不在への恋慕

あなたはそこから去ってしまったのだが
どういうわけかわたしにはあなたが見える
あなたの輪郭をこの目に描き出せる
あなたの残り香を幾度も反芻(はんすう)している

それはまだ完成されていない不在だった
言うなれば不在の嬰児(えいじ)だった
あなたが立ち去ったとき、あなたの不在は
産声をあげたのだ。「わたしは去った」と。

いまは容易(たやす)く反芻できるこの残り香も
次第にその特徴を思い出せなくなるのだろう
あなたを(かたど)る実線はやがて点線に変化し
点滅したのちに 呆気(あっけ)なく消滅するだろう

「不在」が死ぬとは あなたを忘れること。
あなたがわたしという歴史から消えること。
いたはずの人を探し求めひたすら恋慕(れんぼ)すること
これが非情な劫罰(ごうばつ)でなくてなんであろうか。

不在への恋慕

不在への恋慕

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-12

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