二時十五分"喫茶花鶏・近辺"〜
真司はトボトボと、肩を落としながら側道を歩いていた。そんな彼に、声をかける者がいた。
「よう城戸。ずいぶんと堪えた顔をしているな。何かあったのか。」
「あぁ、手塚か……ちょっと話、聞いてくれよ。」
〜午後二時二十分・"某ファミリーレストラン・店内"〜
「なるほど、それは優衣ちゃんも怒るだろうな。俺だって怒る。」
手塚は注文したホットコーヒーを啜りながら、そう答えた。
「はぁ……でもさ。俺が話してることだって、全部本当の事なんだよ。ドラグレッダーと契約した今なら分かる。アイツらは契約しても、根は変わらない。だから、もしかしたら……」
手塚は、人差し指を自分の口に当ててその先の発言を制した。その目つきはとても鋭く、真司も自分の言葉をぐっと飲み込むしかなかった。
「城戸……とりあえず一度、蓮から話を聞いてみろ。全力でぶつかって、アイツの本気を確かめるんだ。」
「ぶつかるったって……アイツが何処にいるかすら分かんないんだぜ。」
手塚は少し微笑むと、心配ないといった面持ちで真司に告げた。
「アイツの契約モンスター、ダークウイングの気配を追うんだ。」
——次回、『第四話:三人の戦士』——
〜続〜
仮面ライダー龍騎 〜第三話〜