仮面ライダー龍騎 〜第二話〜

《第二話:初陣(ういじん)


【登場人物】

城戸 真司(きど しんじ)(二十四)……新米ジャーナリストで、少々抜けたところがあるお人好しの青年。偶然カードデッキを拾った事で、ライダーの戦いに巻き込まれる。

秋山 蓮(あきやま れん)(二十四)……無愛想で、口も態度も悪い男。ダークウイングと契約し、仮面ライダー『ナイト』として戦う。

神崎 優衣(かんざき ゆい)(十九)……喫茶花鶏(あとり)で働く少女。とある事情を抱えている。

大久保 大介(おおくぼ だいすけ)(三十六)……モバイルネットニュース配信会社『OREジャーナル』の編集長で、真司の上司。実は薄毛に悩んでいる。

【あらすじ】

 新米ジャーナリストの城戸真司は、ある日取材先で黒いカードデッキを拾った。そしてそれをきっかけにして、様々な非日常が彼を襲い始める。反転世界、巨大な蜘蛛、蝙蝠の怪物に赤龍、そして仮面ライダー。真司の"願いを賭けた戦い"が、間も無く始まろうとしていた——。

【三】

〜二月四日・午後二時三十分"喫茶・花鶏"店内〜

 自分以外に客が一人も居ない店内で、真司は考えを巡らせていた。結局、昨日は一睡も出来なかった。何度目を閉じても、あの酷く現実離れした光景がフラッシュバックしたからだ。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 真司に愛想良く注文を伺う、ベージュのエプロンを身につけた女性店員。彼女と会う事こそが、今回の真司の目的だ。

「あ、俺は客ってわけじゃなくて……神崎優衣さん、ですよね?」

「え、はい……。」

 フリマで買った長財布から名刺を取り出し、立ち上がって目の前の取材相手に渡す。

「俺、城戸真司。ジャーナリストやってます。それで聞きたいんです。あなたの、お兄さんについて。」

「……!」

 彼女の名は神崎優衣。茶髪のベリーショートが活発さを醸し出す、十九歳の少女だ。

「あなたのお兄さんは、最近起こってる連続行方不明事件の最初の被害者の方ですよね。何か、この事件について知っている事はありませんか。」

「……お話し出来ることは、何もありません。」

 優衣はとても悲しそうな表情を浮かべると、その場を立ち去ろうと真司に背を向けた。よほど触れられたくない事情があるのだろう。だが、

「……待って! 俺はあなたが知らないかもしれない、行方不明事件の手掛かりを知ってるんだ。話を聞いてくれ!」

「え?」

 真司も退くわけにはいかない。何が起こっているのか、真実を知らなければならない。己の中の使命感が、そう告げていた。

「鏡の中の世界の事、何か知りませんか?」

 真司は、昨日経験した事全てを話した。鏡の向こう側にあった世界と、其処にいた蜘蛛の怪物に赤い龍、そしてコウモリ騎士の事まで、全てを。

「そう……あなたが、そうだったのね。」

「え?」

 そう呟いて何かを深く考え込む優衣。すると、店の奥の洗い場にいた無愛想な男がこちらにやってきた。

「そうか、お前があの時のバカか。」

「バカってアンタ初対面の人に向かって……って、その声。アンタもしかしてあの時の!!」

 声を大きくする真司を小馬鹿にしたように笑うと、アップバングのその男は腰に巻いていたエプロンをとってテーブルに置いた。

「あぁ、そうだ。お前、デッキは持ってるか?」

「デッキ……あぁ、あの時拾ったやつか。持ってるけど。」

 上着のポケットをゴソゴソとまさぐり、件の黒いカードデッキを取り出してみせる真司。

「これ拾ってから、なんか変なんだよ。ずっと視線を感じるというか……凄く嫌な気配っつーかさ。」

「なら、そのデッキは俺が預かろう。そしてお前は大人しく帰れ。さぁ、出口はこっちだ。」

 男はそう言って真司からデッキを奪い取ると、上着の襟を乱暴に掴んだ。その力はとても強く、必死に暴れる真司の抵抗をものともしなかった。

「お、おい何なんだよお前! 離せよ!!」

「やめて、蓮! その人、モンスターに狙われてるんだよ。蓮だって分かってるはずでしょ!?」

 優衣の呼び止めに応えてか、その男——蓮は、真司から手を離した。

「分かってるさ、優衣。だが心配は要らない。あの龍は、俺が倒すからな。」

 蓮は優しい笑顔を浮かべながらそう言うと、デッキをそばの机の上に置いて、真司を睨みつけながら店を出て行ってしまった。もちろん、真司も睨み返してやった。

「ごめんね、蓮も悪い人じゃないんだけど。ちょっと素直になれないっていうか。」

「あー、いいよいいよ。それよりさ、モンスターに狙われてるって……やっぱり君達は何か知ってるんだよね。」

「あ、うん……もう話すしかない、か。」

 優衣は店の外看板を「OPEN」から「CLOSE」に反転させると、真司の向かいの席についた。

「あなたが迷い込んだ世界は、ミラーワールド。鏡の向こう側の世界よ。あそこにはミラーモンスターっていう恐ろしい怪物達が住み着いてて、腹を空かして時折こちら側の人間を捕食しているの。勿論そんな現実離れした事なんて誰も気付けないから、世間では"謎の"行方不明事件として処理されてる……これが、事件の真相だよ。」

「なんだ……それ。じゃあ、行方不明になった人みんな……もう、この世には」

「えぇ、いない。皆、人知れずモンスターの犠牲になっている。」

 戦慄した。OREジャーナルで見た行方不明者リストに載った名前は、決して少ない数ではなかった。

「じゃあアイツ……あの、蓮が変身してたコウモリの騎士は?」

「あれは、仮面ライダーナイト。モンスターに対抗出来る、唯一の手段。あの騎士の姿になればミラーワールドとこっちの世界を自由に行き来できるし、モンスターと戦う力も得られるの。」

 ナイトが従えていたのは、蝙蝠のモンスターだった。どうやら、仮面ライダーの能力は契約モンスターに依存するらしい。

「なるほど、な……そんな事が。さっき言ってたけど、俺もモンスターに狙われてるのか?」

巨龍(ドラグレッダー)、二人を襲ったヤツね。アイツはあなたを捕食しようと狙ってる。でも、大丈夫。このカードデッキに入っている封印のカードが、あなたを守ってくれる。それに、きっとあの龍も蓮が倒してくれるから……安心して。」

 優衣はそう言いながら蓮が置いていった黒いカードデッキを手に取ると、真司に渡した。

「ありがとう。なんか、スゴい話だな……。」

 優衣から聞かされた全ての話が、今まで真司が積み上げてきた常識から乖離していた。真司は戸惑い、そして——

「でも、許せないな。何の罪も無い人達が、誰にも知られないまま命を落とすなんて。」

 怒りに震えた。真司は、人生で初めて怒りで拳を震わせていた。

「真司くん……。」

 そんな店内の重苦しい雰囲気を破るように、真司の携帯からポップなコール音が鳴り響いた。編集長の大久保からだった。

「はい、編集長。」

『おーい真司。お前、何処ほっつき歩いてんだよ……また、なんか余計な事に首突っ込んでんじゃないだろうな。』

「あ、いえ別にそんな事は……すんません。それで、どうしたんすか?」

『……あぁ、また行方不明事件だ。今度はショッピングモール。子連れの母親が、衣料品店の試着室に入ったまま姿をくらましたらしい。また有り得ない話だが……とにかく現場の様子、取材してこい。』

 大久保から聞き取った現場住所のメモを取り終え、電話を切る真司。

「真司くん……もしかして、また?」

「うん。優衣ちゃん……俺、ちょっと行ってくる。」

「え、行くって……真司くん、ちょっと待って!!」

 優衣の呼び止める声も、まるで耳に入ってこない。多くの人が消え、多くの人が取り残された行方不明事件。その全てが、鏡の中から襲いくる理不尽によってもたらされたものだった。

(クソ……ふざけんなよ。)

 真司は、現場に向けてバイクを走らせた。

【四】

〜午後四時・都内"ショッピングモール・某衣料品店"〜

 現場は警官とマスコミを含めた多数の人間でごった返しており、すっかり混乱状態だった。

「すみません、ちょっと通してください。すみません。」

 現場の様子を見ようと、人混みをかき分け進んでいく真司。そうして前へ出たところで目に飛び込んできたのは、一人でうずくまり泣き暮れる少女の姿だった。

「ママ……どこいったの? 怖いよ……置いていかないで。」

 少女の消え入りそうな声を聞いて、再び拳を握り締める。怒りと決意に満ちたその思いを受け入れるかのように、戦いの幕開けを告げるあの耳鳴りが響き渡った。

「モンスターは……屋上か。」

 真司は、デッキを掴んだ。

〜午後四時三十分・都内"ショッピングモール・屋上"〜

 真司が屋上のガラス窓の前に立つと、以前ナイトが倒したはずの巨大蜘蛛(ディスパイダー)が満足げに"そこ"に立っていた。

「お前は……俺が倒す!」

「お前では無理だ!!」

 背後から発されたその声の主——蓮は、黒いロングコートを風に揺らしながらゆっくりとこちらに歩いてきた。その表情は、以前花鶏で会った時よりも明らかに険しいものだった。

「……でも俺は! 許せないんだ!!」

「そんなあやふやな想いでデッキを握る貴様に、この戦いは勝ち残れない。一度自分の意志で戦いに足を踏み入れれば、二度と戻ることは出来ない。お前にその覚悟があるのか?」

「俺……俺は……」

「黙って見ていろ。」

 蓮はそう言って真司を押し退けると、力強くデッキを前に構えた。

「変身!!」

 次の瞬間、鏡から現れた鎧が蓮の身体を包んだ。鏡に吸い込まれるように姿を消していくナイトの様子を、真司は黙って見ていることしか出来なかった。

「……ちくしょう!」

〜午後四時四十分・ミラーワールド"ショッピングモール屋上"〜

 ナイトはウイングランサーを構えながら、ゆっくりと目の前の蜘蛛のモンスター『ディスパイダー・リボーン』と向かい合った。

「まさか再生能力を備えたモンスターがいたとはな。……今度こそ、完全に仕留めさせてもらう。」

 深く踏み込み、間合いを詰めて一気に斬りかかる。しかしそんなナイトの渾身の一振りを、D・(ディスパイダー)リボーンは一跳びで避けてそのままガラス窓に張り付いてみせた。

「以前より、機動力が増している……。」

 警戒するナイト目掛けて、怪物が攻撃を仕掛ける。しかし今度吐き出したのは蜘蛛糸ではなく、鋭くとがった高硬度のトゲだった。

「……くっ!」

 次々と襲いくるトゲを、一本一本ウイングランサーで叩き落としていく。しかし絶え間なく続く猛攻に、ナイトは少しずつ、しかし確実に追い詰められていた。

〜午後四時五十五分・都内"ショッピングモール・屋上"〜

 蓮の戦いをじっと見つめる真司は、自分の中で抑えきれない"何か"が確実に大きくなっているのを感じた。

「真司くん、大丈夫?」

「……優衣ちゃん。」

 優衣が、心配そうな表情を浮かべてこちらに歩いてくる。きっと慌ただしく店を飛び出した真司を追って来たのだろう。

「……俺も、アイツみたいに戦えるのかな?」

「それは、無理。蓮みたいに戦うってことは、モンスターと契約するってこと。そうなったら、契約したモンスターに餌を与える為に一生他のミラーモンスターを狩らなきゃいけなくなる。そうしないと、自分が食べられちゃうから。」

「二度と戻ることは出来ない……アイツが言ってたのは、そういうことか。」

 覚悟。蓮の語ったその言葉が、真司の脳裏に蘇った。

「ねぇ、私は真司くんに戦って欲しくない。あなたは良い人だから。傷ついて欲しくないの。」

「……」

 真司は、デッキから封印のカードを取り出した。これがあれば、一生モンスターに襲われる事は無い。いつも通り仕事をして、何事も無かったように日常に戻れる。——すぐそばに巣食う悲劇から、目を逸らしながら。

「優衣ちゃん……ごめん。」

「え」

 真司は、封印のカードを破り捨てた。真二つに分かれたカードはポトリと地面に落ちると、光の粒子となって消えていった。

「何してるの……真司くんだって、気付いてるでしょ!? あの龍が、もうすぐそこまで迫ってるんだよ! そのカードが無いと、食べられちゃうんだよ!?」

「優衣ちゃん。俺、嫌なんだ。すぐそばで悲しんでる人がいて。俺には助ける術があって。でも何もしないなんて……俺には、出来ない。」

 優衣の目を、じっと見据える。真司にはこれしかなかった。既に、覚悟は決まっていた。

「……もう、あなたが助かる道はこれしかない。」

 優衣は、デッキから事前に抜き取っていたであろう一枚のカードを、真司に手渡した。

「それは、契約のカードよ。……真司くん、あの龍と契約して。」

 ゆっくりと頷き、鏡の前で契約のカードをかざす。すると真司は再び光に包まれ、そして——

〜午後五時五分・ミラーワールド"ショッピングモール屋上"〜

<GUARD VENT>

 ダークバイザーにカードをセットしたナイトに、攻撃を防ぐ防壁となるマント『ウイングウォール』が装備された。しかし、間髪入れずに発射される無数のトゲがその表面に食い込んでいく。防戦一方となったナイトが敗北するのは、もはや時間の問題だった。

(……なら!)

 意を決してマントを脱ぎ捨て横に飛び退いたナイトを、D・リボーンの蜘蛛糸が捕らえた。完全に意表をつかれた形で、その場に倒れ込むナイト。

(誘い込まれた……!!)

 再び怪物の口腔から、複数のトゲが一気に発射される。もはやナイトに、それを防ぐ手立ては残されていなかった。

(終われない……こんなところで……!!)

「俺が助ける!!」

 ナイトの窮地に割って入った一人の戦士が、拳と蹴りだけでそれらを全て叩き落とした。それは赤いアンダースーツと銀の鎧を身に纏った龍の戦士、『仮面ライダー龍騎』であった。

「お前、まさか……」

「悪いな、アンタの忠告無視して。でも俺、決めたから。誰かを守る為に……その為に、俺は戦い続ける。」

「……。」

「っしゃあ! ケリをつけるぜ!!」

 左腕に備えた龍の頭部を象った手甲型召喚機『ドラグバイザー』を開き、剥き出されたスロットにカードをセットする。

<SWORD VENT>

 そうすることで、龍騎はドラグレッダーの尾を模した剣『ドラグセイバー』を装備した。そしてそのまま一気に跳びあがり、D・リボーンの胴体を斬りつける。

「あいつ……本当にあのバカか?」

 その動きには一切の迷いがなく、また初めてとは思えないほど機敏で的確であった。それは彼の誰かを守りたいという強い想いが成した業であり、ナイトはそこに確かな"センス"を感じた。

(城戸真司……仮面ライダー龍騎。ヤツは)

「これで終わりだ!」

 龍騎は、ドラグバイザーに再びカードをセットした。

<FINAL VENT>

 大きく構える龍騎の周りを、契約モンスターであるドラグレッダーが炎を纏いながら旋回する。それは巨大な渦となり、龍騎はその渦と共に空中に大きく跳んだ。

「はあぁあ……!」

 空中で、渦に巻かれながら蹴りの姿勢を確立する。そして次の瞬間、その渦によって力強く前に押し出された龍騎の飛び蹴りが敵の巨体に直撃した。

「グオォオオ……」

 致死の衝撃により吹き飛ばされ、炎に呑まれながら砕け散っていく蜘蛛の怪物。こうしてディスパイダーは、今度こそ完全に倒れたのだった。

「ふぃ〜……と、いうわけで。これから宜しくな、蓮。」

 ヨロヨロと立ち上がったナイトの前に立ち、握手を求めて右手を差し出す龍騎。しかしナイトはそれには応じず、静かに呟いた。

「城戸真司……仮面ライダー龍騎。お前は」

「ん?」

「お前は、危険だ。」

 龍騎の鎧を、ナイトのウイングランサーが削いだ。その力強い剣撃により、思わず片膝をつく龍騎。

「ぐあぁ……ぉ、おい! いきなり何すんだよ!」

「お前は何も分かっていない。ライダーが背負う、真の戦いの宿命を!!」

「ちょ、待てって!!」

 振るわれた二撃目の一太刀を、龍騎はドラグセイバーの刀身で防いだ。しかし、ナイトは止まらない。

「甘い!」

 ドラグセイバーをウイングランサーの刀身で巻き取るようにして空中に弾き飛ばすと、そのまま無防備になった龍騎の胴に刃を振り下ろす。二撃、三撃。次々と繰り出されるナイトの容赦ない猛攻に、龍騎は満身創痍で遂にその場にへたり込んだ。

「なんでだよ……アンタ。ちょっと、信じてたのによ……。」

「……俺は、ライダーだ。お前も。だから、俺はお前を倒さなければならない。」

「なんだよ……それ……。」

「ウオォォ!!」

 龍騎の首めがけて、振り下ろされる刃。だがそれは、彼の首筋を断ち切る直前で止められた。ナイトのウイングランサーを、"別の"ウイングランサーが受け止めていたのだ。

<COPY VENT>

「……! 何故、お前が?」

 もう一本のウイングランサーを携えたその戦士は、(えい)を象った紅い鎧を身に纏っていた。

「優衣ちゃんに呼ばれてな。ここまでだ、蓮。」

 その日真司は、二人の戦友と出逢った。

——次回、『第三話:生じた疑念』——

〜続〜

仮面ライダー龍騎 〜第二話〜

仮面ライダー龍騎 〜第二話〜

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-20

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work