風 Vento


冬の日の午後、おだやかな日ざしとはうらはらに、とても強い風が吹く。
ぼくは一歩ずつ足を踏んばるようにして、取引先の会社にむかう。
きっとまた、たくさんの不満を言われるんだろう。仕事だから、嫌でも行かなくちゃいけない。
ため息をついたとたん、砂粒が目に入る。レジ袋まで飛んでくる。
目をこすってふたたび開ける。すると、空中をいろいろなものが飛びゆくところ。――

天使の片翼、
星の抜け殻、
捨てられた音楽たち……

おや、と目をみはる。海の音といっしょに飛んできたものに、見おぼえがある。

――あれはぼくが昔あきらめて捨てた夢じゃなかろうか。

あわてて手を伸ばしかけたけれど、間にあわない。もうとっくに飛び去ってしまった。

――行かなくちゃ。

そう思って歩きだしたけれど、足がむかっているのは取引先の方角なのか、夢の去った方角なのか。
自分でもよくわからない。


(おしまい)

風 Vento

風 Vento

日常の奇譚。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-04-12

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