映画『the MAIDEN』レビュー
実質的な二部構成の作品。①カイルとコルトンの二人の友情が軸となる前半、②大勢の人の中にいるのが苦手なホイットニーの孤独な心情の行方を追う後半はそれぞれに明暗を分ける物語のようでいて、緊密に繋がるストーリーとなっています。
思春期を迎える年代ならではの感覚で捉えられる世界は16ミリフィルムという機材の質感と監督自身の鋭いセンスによって狭くかつ詳細に映し取られ、解明できない謎に満ち溢れる冒険を約束します。事実をただの事実として切り取らない非常に豊かなその映像表現は真に「詩的」と評するに値するクオリティ。ああ、まさに青春映画だなぁと浸っているとやがて訪れる悲劇がコルトンを徹底的に痛めつけ、カイルの全てを解き放ち、やがてホイットニーの運命を決定していきます。
自然と都市、どちらの風景も自由に行き来できていた時間が終わり、どちらか一方に身を置いても酷く落ち着かなくなってしまう三人の姿は孤独な魂という共通点で固く結ばれてしまい、ついには解けなくなってしまう。その状態でカイルとホイットニーが交わす純度の高い言葉は、涙を流せるコルトンの様子を目にした後では絶望の現れにしか見えず、逆にコルトンの苦しみを知れば知るほど、カイルとホイットニーの「今」が救われたように見えてしまう。分たれてしまった道は彼らの明暗をこそ左右します。一度鳴らされた音楽が鳴らなかったことにはならないように、彼らの無垢な心は、その現実と向き合い続けるしかありませんでした。
スクリーンに映し出す全てのものが嘘にも本当にもなる映画の真髄は、それこそガルシア・マルケスを代表とするマジックリアリズムとの相性がもともと抜群だったとはいえ、ここまでの高みに至れるのか!と驚嘆するぐらい本作『the MAIDEN』にかけられた映画の魔法は重厚で完璧。何気ない風景にもたっぷりと染み込んだ感情、ただ歩いているだけなのに、世界との間で繰り広げられる死闘の限りは確かなビジョンで意志を貫き、目の前のカットにどれだけの可能性が眠っているのか、その見極めを適切に行わないと果たせなかった仕事でしょう。映画は編集する時に完成するのではなく、編集に値する素材を撮り終えた時に完結すると語られたりしますが、映画にできること、その奥行きの果てしなさを本作にて思い知らされました。称賛の限りをここに尽くします。
残念なことに本作は2026年現在でも配信はされておらず、観ようとするならBluーray Discを購入するしかありませんが、値段に見合う以上の価値があるとここに断言します。興味がある方は是非。実に映画らしい映画をお勧めします。
映画『the MAIDEN』レビュー