淡い根性論なんて

職員Mさん主催:ワンライ企画お題「ど根性」より

「相澤くんってさ、根性があればなんでもできるとか思っちゃうタイプ?」

 まあ、それは多分違うか。大体その言い草って、ただの体育会系の言い訳にしか過ぎないもんな。何を言ったところで、自分たちは非力な文化系なんだし、絶対ここぞという時に根性なんか見せないだろうに。
 続けざまにかけられた言葉の信用のなさに俺は目を細めて、おもむろに視線を移してみる。気力のないダルそうな先輩が品出しを終わらせてレジに戻ってくる。あくびを噛み潰しながら、どことなく目が死んでいた先輩への言葉の切り出し方に戸惑った俺は、どう返すのが正解なのか模索するばかりで視線が泳いだ。
 確かに言いたいことは分かる。根性論は俗に言う体育会系のウェイな輩がよく使う常套句で、いつぞやの格闘家が言った「元気があれば何でもできる」みたいな切り札的効力を持っている。対して自分が先輩に見抜かれているように、根性だけでどうにもならない人生を送ってきた文化系タイプだということも図星と言えば図星なのだ。けれどもっぱら自分は体育会系のノリで根性論を振りかざす大人にはなりたくない。
 結論、どんなことにしたって根性だけでは罷り通らないこともある。たとえばそう、今の勤務時間みたいに究極に暇な時。何もすることがない暇の配分は、根性だけでぐにゃりと曲がって面白おかしく有効な時間になったりすることなんてない。例えば究極暇つぶしの天才になれて心理的に楽しさを見出せたとしても、物理的にその暇な時間が減るわけでもなし。客が来ない間やなにかトラブル対応に追われでもしなければ、日々は可もなく不可もなく平穏に過ぎていくのみだ。

「うーん。わずかばかりの根性はあっても無に帰すタイプですし、ど根性とか言われたらもっと持ち合わせてないかもですね」
「ああ、わかるわかる。そんな感じするわ」

 くくく、と引き笑いを浮かべる先輩を後目に、俺は満更でもない顔でレジにもう一度向き合った。そういう先輩はどうなのだろう。少しだけ思案して、先輩は案外根性見せるとこ多いですよ、なんて言おうと思ったのだけれど、ちょうどその時入口のチャイムが鳴り響き、ひとりの客が入ってきてしまったのでこの考えへの結論については一旦考えるのをやめることとなった。

淡い根性論なんて

淡い根性論なんて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-29

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