不在への恋慕
あなたはそこから去ってしまったのだが
どういうわけかわたしにはあなたが見える
あなたの輪郭をこの目に描き出せる
あなたの残り香を幾度も反芻している
それはまだ完成されていない不在だった
言うなれば不在の嬰児だった
あなたが立ち去ったとき、あなたの不在は
産声をあげたのだ。「わたしは去った」と。
いまは容易く反芻できるこの残り香も
次第にその特徴を思い出せなくなるのだろう
あなたを象る実線はやがて点線に変化し
点滅したのちに 呆気なく消滅するだろう
「不在」が死ぬとは あなたを忘れること。
あなたがわたしという歴史から消えること。
いたはずの人を探し求めひたすら恋慕すること
これが非情な劫罰でなくてなんであろうか。
不在への恋慕