意識の果てに、私は消えた
「死後は無になる」
そう思っている人に、読んでほしいです。
死は終わりでは無い
目が覚めると、いつもどおり天井が見える。
一定のリズムで鳴り続ける音。自分の意思では動かせない体。
今日もまた、知らない誰かが部屋に入ってくる。
そのすべてが、もう終わるのだと告げていた。
自分の体のことは自分が一番よくわかる
その言葉を、初めて実感した。
それからほどなくして、私は尽きた。
―――
目を覚ます。
いや、覚めるというのは正しくないのかもしれない。
何も見えない。ただ、意識だけがある。
私は暗闇の中にいた。
体は動かない。
疲れない。
腹も減らない。
どれだけ時が経ったのかもわからないまま、私は思う。
天国や地獄等なく。ここが、死後の世界なのだと。
時間だけは、無限にあった。
病室に来ていた人の顔や声を、何度もなぞる。
あの若い人は、娘だったのか。孫だったのか。
それとも、本当に知らない誰かだったのか。
思い出せない。
そもそも、それが本当の記憶だったのかも曖昧だ。
それでも私は、過去にすがるしかなかった。
どれほどそうしていただろう。
一ヶ月か、それ以上か。
こんな場所でこれだけ正気を保てているのは、奇跡なのかもしれない。
生前の私は、案外強かったのか――そんなことも考えた。
だが、それも長くは続かなかった。
精神が、軋み始める。
一度死んでいるのに、もう一度壊れていく。
それが、どういうことなのか。
やがて私は悟る。
ここは無ではない。
ここは、間違いなく地獄だ。
過去自分は何をしたのかと呪う。
理由のない罰に、意味を探し続ける。
そして、崩れていく。
思考が削れ、記憶が剥がれ、形がなくなっていく。
最後に理解した。
――これは、終わりではない。
認知症とは、魂を削る過程なのだ。
すべてを消し、新しくするための。
ここは、その最後の場所。
完全に空になるための場所。
やがて、自我は消えた。
何も残らない。
空虚の、ただの器。
―――
小さな泣き声が、どこかで響いた。
世界に、またひとつ命が生まれる。
その命は、まだ何も持っていない。
これから、埋めていくために。
意識の果てに、私は消えた
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この作品では「死の後に何があるのか」を、自分なりに想像して書きました。
死に付いて考えるきっかけになれば嬉しいです。