zoku勇者 マザー2編・4
ツーソン編・1
「号外号外!号外だよーーっ!!」
早朝、ジャミルがツーソンホテルを出ると、新聞配達の兄ちゃんが
慌しく外を走り回っていた。
「何かあった?」
「詳しい事はこれを是非、君も読んでみて!じゃあね!」
配達兄ちゃんはジャミルに新聞を押し付けると又何処かに
走って行った。折角なのでジャミルも目を通してみる。
号外記事の見出しはこうだ。
ツーソンの人気不思議超能力少女、アイシャちゃん、突然
行方不明に……、何者かによる犯行と誘拐か!?彼女は
今何処に……
「号外記事が出回るぐらい有名人なのかい……、何とか武器を
調達しないとなあ、昨日からこればっかなんだけど……」
ジャミルは図書館で借りた地図でツーソンのショッピング施設を
確認してみる。
「デパートぐらいか、行ってみるかな……」
デパートに足を運び、キャッシュディスペンサーで溜まった分の
全ドルをおろす。
「黙っててもいつの間にか勝手に金が入って来るって便利!」
ドラッグストアで今回はバットではない武器、スリングショットを
買う。ついでにドルの余った分は、全部おやつ代に使ってしまい、
今回おろした分は瞬く間になくなってしまった……。しかし、
そんな事は構わず、ジャミルは空いているベンチに腰を落とすと、
凄い勢いでパン屋ブースで買ったラッキーサンドを貪りはじめた。
ふと、隣を見ると…、横のベンチに腰掛けていた母親と小さな
子供らしき親子がずっと、ジャミルの方を見ていた。
「……あ、半分食う?食い掛けだけど、良かったら……」
子供の視線がずっと自分を見ている為、よほど食べたいのかと
思いきや……、ジャミルはラッキーサンドをおすそ分けしようと
するのだが……。
「……食べているばかりでは真の幸せは掴めませんよ、あなた……」
「は、はあ?」
「さあ、帰りましょう、ぼうや」
「うん、ママ……」
親子連れは去ってゆく、……ジャミルはちんぷんかんぷんだったが、
どうでもいいと思い残りのラッキーサンドを結局一人で全部平らげた。
「はあ、うまかった!ちょっとは運が上がるかな、それにしても
さっきの親子連れは一体なんなんだ…」
首を傾げながらデパートを出ると……、子供が泣いていた。
近くには同じく、子供の集団がいた。どうやら泣いている子供を
虐めて仲間外れにしている様子。気になったジャミルは子供集団に
声を掛けてみる。
「何してんだ……?」
「こいつのパパとママ……、怪しい宗教団体に入っちまったん
だとさ!……こいつと係ると俺らまで変なのに入れられちまうよ!!」
「ひっく、ボクは……、そんなのに入らないよぉ、……ひっく、
関係ないよ……、だから……仲間にいれてよ……」
「やだよ!冗談じゃねえよ!おい、行こうぜ……」
「……あ、おいっ!」
子供集団は泣きまない子供とジャミルを残して、逃げて行って
しまった……。
「なあ、お前の親御さん、何かやったのか……?」
「ぐすっ、ボクのパパとママ……、ハッピーハッピー教団に
入っちゃったんだよ、行方不明なんだよ、……帰ってきて
ほしいよお……」
ジャミルはなんだそらと思いつつ、まだ良く理解出来なかったが、
子供をこのままにしておけないので、家の場所を尋ねると、
自宅まで送って行った。
「おにいちゃん、ありがとう……」
「気を落とすなよ、その内、親御さんも帰ってくるよ……、
一人で大丈夫か……?」
「うん、ボク、パパとママが帰るのをいい子で待ってる……」
ジャミルは子供の家を後にする。突然出てきた単語、謎のハッピー
ハッピー教団……、そして、……消えてしまったアイシャ……、
やはりこの町でも唯事でない事件の幕開けであった。
「そういや、デパートで俺を見てた親子連れも……、なーんか
意味フな事口走ってたし、顔色も青ざめてて異様に悪かったなあ~、
まさかな……」
「ヘイ、ボーイ!」
「ん?」
声に振り向くと……、黒グラサンに、黒服、黒帽子の
男性二人組が黒いトラベリンバスから突然降りて来て
ジャミルに声を掛ける。片方は背が高くちょび髭、
もう片方はチビであった。
「何だよ、おっさん達、俺を誘拐でもすんのかい……?ウチは
借金だらけだぜ……」
「いいや、いい若いモンが、そんな顔して、トボトボ歩いてるの
わしらは見てられんのや!♪もっと胸をは~れやあ!カッカッカ
(笑い声)」
「♪うじうじすんなやあ~!」
二人組は何故か突然歌いだした。見ていたジャミルは唖然とする……。
「おっさん達……、だから何なワケ……?」
「おー!わしらを知らんのかいのう!?」
「なんてこったああーーっ!!」
「……知らん……」
「儂らはあの超有名ブルースバンド、通称トンズラブラザーズ!!
取りあえずのメンバー代表つことで、ご挨拶や、まだメンバーは
おるが、知らないなら今からわしらだけでも覚えといてやーー!!」
「わしはナイスや!カッカッカ(笑い声)」
「わしはラッキーや!」
……珍コンビ?ナイスとラッキー、巷では超有名なブルース
バンドマンらしい。ちなみに髭ノッポの方がナイスで、チビの
方がラッキーらしい。
「分った、覚えておくよ、俺はジャミルってんだ、宜しくな」
「オー!それそれ、その顔や!やっぱり若い子はこうで
なくちゃアカン!」
「うんうん!」
「へ、へへ……、そうだな……」
トンズラの勢いに押されて、焦っていたジャミルが笑顔をみせると、
トンズラブラザーズも声を揃えて笑い出した。
「わしら今度、この先の町のスリークでコンサートを
やる予定なんや!」
「ぜひ、ユーも来てくれよな!!わしらまだ、この町の劇場に
おるからの!正確に言うと、此処の劇場から……解放されんのやが」
「ん?まあ、機会があればな……、行くよ」
「……んじゃねえーーっ!又会おうーーっ!!」
愉快なブルースバンドマン、トンズラは再びバスに乗ると、
ジャミルに手を振り、バスを走らせ行ってしまう。
「はあ、何だか知らんけど確かに元気が出て来たわ、うっし!
頑張るかなっ!」
と、ジャミルが言った処に……、更に別の……、気分が焦る様な
出来事が起こるのであった……。
「……どうしたらいいんだ……」
又新たに聞こえてきた声に振り向くと……、変な兄ちゃんが
しゃがみ込んで茂みに隠れ……、真っ赤な顔でウンウン唸っていた。
ジャミルは……ああ、と思い、納得しその場を離れようとするが……。
「納得しないでくれよっ!……僕の話を聞いてっ!!この良心が
痛いんだっ!!」
兄ちゃんはジャミルに掴みかかってくる……、ジャミルは慌ててその手を
振り払うと、呆れた様に兄ちゃんを見た。
「だ、だってよ、誰が見たって……、野グソが出なくて……」
「だから、ちがウンだって!……話を聞いてっ!!」
余りにも変な兄ちゃんが必死で切実になっているので、ジャミルは
仕方なしに話を聞いてみる事にした。
「僕は見てしまったんだ、怪しい男達が……、アイシャちゃんに
絡んでいるのを……」
「何だと……?」
……アイシャ……、の言葉にジャミルが反応する、こんな変な状況で
まさか手掛かりが少し掴めそうになるとはジャミルも夢にも思わず
身を乗り出す……。
「助けようと思ったんだが、勇気が出なかった、僕はいくじなしだっ!!
気が付いたらアイシャちゃんはもう連れて行かれてしまった後で……、
後の祭りだった……、しかし、彼女がいなくなったその場に、トンチキが
ウロチョロしていたのを見たんだ……、あいつだ!あいつがアイシャちゃんの
誘拐に絡んでいるんだ!!」
「なあ、その、トンチキって奴は一体何処の奴なんだ……?」
「……この先の……、ヌスット広場を取り仕切っている男さ、
金の為なら悪どい事も平気で……あっ、おいっ!……君っ!?」
ジャミルは最後まで兄ちゃんの話を聞かずに一目散に走り出す。
目的は勿論、ヌスット広場であった……。
ヌスット広場、……訳すと泥棒広場…?なのであろうか。彼方此方で
色んな人達が店を広げている。もしかしたらこれらの売り物は、
何処からか盗んできた品なのかも知れなかった。しかし、元の世界での
ジャミルは、……アレなんで、これに関しては別にあまり気にも
とめなかった。
「けど、さっきの変な兄さん……、アイシャが連れて行かれたのが……、
大分前らしいから、数日、あそこで懺悔してたのかな、……まあいいか」
細かい突っ込みを入れながら、ジャミルは更に広場を散策。
「どうだい?蝿が集っちゃった……うんこくさいパンだけど、
味は保障するよ……」
「このガラクタどう?もしかしたら、機械を扱えるお友達がいれば、
こんなモンでも役に立つかもだぜ、買っといて損はねえぜ!」
「何の料理にも合う魔法の調味料はいかが?瓶タイプだよ!」
ジャミルはトンチキとやらを探して、彼方此方市場を見て回るが……。
「新鮮な生みたて卵いかがー!」
「あのさ、おっさん、聞いてもいいかい?」
ジャミルは適当に、卵売りのおっさんに、トンチキの事を
訪ねてみようと思い、話し掛けた。
「兄ちゃん偉いねえ!ちゃんと健康の事考えてんだな、よし、生みたて卵
持ってきな!」
「いや、俺は訪ね事してんのさ……」
しかし、おっさんはジャミルの言い分を無視し、卵をどんどんビニール袋へと
詰める。そしてそれを無理矢理ジャミルに渡す。
「まいどー!ママに美味しい卵焼き沢山作ってもらいなよー!!
オムレツもいいねえー!」
「…とほほのほお~……、畜生……」
途方にくれながら更にぐるっと市場を巡ってみる、……途端、緑色の家の
屋根の上から何者かが突然、ジャミルを見て豪快に笑いだす。
「誰だっ!?」
「あんた、オレを探してたんじゃねえのかい?そうだよ、オレがトンチキだよ!」
「お前がっ!?トンチキなのかっ!?」
……男は派手なシャツに丸いグラサン、変な帽子にいかにもな怪しい
風貌であった。ジャミルが思わず身構えると、トンチキらしい男は
ピースしながらジャミルを見て馬鹿にした様にニタニタ笑った。
「細かい話は後だっ!それより、このオレを倒せっ!」
変な男、こいつが恐らくトンチキで間違いないであろう、変な風貌の男は
無茶苦茶を言い、屋根から飛び降りるとジャミルに向かって飛び掛かってきた!
「っと!この野郎……!!」
ジャミルも急いでトンチキにスリングショットを放とうとするが、
トンチキは意外と素早くジャミルを戸惑わせる……。トンチキは
凄いスピードでジャミルに近づくと再びニヤリと笑った。そして、
……ジャミルの首筋にまるで吸血鬼の様に思い切り噛み付く。
「あっ!……あうう、いたっ!は、放せっ……」
「……あんた、いいね~、やっぱ若い子は全然感触が違うわ、これまで
沢山の奴に噛み付いて来たけど……、坊やは本当に美味いよ、齧りがいが
ある……」
「やめろっ!この変態フェチ親父っ!!あ、ああ、ああっ、あ……」
トンチキはジャミルを齧るのを止めるどころか、更に力を入れ、首筋に
歯を喰い込ませる……。ジャミルの首筋からは血が流血し始めていた……。
ジャミルは苦痛で顔を歪め、まるでドラキュラ状態のトンチキは更に
調子に乗る……。
「おじさんは……、君の様な子を齧るのが大好きだぜ、へ、へ、へへ……」
……しかし、ジャミルも負けておらず反撃に移る、残りの力を込め、
トンチキの股間を思い切り何回も蹴りあげたのだ。
「!!!お、お、おおおお!!この……糞ガキっ!!」
トンチキは股間を押さえながらぴょんぴょん飛び上がり一旦ジャミルを
解放する。その間にもジャミルは隙を見せずトンチキへと飛び掛かって
行った。今度は仕返しにトンチキの頭部にガブリと噛み付く。
「いでいでいでえええーーっ!!やめろ、やめろっ!この糞ガキっ!!
あだだだだだ!!」
……広場に集まっている人達はどうする事も出来ず、子供と大人の
ケンカを唯、その凄まじさにオロオロ、ハラハラしながら只管見守る
だけであった……。やがて……、ジャミルの丈夫な歯力の強さに痛くて
たまらなくなったのか、等々トンチキの方が白旗サインをあげた。
「わ、分った、オレの負けだっ、何でも話してやる、あだだだだだ!」
「……お前が連れてった女の子は何処にいる!すぐ居場所を教えろっ!!」
ジャミルはトンチキから手を放した。トンチキは呼吸を落ち着けると、
漸く口を開いて誘拐騒動の一件をぼそっと話し始める……。
「正確に言うと、オレは女の子は誘拐してねえんだ、変なデブの子供と
青い服を着た怪しい奴らに女の子を拉致しておける小屋を提供しただけだ、,
,小屋はグレートフルデッドの谷にある、誘拐したのはそのデブと変な連中だ、
奴ら、女の子をナントカ教の生贄にするって言ってたぞ、早くしねえと
手遅れになるかも知れん、すぐに行ってやんな」
「デブ……?何か、心当たりが有る様な、ない様な……、それに、
青い服を来た怪しい奴らか、……くそっ!」
「はあ、オレはさっき、屋根から飛び降りた時に足を捻挫しちまったらしい、
……お前に負けたのも多分、その所為だろう、……いいか、女の子を助けたら
もう一度必ず此処に戻ってこい、か・な・ら・ず、だぞ!いいな!」
「あっ、おいっ!ちょっと!」
最後に、負け惜しみの様な、言い訳がましい言葉を吐き、トンチキは
自分の家に逃げる様にさっさと引っ込んで行った。
「トンキチさんは、ああいう人だから、一件悪そうに見えるけど、実は
そうでもないんだよ……」
広場にいたおばさんがジャミルに近寄り、噛まれた首筋に薬を付けてくれた。
「そうなのか……、う、てっ!しみるうっ!」
「我慢おし!アンタも男の子だろう、よし、終わりっ!それにしても、
アンタも、随分無茶するねえー、本当に……」
「おばさんありがとな、急がなくちゃなんねえから、俺はもう行くよ……」
「気を付けるんだよ、あんまり無茶するんじゃないよ……」
ジャミルはおばさんに礼を言い、ヌスット広場を後にする。
……漸く、アイシャが捕まっている場所が分ったものの……、
青い服の連中とやらが気になるジャミルであった……。
……ピヨピヨピヨ……
「何だ?あ……」
さっき無理矢理買わされた生みたて卵が孵って早くも雛になり、
ジャミルは大量のヒヨコに囲まれ、途方に暮れる……。
「……とほほのほお~……」
……ピヨピヨピヨ……
「頼むからっ!鳴かないでくれや!人が見てんだろ!
あーもう、恥ずかしいったらありゃしねえ……」
大量のヒヨコはジャミルの後によちよち付いて回る。
このままではすぐに鶏になるのも時間の問題であろう。
しかし、一応ジャミルにも隠れ羞恥心が存在していたらしい。
「……うるせーな!この野郎!」
「きゃーっ!オレンジキッドさまあーっ!!」
「こっちをむいてーーっ!!」
「何だ?」
突然聞こえてきた黄色い声に前を向くと……、頭がオレンジヘア?の
インテリらしい眼鏡少年が女の子達に囲まれ、やたらとちやほやされていた。
「もぐもぐもぐ……」
一方で、オレンジのすぐ横で、太ったアップルヘア?の少年が
何か食べていた。……こちらは全然女の子達には見向きも
されていない様子。
「人間て、ホント残酷、……ハア……」
ジャミルは溜息をついて、その場を通り抜けようとした。
「あ、きみきみ、ちょいと……」
「あ?俺か?」
リンゴデブの方がジャミルを呼び止め、ジャミルは仕方なしに足を止めた。
「君しかいないでしょ、……君、美味しい物持ってるね……」
リンゴデブはヨダレを垂らし、ジャミルの後を付いて回っている
ヒヨコの方を只管見ている……。
「ちょっと待て、いや、いずれは……、……なんだけどよ、だからって、
幾ら何でも今食うのはよせよ!!」
情がうつってしまったのか、ジャミルがヒヨコを庇い始める……。
「何もすぐに食べるなんて一言も言ってないよ、それに鶏になれば、
又卵を沢山産んでくれるでしょ、そうしたら、毎日美味しい卵料理が
食べ放題だよ……、うひひ……、ねえ、君、そのヒヨコ譲ってくれない?」
「あ、ああ、そういう事か、けど、まだオスかメスか分かんねえぞ、
それに……、オスの場合はやっぱり……」
……処理されんだろうなと思いつつ、けど、このままではどうしようも
ないので、ジャミルはヒヨコを全部リンゴデブに預ける事にした。
……願わくば、雛が全てメスである様に願いながら……。
「折角だから、お礼をさせてよ、僕の家すぐ近くなんだ」
「いや、でも……、急いでるし……」
「親切にして貰ったらお礼を返すんだ、ほら、おいでよっ!」
リンゴデブ、……アップルキッドは無理矢理ジャミルの手を掴んで
連れて行く。その後を、ヒヨコ軍団もピヨピヨと後を付いていく……。
「……急いでんだよー!あーー、もうっ!!誰か助けてくれーー!!」
その様子を、オレンジ頭……、オレンジキッドが横目でちらちら見ていた。
……んでもって、ジャミルは屋根に巨大なリンゴの看板オブジェが付いた
家の前まで連れて行かれた。
「此処が僕の家だよ、ささ、どうぞ!」
「急いでるって言ってんのになあ~、しょうがねえ、少しだけだぞ……」
家の中に渋々入ると、変な鼠が出迎えた。……中は散らかり放題の上、
何だか異様に甘い匂いがする……。
「お帰りである!吾輩はマウスである!しかし、名前はまだない!」
「喋るネズミか……、別に珍しくねえや、もう何でもいいや……」
「今、お茶とケーキを用意するね、少し待っててね!今日はチョコレート
ケーキの日なんだよ!」
急いでいると言いつつも、……つい、ケーキ……に、釣られ、ジャミルは
ソファーに腰を落ち着けた。
「アップルキッドは凄いのだ!世紀の大天才発明家である!その頭脳は
もう天才を越えると言っても過言ではないのだ!しかし世の中の奴らは
外観だけを見、彼の本当の凄さが分かっていない、可哀想な奴らだ!」
ジャミルの側に、マウスがちょこちょこ来て薀蓄を垂れ始めた。
天才……の単語に不思議そうな顔でジャミルは首を傾げた。
「発明家なのか……?」
「作用である、もうその頭脳とIQは、かの有名な、あのアイーン・
シュッタイーンを越える程だ!しかし、どういう訳か、世の中の奴らは
どうしてどうして、彼の凄さを分かろうとしないのだ、くどくどくどくど……」
……やがて、アップルキッドがお盆にお茶とチョコレートケーキを乗せ、
リビングに戻ってきた。
「お待たせー、カップがちょっと汚れちゃってますが、我慢して……、
あれ?」
「くどくどくどくど……」
「マウス君、ジャミル君は何処に行ったの?まさか、帰っちゃったの……?」
「くどくど…、はっ!?い、いないっ……」
アップルキッドに言われ、マウスが漸く我に返った……。
「これは……、窓ガラスが開いている!……それに、縄が一本落ちている!
しかも微かにオレンジ臭い!キッド、これは又オレンジキッドの仕業である!
ジャミル殿はオレンジキッドに誘拐されたのだ!」
「……はあ~?」
そして、……、マウスの推測通り、ジャミルは今度はオレンジキッドの
家に連れて来られ、こっちの家のリビングのソファーに縛り付けられて
いた……。変な機械の拉致マシーンを使い、窓ガラスを利用していきなり
拉致られたのであった。
「……どうも、手荒な事をしてしまいまして、本当に申し訳
ありませんでした……」
オレンジキッドはジャミルの猿轡を外してやる……。
「……ぷはっ!……あーのーなああー!俺は急いでるって言ってんだよ!
いい加減にしとけ!!早くグレートフルデッドの谷に行かなきゃなんねん
だよっ!!この縄もほどけっての!!」
「静かにしていて下さい、だったら尚更ですよ、いやあ、僕があなたを
捕獲しておいて良かったじゃないですか、……あそこには凶悪なモンスターが
いるんです、それを一瞬で排除出来る機械を僕は発明したんです!」
「モンスターだと……?」
「はい、並みの人間では太刀打ち出来ない程の凶悪モンスターらしいのです、
しかし僕が発明した機械があれば、凶悪モンスターなど一瞬で一網打尽です!」
オレンジキッドの言葉に、ジャミルは縛られたまま考える……。
そんな厄介なモンスターに邪魔をされ、手こずってしまう様では
ますますアイシャを助けに行くのが遅くなってしまうであろう。
もはや時間との戦いの為、ジャミルも流石に唸り始めた。
「貸してもらえんのか?その機械……」
「もちろんです、ですが、新発明へのお力になって頂きたく……、
200ドルの資金援助をお願いします……」
「な、なんだとっ!?……まさか、まだ機械がちゃんと完成して
ねえんじゃねえだろうな……」
その通りですとばかりに、オレンジキッドが頷いた。あまりにも傲慢な
態度にジャミルの怒りが爆発する……。
「ふざけんな!だからもういいってんだよ!早く縄ほどけっ!」
「誰も機械が完成したとは言ってないですよ、後もう少しなんです、
あなたも少し落ち着いて下さい、あと200ドルです…、資金援助して
頂ければ間違いなく機械は完成するんです、間違いなく……」
オレンジキッドは眼鏡を光らせジャミルの方を見る、アイシャの事を考え……、
ジャミルは口を結び、等々決意を決めた様であった。
「分った、資金援助するよ、だから縄を解いてくれ……」
「やっと分かって頂けましたね、では……」
ジャミルはオレンジキッドに漸く縄の拘束から解放して貰う。……して
貰った後で、おろした手持ちのドルを全部使い切ってしまった事を
思い出した。
「あのさ、今手元に金が無くて、又カードでおろさねえと……」
「仕方ないですね、では待ちますので……」
しかし、ドルを謎のパパ?に又バンクに入れて貰えるまで時間が少々
掛る事を考えると……、ジャミルの頭は混乱してきた。それこそ、
こんな事をしている間にも時間は待ってはくれず刻一刻と過ぎて
行ってしまうのだから。どうすればいいのか判断していると……。
「ジャミルー、そんな奴に資金援助しては駄目であるぞー!」
「はあはあ、ひ、酷いじゃないか、オレンジ君!黙ってお客さんを
連れて行っちゃうなんて!」
アップルキッドとマウスがオレンジキッドの家に慌てて雪崩込んで来た……。
「ちっ、邪魔をするな!肥えたリンゴめっ!!」
「お前ら……」
「こいつは自発明の資金援助を人様に要求するが、実際にこいつが
作る物は碌な物がないのである!」
マウスがオレンジキッドにびしっと指を付き付け、オレンジキッドは
怪訝な表情をした……。
「失礼な事を言うな、この天才発明家の僕に向かって……、ジャミルさん、
あなたはどうするんですか?時間がないんでしょう?だったら……早く僕に
資金援助した方があなたの為だと思いますが……」
「……う~ん」
ジャミルは更に悩み始める。自分は一体どちらのいう事を聞いた方が
正しいのか……。
「どうせ資金援助するのなら……、アップルキッドの方に絶対援助
すべきである!!」
……ぷっ、つん……
マウスの言葉に……、等々ジャミルが全てを理解し、そして切れた。
「結局、お前らは両方とも……、人を出汁に使う事で金を儲けようと
してただけなんだな……、もう分ったよっ!!えーいっ!此処まで
来たんだ、モンスターなんか屁でもねえやっ!自分で何とかしたらあっ!!
俺もバカだったよっ!最初からこうすりゃよかったんだっ!」
「……しまったのである……」
「ま、マウスく~ん、あああ……、ち、違うんだよ、ジャミル君、
僕は本当に……」
もう時すでに遅し、……ジャミルはオレンジキッドの家を出て行こうと
していた。
「はあ、いいんですか?僕に資金援助しなかった事、後悔しますよ……」
「うるせーバーカ!知るかっ!」
「ハア、損な方だ、長生き出来ませんよ…」
オレンジキッドは家に戻り、……その場にはマウスとアップルキッドだけが
残された……。
「……ハア、今日も日が暮れるなあ、けど、もう立ち止まっちゃいられねえや、
待ってろ、アイシャ……」
ジャミルは夜にも挑む覚悟で、地図で場所を確認しながらグレートフルデッドの
谷を目指し、再び真っ直ぐ歩き出した……。
「おーい、待ってええ~!!」
「まつのだー!」
後ろからアップルキッドとマウスの声がした。ジャミルを追い掛けて
来たらしい。しかし、ジャミルは足を止めずに声を無視して只管歩く……。
が、アップルキッドはデブの癖に意外と俊足で、ジャミルの前まであっと
いう間に追いつく……。
「何だよ、邪魔すんなよ……」
「ごめんね、決して君に嫌な思いをさせるつもりじゃなかったんだよ、
本当だよ……」
「うむ!アップルキッドに資金援助しておけば決して間違いはないので
あるからして!」
「……マウス君っ!!」
「あのな、いい加減にしとけよお前ら……」
しかし、噴火寸前のジャミルを見て、アップルキッドは微動だにせず
静かにこう言い放つ。
「確かに……、僕に資金援助してくれれば……、君の助けになれるかも
知れないのは本当なんだけど……」
「このデブ野郎っ!!マジで一発殴ってやる、もう勘弁なんねえっ!」
ジャミルは等々、アップルキッドの襟首を掴んで今にも殴り掛かりそうな
勢いになる。それでもアップルキッドはジャミルから目を反らさず静かに
口を開いた。
「……グ、グレートフルデッドの谷に……、巨大なタコの置物が邪魔をして
先に進めない場所があるんだよ、僕が今作ってる、タコ消しマシンが
完成すればそのタコを排除出来るんだよ、本当だよ……、嘘じゃない……」
「ジャミルっ!頼むっ、アップルを信頼してやってくれなのだ!」
「……」
「……200ドルの援助をお願いしたいんだ、君の力になれるよ……」
ジャミルは暫く考えていたが、やがて掴んでいたアップルキッドの襟首から
静かに手を放した。
「200ドルありゃ本当にすぐに完成すんだな……?」
「もちろんだよっ!」
「分った、仕方ねえ、何とか一晩ぐらい戦ってくりゃすぐ溜まるだろ……、
……ったくっ!おりゃああーーっ!!」
「頼んだよっ、ジャミル君っ!!」
ジャミルは200ドルの為、今すぐにでも谷に向かいたいのを堪えて
夜の町中を走りまくり、洗脳されておかしくなっている町民を探しながら、
アイシャの無事を祈り、只管バトルを繰り返すのであった……。
zoku勇者 マザー2編・4