処方箋

見慣れない名前の薬が、聞き慣れない病気に効く。
皺のない紙に綴られた私(わたくし)ごと。


同じ診断結果を全人類が受け取った、てくてく歩く院外の道。
乾いた春のアスファルト。


香りを見上げれば
散らずに残る異様な梅と、咲きごろを間違えなかった桜。


その枝に何本も吊るされた茶色いロープと、
切られてばらけた未遂の痕跡。


しくしくとも、おいおいとも泣かず、
袋の破れたアイスはゆっくりと齧られる。


色からしてあれはきっと、サイダーの味。
受け取ったこれも、きっと同じ味。
どこの窓口も混雑してるそうだから。


別状のない命と、踏ん付けては解けるスニーカーの紐。
結ぶのも億劫になってすとん、とその場にお尻を付けたなら。


鳴らされるクラクション。
体育座り。


しばらく経っても、どれだけ待っても、
誰も開会を宣言しない。
もう、こんなに広がり始めているのに。
かけっこなんて、したら楽しそうなのに。


歯を剥き出して笑う。
手を叩いて笑う。
捨てられた玩具。お猿さん。


ひっくり返れば助けてくれる、
子供も大人もゼンマイが緩んでカタコトになった。


ぎーこ、ぎーこと引かれずに鋸(のこぎり)。
駆け込み駐車のホームセンター。
使われる気のない板切れと、真っ白な木工用のボンドがそこらに散らばる。


風船も晴れて自由の身に。


その全部を見送るまで動かないあれは
もう命を持った着ぐるみで、
頭部を放って、お尻を撫でていた。


しゃくっと齧るごとに、美味しい、と砕ける氷菓。
歯にしみて、こめかみを痛めて
潤う瞳は捲れる紙と、乱れる髪。


きぃーっというブレーキ音が沈黙をさらに深くして、
別状のない命。
健やかな魂。


へっへっへっと舌を出す、毛量の多い大型犬は
リールを引き摺ってすぐそばを小走りに。
追いかけてくる飼い主は多分、いない。


色んな鳥もそこかしかにいるから、放し飼いになって、
出入り自由のゲージは想像するだけで不思議なオブジェ。
それが置かれた生家に、とどまる人だってもういない。


映画に出てくるゾンビより、人間らしく動くものも、
決して寄り付かずに立ち去るだけで。


目に入れば開いた窓から、はらり、ひらりと落ちてくる。
色とりどりで、折られなかった紙は百羽にも満たない、
祈りに感じられたんだ。


朝はとうに過ぎて、昼前を迎えて、
夕方はすぐ闇になる。


ぱっぱっとあちこちに点く灯りが届かない、
そんな場所が増えていく。


とうとう最後にはガリっと噛んで二つに割れてしまう棒、
当たりもしなかったそれを捨てる場所は、近くに見当たらない。


自覚症状は誰にもない。
でも、言われたとおり、手に持って。


次のコンビニ、開いて覗こう。
仕舞い込んで、全部を愛そう。

処方箋

処方箋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-14

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