反乱ーその2日目

●メッセージ 二日目

日本政府は関係国からの対応に追われた。
あの奇怪なメッセージの被害で、証券トレードや貿易など日本の経済は、ほぼストップの状態だった。
民間企業や行政の地方自治体への伝達は旧来の通信方法であるファックスや電報・電話網で関係に連絡することでしのいでいたが、
膨大な情報と枚数に回線はパンク寸前であった。海外では日本を除いてあのメッセージ被害に遭っている国はなさそうであった。
国内での被害は徐々に広がりを見せ、鉄道や航空路、高速道路などのライフラインにも及んでいた。

日本は百何十年ぶりに外国と鎖国状態に陥った。

「本部長、ご報告申し上げます」
「お!なにか手がかりが出たか」
「はい、対策チームがあのメッセージが出る前の種々のデータ解析を進めた結果、
 いくつかの手がかりが出ました」
「そうか、で、その手がかりとはなんだ?」
「はい、東京湾岸地域にある企業の倉庫からの発信を突き止めました。
 これが今のところ一番有力な発信ポイントです」
「ある企業?倉庫から?それはなんだ、テロ国家や非合法グループの隠れ蓑か?」
「いいえ、こちらでもこの企業の創業者、株主、役員の家族関係・取引背景や
 政治的グループ、輸出関連のテロ国家との接触等、詳細に調査しましたが、
 そうしたテロや非合法グループとの関係・関連は大丈夫かと思われます。
 この企業は電気製品販売等の、流通業者で国内では廃棄処分となったテレビや
 電気製品をアジア地域に輸送するための一括拠点、ストック用の倉庫であります」
「廃棄処分用?そこが今回のトラブルを仕掛けた奴らがいるアジトなのか?」
「わかりません、いま捜査員を派遣しました、いましばらく
 お待ちいただければ、何らかの報告が参ると思います」
「よし、そこまでは了解した、とにかく急いでくれ、一刻を争う」
「はっ!今しばらくのお時間を」
担当係長は一礼をして本部長室を辞した、
足早に対策室に戻り、捜査のために向かった刑事の携帯電話に係長は連絡をとった

東京湾岸地域の倉庫街が並ぶ区域、普段でも人の気配はないが、
あの事件が起こって以来搬入用の車やトラックの姿すら見なくなり、さながらゴーストタウンの有様だった。
ときおり吹き抜ける風の中を、黒塗りの一台の車が倉庫街の長い道路に姿を見せた。
居並ぶ倉庫の横壁には一棟一棟に倉庫ナンバーが書いてある、
現れた車は倉庫ナンバーのAゲート、515の前でゆっくりと停車した。

「おい、ここだなA−515。」
「確かに、住所はここだ、こんな所に今回の騒動のアジトがあるのか?」
「わからん、とにかく俺達はこの中に犯行グループがいるのか、
 中継の機械だけなのかを、確認するだけだ」

言い終わらないうちに、捜査官の一人の携帯が鳴った。

「お、本部からだ、・・・あ、はい、いまから状況を確認するところです。」
『係長だ、先ほど本部長には報告した、持ち主の方には連絡してある。
 もう少ししたら、管理している業者がそちらに向かう、そいつに状況聞いてくれ』
「あ、はい。わかりました。この倉庫の管理人ですね。承知しました。」
『今日は、あまり突っ込んだ捜査は避けてくれ、とにかく人がいるのか、何人くらいか
 それくらいで帰ってきてくれ善後策は、それからにする。よろしく』
「はい、承知しました。・・おい、誰か来ているか?」

捜査官は携帯をポケットにしまい込んで、もう一人の若い捜査官に聞いた。

「管理業者が来るんですか、あそこにそれらしいジャンパー着た男が立っていますね」
「係長からの電話では、この倉庫の管理人がこちらに来てくれるそうだ」
「ちょっと確かめてきます。ここで待っていて下さい」
若い捜査官は、そう言って車外に出た。
倉庫の前に居た男に声をかけると、双方共に何度か会釈をして、
その場に管理人を残したまま、またこちらに戻ってきた。

「あの人は、倉庫管理会社の担当みたいです、我々が中に入れるように
 会社から鍵を預かっているそうです、行きましょう。」
「すいません、ご足労いただいて、この倉庫の扉こちらですね」
「あ、ご苦労様です、すぐに開けますが、ここに誰かが居るんですか?」
「まだ分かりません、可能性を当たっているだけです、ご迷惑はかけません」
「じゃ、すぐに開けます」

そう言って管理人は束になっている鍵の幾つかを扉の型番と照合していた。
通用口の鍵穴にキーを差し込もうとしたその時だった
バチッ!
突然、管理人は高圧電流に触れたように弾かれた。

「おい、大丈夫か?」捜査官はすぐに管理人に駆け寄った。
「な、なんなんでしょ、ドアノブに電流なんて流していないのに」

管理人は、何度もしびれた指をさすって、不意を食らって青くなっていた。

「おい、間違いないな、これはアジトの可能性があるぞ」
「ドアに電流を仕掛けるなんて、他人の侵入を阻止していますね」
「管理人さん、他に入り口がどこかにあるかね?」
「あぁ、そ、そうですね、・・・えっと・・。
 こういう建物なので、入り口のシャッターとあの高いところに
 窓があるくらいなんですよ」
「あ、あれか・・。おそらくシャッターにも同じ仕掛けしているだろうから、
 犯人が何人いるのか、我々としては、中の様子が分かればいい」

捜査官は、目的の倉庫周辺を見渡しながら言った。

「管理人さん、中の様子が分かるような所は、この辺にないのかね」
「それが・・、隣の背の低い倉庫の屋根に昇るくらいしか手がないんですが・・・」
「そうか、じゃ、そこを昇ろう、おいデジカメとオペラグラスを用意しろ」
「わかりました、車に積んでますので、取ってきます」

若い方の捜査官は、急いで車に戻りトランクから道具を取り出して戻ってきた。
二人の捜査官と管理人は、隣接している倉庫の屋根に登り、中の様子を注視した。

「何か分かるか?」
「中には誰もいませんね、色んなコンピューターが積まれているだけですね」

若い捜査官は、覗いていたオペラグラスを外して、落胆したように言った。

「管理人さん、ちょっと覗いてもらって、変わった様子がないか確認してもらえるかね」

捜査官は管理人にオペラグラスを手渡した、

「あれ?おかしいな」管理人はつぶやいた。
「どうした、なにか変わったところがあるのか?」
「ええ、廃棄用のコンピューターが、・・・あんな風に・・・」
「コンピューターがどうしたんだ?」
「積み方があんな風に、ピラミッド状にはなってなかったんですが・・」
「コンピューターがピラミッド状?誰かがそんな風に積んだのか?」
「そ、それに、接続ケーブルで動いてますね、・・・、モニターも何か映している」
「なるほど、やはり犯人は、ここを拠点としてハッキングしていたんだ・
 ほかに人のいる気配はないか?モニター監視しているとか、作動させているとか?」
「う〜ん、いないですね。それよりも、殆どのコンピュータが動いている。
 ここに来るのは殆どハードディスク内は消去されて、OSは入れてないんですがね。」
「あの倉庫のコンピュータちゅうのは、中古なんだろう」
「そうですね、ほぼ五年から十五年くらいまでの、古いタイプばかりです。
 しかし誰がOSを入れ直したんだろう。膨大な数のコンピュータなのに・・・」
「おい、デジカメで倉庫内の証拠、残しとけよ」
「わかっています、ズームでコンピュータ画面と倉庫内部の様子も撮っておきます」

若い捜査官は、バシャバシャと、何枚もの写真を撮り始めた。
一通りの状況確認が終了したので、捜査官は報告のために携帯を開いた。

「係長、報告をいたします、この倉庫は、ほぼアジトに間違いないと思われます」
『そうか、で、犯人は単独か?複数か?』
「それがですね、現在ここには犯人らしき人間は居ない模様で、廃棄用の中古コンピュータを複数台作動させて、
一連の不正アクセスを行ったようです。
倉庫内は人の侵入を拒む形で、電流を入り口に設けていたり、膨大な作業を行った
形跡から、犯行は複数人かと思われます、一旦、本部に引き上げましょうか?」
『そうだな、事は一刻を争うので、そちらにコンピュータに詳しい人間と捜査員を送って
 本部長に報告に足る調査をすすめよう、人選をしてすぐに送り込む』
「はい、了解しました。ではこちらでお待ちしています」

同じ頃、対策本部プロジェクトチームの解析はトラブル発生以来、延々と続いていた。
「何か、似ているなぁ・・・」

悪戦苦闘しているケンジの横で、同じチームのキョウコが、ポツリとつぶやいた。
プリントアウトしたコード表を眺めているケンジは、あえて無視していた。
答えのでないもどかしさと、迷路のような難題に、疲れがにじんでいた。

「ケンジさん。このカタカナ文字、私の私物に似ているのがあるんですけど」
「え?・・そうなんですか、そんなことよりコーヒー飲みません?」
「ちょっと待っててください、いいモノ見せますからから」
キョウコは自分のラテラルの引き出しを開け、ファイルを捜し始めた。

「実は、コレ叔父さんが発表した本の一部なんですけど、この象形文字とこのカタカナ
 なんか、似ていません?」

タイトルは?ヒエログリフ・ヒエラティック?と書かれていた。

ヒエログリフ・ヒエラティックとは紀元前3200年程前の象形文字で、
ヒエログリフ(楷書体と言われている)という1字1字が、絵文字であり、自然や人間世界の万象をかたどっている。
エジプトなどに多く出土する石や木に刻まれたこの文字は、古代文明の一つであるメソポタミア文明から広がったと考えられている。

このメソポタミア地方には人類最古の文字のひとつ、楔形文書と言われる言語形態があった。
エジプトの象形文字とならぶ人類最古の文字である楔形文字は、紀元前3200年ころに、
メソポタミア文明を築いたシュメール人が考案した絵文字に端を発する。シュメル絵文字は、
葦の茎を粘土板に押しつけてできる縦、横、斜めの三種類の楔形状の線を組み合わせた文字に発達し、
紀元前2000年頃にシュメール人の文明や人・国家が突如として地上から姿を消した後も、古代オリエントでも広く用いられたそうである。

ケンジは差し出された本の図版に見やった、確かに似ていなくもない。
キョウコは大学卒業後、何年か叔父のところで研究の手伝いをしていた。
その後、このサイバーポリス室に希望して採用されたそうだが、IT関係はからきしだった。
キョウコが見せた、その図版とこのメッセージの同一性の意味はとれなかった。

「私の叔父さんの見解とか聞いてみたら、何か手がかりがありませんかね?」
「だけど、空振りの可能性もあるし、こちらの方は一分でも早く復旧させないと
 だめだからなぁ・・・。」
「じゃぁ、こちらに来ていただきましょうか、それがいいかも。「

みんなを助けたいという気持ちは有り難かったが、この形象文字が今回の問題とどう関わり合うのか、
ソコが解けないと文意を解いても、システムが動かなければ無意味になる。
しかし、キョウコはそそくさと、叔父に電話しているようだった。

「あの事件は人に聞いて知ってるそうです、チカラになるのなら
 すぐにお邪魔するって言ってますが、いかがしましょう?」
「じゃ、来て貰おうか、早いほうがいいなぁ」
「わかりました、それではクルマでこちらに来て貰います」

キョウコは、すぐに連絡をとり、1時間後にこちらに来る運びとなった。
わたしは、あまり気乗りしなかったが、この作業に少し煮詰まっていたこともあり
息抜きのつもりで、その叔父さんとやらを待つ事とした。

叔父と呼ばれる古代文字の言語学者は、ほぼ1時間で到着した、受付から電話でケンジは待ち合わせのロビーに向かった。
キョウコの叔父は、大柄だが、いかにも学者風で、度の強い眼鏡をかけていた。
キョウコとともに我々が作業している部屋の面会室の一角で話す事にした。

「すいません、わざわざお越し頂いて」
「どうも叔父の岸本です。世の中はなんだか、あの事件のおかげで停止状態だし、
 私の大学もしばらくは授業は無理だから、運動がてらに・・」名刺を出して挨拶した
「さっそくですが、これなんですよ」ケンジは名刺を受け取りながら切り出した
「ほう・・・。」岸本は注意深くそれを眺めた

ケンジが見せたプリントは、カタカナでメッセージが書かれているだけだっったが、
叔父は世間を停止させている元凶にメガネを外し、顔を押しつけて、まじまじと見た。

「ふ〜む、アンタの言ってたような、感じじゃないね」岸本はキョウコに言った
「えぇ、そうなの・・・じゃ、無駄足になった?」キョウコが言った
「やっぱりな、オレが分からんモノを、キョウコさんじゃ無理だよ」

キョウコはバツ悪そうに、口をとがらせ、ケンジはたしなめるように、言い放った。
そんな会話の中を岸本は、しばらくはじっと見つめたままだったが、やおらケンジに向かって、言った。

「これは、カタカナを装っているが、楔形文書じゃなくて、古代言語みたいだな・・」
「え!これってどこかの言語ですか?」
「確かに、楔形文書と言えないこともないが、それでは絵としての数が少なすぎる。
 文字をこうやってバラバラに分解して区切ると、ほら、一つ一つが文字なんだよ」

岸本は指で一つの文字の右と左をを隠して。ケンジに見せた。

「メッセージは簡潔だが、キカレヨとか一連の文意は所謂、日本の古文体でもないな。」
「じゃ、なんなんですか?」
「わからん、しかし・・・このメッセージが、漢字表示ではなく、
 わざわざ全てカタカナというのが引っかかるなぁ、日本の古文体としても
 イツノカって意味通らないしなぁ、文節の区切りが違うのかな・・?」

岸本は空中を見つめて、ココロここにあらずな感じだった。
何かを考えている様子ではあるが、自分には手に余る感じだった。

「あ、叔父さん。コーヒーでも入れますよ。」キョウコが割って入った
「あ、いや、おかまいなく。しかし、コレは難問だね」
「そうなんですよ、メッセージの意味が解けても、システムがダウンしてますから
 復旧に繋がる謎解きにならないと、私の仕事にならないんですよ」
「なるほど、この表示のおかげで、すべてのネットワークがダウンしているんだ」
「こうしている間にもどんどんネットワーク上で被害が広がって、
 もう、我々の手には負える範囲じゃないですよ。」ケンジは嘆息した

キョウコは運んできたコーヒーをテーブルの上に四つ置いた。
ケンジと同じ作業をしているサイバーポリス室の責任者ユウイチにも声をかけ、小さなテーブルで四人はコーヒータイムにする事にした。
ユウイチはローカルファイルの検索結果をケンジに見せながら、嘆息していった。

「これさ、2ちゃん語や新手のウェブワードでもない、なんだろう?新しい短縮語かな?」
同僚は出力したウェブで流行している言葉の一覧を見せながら言った
「それは、なんだね」岸本は指さした
「え・・。これですか、今回の類似ワードをローカルサーバーに保存してあるデータ
 検索して出力したものなんですけど」
「いろいろあるね、そこのサインのような、絵文字はなんだね?」
「え、こ、これは・・アスキーアートという、いわばお遊びみたいなもんです」
「こういうのは、ネットで沢山やりとりされているのかね」
「やりとりって言うか、・・・こちらは2ちゃんねるとか、
 ミクシィとかニコ動やネットはあまり見ないんですか?」ユウイチは岸本に言った。
「なんだね、ミクとかちゃんねるというのは?」岸本は尋ねた
「まぁ、昔で言う情報掲示板や不特定のコミニュケーションの意見交換サイトだったり、
 閉鎖系のお遊びで参加型コミニュケーションのサービスサイトだったりなんですけど」
ケンジは補足したが、岸本が尋ねた意図とは少し違っていたようだ
「ネット上では、こういう事、意味が分かって、交換しているのかね?」
「意味?意味って・・ホントにお遊びですよ、コレは・・」
「なるほど・・まぁ、お遊びでも、これが何らかの文意を含んでいるとしたら、どうする?」
「え、この絵文字が何か、意味があるんですか?」ユウイチは少し驚いた
「さっきのカタカナは、意味は取れんが、この絵文字は、これこそメッセージだよ」
「え、これが?誰に?どういう意味を持っているんですか?」ケンジはびっくりした
「例えば、これだ。このセリフが書いてある横の人間のイラストみたいな部分を
 細かに分けて見ると、かつてメソポタミア文明を築いたシュメール人が考案した
 シュメール絵文字に似ている、バリエーションというか、発展系のようだ」
「何て書いているんですか?」
「辞書がないと、詳しくは言えないが、類語を拾うと、神を冒涜する言葉の羅列だな」
「か、神を冒涜?・・・これが?アスキーアートが・・?」ユウイチは呆れた様子だった
「全部ではないが、これは、そうだ。それと、このパーツは呪っているな」
「た、多分ですね、作者や発信者はそんな意図はなかったと思いますが」ケンジは慌てた
「ネットではお遊びだろうが、それを解する人が見て、不快感があれば・・
 例えば、ある特定の宗教圏の信仰対象を悪戯書きとはいえど、愚弄する言葉や絵が、
 羅列されているサイトに遭遇したら、その宗教圏の人達は恐らく抗議、もしくは実力阻
 止するだろう。つまり、意図しなくても、お遊びでは済まなくなる・・。」

岸本は何枚かを指摘していた、ケンジは岸本の指摘にうなずいては見せたが、小言のような意見には首肯しかねていた。

ーーーネットで交わされる言葉に意味など求める方が、無意味だし、
   それにそうした匿名の意見に憤慨・抗議のあまりテロ行為する人など、
   いるのだろうか。

ケンジはそう思った、その空気を察したのか、岸本は、熱弁をやめて我に返った

「すまんすまん、このアスキーなんとかは、今回の件と関係ないのに
 講釈をたれてしまった。悪いな、仕事の邪魔をして・・」

岸本は脱線を詫びた、ユウイチはコーヒーをたいらげて、また元の解析に戻った。
彼は部屋の空気を察して、何枚かのサンプルの出力紙を手に持って、別の言語解析を試みると言った、
何かの手がかりがあった時のために、携帯番号を交換してケンジ達の部屋を退室した。
キョウコはしばらく岸本と出口近くで談笑していたが、やがて机に戻った。

時間の無駄になった不満を抱えながら、気分をリセットして再度の作業にかかろうとしていたケンジのテーブルの電話が鳴った、
それは係長からの呼び出しだった

捜査官は、携帯を閉じて二人を車に促し、車内で応援部隊を待つことにした。
ほどなく、車二台に分乗した捜査官達が到着した、コンピュータに知識を持った人間は
ケンジが選抜されていた。挨拶もそこそこに、現場の捜査官はケンジに切り出した。

「ご苦労さまです、さっそくですが、
 あの屋根からの写真ですが、こちらに、こういう感じなんです」

ケンジはデジカメで撮られた数枚の写真をカメラの確認用液晶画面に見入った。
何枚かにズームを施しチェックしたり、次々に写真を送ったりして確認した。

「これではよく分かりませんが、明らかにデータのやりとりをしていると思います
 中には入れないのですか?」
「電流が仕掛けられて、駄目なんですよ、何か方法がありますかね?」
「中に入ってよく見ないと、これだけでは何とも・・・、電気の送電を遮断するとか、
 ブレーカーを落とすとか、あのシャッターは破れないですか」

捜査官はチラと、管理人を見た。

「ブレーカーは中です、送電メータは入り口上にありますが、電力会社の人でないと
 駄目なんですが、緊急ですから、やってみましょう」

管理人はそそくさと、作業を始めた。送電ケーブルを切断して捜査員を入り口に促した。

「コレで大丈夫だと思います。これがキーです」そういって一人の捜査官に渡した。
捜査官がノブにキーを差し込んだ瞬間、
バチッ!
捜査官は油断していた為に一メートルは弾かれた。

「えっ!なんで?電気は切ったのに。もう通電していないはずですよっ」

管理人は叫んだ、ケンジは周りを見渡したが、それらしい電気ケーブルは他には無かった。
弾かれた捜査官もようやく、平静になり感電した手をさすって、横に振った。

「これ以上の侵入は、無理なんですかね?」若い捜査官は言った。
「用意周到って訳だ、テロ集団並みのかなりのグループだな、これは。」
「どこから電気を引っ張っているんでしょう?」ケンジはなおも、他所を見渡した。
「あとはシャッターをフォークリフトかなんかで、破るだけだな」
捜査官は苦々しく冗談めかして言い放った
「これ以上は、会社と交渉してもらえますか?私ではこれ以上は・・・」
破壊するには別の許可も要るために結局、隣の倉庫から中を見ることでケンジと若い捜査官が隣の倉庫の屋根上に昇った。
手渡されたオペラグラスを目に当ててケンジは、中の様子を注視した。
「外部からのオペレーションではないですね、何か計算しています。しかもコンピュータ
 は相互にデータをやりとりしていますが、ひょっとして・・これは」
「なんですか?」若い捜査官は、次の言葉を待った。
「クラスタリングシステムを実行していると思います」
「へ?クラス・・なんとかって何ですか?」
「まぁ、要するに一つの膨大な目標計算をそれぞれ複数台のコンピュータに
 並列・分散計算させる事で効率化と省時間化をはかるシステム構成です」
「何の意味があるの?それは・・・」捜査官は理解できなかった。
「ここにある時代遅れとなったコンピュータを使用して、スーパーコンピュータ並みの実
 績をあげることができるんですよ。ただし、処理能力が異なるために
 トンでもない数が必要となりますがね」
「へぇ、そりゃ凄いね、じゃ、廃棄物の有効利用だ」
「でも、だれがそんなネットワークを仕掛けたんだろう・・・、それにモニターの文字、
 英文じゃないな・・」ケンジはつぶやいた。

一連のサイバーテロに近い行為は、その実害もひどいが、理解不能のメッセージも不気味だった。もし分散コンピュータで仕掛けられたプログラムが止まることなく、このまま更に大きな被害をもたらすとしたら、日本は経済分野だけでなく、医療分野や鉄道・飛行機・道路などコンピュータに依存している保安システムに壊滅的な被害を受ける。ひょっとすると、これを機会に戦争を仕掛けてくる国だってあるだろう。ケンジはこの一連の背後に、空恐ろしい物を感じた。

「ここに出入りしている人って、分かるんですかね?」ケンジは捜査官に質問した。
「管理会社に聞けば分かると思うが、監視用モニターの録画があると思うよ」
「こんな大がかりな物をプログラムビルドするには、相当の日数が、かかると思います、
 この倉庫に入れる人に絞れば、犯人は分かると思うんですが・・・」
「なるほど、電流を流せるようにしたり、念が入っているからね。よし!とにかく下に降
 りて本部に連絡しよう」捜査官はヒントをもらったせいか、少し軽やかだった。

二人はさっそく上での監視報告を済ますと、録画ビデオのダビング依頼を管理人にした、
捜査チームは倉庫張り込みの人間を一部残して、警察の科学チームを要請して、ひとまず本部に戻ることとなった。
ケンジは近くに止めてあった車に乗り込もうとした、一瞬空で何かが白く光った気がした。こんな時期に稲妻が、ケンジはそう思った。

「なるほど、そう言う話なら、そうとう大がかりな犯罪チームだな」係長は言った。
「とりあえず、倉庫のシャッターなど建造物破壊許可を申請して、一気に踏み込みましょ
 う。あのコンピュータの山を破壊すれば、事件も解決です。物損だけ保証すれば管理会
 社も納得するでしょう。それにどうせ国内では廃棄物なんですから」

現場に向かった捜査官は、係長にまくし立てた。そこに現場に派遣された科学チームから係長宛に電話が入った。

「あ、わたしだ。・・うん、・・、なに?そんなことになっているのか。分かった、
 じゃ、引き続き現場で捜査してくれ」
「なんですか、犯人でも出くわしましたか?」
「いや、そんな事ではなく、電気供給されないのに、電源が確保されている理由が分かっ
 たそうだ」
ケンジはその言葉に反応していた。
「あの倉庫のコンピュータ全体に、電気が無線送電されているそうだ」
「なんですか?それは」先ほどの剣幕の捜査官が係長に聞いた。
「なるほど、無線送電なら理解できる。でも、そうなると、あの近くの倉庫に送電する為
 のシステムが別にあるということですね。」別の捜査官は言った
傍らでケンジが軽くうなずいた、ケンジが心配したとおりになった。
「とにかく、早い内に叩きましょう」
「そうだな、本部長に一連の報告をして、大事にならないうちに許可をもらおう」
「そうこなくちゃ、よし踏み込みの準備だ。」

何人かの捜査官は、防弾チョッキや実弾の用意を始めた。ケンジは相変わらず、イヤな予感がしていた。
あまりにも大がかりなのに、人の存在が見えなかったのが不審だった。

???これは、ひょっとする自分が予想するよりも、もっと裾野が広い、あの倉庫はそれ
   らのほんの一部じゃないだろうか・・・

反乱ーその2日目

反乱ーその2日目

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-05-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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