消えていく人

消えていく人

 今年になって消えていく人が増えている。去年は消えていく人がでるとネットにのるほどの少ない数だった。なぜなのだろう。それが僕の研究テーマだ。
 過去との通話装置で、昔の人と話をしている。
 消えていく人って何だときくのかい。そうかあんたは過去の人だからな。
 死んでいく人ではないのかというのかい。
 そうじゃないんだ。消えるのだよ、歩いている人が、突然目の前から消える。
 君はいつの過去にいるんだ。
 日本という国の昭和の時代にいるのか。
 そういえば五百年ほど前には国というものがあったな。今はないんだよ。そう地球は一つの国なんだけどね。
 ともかく去年から始まった人が消えるのは、科学者たちにも説明ができないようのなだよ。
 僕も消えるかもしれないけどね。
 君はなにをやっている人なんだときくのかい。
 過去との通話ができる機械がつくられたので、歴史家は電子図書館に所蔵されている過去の本を読むことをしなくなり、機械をつかって過去の正直な人を見つけて、詳しくその時のことを聞いてまとめているんだ。
 その機械のおかげで、過去の歴史が正確になったよ。
 え、君は昭和の時代の日本の作家なのか、どんなジャンルなの。
 幻想小説。
 あ、それはおもしろいけど、過去の歴史を知ることはできないね、本当のことを書いていないものね。
 なにをさがしているのかってきくのかい、僕は地球の政府の人口調整をやっている人口庁の筆頭研究者なんだ。ここで地球全体の人口の数を一定に保つという仕事をやっている。
 どういうことなのかわからないって。
 そうか、今人間は子供を産まない。精子と卵子を人口庁が管理をしている。人間発生研究所で、どの遺伝子とどの遺伝子を一緒にして、どういう人間を世の中に生み出すか考えて人をつくりだしている。
 え、ぼくもそうやってうまれたのかってきいているのかい。
 そうだよ、統計の得意な男性の精子と、地理の得意な女性の卵子が一緒にされて、僕ができた。
 もう遺伝子だけで人が作られているのかと思ったのかい。なるほど君はSFも書いているんだね、それでそう思ったわけなんだな。
 確かにそのむかし地球の科学者は遺伝子をむき出して、新たな人間を作ろうとしたよ、病気もせず、頭が良く、宇宙に飛び出していけるような人間をね。
 実際にそういう人間を作った。さぞ優秀だと思うだろう。確かに計算は速いし、立派な人間だった。ところが計算機と同じだったんだ、柔らかみがない、融通の利かないやつさ。それは結果的には世の中の発展を遅らす。集団がうまく機能しないのさ。
 それで遺伝子学者が研究をさきにすすめ、卵子に含まれている物質は過去の情報をファジーにもっていたことを明らかにした。遺伝子以外のファクターだ。人間の過去の歴史がその中に閉じこめられている。化学物質の遺伝子が人間という個体をつくるときに、その物質が過去の味付けをする。人の素とよばれているよ、そう、昭和の日本にあった料理に使う味の素というものと同じようにね。
 男の精子は遺伝子の供給だけかって聞くのかい。
 そうじゃないんだよ、やっぱり人の素をもっていて、男の方の過去が詰まっている。だから個人は男と女の人の素のなかで、遺伝子が働くことでできあがるわけだよ。
 ほかの哺乳類も同じかって聞くのかい。
 そうだよ、ネコはネコの過去を持ったネコの素によって遺伝子が調整され、子供が育つわけだよ。
 ともかくそうやって、地球の人口が一定に保たれているんだ。
 生まれたときに、どのような大人になるのか決まっていてはつまらないだろうと、君はいうのかい。
 そんなことはないんだよ、決まっていないんだ。育つあいだにも、新たな人の素がつくられる。個人個人の経験だよ。そこが教育だな。もっとももともとある人の素の力はかなり強いよ。宇宙飛行士だった男の遺伝子と、栄養士の女の遺伝子を持った子供は、将来、宇宙船の中で、宇宙旅行をしている人の食事を作る人になるかというと、確かに確率は高いけれども、生物学者になることもある。宇宙でであった生命体を解析する生物学者だよ。父親の宇宙と母親の栄養の人の素の影響は強いわけだけど、新たの人材になったわけだ。人の素、生育環境、それらが遺伝子に影響を与えるので、人工受精で生まれた人でも個性がでるのさ。
 こうやって過去の人と話をする機械に興味があるんだね、原理は僕にも正確には説明はできない。
 こういうことらしいよ、時間が自由にできたら混乱するだろうな、だからそれはできない。宇宙は時間という空間、時間の宇宙と読んでいるけど、その中にある。時間の宇宙の中には、われわれのいる宇宙と同じようなものがぎっしりつまっている。だから宇宙は時間の中で膨張できるんだよ。ほんの十年ほど前に、時間の宇宙の隙間を見つけた人がいてね。これはどういうことかというと、時間の宇宙も無数にあって、隣り合う時間の宇宙の間に隙間があって、そこを自由に動ける電波を作り出した、偉大な人がいたってわけだ。
 言っていることがむずかしいって。 
 そう、その人は5歳の時に、その存在を育ての親に言ったんだそうだ。親は二人とも物理学者でね、そうそう、受精卵は発生がすすんで、生まれる状態になったときに、ほしいという夫婦にもらわれていって育てられるんだよ
 うん、今の世では、親は遺伝子的に自分とは違う子供を育てている。育児本能は人間にも残っていて、子供を育てたいという気持ちの強い夫婦は、人口庁にとどけでて、受精卵をもらうんだ。
 ともかく、その5歳の女の子が時間の宇宙の隙間を発見し、さらに大きくなったら、その隙間をとばせる電波の原理をみつけたんだ。
 あとは企業がそれを発展させて、今君と話をしている過去や未来との電話をつくりだしたというわけだ。
 未来と電話すると、新しい機械などの原理を早く知ることができるとどうなるかっていうのかい。
 そうなんだ、たとえば、僕が日本の昭和の君に、今我々が使っている宇宙船の原理を教えたとすると、昭和の時代から、宇宙船の設計図を書き始める。でもすぐにはできなくて、結局、僕のいる時代にある宇宙船につながるわけで、過去に今の技術を教えても、過去は少しも変化しないし、今までもそれがあるから人間の発展が早くなったんだ。そういう仕組みになっている。
 君の昭和の日本でも、思わぬものがどんどんつくられてきているだろう、でももっと昔から、それと未来からヒントをもらって考えられていたものが昭和に結実したわけで、たとえば、僕が江戸時代の人に宇宙船を作る技術を時空電話機で伝えたとすると、江戸の戯作者なり、発明家がそれに似たものを考えて何らかの形で発表する、それは、昭和の人が見れば、そのころから空を飛ぶことを考えていたのだな、ということなる。そうだろ
 そうなんだ、未来と過去がつながっているから、宇宙の膨張の中で、地球の成長があるんだよ。
 それでね、なにをいいたいかというと、今、地球で、突然人が消えると言うことがおきていることが、宇宙の隙間を発見したことにあるのではないかと思って、過去に電話をかけたら君につながったわけだ
 電話の受話器はないのに、なぜ話ができるかと不思議だっていうわけだ。
 そうなんだよ、僕の方には時間の宇宙の隙間を通る電波による電話装置がある、でも過去には機械がない。だけど、君には聞こえる。それが、脳の働きなんだ、脳は未来に向けた受話器をそなえている。いいかえると、時間の宇宙の隙間を通ってきた電波を受信する脳の仕組みがそなわっているということだよ、人間の遺伝子はそういうものもそなえた脳を作り出していたということなんだ、昭和の時代には無用のものだけどね、未来を見据えた設計図が遺伝子のなかにはある。
 すごいとおどろいているね、未来と過去の電話の原理がわかってから、人間の脳の機能があらたに発見されたということなんだ。
 それで、人が消えることに戻るね、なぜ僕が昭和の日本にいる誰かと話をしようと思ったかなんだ。人は死ぬと、時間の宇宙の隙間をとおって、過去や未来に行くのではないかと考えたからなんだ。
 昭和の戦後、日本は人口が急激に増えた。それで、未来のどこからかやってきたとすると、未来のいつかに人が急激に死ななければならない。それを調べたのだがみつからなかった、だけど今僕のいる時代にはじまった、人が消える現象が、昭和の人口の爆発的増加を引き起こしたのじゃないかと思うのだよ。
 それなら伝染病か何かで死ぬことが起きてもいいんじゃないかというわけかい、原理がわかってもらえたようだね、だけど、今伝染病はないんだよ、人口が急激に減るような病気はないんだ。寿命まで生きる。それで、我々の世界から人が突然消えて、昭和の人口がふえていくと考えたんだ。
 昭和の戦後のベビーブームはおよそ三年続いたわけで、君もその中の一人なんだね。
 昭和の次は平成という年号になるんだよ、そのあとは令和、令和では出生率が1をかなり下回ったんだ。逆に減少だよ。
 人口というのは過去未来合わせて、いつもおなじほどになるようになっているのかってきくのかい、
 その通りなんだ、よくわかってくれたね、きっと、昭和の人口増加のために、人が消える現象は、三年間続くだろうね、千年前のことが今に影響するわけだ。
 逆かもしれないっていうのかい、そうか、今何らかの原因で我々の世界でたくさんの人が消えていったから、その受け皿で、昭和の人口が増えたというわけか、たしかにそれもあるね。
 時間の宇宙との隙間を通って、そういうことが起きたのかもしれないな。

 そういったとたん僕は突然意識を失った。
 人口庁の過去との電話機前にいたぼくが消えたので、係りの人が驚いて上司に報告しにいった。
 僕は突然消えた人間の一人となった。
 昭和の東京にすむ、団塊の世代と呼ばれる年齢の幻想小説家夫婦に子供がさずかった一瞬でもあった。
 この仕組みは、団塊の世代を作るためではなく、団塊の世代から結婚する人が減り始めたことから、子供が減少することを食い止めようとするものだった。だが、上手くいっているとは思えない。今度は未来で何が起こるのだろう。

消えていく人

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-20

CC BY-NC-ND
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