風 Vento
冬の日の午後、おだやかな日ざしとはうらはらに、とても強い風が吹く。
ぼくは一歩ずつ足を踏んばるようにして、取引先の会社にむかう。
きっとまた、たくさんの不満を言われるんだろう。仕事だから、嫌でも行かなくちゃいけない。
ため息をついたとたん、砂粒が目に入る。レジ袋まで飛んでくる。
目をこすってふたたび開ける。すると、空中をいろいろなものが飛びゆくところ。――
天使の片翼、
星の抜け殻、
捨てられた音楽たち……
おや、と目をみはる。海の音といっしょに飛んできたものに、見おぼえがある。
――あれはぼくが昔あきらめて捨てた夢じゃなかろうか。
あわてて手を伸ばしかけたけれど、間にあわない。もうとっくに飛び去ってしまった。
――行かなくちゃ。
そう思って歩きだしたけれど、足がむかっているのは取引先の方角なのか、夢の去った方角なのか。
自分でもよくわからない。
(おしまい)
風 Vento