私が女神って本当ですか? ――最底辺少女の覚醒――
1話 運命の極光
1-1 橋の下に棲む少女
「はぁ……、はぁ……っ――」
膝をついて、少女は荒く息をする。
第二国家ナルトリポカの上空に、陣を象る極光が花開いた。
弧を描く軌跡は幾重も重なり、雲を押しのけて魔術回路の紋を刻んでいく。
荘厳な鐘の音が青空に響き渡ると、集落に住む人々は美しい光景に目を奪われた。
昏い森の中、湖畔のほとり――祝福の光を浴びた少女は魔術陣見上げて呟く。
「……なんで……私が……」
❖ ❖ ❖
朝日が橋の下に差し込み、私は眩しさに目を覚ます。
薪の火はとうに消え、傍には黒い炭だけが残されていた。
何一つ変わり映えのしない、いつも通りの朝が始まる。
「……痒……」
蒸し暑い気温。鋭い陽射し。
眠っている間にあちこちを虫に噛まれていますが、もう慣れたものです。
空腹を訴える腹の虫を撫で摩り、川に仕掛けた罠を覗く――釣果は無い。
「……仕事、探さなきゃ……」
❖
町に出ると、すれ違う人たちから白々とした視線を投げかけられます。
こちらが《《ちらり》》と視線を向ければ、鼻柱に皺を寄せて露骨に睨む人もいますが、大半は目を逸らし、合わせてもくれません。
「うっ、くせぇ……! なんだこの臭い……」
少し離れたところで、角の生えた獣人種族の男が異臭を嗅ぎ取って鼻をくんくんと動かしています。
見ない顔です。この町にやってきたばかりなのでしょう。
「蜜が醗酵したみてぇな強い臭いだ……俺は好かんな」
「そりゃお前、〈アーミラ〉だな。知らねぇのか?」連れの獣人種が応えます。
「んだよそれ? ……あの女か」鼻先で臭いを追って、男は私を見つめました。「魔人種か……襤褸い娘だが顔は悪くねぇな。売れねぇのか?」
「やめとけ、あの娘は橋の下に住んでる物乞いだが、所有権は領主にあると聞いている。なぜかは知らんが奴隷労働もさせずに街に放し飼いなんだとさ」
「放し飼い……変な話だな。あの臭いが原因か」
「そこまでは知らねぇよ。噂じゃ呪いのせいだとも聞いているが……下手に手を出すなよ?」
「ここの領主が怒るってか?」
「それもそうだが、臭いが移っても知らんぞ」
「はっ、違ぇねぇや」
獣人種の男達は笑いながら去って行きます。
「……」
私もそのまま、日雇いの仕事を探しに組合へ向かいました。
❖
「餓鬼にやれる仕事はないよ!」
組合の窓口に立つ魔人種の女は私にそう言って、追い返すように手を払う仕草をしました。
「なんでもいいんです……お金がなくて……」
「『なんでも』? どんな仕事でもできるって言うのかい? じゃあ黍粉の詰まった重い袋を運ぶような労働でもやれるって?」
「はい――」
女は聞く耳も持たずに続けました。
「冗談言うんじゃないよ、そんな形じゃ持ち上げられないでしょうが! それにあんた汚いし臭いんだよ。売れる荷も売れなくなっちまう」
「では、トガの討伐は……」
「今日は無いね! 帰んな!」
とりつく島もなく、私は帰ることにしました。
その時、話を聞いていたらしい男が呼び止めてきます。
「そこの《《うじ虫》》」
「?」私は振り返り、首を傾げました。
「おいおい、うじ虫って呼ばれて振り返るのかよ」
「……げ……」
そこにいたのは、よく知った顔でした。
「ゲイトさん……」
年は同じくらいで、集落に住んでいる獣人の男の子です。
「何か……用、ですか……?」
警戒している私に対して彼は「そんな顔するなよ」と言いながら見下した目をして壁に追い詰めました。頭に生えた二本角が私の鼻先を掠めて危ないです。
「相変わらず臭ぇなぁ……シーナとは大違いだ」
「っ……、そんなことを言うために呼んだんですか……?」
「いいや。追い返されてるのを見てたぜ。討伐依頼はないって聞かされたようだが、実は依頼は来てたんだ」
「そうなんですか……!?」
報酬が貰えればまた数日は食べていける……!
「まぁ、俺が受けちまったが」
「……!」
ゲイトの意地悪な笑みに、私は困惑しました。
「じゃあなんで呼び止め……? 譲って、くれると……?」
「まさか」
淡い期待を鼻で笑います。
「うじ虫に仕事を譲って何の得がある? 俺はな――」
「ちょっと待ったぁ!」
ゲイトの言葉を遮るように、ばん! と扉が開かれ、誰かの声が割って入りました。
「まぁたゲイトね! アーミラに意地悪してたんでしょ!?」
「シーナさん……!」
現れたのは、白いワンピース姿のシーナさんでした。
シーナはこの集落の領主の娘で、年も種族も同じ……身分は違えど、私にも優しく接してくれます。
一方でゲイトは「来た来た」と呟き、にやりと笑います。
「意地悪なんかしてねぇよ? 俺が引き受けたトガの討伐依頼を、アーミラが羨ましそうにするもんでな」
「そ、そんなことは……!」
「おぉそうか。だが金がないんだろう?」
「……っ」
返す言葉もないです。
手元のお金が尽きている今、報酬は稼ぎたい……。
「手伝えるやつを探してたんだ」
「なるほど。アーミラちゃんに手伝ってほしいと」
シーナは納得顔だが、ゲイトは首を振る。
「違う。アーミラにちょっかい掛ければお前が駆け付けてくるだろ。シーナ、協力しろよ」
「な……!? やっぱり意地悪です……!」
私の不平の訴えを無視して、ゲイトは続ける。
「この依頼、討伐対象のトガは小型だが数が多い。……ここ最近はこの手の依頼が増えてきてるし、どうにも様子がおかしい。俺としても後衛を揃えたくてな」
「……確かに、嫌な予感がするわね」
二人は真面目な顔で話している。
このまま依頼に出かけてしまいそうな勢いだ。
「私も連れて行ってください……!」
「あ? お断りだ。詠唱一つ唱えられないお前は足手纏いなんだからな」
「ぜ、前衛なら……できますので……」
「拾った石でトガを殴り潰すんだろ? お前のそれは前衛じゃねぇ」
「でも……」
私はつい、シーナに視線を向けてしまう。
「……そうよね、アーミラちゃんにも手伝ってもらいましょう。じゃなきゃ私も手伝いません」
「なんだと」
「もしトガの様子に異常があったり不測の事態に陥れば、アーミラちゃんには伝言役になってもらいましょう。気掛かりなんでしょう?」
シーナの提案にゲイトが舌打ちをしたが、反論はしなかった。
「……報酬は俺が七割。シーナ三割。アーミラは割り切れないあまりをやるよ」
「やった……!」
「やったぁ、じゃないわよアーミラちゃん。いい? ゲイトが六割、アーミラと私が二割ずつよ」
「ったく、……おいうじ虫、わけまえ分は働けよ。しくじれば一割だ」
「う、は……はい……」
脅しかけるゲイトに、私はなんとか応えた。
シーナは微笑んでうんうんと頷いている。
「三人いれば楽勝でしょう」
楽勝――そんなシーナの言葉に、私はなんだか胸騒ぎがした。
1-2 討伐依頼
「なんだかんだ優しいわよね。ゲイトって」
「え……」
私たちはトガ討伐のために集落を出て森を歩いていると、シーナが変なことを言い出しました。
――優しい……? あの意地悪が?
「優しいのはシーナさんですよ。……いつも守ってくれますし」
「いやぁ、私は全然だめよ。守れてなんか……いないわ……」
言葉尻が小さく途切れる。
彼女の横顔を伺ってみれば、憂うような表情をしていました。
私なんかのことを心配して落ち込んでくれるなんて……。
「し、シーナさんは守ってくれてますよ……! 魔呪術をたくさん使えて強いですし、誰にでも……それこそ私にも優しいです……」
「そんなことないわ。当然のことをしているだけよ」
――私に優しくしてくれることを『当然』と思ってくれることが、そもそも優しすぎます……!
「いつも助けられてばかりで……わ、私は……、私はシーナさんのことを、女神だと思ってます!」
私は本心からの言葉を伝えた。
「女神だなんて、畏れ多いわよ……ガントール様には遠く及びませんもの」
「それでもっ、私にとっては憧れで、女神様ですよ!」
シーナさんは困り笑いをして戸惑うように後退る。
今更ながら、私は近づき過ぎていることを自覚して耳が熱くなる。
「って……す、すみません……! 臭いですよね……。碌に着替えもなくて……毎日川で洗っても、取れないみたいで……」
「違うの、アーミラちゃん」
距離を取ろうとした私の手を、シーナはぎゅっと握って引き寄せた。
「し、シーナさん!?」
「……臭くない。私にはいい匂いよ」
「い、いやいやいや、そんなわけ……!」
「ほんとよ。……多少は汗臭いかもだけど、アーミラちゃんから漏れてる別の匂いっていうのかしら。なんだか懐かしい匂いがして、私は嫌いじゃないわ」
シーナさんがますます鼻を近付ける。
「ひゃぁぁぁ……!」
毎日水浴びはしてるれど……!
なんかもう絶対臭い気がしてきた……!
「無理しないでください! さっきは困った顔してましたよ!」
「あれは、近づかれるのが嫌なわけじゃなくて、……アーミラちゃんの真っ直ぐな言葉を受け止められなかっただけよ」
シーナは真剣な眼差しで続ける。
「私はまだ、《《領主の娘》》でしかない。だからあなたを橋の下なんかに住まわせてる……ごめんね、アーミラちゃん」
「シーナさん……」
私はどう返せばいいか手詰まりになって、言葉が出ない。
よくわからないけれど、きっと彼女は多くのものを抱えているんだろう。
シーナさんは次期領主として多くの期待を寄せられているし、それに応えるだけの才能もある。
『生まれた時に刻印を持たなかったのが不思議なくらいだ』と、町の人は口を揃えて言っていた。『女神継承者の相応しい』と。
私もそう思う――シーナさんのような強くて優しい娘こそ、神から刻印を与えられる特別な娘に違いない……。
❖
「お前ら、話はそこまでだ」
先行していたゲイトが足を止めていた。トガの気配を感じているのか、彼は腰に提げていた剣を抜いた。
「数が多いって聞いていたけど、三体だけかしら」
シーナもすでに気持ちを切り替え、戦闘態勢に入っていた。
まだトガの姿は見えないが、呪力を読み取って索敵したようだった。
握っていた手が離れ、代わりに小剣を渡される。
「よくわからんが数が少ないなら簡単だな」
ゲイトの言葉に反して私は肌が粟立つのを感じた。
恐ろしい気配に身が竦み、思わずシーナの袖を掴む。
「……いえ、待って」
シーナの声も強張る。
「――『討伐対象は小型の群れ』だったわよね……?」
「そうだが」
「この呪力の量……《大きい》わよ……!」
ゲイトは息を呑みシーナと見つめ合う。「冗談だろ?」と言いたげだった。
「お、大型ってことですか……?」
「まさか、あり得ない。中型の間違いだろ」
「いえ……これまでに戦ったトガの比じゃないくらいの呪力量を感じる」
「こんな内地に、どうして……」
「今は考えてる暇はねぇよ……!」
「どうする?」
シーナは指示を仰ぐ。
ゲイトは腕を組み、決断した。
「……俺も馬鹿じゃねぇ。退却だ。組合に報告しよう」
私は安堵して息を吐く。
賢明な判断だと思った。だが――敵は既に、そこにいた。
「気取られたと思い見てみれば、こんなところに子供ですか」
冷え冷えとした何者かの声がはっきりと聞こえた。
「っ!?」
私達三人は木々の茂る森の中、声がした方へ顔を向ける。
さっきまで、そこには何もいなかったはずなのに。
そこには幽霊のようにほっそりとした男が佇んでいた。
「トガじゃねぇ……」
「まさか、私の索敵魔術を辿ってきたって言うの……!?」
青白い肌、額から生えた不揃いな角、裾から持ち上がる不気味な長い尻尾……。
「禍人だと……!?」
ゲイトの声は戦慄に震えた。
男は私達を真顔で見つめる。
怒りも意味もない。残酷に思えるほど無感情な顔をしていた。
禍人種――それは本来、ここにいるはずのない存在。
獣人種、魔人種、賢人種を相手に世界を脅かす凶悪な種族。
それがどうして、こんなところに……?
「シーナ! うじ虫! 組合に行け!!」
ゲイトは剣を構えて禍人の前に立った。
「誰かが伝えなきゃ不味いことになる! 集落が戦場になるぞ!!」
シーナはゲイトの覚悟を信じ、私の手を引いて駆け出そうとした。
そのとき、《《ぞぶり》》。と、嫌な水音が響き渡り、私たちは目撃してしまう。
「が、はぁっ……!」
ゲイトの背中には魔力を練って形成された槍が貫通していた。
服には赤い染みが広がり、彼は膝をつき、倒れ込む。
その向こう、禍人の男は人差し指を立てていた。
「騒ぎ立てられては困りますね」
「逃げろって……言ったろ……!」
カラン――音を立て、ゲイトの握っていた剣が落ちる。
「うそ……、ゲイト、さ……」
私は目の前の光景が呑み込めず、足を止めてしまった。
しかし、シーナは肩を掴んで無理やり私を走らせた。
「行って! 走ってアーミラちゃん!!」
「シーナさん……!」
「いいから!!」
戦闘の覚悟を決めたシーナは禍人に向かって詠唱し、魔力の槍を召喚、射出した。
どどう。と断続的な衝撃が森を揺らす。
禍人の男は素早い身のこなしで木立の陰に姿を隠した。逃げるなら今しかない……!
「アーミラちゃんだけでも組合に行って、報告するの……! このままじゃ、私たちの街が……!」
戦闘では足手纏い……私の役目は不測の事態を伝える伝言役を任されている。
走らなきゃ……! 助けを呼ばなくちゃ……!
1-3 女神覚醒
「行かせません」
禍人の声だけが聞こえてくる。私達を取り囲むように三体のトガが現れた。
それはシーナが危惧していたとおり、大型の化け物だった。
身の丈は熊よりも大きく、全身は黒々とした鱗に覆われ、歯並びの崩れた口には小剣よりも大きな牙が並んでいる。
――キシャァァァ!!
「ひぃ!」
トガの威嚇を間近で受けて、私は耳を押さえて蹲る。
敵う相手じゃないのがわかった。
「〈雷霆〉!」咎めるように詠唱するシーナの声。
稲光の閃きが木立の暗がりに迸り、トガの体表には魔術の槍が突き刺さっていました。
墨のように黒い血が吹き出し、トガは暴れ回ります。
「私は大丈夫。アーミラも走れるわね?」
シーナは気丈に笑う。その背後に禍人の男が迫っている。
「思っていたよりは戦えるようですが――」
「なっ!?」
男はシーナの腕を掴むと、呪力を込めて捻り上げた。
腕の骨が砕けて、皮膚が捩れて螺旋を描く。
「――所詮は素人に毛が生えた程度ですね」
「ぐぅ……っ!」
利き腕を潰されたシーナの顔が痛みに歪む。
「シーナさん!!」
「来ちゃ、駄目よ……」
血相を青くしているシーナさんを見て、私はどうしても置いていけなかった。
「シーナさん! だめ……、駄目です……! 死なないで……!!」
駆け寄る私を追い払う力もなく、シーナさんは腕の中でぐったりしていた。
背後に立つ禍人の男は、じっとりとした視線を私の背中に向け、やがて呟いた。
「この臭い……持ち腐れですね……」
私は悔しくて、悔しくて、男を睨んだ。
男の方は物珍しいものを見たとでもいうように私を見つめ返し、憐れんだ顔をした。
「かわいそうに……魔呪術の使い方を知っていれば溜め込まずに済んだでしょうに……」
男の言っている意味はわからなかった。
そもそも、それどころではない。
「シーナさん! 目を開けて……!! お願いです……」
「骨も残さず食い尽くしなさい。……これで私を見たものはいない、計画に支障は出ないでしょう」
男はトガにこの場を任せ、立ち去る時には振り返りもしなかった。
私とシーナは三体のトガに囲まれた。
――死んじゃうんだ……。私は何にもなれないまま……、何も手に入れられないまま……終わる……。
「アー、ミラ……ちゃん……」
「シーナさん……」
微かな呼吸を繰り返していたシーナさんが、目に涙を溜めて語りかける。
「ごめんね……連れてこなければ、よかったね……」
「そんなことはありませんっ! 誰も悪くない……悪いのは……あの禍人です……」
「……でも、このままじゃ、死んじゃうわね……」
私はシーナさんの体を抱きしめて、トガを睨んだ。
戦う術はない。そんな自分の無力が何より腹立たしかった。
「ねぇ、アーミラちゃん……」
シーナは取り囲んでいるトガを見て、躊躇いながら囁いた。
「このまま死ぬのが嫌なら……私の指輪を使って……」
「え……指輪……?」
私はシーナさんの言葉に戸惑いつつも、視線を落とす。
骨の砕けてしまった彼女の右腕。その先にぶら下がる手の中指に、それはあった。
死にたくない…何よりも、シーナさんを死なせるわけにはいかない。
私にできることがあるのなら、なんだってやる――私はその一心でシーナの腕に手を伸ばす。
「私の手を握って、トガに向かって唱えるの……いい?」
「……はい……!」
そして私は詠唱した。
失われゆく命を守るために。
〈我の名は、アーミラ・アウロラ。師、マナ・アウロラ唯一の弟子にして、親も記憶も持たぬ魔人の娘なり〉
〈今まさに、我が命は潰えんとす――天を統べし神よ、この危地に加護を賜う理あるならば、我は此処にその身を顕さん〉
シーナに習い、唱えている内に、繋いだ手の中から眩い光が溢れ出る。
初めての感覚――ではなかった。なぜだか私は、この熱を、魔術を、知っている気がした。
最後の言葉はシーナの声を待たずに口から言葉が出てきていた。
〈咎を祓いし浄光よ我が掌に宿れ。『咒霽浄矢』!〉
ドドドドドドドド……!!
――キシャァァァ!!
視界を覆う光の柱が天から降り注ぎ、トガは悲鳴をあげて消滅する。
爆ぜる衝撃波は凄まじく、近くにいた私達も爆風に吹き飛ばされた。
「む……ぐっ……!」
シーナの手は骨が砕かれているため、強く掴むわけにはいかない。
「守れなくてごめんね……アーミラちゃん……」
「シーナさ……! うわぁっ……!!」
私とシーナは離ればなれに吹き飛ばされてしまった。
視界は閃光に灼かれて、体は落下する。
ばしゃん! と、水中に落ちて全身が濡れた。
「ぷはっ! ……げほ、げほっ……。湖……? こんなところまで飛ばされたんだ……」
幸いにも湖に落下したお陰で怪我はなかった。
何が起きたのかわからないけれど、きっとシーナさんのおかげてトガを倒せた……。
私は浅瀬に上がり、膝をついて、荒く息をする。
「はぁ……っ、はぁ……、シーナさん……それにゲイトさんも、探さないと……」
疲労困憊の身体で立ち上がろうとしたとき、上空で突然、鐘の音が鳴り響いた。
ゴォォォン……。
「……え……?」
ゴォォォン……。
「なに……? あの光……」
❖ ❖ ❖
第二国家ナルトリポカの上空に、陣を象る極光が花開いた。
「これって、もしかして……女神継承者の誕生を知らせているの……?」
私は呆然と空を見上げ、思い至る。
「そうだ……きっとシーナさんが……!」
シーナさんがトガを倒したとき、神様が女神に相応しいと認めたに違いない。
そう確信して私は喜んだ。
「シーナさん! 女神に選ばれたんですね! ……シーナさん! ……どこにいるんですか……!」
天上に浮かぶ光を頼りに、私は水辺を進む。
おそらくはこの光が示すところに、女神に選ばれたシーナさんがいるはずだと考えたのだ。
だが、しかし……。
「……この光……私を追いかけてる……?」
弧を描く軌跡は幾重も重なり、雲を押しのけて魔術回路の紋を刻んでいく。
まるで私を逃すまいと見つめ続けているみたいに、こちらを向いていた。
それに気付くと同時、体に鋭い痛みが走った。
「……痛い、痛い痛い!」
慌てて胸元を探れば、薄い皮膚の上にはっきりと刻印が刻まれているのが見えた。
「うそ……うそだ……」
だって私は、何の魔呪術も知らない。家族もいない。薄汚い乞食の娘だ。
シーナさんと比べれば、相応しい娘は明らかなはず。なのにどうして……?
昏い森の中、湖畔のほとり――祝福の光を浴びた少女は魔術陣見上げて呟く。
「……なんで……私が……」
この印は戦争を勝利へ導く娘に授けられるもの。
魔術陣は私の真上で燦然と花開いている。
「私が……女神って……」
祝福の鐘は鳴り続ける。
私が女神って本当ですか? ――最底辺少女の覚醒――
超スローペースで書き上げることになりそうです。気長にお待ちください。
反応が良ければペース上げていくかもしれないのでSNSなんかで感想くれたら嬉しいです。