映画『本日公休』レビュー
2024年9月に公開された『本日公休』は、24年ぶりに復帰した台湾の俳優、陸小芬(ルー・シャオフェン)が演じる母親、アールイが長年営む理髪店を舞台とした映画です。その設定からしてノスタルジーを呼び起こす作品ではあるのですが、似たようなテーマを取り上げる他の映画と本作が一線を画すのは「去り行く時代と進みゆく世界」という郷愁を生み出す物語の根幹を、一つの家族の話として描き切っている点にあります。
例えば①アールイの長女と次女はそれぞれ美容師とスタイリストの職に就き、理容師として昔ながらのやり方で仕事をする母を事あるごとに批判混じりに諭したり、あるいは一攫千金を夢見て定職に就かない長男からは怪しい商売の手頃なお客として都合よく利用されようとする。
子供たちから受けるそういう対応が頑固なアールイの態度をさらに頑なにしてしまったりするのですが、その一方で長女と離婚した元娘婿とはとても気が合う。確かな技術とお客への丁寧な対応を信条に日々の仕事に励むという共通点が二人を強く結び付けるからです。けれど、そんな元娘婿の生活は決して楽ではない。人が良すぎる彼は昔馴染みから要求されるツケ払いを断れず、自分ばかりが損を引き受ける。アールイの理髪店も常連客が歳をとり、思うように足を運べない状況にあります。
このように時代に合う、合わないのスタンスがアールイたちの家族模様として描かれるのですが、これがまた台湾の中における社会経済的格差を見事に反映していたりするから巧みです。長女と次女が暮らす台北と、アールイや長男又は娘婿が定住する台中の間に存在する物理的距離も、彼らの間の心理的な隔たりを代弁します。
そんな出発点から始まり、いつしか彼らの間に生まれる変化を丁寧に掬い取っていくのが『本日公休』の面白さの核心です。予告編にもあった常連客である医者の元へ向かうアールイの出張は、そのトリガーを引く大切な出来事となります。
まだ終わっていない人生の只中にあって「私」は何を選び、または選ばずに生きていくのか。サービス業という職種の意義にも触れつつ、ラストに向けて枝分かれする分岐点を迎えることになる「私」はアールイだけじゃありません。元娘婿を含めた全員が過ぎゆく時間の流れに身を置いて、未来とともに自分の道を走り抜けようとする。懐古趣味に陥りがちなノスタルジームービー特有の展開が、ここでしっかりと跳ね除けられます。
技術が継承可能なように、人の生き様も次世代にしっかりと受け継がれていくし、今を生きる者として、誰もが変われる兆しをしっかりと手にしている。本作のメインの客層は恐らく50代前半だったと予想しますが、けれども映画作品として本作が見据える射程はとても長く、広いものです。老若男女に届く優れた映画だと私は評価します。
本作のためだけに理容師の技術を身に付けたルー・シャオフェンの動かす鋏の音の気持ち良さを、良質な映像で見届ける体感の良さをここで強調しておくのは幅広い視聴者を呼び寄せるいい呼び水になってくれるはずです。長女役のファン・ジーヨウの好演もイチオシ。陰りを活かす陽の演技がほんと素晴らしかった。
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映画『本日公休』レビュー